そして世界は・・・ - 第四話〜推理前編〜

「春原さん」
 無感情な声がゆかりの耳朶を打つ。はっと思考の淵から這い上がった彼女は目の前の黒い物を見てまたもや悲鳴を上げた。今度は声にもならない悲鳴だ。
「・・・・・っ!ぅひっ・・・!?」
「あなたはやはり女性らしくない。女性はそんな声は上げたりしませんからね」
 唇がつきそうなほどに密着して、桐崎がゆかりの前にいた。黒い物は彼の目だ。猫背であるから、ゆかりとほぼ同じ目線だった。
「いっ、・・・っら・・!」
 ゆかりは相当驚いたらしく、「いつから」という単語を出せずに背後の壁に背をつけた。当の桐崎はゆかりの反応に、相変わらずの対応で彼女の前から去っていく。だがその去り方が、ゆかりを見たまま後ろに下がっていくという格好で、なんとも気味が悪かった。
「はー・・・」
 胸を撫で下ろしてゆかりは敢えて桐崎の行動を見ないように顔を背ける。
「あ、あの・・・推理に参りましょうって、あなた探偵か何か何ですか?」
 桐崎の背後、ゆかりの前方で相川美空が心配そうに呟いた。他の三人も自分達に背を向けている桐崎に同様の視線を送る。
「そうですね。敢えて名前をつけるならば、そうなります」
 随分と遠まわしな言い方で桐崎は肯定した。無感情は崩さない。
「ああ、それと一つ。ピアノでの基準の音はド、ですか?」
「は?ああ、まあそうだが。それと事件と何の関係があるんだ」
 イラついた様子で磯間達也が言った。ゆかりにも桐崎の言いたい事が分からない。
「もう一つ。来島悟は記憶力はいいですか?」
 一同が静まり返った。あまりの脈絡の無さに、皆が桐崎に対して不審を覚える。磯間達也に関してはそれが顕著だった。どうやらあまり気の長い方ではないらしい。
「貴様、私達を馬鹿にしているのか!?探偵ごっこなら外でやってくれ!」
「発言しているのはこちらです」
 ゆかりの方を見ながら、桐崎は淡々と言う。まるでこの世に自分よりも偉い人間は存在しないというように、その物言いは微々たる動揺もなかった。
「来島悟は記憶力が良かったのですか?悪かったのですか?」
 有無を言わさぬ言葉で静かに圧迫して言った桐崎に、折れたのは磯間だ。鼻から息を出して遺憾を露にする。
「そりゃ、ピアニストだからな。譜面も覚えなければならないから、記憶力はいいだろうさ」
「そうですか」
 棘のある口調で言う磯間にも、桐崎は背中を向けたまま表情を変えようとさえしない。それどころか彼は、そのまま座ってしまった。腕を膝下で組み、足を交差させ、体操座りに。
「さて。本題です。まず第一に重要な事柄はやはり犯人の究明ですが、ここは一つ順を追って追い詰めていく事にしましょう」
 上目遣いでゆかりを見て話し始める桐崎に異論を唱えたのは、ゆかりだった。
「ちょっと待って。本当に分ったの?あのダイイングメッセージが?」
「でなければこのような大それたことはしませんよ。ちゃんと考えてください。春原ゆかりさん」
 無感情に、無表情に言われてはゆかりも黙るしかなかった。おまけに馬鹿にされたきらいがある。彼女は少し眉根を寄せながらも「できるものならやってみなさいよ」という表情で腕を組んだ。
「まず、来島のメッセージを思い出してみてください」

『あさま』

 血文字で書かれたその字は確かにそう書いてあった。そして鍵盤には指でつけた血のあと。
「あれは、どういう意味なんです?」
 相川美空が指を交差して不安そうに聞く。
「大丈夫です。全てお話します」

       (続)

後書き

前編です。すいません・・・。
今度こそ、真相を明かします。
ああ、技術が欲しい・・・。

>>シェリングフォードさん、コメントありがとうございます。そして正確なご指摘も有難うございます。さっそく勉強させてもらいます!そして「L」・・・。うん、Lだ。桐崎はLにしか見えませんね・・・。ちょっとパクリみたいになってしまいましたが、一応桐崎は桐崎なので例の彼とは切り離してみてもらいたいですね。

この小説について

タイトル 第四話〜推理前編〜
初版 2006年12月11日
改訂 2006年12月11日
小説ID 1054
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コメント (1)

弓射り コメントのみ 2006年12月17日 0時25分10秒
またまたすみません。
>>無感情な声がゆかりの耳朶を打つ。
となっていますが、僕の知らない表現ではないとすれば「耳朶」ではなく「耳」ではないでしょうか。

誤字の報告のみで申し訳ありません。感想は、最新話のほうに付けますので今回はこれにて。
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