桃太郎レジェンド - 桃太郎レジェンド

〜桃太郎レジェンド〜

「それで?俺にして欲しい事ってのは何なんだ?」
 未だ落葉と空しか見えない辺りは、だがんだんと暗く、薄寒くなってきた。確か家にいたときは朝だったんだが、俺はそんなに寝てたのか?しかも部屋から直接連れてこられたらしく、靴を履いていなかった。
「率直に申し上げます」
 犬耳のそいつは依然として前方を見ながら俺に言う。赤い甲冑はぎしぎしと音を立てて物寂しい雰囲気を醸し出していた。如何にも歩きにくそうな格好だが、逆に言えば勇壮に見えなくもない。
「あなた様にご協力頂きたいのは、手助けをして欲しいためです。我が、主を救い出す手助けを」
 少し顰めた(ひそめた)眉根とは裏腹に、声音は至って冷静に言う男。そういえばまだ名前を聞いてなかったか・・・。
「先刻も申し上げた通り我が主は今封じられております。ですが封鬼(ふうき)の術を解くことが私には出来ません。出来るのは天純(あまずみ)の魂を継いだあなた様だけ・・・」
 RPGの王道だな。俺は少し辟易しつつ、翳りを見せる男の顔を見た。疲れているようにも見えるのは気のせいではないだろう。
「どうかご協力頂けないでしょうか」
 歩きを止めて犬耳が俺の前に回りこんだ。少し離れた位置に膝をつくと頭を地面につけ、そいつは俺に懇願するような気配を向けた。
「お、おい、急にそんなこと言われてもな、俺は昨日まで普通の人間だったわけで」
「いいえ!あなた様は人間ではありません!」
 ぱっと顔を上げ、俺をまっすぐ見据えると犬耳は言い切った。
 俺が、何だって?
「あなた様は私と同じ、鬼族です」
 話はファンタジーさえ抜け出したようだ。流れる風だけが、現実。


「はい、はい、そうですね。今日は休ませます」
 すみません、と締めくくって受話器を置いたのは千鳥。仕事着であるスーツを着込み、化粧はさほどしていない顔を曇らせて二階の弟の部屋へと繋がる階段を見た。
「どこ行ったのよ。あいつ」
 腕時計を見ると八時。もうとっくにスクールバスは出ている時間だ。だがまだ桃太郎の部屋には学生服も学生カバンも置いてある。そして家を出て行った
気配もないのだ。いつも楽天的な千鳥だったが、今日ばかりは何故か胸騒ぎがしている。何かが起こりそうな気がするのだ。
 思えば千鳥の勘はよく当たった。両親が事故を起こした日も、こんな胸騒ぎがした。
「変なことに巻き込まれてないでしょうね・・」
 アップにまとめた髪からはらりと落ちてきた一房を上げて何かを思う彼女を、見ている影があった。背中より長い白銀の髪が陽光に輝くその影は千鳥のいる家を電柱の上から見ている。
「天純・・・」
 目に炎を滾らせ、千鳥を見る者は一度目を伏せ、そこから白銀の姿をかき消した。
「・・・・。さて、仕事仕事」
 千鳥はこのような事態であっても決して妥協はしない彼女の性格で今日も定刻どおり出勤することにした。そして家を出るため玄関に向かう。
「あ、いけない。ファイル忘れ・・・」
 今日の会議で使う大事なファイルを取りに今一度居間に戻った彼女はそこにあるはずのないものを見た。背中の半ばまで伸びた白銀の髪に炎のような真紅の目と紺色の狩衣を纏ったその姿は平安の時世の装束。
「あ・・っ・・?」
 立ったまま言葉を失う千鳥の前でそのモノはゆっくりと足を前に出した。素足のままのそれにはまだ真新しい血がこびりついている。千鳥は持っていた鞄をどさりと落とした。その拍子に中身が飛び出したが彼女にはそれを見る余裕もない。目の前に突然現れたそれを息をするのも忘れて凝視する。
 炎の目を持った男が、そこにいた。首に金色の鈴をつけた彼は獰猛に鼻面を寄せて千鳥に近づく。
「お前が天純か?」
 頭一つ分高い彼の顔を驚愕の面差しで見ていた彼女は、男のその言葉に現実に引き戻された。
「だ、誰よ!あんた!泥棒!?」
 明らかにそのような気配はなかったはずなのに千鳥は喚く。
「俺は巽(たつみ)だ。お前は・・・」
「あたしの事はどうでもいいでしょ!出てかないと警察に突き出すわよっ!」
 これほど体格さのある相手にこれだけ言える人間もいないだろう。千鳥はようやくいつもの彼女に戻り、怪しさを通り越した男を睨み付けた。
「・・あいつはこんな性格じゃなかったな。気配は確かにしたんだが」
 何事かを呟きながら巽は千鳥から目を離し、辺りを見回した。あるのは見たこともない品ばかり。そのどれにも彼が捜している者の残滓を感じる。
 だがその本人がここにいない。
「ここにはお前だけでいるのか」
「そんなわけないでしょう!?ああ、もう電話するから。110番・・・」
 そう言って携帯電話を掴む千鳥の腕をがしりと逞しい手が制した。びくりとして巽の方を見る千鳥に彼は詰め寄る。
「ここには、お前だけかと、聞いている」
 眼光に気圧され、彼女は思わず生唾を飲み込んだ。
「どうなんだ?」
「ち、違う。あたしと・・・お、弟が・・・」
「弟・・・」
 巽は掴んでいた腕を離し、何かを考えるしぐさをする。
「あんたもしかして弟の居場所知ってるの!?」
 千鳥の必死の言葉にここ一番の反応を見せた巽。再度千鳥の方へ詰め寄り、しっかりと彼女を見据えた。今回はその眼光をしっかりと受け止める千鳥。
「その弟はどこかに行ったのか?」
「あんた、何か知ってるのね」
 二人は暫く睨み合っていたが巽がふと笑った。散らばった部屋の中に異様な気が充満する。
「ははは。気に入った。交換条件だな。度胸のある女だぜ」
「あんたに気に入ってもらっても嬉しくないわ」
 あくまで強気に千鳥が言うと巽は床にどっかりと腰を下ろした。
「さて、会ったばかりだがさっそく聞こうか、その弟のことを」
「・・・・安くないわよ」
「それでいい」
 慎重に慎重をきして千鳥は自分も座った。
 自分の勘を、信じて。


 犬耳の男の名は飛鳥というらしかった。その飛鳥から俺は衝撃的事実を聞いた。俺が、鬼だというのだ。鬼というのはアレだ。角があって肌が赤とか青とかで、すごい形相の日本独自の妖怪だ。
「それは鬼族の『成れ果て』です。鬼族の者は一定の力を超えると本来の鬼の血に負け、その姿を変えるのです。それが人間たちの間で変わりながら受け継がれていったのでしょう」
 なるほどな。それなら納得だ。でも今大事なのはそういう事ではない。そして俺が鬼だということも一旦置いておくことにした。
「あんたの主ってのを助けるための協力はどうすればいいんだ?」
「・・・・!やってくれるのですか・・!?」
「そうでもしなきゃ俺を帰してくれそうにないだろ」
 俺は諦めたように土下座状態の飛鳥の前に腰を下ろした。落葉は裸足の俺にはちょうどいい。
「で?具体的に俺は何をやればいい?」
「はい、あなた様には封鬼(ふうき)の術を破って欲しいのです。あなた様の魂の御前である天純にしか扱えなかった術です。それを駆使し・・」
「ちょ、ちょっと待て」
「はい?」
 飛鳥は何の疑問も持たず、小首を傾げた。辺りはもう夕暮れに近いほど暗くなっている。
「俺はそんな術、使えないぞ」
「・・・・・はっ!?」
 心底驚いた顔をする飛鳥は勢いよく飛び上がり、何歩か後方によろけた。
「・・・!・・・・・!!」
 何かを喋ろうとはしているが、言葉にはなっていなかった。さてはこいつ、
「考えてなかったんだな」
 きっと主人の事で頭が一杯だったのだろう。俺を連れて行きさえすれば封鬼の術とかいうやつが解けると思ってきたんだな。だが如何せん俺にはそんな術を使うことは出来ないし、これからも使う予定は無かったのだ。飛鳥には悪いがどうすることも出来ない。
「そうでした・・・!これは紛れも無く私の失態でございます。申し訳ありません!」
「いや、別に謝らなくてもいいんだけどさ。何か方法は無いのか?」
 見ていて面白くなるほどに狼狽した飛鳥に俺は幾らか親近感を覚えながら言った。妖怪と言うからにはもっと恐ろしいものだと思っていたが意外と人間くさい所もあるんだな。
「・・・・、非常に難しいですが“魂醒の術”(たまざめのじゅつ)というものがあります。魂に眠る力や記憶を引きずり出すものですが、使える術者が私の知っている範囲内では一人しかいないのです・・」
「じゃあそいつの所に行けばいいんだろ?」
 俺は至極簡単に腰を上げながら言うと飛鳥は悲嘆にくれた顔をさらに青ざめさせて首を振った。
「私の力だけでは、たどり着けぬ道程で・・・」
「遠いのか?」
 少しばかり不安も込めて言う俺に飛鳥は躊躇いがちに首を縦に引く。
「天、磐戸です・・・」
「あまのいわと?」
 聞いたことも無い。
「この地上より遥か彼方にある、天照大神や、スサノオ神など神々の住まう天上界への入り口です」
「て・・・」
「名を“菊千代”とおっしゃいます。天純や荒天斎様と同じく生粋の鬼族なのですが、どうも、その、性格が・・・変わっておられるというか」
「そ、そう」
 人間は究極に衝撃的な事があると逆に冷静になるらしい。今の俺もまさにそうだった。少しフリーズアウトし、脳の許容量が超えたことを示唆する。
「で、それは一体どこにあるんだ?」
「出雲です」
「いずも?」
「はい」
 出雲。そこは、いかなる土地なのか。そして菊千代ってのは・・・・・

 誰かが昔言っていた。『生まれついた星のもと運命はきまっている』と。もし本当にそうなら、こんなことが起こるのは俺が生まれた時点できまっていたということか?

後書き

いやー、今回はありのにしては長い文章だったと思います。
皆さんよくあれほどに長いのを書けますね・・・・。
ありのはコレをかくのに二時間ほどかかりました・・・。
でもかなり状況や方向性が分かってきたかと思います。
桃太郎くんもやっとやる気を出してくれて・・!
そして犬耳君のお名前は『飛鳥』
やっと出せました。あー、すっきりした。(←なんかアブない!?!?)
最後に新キャラ登場です。『巽』は名前を考えるのにとっても苦労しました。
でも最終的にこの名前にしてよかったです。
そして次回、『菊千代』なる人物はでてくるのでしょうか!?
ありのもどきどききしながら勝手に頭の中で動いているキャラたちを見ている今日この頃です。

この小説について

タイトル 桃太郎レジェンド
初版 2006年11月30日
改訂 2006年12月1日
小説ID 1024
閲覧数 1055
合計★ 3

コメント (1)

★シェリー 2006年12月2日 14時27分44秒
 二時間でこれほど書けるのなら、大したものだと思いますよ。僕はもっと遅いので。

 今回の話で、ようやく物語が始まった感がありますね。前回まであまりに物語が進んでいなかったので、何か新鮮です(笑)
 
 今までの文章より今回ははるかにレベルが上がっていると思います。この調子で頑張って下さい♪ それでは〜ノシ
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