そして世界は・・・ - 第二部第一話

『・・・ということで磯間達也容疑者34歳は殺人罪により逮捕されました』
 テレビから深刻そうな女の声が聞こえてくる。深刻そうなのは声と表情だけで内面で本当に事態が飲み込めているのかどうかは分からない。ただ渡された文を読んで、ただ深刻そうな表情を作って、ただ隣にいるコメンテーターに話を振る。それだけでこの女はテレビの前にいる人間に「自分が知的」であると見せびらかしているようだ。
 ゆかりは時々、そんな事を考えてしまう。実際にそんな事は無いのだがテレビの中で何かを言っている人間が無性によそよそしく感じてしまうのだ。
 
 なにもしらないくせに。

 そう、思ってしまう。
「あーあ」
 ゆかりはベッドに寝転がり、持っていたテレビのリモコンを投げた。リモコンは見事ゴミ箱に入りゆかりはガッツポーズを決める。だが結局取りに行くのは自分なのですぐに沈んだ顔になった。
 外は晴天。絶好の行楽日和。家の近くにある小さなテーマパークに向かう家族のはしゃぎ声が時折聞こえてゆかりの心はますます沈む。
 何故かは分からなかった。
 磯間達也の事件で取材し忘れたから?違う。
 人間の心の闇に触れたから?これも違う。
 何故かは分からなかった。

 いや。

 わかっていた。
 あの男、桐崎に会って事件の構成を目の当たりにして人間の闇に触れて取材をし忘れて。
 昔の事を、思い出した。忘れたと思ったら急に心を締め付ける枷となり、枷になったと思ったら急に昔の思い出になり。だからこんなにも沈んだ気持ちになる。
 ゆかりは大きなため息を漏らした。
「会いたいな・・・」
 自分が勝手に心の支えとしている小太りで黒いサングラス、ロングコートの男。柳原敏次といっていたが本名かどうかは知る由も無い。
「会いたい・・・」
 もう一度呟いた。
 会えばきっとこの心の霞は、晴れてくれるはずだから。
 ゆかりは投げたリモコンを取りに行った。

 ◇ ◇ ◇

「ここは日本だ」
「知っています」
 無感情な二つの声がその場の空気を凍らせた。
「知っているならば話は早い。何故何の連絡も寄越さず外へ行った」
 声はしっかりとしていて威厳の在る口調。だが何の感情も見えない鉄壁がその声音に刻まれていた。
「ここは息が詰まるからです」
 こちらも声はしっかりしているが先の者同様口調に変化が何も無い。つまり無感情。威厳というものはかすかにある気もするが如何せん歳若い分、言葉に重さがみえなくなってしまう。
「それは失礼した。だがそれなりに対処するよう付きの者に申せばよかろう」
 男は大きな顎を黒いサングラスとスーツの初老の男に向けた。指された男は何も言わず黙って立っている。
「この男は今風邪ですからそのような事は頼めません」
 どう見ても風邪とは思えない黒スーツの男は威厳ある声の主に頭を軽く下げた。
「・・・では薬を持たせよう。ここは失礼する」
 威厳ある男は背を向けて去っていく。日本独特の袴という服を身に付けて付き人数人と長い廊下を進んでいった。
 彼の名は高杉正金(たかすぎまさかね)56歳。その年齢に似合わず189センチの長身で顎鬚を蓄え、いつも上から人を見下ろしてきた人物だ。今は極秘に政府に金を貸している億万長者で政治にも精通し、彼の指示一つで省の長官の首が飛ぶほどの地位に属していた。
 その男を前に引かずの戦闘を繰り広げた人間は、長身だが猫背で寝癖のひどい黒髪を持つ男。
 桐崎リュウだ。鎖骨の見える白いトレーナーにぼろぼろのジーンズを履いて畳の上に立っていた桐崎は小さく、
「熊・・・」
 と呟いた。
「200(ニーマルマル)あまりお遊びが過ぎますといつか御自分の身を滅ぼしかねません」
 黒いサングラスにスーツの男が桐崎に言う。
「重々承知です。私もまだ死にたくはないですから」
 桐崎はそう言って腰を下ろした。ソファではなく畳の上で体操座りをした。初老の男は立ったままだ。
「200」
「華月。私は“ホーム”に戻る気はありません。確かに向こうはリスクが少ない。ここ日本は最近物騒ですからここより遥かにあちらの方が安全でしょう」
 華月と呼ばれた初老の男は口を噤んで桐崎の言葉を聞く。障子(しょうじ)の向こうで鳥が鳴いていた。
「ですが私にそのような真似は出来ない。ここでは何と言いましたか・・・ああ、マケズギライ。そう、マケズギライです」
「200・・・そのようにお考えなさるのは何故です」
 サングラスに隠れて目の表情は見えないが声音には確かな懊悩が含まれている。
「ゲームです。私が死ぬか、相手が死ぬか」
 桐崎は目を細めた。何を考えているのか分からないが他の何かを或いは誰かの影を追っているようにも見える。
「相手は日本人です。ならば礼儀正しく相手の国で戦うべきでしょう」
 華月は何を思っているのか桐崎の言葉を聞きながら姿勢を崩そうともしない。
「ゲームならゲームらしく舞台設定はしっかりとしなければなりません。舞台は日本。パーティーは私、相手・・・・」
 桐崎の口端がつりあがった。その瞬間華月が身動ぎする。衝撃を受けたように唾を飲み込み、だが表立って動揺はしなかった。
「春原ゆかり」

 ゲームは音を立てて始まっていく。

後書き

今回は事件無しでした。

二人の心境?みたいなものを書こうと思ってたんですが、見事に玉砕しました。

ゆかりの方は何とか心の葛藤(のようなもの)を書けた気がするんですが、桐崎のほうは・・・うーん・・・てな感じになりましたね。

要修行です。

>>涼月さんコメントありがとうございます。犯人磯間の動機ですか。うーん、推理小説って難しい!こういうのも考えないといけないんですよね。コメントを糧にしてこれからも頑張りますのでよろしくしてやって下さい。

>>冬野 燕さんコメントありがとうございます。推理の結果にそう思っていただくととても嬉しいです。ですがまだまだ矛盾点が山のように・・・いつかそういった矛盾たちを倒せるように頑張りますので、よろしくご指導ご鞭撻の程、お願いする所存であります。

この小説について

タイトル 第二部第一話
初版 2006年12月16日
改訂 2006年12月16日
小説ID 1063
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トリニティの写真
作家名 ★トリニティ
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文と音楽と絵と食事を大事にする南部人

コメント (1)

★冬野 燕 2006年12月16日 22時38分06秒
 さぁ、始まれ!(なぜか命令。
 第二部を書かれたペースが早いので、ちょっと驚きですね。
 もしかして一部のときからすでに構想段階にあった?
 
 別々の場所にいる二人を描かれたようですね。
 こう言ってはあれですが、ゆかりさん。もう桐崎に惚れてますが?
 心の支えって……恋人でもないのに(吐血
 気になっている相手どころじゃないみたいだぞー、桐崎。
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