桃太郎レジェンド - 桃太郎レジェンド

〜桃太郎レジェンド〜
 
「ああ・・・・。俺はもう毛むくじゃらの動物には乗らない・・・」
 脱力した声で俺が言うと毛むくじゃらのそいつは不気味なゴキ、とかバキ、とかいう音を立てて人間の姿に戻っていった。
 あれから俺は映画さながらの移動劇で東京から島根まで30分ほどできたらしい。「らしい」というのも俺はその間ずっと叫び続け、ふかふかの毛にしがみついて振り落とされないようにしていたのだ。時間の感覚なんてなかったよ。
「でもここ本当に島根か?さっきと変わんねえように見えるけど」
 しかも来る途中にも森しか見えなかった気がする。それもあんまり覚えてないけど・・・。
「ここは百鬼夜行(ひゃっきやこう)の通り道ですから。神無月には妖達で地面が見えなくなるほどです」
「百鬼夜行・・・」
 どこか切なげな顔で飛鳥は人間の姿に完全に戻った。甲冑やその下の着物は獣化する前と全く同じだ。乱れてもいない。
「それで、ここが出雲なのか?」
「ええ。ぅっと」
 飛鳥は刺さったままになっていた刀を胸から引き抜いた。血は出なかったが飛鳥は少し苦痛の表情をしている。
 辺りにはここに来る前と同じ薄暗い空と両側の見たこともない木、そして落葉は本当に出雲まで来たのかと思わせるほど何も変化がない。
「天磐戸ってのはどこらへんだ?」
 そこらを見回してもそれらしいものはない。というか俺は実物を見たことがないからどんなものなのかも分からないんだ。それが建物なのか、地名なのか、何なのかさえこの何も言わない馬鹿犬耳から聞かされていないのだ。
「来る前も申したとおり天磐戸とは天上界にございます。すぐにお連れしますのでご心配なく」  
 そう言うと飛鳥はきょろきょろと辺りを見回し、左に五歩ほど進んだ。俺は今までの経験から何も言わずにそれを見る。
「・・・ナウマクマケイシムバラヤオンシマチュウシキャヤ」
 俺には何と言っているのか分からない言葉で飛鳥は落葉の上に手を翳し唱える。するとそこが、またもや青く光り始めた。今回違うのはその規模。俺の所まで光がきて、部屋で感じた風が吹き荒れたのだ。
「うわっ」
「ご心配なさらず。しばらく目を瞑ってらした方がよろしいですよ」
 目を瞑るも何も閉じなきゃ青い光にやられそうなんだ。俺は閉じても瞼の裏まで入ってくる光に不安になりながらそれが止むのを待つ。
 
 ◇ ◇ ◇

 ビュオー
 耳障りなほど風の音が響くその場所で俺はそっと目を開ける。
「う、わ・・・・!」
 そこは一帯荒れ果てた荒野だった。空はどんよりと赤く、雲が低い場所にある。どこまで続くか分からないほどのそこには切り立った岩肌をもつ巨石がいくつも転がっていた。
「ここが天磐戸か?」
「いいえ。ここは天界。天上界はこの上です」
「上?」
 俺は上を見上げてみる。
 ・・・・雲と紅い空しかないぞ。
「これより天磐戸へと向かいます。階段を使い行きますがそこは既に神の領域。くれぐれも人の常識単位で行動なされませぬ様、お願いいたします」
「ああ、まあ分かったよ」
 風になぶられる髪をうっとうしく払いながらどこかに現れるであろう階段を待つ俺。その、俺に。
「桃様、こちらです」
 久しぶりに聞いた本名に少し複雑な気持ちになる俺だが飛鳥の呼び声に後ろを振り向いた。
「ええっ!?」
 いつの間に現れたのか俺の後ろには支えの無い階段があった。素材は鉄なのか木なのか全く分からない。が、問題はそこじゃなかった。
 まず半端でなく、デカい。そして長い。
「これ・・・登るのか・・・」
「大丈夫です。すぐに着きますよ」
 飛鳥は何の迷いも無くその階段に近づいた。俺はため息をついて階段に足を置く。途端に、周りの景色が悉く変わった。
「え」
「ね?すぐに着くと言ったでしょう」
 俺がいたのはさっきまでの荒れた大地じゃない。空は青々と雲ひとつなく前方には神殿のような建物のある場所だった。その建物の奥にはさざ波のたつ海があり、それまた奥には蓮の花が浮いた幻想的な景色が広がっている。
「この岩が天磐戸です」
 そう言って飛鳥が目で追った所には何かがあった。ごつごつとした岩肌が地面に突き刺さっているような形で、全長としては俺の5000倍くらいだ。下の方には白い注連縄が岩全体を囲んでいる。
「て、天辺が見えないぞ・・・」
「一枚岩でこれほどのものを立てるとは、まさに神業。きっと魂醒の術も成功するに違いありません!」
「おや、珍しい客だね」
 飛鳥の感極まったような言葉に反応する声は、俺のものじゃない。
「・・・・!き、菊千代・・・!」
 ずざっと後方に飛びのいて飛鳥はその人物を凝視した。
「変わっちゃいないね。あんたは」
 赤い髪は長く、所々に青い筋が入っている。気の強そうな目元に朱色の化粧を施したそいつは胸と足を出した扇情的な格好をしていた。
 つまりそいつは、いや彼女は、女だった。
「ようこそ。あたしの領域へ」

後書き

とうとう天磐戸に到着しました。
桃太郎は最初のキャラとは少しちがってきてしまいました。
飛鳥も大分動かしやすくなってきてちょっとは場を踏んだかな、などと
自惚れてます。
 新キャラの菊千代さんはありのの中では桃太郎より先にいました。
今回のお話ではちょっとしか出てきてませんけど・・・(汗)

この小説について

タイトル 桃太郎レジェンド
初版 2006年12月3日
改訂 2006年12月3日
小説ID 1030
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