そして世界は・・・ - そして世界は・・・

トリニティ
 桐崎リュウ。
 一体この世界に彼を知っている人間がどれくらいいるだろう。
 少なくともあたしは知らない。
 そしてあたしはその知らない男との現場検証をこれほど順応しているのだろうか。


「桐崎・・・リュウ・・・」
「実は、あなたの行動をずっと見ていたんですよ。あなたがメッセージのネタを掴む、三日前ほどから」
 桐崎は固まっているゆかりを尻目にしゃべりながら部屋を出て行く。
「見ていたって・・・あなた・・・」
「ストーキングで訴えないで下さいね。やむを得ない事態でしたからね」
 無感情はそのままでやっと怒りを覚えてきたところのゆかりに桐崎は言った。彼女は文句を言おうと桐崎が出て行ったドアから部屋を出ようとして、
「ぐわぁっ!?」
 奇怪な声を上げる。
「女性にあるまじき悲鳴ですね。春原ゆかりさん」
 それは上げたくもなるだろう、と青筋を立てて何故か目の前にいる男を蹴飛ばそうかと思うゆかり。
「何でここにいるのよ」
「あなたが遅いからです。行動は迅速にお願いします。時は金なりですよ」
「・・・」
 呆れてものも言えないゆかりを、またしても置いていき猫背をひょこひょこと揺らして歩く桐崎に結局聞けずじまいだった前言を思い起こしてみるゆかり。
(ずっと見てたって、こいつ何者よ!?こんな所にどうどうと入れるくらいだから犯罪者ではなさそだけど・・・でも見るからに怪しいし・・第一三日前からって全然気付かなかったのに)
 1人悶々と考えていると桐崎がいる部屋からものすごい音が聞こえた。何か大きなものを引きずっているような鈍い音。
「何してるの!?・・・っ?」
 桐崎はピアノがある部屋の二つ奥の部屋にいた。ゆかりが急いでそこに入ると、桐崎がベッドの下にいるのを見つけてしまう。
 見なければよかった、とその時彼女は素直に思った。ダブルサイズの大きなベッドの下に入り込こんで何かを探っている桐崎は、さながらゴキブリの真似をする子どものような不気味な行動をしていたから。
「ここには何もありませんでした。春原さんはあちらを調べてください」
「ええっ?」
 調べろと?あのような格好で?ゴキブリのような姿で?
 桐崎は一度ベッドの中に、いや下に潜り込むと向こう側から出てきた。そして本日何回かめの“固まり”をしているゆかりを、そのぎょろ目で捉えると子どもがするように首をかしげる。しかし桐崎は子どもではないのでその行動もやはり不気味なことこの上なかったが。
「何をしているんです。あなたは行動派であると聞いていますが先ほどから立ったままで、やる気があるんですか」
 何のやる気だ。
 ゆかりは最早この常識を知らない男、桐崎リュウの相手をするのに疲れてきたようだ。
「分ったわよ」
 そう言って桐崎に言われた辺りを這いずる様にして探し回った。
 ・・・・待って・・。
「・・・一体何を探すのよ」
 今回は完全なる自分の失態だ。何を探すか聞く前に探し始めるなど、馬鹿も甚だしい。自己嫌悪に頭を抱え、ゆかりは「うおおお」などとゴキブリ以上の不気味さで床をころころ転がった。桐崎はゆかりのその行動にも対して意見は見せず、今度は本棚へ近づく。
「これで分かりましたね。被害者は相当な神経質だったようです」
 ゆかりは転がるのを止め、落ち込んだ表情で桐崎を見た。桐崎は本棚の前に立って指を本に這わせている。猫背ではあるが背は高い彼の身長を本棚は軽く越していた。
「何で?」
「本棚に空きがありません。それに見てください」
 ゆかりの見ている前で桐崎は本棚の端まで腕を伸ばす。歩けばいいのに、とゆかりは思ったが口には出さず黙っていた。
「ア行からワ行まで、全てタイトル順に並んでいます」
 桐崎は棚の一番左に入っている本を指差す。
「『愛の裏側とその裏』」
 声に出してタイトルを読み上げた。ゆかりも興味を引かれて、本棚へ近寄る。よくよく見れば確かにそれはタイトルが早い順に並んでいた。
「『空き巣と母親』、だって。この人変な本持ってるわね。『イナチュード三番目の真実』?何かしら、イナチュードって」
「知らないのですか?」
 別段いつものように感情は現さなかったが明らかに馬鹿にしたような響きを声音に滲ませてゆかりの方を見る桐崎。
「し、知ってるの?」
「勿論です。知らないあなたがおかしいのでは?」
「・・・もういい・・・」
 辟易しながらゆかりは本棚を離れた。そして改めて部屋を見回してみる。何の変哲も無い広い部屋が、そこにはあった。壁や家具類は全て城で統一されて清潔感があるものの、どこかよそよそしさを感じられる。
「ここには仕事のものが一切無い・・・仕事とプライベートは完全に分けている・・・神経質・・・」
 そんなゆかりを、まるで値踏みするように見る桐崎。そして再度本棚に目線を戻した。その目に映っているのは、先ほどの『イナチュード三番目の真実』だ。目を細めて声には出さずそのタイトルを読む彼はその他にも目線を色々な場所に走らせて本のタイトルを読み上げる。その行動は桐崎に背を向けているゆかりには、到底図り知ることは出来なかった。


 それから二人は一旦部屋を出ると26畳あるというリビングへ向かうことにした。結局ゆかりは「見ていた」という桐崎の言葉の真実を聞くことを断念されたが、これから被害者、来島悟の友人四人に話を聞くということで一応は起機嫌を取り直す。
「どうも・・・」
 部屋に入ると、沈鬱な表情の男性が三人、女性が一人いた。そしてここにも警官はおらず、ゆかりはますます桐崎を不審に思う。ともかく今は四人の証言を聞くことだ。
「初めまして。桐崎です。こちらは助手ですから気にしないで下さい」
 そう後ろのゆかりを紹介して自分はさっさと進む桐崎にゆかりはあきれ果てながらも、どうにか抑えて自分も彼に続く。
「最初にお名前と、ここへ来た理由をおっしゃって下さい。警察の方にも聞かれて混乱するでしょうが捜査のためです。ご了承下さい」
 そう言うと彼は何故かソファには座らず、絨毯の敷かれた床に直接座った。
「あ、あの」
「お気になさらず。これが一番落ち着くのです」
 他の人間の前でもこのような態度なのかと、呆れ半分安心半分の複雑な心中のゆかり。
「そうですか・・・では助手さんも?」
「いえ、あれはあそこで立っています」
 「あれ」!?あたしを「あれ」呼ばわり!?他記者潰しと言われたこの春原ゆかりを・・・。しかも立っていろと・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「ここで大丈夫ですわ」
 少々おかしな言葉使いは否めない彼女は腸は煮えくり返りながらも、下手に言い返せば追い出されるのを恐れて、どうにか話すことが出来た。
 桐崎は足を交差させて体操座りの姿になり、腕を膝の下で組む。
「じゃあ、俺から・・・俺は安達勇作です。ここには悟が新曲が出来たからって、電話で呼び出されて来ました」
 熊のような図体の男が最初に言った。大きな体に反して顔は優しそうだ。
「俺は裏方で、いつも悟に世話焼いてるんです」
 そいう言って恥ずかしそうにする安達。
「僕は板倉洋一です。僕も安達と同じで来島に電話で呼ばれて・・・あ、僕はバイオリン奏者です」
 線の細いめがねの男は自分の手を桐崎に見せる。桐崎は相変わらず何のリアクションも起こさなかった。
「わたしは・・・相川美空です・・・」
 小さく言ったのは女性の言葉にその場の空気が一遍する。ゆかりは寄りかかっていた壁から背を離し、一歩前に出た。桐崎は息をしているのかどうか疑うほど動かない。
「被害者のダイイングメッセージと・・・同じ・・・」
 ゆかりが言うと相川美空は俯いて黙り込んでしまった。確かに、被害者来島悟の最後のメッセージには「ミソラ」という言葉が関連してくる。ピアノの鍵盤についた血痕。ミとソとラに敢えてつけたと思われる被害者の血は彼女を指しているものなのか。
「わたし、殺してなんかいません!確かにメッセージにはわたしの名前を連想させるようなものがあったけど・・!でも本当に殺してなんかいないんです!」
「どうだかな」
「・・・っ」
 相川の言葉に反芻したのは、髪を茶色に染めた男。
「私は磯間達也です。ここには安達や板倉と同じ理由で来ました」
 男はニヒルな笑みを張り付かせて指を組んだ。そして相川美空の方を向く。それをただ黙ってみている桐崎。
「相川さんは来島に言い寄られてたんだろ。君は断ってたみたいだけど」
「だったら!!板倉君だって、来島君からお金を借りてたじゃない!会う度にも催促されてたみたいだし・・・今日だってそのつもりであなたを呼んだのかも知れないわ。それが憎くてあなたは」
 相川はヒステリックに栗色の長い髪を振り乱して言う。言われた板倉は驚愕の顔で立ち上がった。
「どうしてそれを・・・」
「ごめん、俺が言ったんだ。来島から『板倉が金を返さない』って相談を受けて・・・」
 安達が済まなさそうに言うと板倉は彼を睨み、動揺しながらも座る。
「それだったら、磯間、お前だって来島にピアニストとして嫉妬していただろ」
「嫉妬だけで殺す理由にはならないだろう」
「だったら僕だって殺す理由にはならないはずだ」
 だんだんおかしな方向に進んできた話を聞きながらゆかりは複雑な気持ちでいた。
 だから友情なんて、すぐに壊れる。
 だからあたしは、ひとりがいい。
 組織のしがらみにも上からの軋轢にも、苛まれることはない。
 こんな罪の擦り付け合い、醜いだけで見ていられない。
 桐崎は、何で黙って聞いているのだろう?

「分かりました。あなた方のお話はとてもよく参考になります。早速、推理に参りましょう」

 ゆかりは、耳を疑った。

後書き

第二話です。
この前友人にこの話を見せたら、桐崎のキャラが映画にもなった某人気漫画に出てくる探偵とかぶっていると言われました。
なるほど、確かに似てる。

>>涼月さん、コメントありがとうございます。わたしはゆかりの名前にとても苦労したのを覚えています。彼女もまた一癖も二癖もある女性(だと思う)ので長い目で見てやって下さい。

>>弓射りさん、コメントありがとうございます。そして正確なご指摘もありがとうございます。確かに、桐崎をもう少しあとに出現さえればよかったのでは?と思ってたりしましたが、幾らか焦りすぎましたね。次からは気をつけたいと思います。

この小説について

タイトル そして世界は・・・
初版 2006年12月9日
改訂 2006年12月9日
小説ID 1048
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コメント (2)

★冬野 燕 2006年12月10日 0時08分45秒
 最後の、ゆかりが友情は脆いから一人がいいとフリージャーナリストであることを強調しているところが、
 いきなり何を言い出すんだろうみたいな感じで、ちょっと驚いた。
 上手く言えないけど、補足のようなものでもあったらよかったかなと。

 早くも確信ですか!? 思わぬ急展開。桐崎はどんな推理を下すんでしょうか?
 某マンガ……思い当たるものがない。
 ノートですか? それとも魔界探偵ですか?
弓射り コメントのみ 2006年12月17日 0時12分45秒
遅い感想で申し訳ありません。ちょっと空気が乾燥しすぎてますね。
こんな日にマラソンで完走するのは無理・・・調子にのりすぎました、弓射りです。

ちょっと誤字が多いですね。ざっと読んで3〜4以上見受けられましたので、読み直して訂正されたほうが良いかと思います。感想は最新話につけようかと思います。読み直しは、是非というか絶対、投稿される前にしつこいくらい繰り返すのが得策かと思います。
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