桃太郎レジェンド - 桃太郎レジェンド

〜桃太郎レジェンド〜

 出雲。その昔スサノオ神が八岐大蛇(やまたのおろち)を倒し、その尾から見つけたといわれるその地は今は島根に属し今もその遺産が残っているらしい。姉貴が小さいころ両親と行ったことがあると言っていた。
「よし、その出雲に行くことは分かった。要は交通手段だな。行っとくが俺は一文無しだぞ」
 何せ気絶させられて来たからな。
「心配には及びません。人間界のものなど必要ありませんゆえ」
 飛鳥はあくまで礼儀正しく、だがサラリと失礼なことを言って腰を上げた。さっき気付いたがこいつは履物は何もつけておらず、裾から下には毛むくじゃらの獣の足をしていた。何かの特殊効果を使っていることも思ったがよくよく見ればそれも違うと分かる。これでまた一つ、こいつの話に信憑性が出てきたな。
「それじゃさっさと行こう。明日までに全部終わらせて帰ってこなくちゃならないからな」
 俺はこれからの道程の面倒さを思い、気が重くなった。しかもそれは本当かどうかもわからない怪しいものなのだ。ああ、家のことも何一つやらずに出てきたからな。姉貴はちゃんと起きれたんだろうか。
 大忙しだぞ、俺。
「んで?どうやって出雲まで行くんだ」
「私がお連れします」
 そういうと飛鳥は俺のほうへ駆け寄る。獣の足だからだからだろうか、落葉を踏む音は小さい。
「?」
 何が起こるのかと見ていれば飛鳥は手を翳して何かを掴むような形を作った。何かを小さく呟き、目を瞑る。俺は黙ってそれを見守った。ふいに飛鳥の握られた手が発光し始める。青く、ふわりとした炎のような光は辺りが暗いせいか鮮明にみえる。それが飛鳥の手から生まれているのだ。俺が身を乗り出してもっとよく見ると光はどんどん形を成していき筒状の丸い棒のようなものになり、飛鳥が持っているらしい真ん中のあたりから左右に20センチほどの何かが浮かび上がった。それは青い光からどんどん色を付けていき、黒光りするものになる。次第に青い光は薄れていき飛鳥の手にしっかりと握られた。
「それは?」
「我が主の牙です。契約を交わす際に必要なものなので」
 無表情に言う飛鳥は棒状のそれをしっかりと持った。そして真ん中から引き裂いていくように右手に持っている側を抜いていく。現れたのは。
「ナイフか」
 鋭く尖った先端を持つ両刃の刃物だった。なるほど、牙に見えなくも無い。飛鳥はそれを自らの胸に当てた。驚いたのは俺のほうだ。
「お、おい!何してる!?」
 慌てて飛鳥から刃物を取り上げると奴は疑問の浮かぶ目で俺を見ている。
「お前はさっきからな、する事を俺に言わなさ過ぎなんだよ!ちゃんと始める前にこれからする事を言ってから始めろ!」
「天純と同じことを・・・!やはりあなた様彼の魂を受け継いでらっしゃる!」
「誰でも言うと思うぞ。これは」
 また話を逸らした飛鳥。これは天然なのかそうでないのか。そうだったらこいつは大した大物だぞ。
「それで?これからお前は何をしようとしてるんだ」
 言うまで返さないという意思表示をしながら俺は刃物を持ちながら腕を組んだ。飛鳥はにこやかに肯定すると話し始めた。
 奴曰く、この刀は自分の力を抑えるための戒めでこれから行うことに必要らしい。それは俺はまだ信じられないが獣化するのだという。獣化すれば出雲には即効で着けるということなのだ。俺にとっちゃそれはいい提案だが何分獣化には妖力というものを使うそうで、力が上がれば鬼の血に負けてしまうというのだ。それをさせない為の道具がこれ。飛鳥の主人の荒天斎(こうてんさい)って奴の牙らしいがこんな大きな牙を持っているという事は相当デカい奴なんだろうな。ああ、だんだんやりたくなくなってきたな。
「そこまでは分かった。次はそれで何をするかだ。まさか刺すのか?」
「はい」
「は?」
 素直すぎるこいつの相手はもう疲れてきた。
「分かった。俺は何も口出ししないから早くやってくれ」
 こいつと常識の話をしているといつまで経っても帰れないからな。仕方なく俺が折れることにした。
「では、よしいので?」
 いらないときに遠慮しやがって。俺は腹立ちながらも「こいつは妖怪」と自分に言い聞かせていた。
 飛鳥は俺から刀を受け取ると真剣な表情でそれを自分の胸に押し付け、一気に刺した。
「いっ・・・」
 思わず上げた俺の声も聞こえていないらしく奴は行為を続ける。今度は流れてきた血を右手で掬い上げるとそれを口に含んだ。するとしばらくして飛鳥の体に変化が起きた。奴の目が今の赤よりもっと紅く、光を帯び出し筋肉は大きく盛り上がり甲冑の上から毛が生えてきた。黒く髪と同じ質のそれは体全体を包み、さながら飛鳥を狼の変える。尾まで生え、手は長く足は短くなり、そして顔は人間のそれから様変わりして鼻が高く口が裂け、毛に覆われた。最後に牙をずらりと並べて飛鳥は完全な狼になった。
「・・・あ・・・」
 俺はただ驚くことしか出来ない。目の前で起こった信じがたいものにこいつと会ったときより呆然とした。飛鳥は狼の姿になってから頭を一振りし、俺と目を合わせる。俺と目の高さが同じというぐらいだから奴の全長は俺を遥かに超えているだろう。目を合わせたまま動けずに居る俺に巨狼は一礼した。よく見れば胸には先ほど刺した刀が鍔元(つばもと)まで突き刺さっている。そして犬でいう“伏せ”の格好で俺のほうを見上げた。
「どうぞ、お乗りください」
 人であったときと何ら変わらない声音で飛鳥は言う。乗れってお前、背中にか?
 まるで映画だな。人間界のものが必要ないってこういうことか。
「よっ、と」
 飛鳥の背中は意外とフカフカで犬の腹の毛の感触だった。ちょっと気持ちいい。
「準備はよろしいですか?」
「ああ。結構乗りごことととっ!?」
 いきなり全速力で進みだした飛鳥の背で俺は思いっきり舌を噛んじまった。何がちょっと気持ちいいだ。
 くそっ。


「それで、むぐ、俺は、んぐっ」
「まず口の中のものを飲み込みなさいよ」
 彼女にしては珍しく、指摘する側に立って目の前に居る男を呆れて一瞥する。
 男、巽は一瞬目を固まらせたが素直に飲み込んだ。
「もう・・・」
 千鳥は机に肘をつき、掌に顔を乗せて巽を半眼で見る。巽は皿に残っているくずをぺろりと嘗め取ってようやく千鳥の方を向いた。
 あれから、千鳥は巽と話をしようとしたが巽の方が空腹で倒れてしまい、仕方なくいつもは絶対にしない料理を、始めて出会った男に振舞ったのだ。作ったといってもインスタントの焼きそばだが。それを巽に食べさせたのはいいが彼はインスタント焼きそばの味をいたく気に入ってしまい、赤城家の焼きそばをほぼ一人で食べつくした。それで千鳥は半分呆れモードなのだ。
「美味かった。それで早速本題だが」
 口の周りに青のりとソースをつけた巽が真面目に言うのに千鳥は更に呆れてしまった。
(何でさっき警察呼ばなかったんだろ)
 己の判断力と勘を疑う千鳥であった。
「お前の弟はいつからいないんだ?」
「今朝よ。いつもなら台所にいるはずなのに今日は部屋からでてこようとしなかったから。倒れてるんじゃないかって見に行ったのよ」
 千鳥は自分と同じ黒髪を持つ弟の顔を思い浮かべてまた心配になった。
「そしたらもう部屋にはいなくて。学ランも鞄も置いてったままよ」
「学、ラン?」
「細かいことはいいわ。それでもあたしは仕事に行く準備をしたのよ。今日はプレゼンのある大事な日だったから」
「プレ・・・」
 因みに、会社から電話がかかってきてもいいように電話線は抜いてある。携帯電話の電源ももちろんオフだ。
「それで終わりよ。忘れ物取りに行こうとしたら怪しい白髪が立ってた」
「怪しい白髪・・・」
 青筋を浮き立たせ、巽は独り言を言う。千鳥はあくまでマイペースで焼きそばと一緒に作ったコーヒーを飲んだ。
「・・・その弟の名前は?」
「桃太郎よ。赤城桃太郎。母さんがつけたの。本人は嫌がってるけどあたしはそうは思わな」
「そんな事はどうでもいい!」
 いちいち余計なことを付け足す千鳥に怒鳴りつけた巽はいらいらとしながらも一つ咳払いをして続ける。
「そいつの性格は?」
「んー、一言でいうとクールね」
「クール?」
「良くいえば冷静、悪くいえば冷めてるってかんじよ」
「クール・・・」
「あ、あと面倒見がいいわね。なんだかんだ言って結局は手伝っちゃうのよ」
 だんだんと巽の表情が堅いものへと変わっていく。目を細め、何かを思い出すように逡巡する。
「何か、力を持ってたか?」
「力って・・・?」
「例えば・・・封印を破る力、とか」
 巽の本気で言っているらしい言葉に千鳥は思わず吹き出した。
「封印て、あっははははは、ゲームや漫画じゃないんだから」
 机をばしばしと叩き、彼女は笑いまくる。比例して巽の青筋が更に増えていったが、彼女は全く意に介さない。
「とにかく!そいつは何も力なんてなかったんだな!?」
 どすんと音を立てて立ち上がると巽はその辺においてあったデジタル時計を手に取った。そしてそれを口元にあて何かを小さく呟く。
「ちょっと、それ友達からもらったんだから!」
 千鳥も立ち上がり、時計を取り戻そうとするが巽は彼女を腕一本で制してそのままの状態を続けた。
「駄目だ。お前の気配しかしない。弟の持ち物は?」
「持ち物?部屋にあると思うけど」
「連れてけ」
 偉そうな巽の言動に千鳥は腹立ちながらも弟のためと、彼を部屋まで案内した。桃太郎の部屋は亡くなった両親の部屋の向かい側にあり、大きな窓がついている。
 部屋に入るとそこはきちんと片付けられており、桃太郎の性格をありありと示していた。
「・・・ここにいたか・・・」
 巽は夢を見ているような口調でふらふらと部屋に入っていく。一歩進むたびに彼の髪が逆立っていた。
「妖気の気配がある。・・・・奴に先を越されたか」
 苦々しい口調の巽を不思議そうに眺め、千鳥は桃太郎の部屋に入る。すると、
「うっ!?」
 すさまじい脈動が彼女を襲った。最初桃太郎の部屋に入ったときに感じた体の中を通っていくような風が、何倍にもなって彼女を苛む。
「ここは・・どうした!?」
「わから、な・・」
 突然、千鳥の体が白く発光し始めた。
「これは・・・」
 千鳥から漏れ出す力の奔流に巽は何かを見出したようで、千鳥の体を抱え上げて部屋の外へ出す。すると今までの衝撃が嘘だったように千鳥は回復した。
「な、なんだったの?」
「・・・術が発動したんだ。今朝ここに来て弟を連れてった奴がかけたものだ。普通の人間がそれにかかれば意識をなくす」
「え?どういう・・」
「お前の力の性質が、この術者の性質とかなり相性が悪いらしい。互いに反発しあってそれぞれの能力が相殺する」
 巽だけが分かっているような口ぶりを千鳥はひどく遠くで聞いた。耳鳴りのようなトクン、トクンという音が絶えず聞こえる。
「それで、おい!?」
 意識を完全に失った千鳥を困惑の表情で見ていた巽だったが、何を思ったか彼女の体を担ぎ上げた。そして桃太郎の部屋とは反対側の、両親の部屋の窓から千鳥を担いだまま身を翻した。

後書き

まず、「菊千代」という人物は出てきませんでした・・・。
これは完全にありのの技術不足です・・。
桃太郎はちょっとうるさいですね。あんなに叫ばなくてもいいだろ!?
って・・・自分で書いてて思いました。
飛鳥は何でも敬語にすればいいと思ってるキャラなので書いてて楽しいです。
もっと桃太郎を困らせたいと思います。
巽は千鳥といいコンビだと思います。巽が絡むと千鳥はしっかり者に見えますね・・。
普段はもっとだらしないんですけど。(オイ)

この小説について

タイトル 桃太郎レジェンド
初版 2006年12月3日
改訂 2006年12月3日
小説ID 1026
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