そして世界は・・・ - 第二部第三話

「捜査協力!?」
 思わず席を立ってしまった彼女は不審なものを見るような目で見てくる周りを焦った表情で見回すと静かに腰を下ろした。
「捜査協力って、あの、あたしにですか?」
 幾らか声を抑えて筧の方へ詰め寄るゆかり。
「はい」
 それを冷静なのか天然なのか、分からない声音で対応する筧。あまり普通の眺めではなかった。
「何故私が?」
 一応、頭の中で計算し、「何故私がやらなければならないのか」という意味と「何故私が選ばれたのか」という意味、両方取れるように言うゆかり。
 からからと坂道を昇る落葉がその場の空気を更に乾いたものにした。
「それはもちろん、貴女が優秀な捜査官だからです」
 にこやかに言う筧。若々しく、妙な威厳を持っていた。歳は35,6のはずだが20代といっても通用するだろう。
「あたし、ジャーナリストですけど・・・」
「承知です」
 明け透けに言う筧に、ゆかりは辟易しながらも微妙にかみ合わない会話を一応終えた。

 神奈川県警捜査一課警部殺人事件担当警部筧善弘から聞かされたゆかりへの頼みごとはというと、ある事件の捜査依頼だった。
 神奈川県北西の高級マンションで大人気ゲームのプログラマー中西秋晴という人物が殺害された。凶器は出刃包丁。被害者のすぐ近くに落ちていた。指紋は複数採取され、容疑者は12歳の娘を除き五人。妻の中西恭子、弟の中西晴彦、一人目の友人村尾雄二、二人目の友人花田詩織、三人目の友人尾方武弘。警察は彼らを事情聴取し、それぞれにアリバイは無い事を突き止めた。そしてそれぞれに相応の動機も。
 被害者はパソコンのある書斎で殺されていて、パソコン画面に

「口満ち質とにラスに」

という謎のメッセージを残して机の下で手を伸ばしながら死んでいた。
 警察は「やっていない」の一点張りの五人にしびれを切らして独自にゆかりに捜査協力を申し込んできたという。
 彼女の経歴を知っているというのはゆかりにとって驚きだった。誰にも知られていないと思っていたのに、東京の隣の県の警察に知られているとは思いもしない事実である。

 風が吹いている。彼の茶髪を弄びながらその場所を過ぎていった。
「200(ニーマルマル)。無事春原ゆかり引き込みに成功しました。即座に神奈川へ向かうとの旨、お伝えします」
 携帯の端末に向かって喋るのは筧善弘。先ほどゆかりと話していたときには見せなかった冷徹な表情で木陰にいる。彼は今例のカフェテラスではなくそこから離れた森の入り口にいた。
「はい。・・・はい。そちらに送った資料はそれが全てです。・・・・はい。分かりました。引き続き監視します」
 筧はこの後も何かを呟き、電話を切る。そして冷徹な表情は崩さず、森から遠ざかっていった。
 
 そして今、会談の日の夕方。ゆかりは神奈川県警に来ていた。

「ど、どうも・・・」
 ギロリと睨む警察関係者の目から逃れながら指定された席についたゆかり。だが席についても見てくる者は見てくる。
(はあ・・・こうなるのは覚悟してたけどさ・・)
 これまで東京以外にも色々な県の事件をそのカメラと取材で解決に導いてきたゆかりだ。1人のジャーナリストに自分達の本分である事件解決をされてしまったのならプライドの高い彼らは黙っていられるわけが無い。しかも聞いていたジャーナリストがこのような女であったなら、なおさらだ。
「皆さん、遅れまして。えー、では新しいメンバーを紹介致します。あの有名なジャーナリストの春原ゆかり氏です」
 昼間会った筧善弘とは別の人物がゆかりを紹介した。ゆかりはそろそろと立ち上がり、一応頭を下げて挨拶をする。だが返してくる者は30人前後いる中で一人二人とごく僅かだった。
「えー、春原さんにはー、えー、情報収集やー、えー」
「あたしは主に事件現場周辺での情報収集や犯人逮捕に繋がる確たる証拠を見つける事を得意としています。遥々のお呼びに、できるだけの協力をしたいと思いますのでよろしくお願いします」
 確信に触れない喋り方をする男にイライラとしながら一気に喋るゆかり。周りの刑事たちは少し驚いたような顔をしたがそれも一瞬の事ですぐにしかめ面に戻った。
「ごほんっ・・・えー、では、早速情報をえー、集めて今後の対策をえー、練りたいと思います」
 前に立った男が言うと部屋のざわめきが静まり、何かの資料を取り出し始める。
「ではー・・・」
 そこからの会議は眠くなるような内容だった。ほとんど筧から聞かされていた通りだったから、敢えて聞く必要もない。
 ゆかりは眠気を覚ますために今喋っている男の「えー」の数を数えながらその時間を過ごした。

「・・・223回・・・30分の間に・・・」
 凄まじい「えー」の量に呆れていたゆかりは誰かに呼び出される。
「は、初めまして!あの、僕陣内敏明という者です!」
 まだ歳若い、ゆかりよりも年下のような若者が目を輝かせながら言ってきた。
「はあ、春原ゆかりです」
「はい!知ってます!うわあ、嬉しいな。本物に会えるなんて」
 子犬のように表情をころころと変えて言う陣内にゆかりは少しだけ警戒心を解く。二人はちらちらと見てくるほかの刑事達から逃れるように廊下へと出た。
「ここの刑事さんて色々と変わってるわね」
「ええ、まあ。春原さんに手柄取られて減給食らった人がいるんです。だから」
「なるほど」
 要は逆恨みだ。陣内はゆかりに買ったコーヒーを差し出す。
「あ」
「え?」
 コーヒーを見つめながら声を上げたゆかり。
「ねえ!ここに筧善弘って人間がいる?この事件の部長らしいんだけど」
「え?いいえ?この件の部長は先ほどの山瀬部長だけですよ」
 
 ほんとに?じゃあアレ誰?何であたしここにすんなり入れたの?

 もしかして・・・。

「桐崎・・・」
「きり・・・え?誰です?」
 ゆかりはもう陣内の言葉を聞いていないようだった。一度考え出すと周りが見えなくなる性格は直っていないらしい。
 事件とはまた別の謎に眉をしかめるゆかりだった。

 ◇ ◇ ◇

「そうですか。分かりました。・・・はい。はい。では、頑張ってください」
 持っていた携帯電話を耳から離して桐崎は一点を見つめたまま動かずに電話を投げた。
「・・・・華月(かげつ)。・・・今回も頼みますよ」
 座席のシートを見つめて桐崎は言い、いつもと変わらない無感情な表情と声はどこか炎のような翳りがちらついていた。
「はい」
 桐崎は窓の外を追う。ビルが立ち並ぶそこはそろそろ夕暮れだ。桐崎の青白い顔を紅の光が照らす。
「華月」
 ふいに桐崎が華月の名を呼んだ。華月は何も言わず窓の外を見ている桐崎を見る。
「様相論理を知っていますか」
「・・・・いいえ」
「〜でなければならない、〜でありうる、という論理です。理数系分野ですがこの世界にも当てはまると思いませんか」
 桐崎は感情一つ見せず相変わらず窓の外の景色を目で追って言った。
「何故です?」
 こちらも姿勢一つ崩さず華月は聞く。運転手が少し身動ぎし、傍目からは全く見えない車内の異様な気配をその一瞬で表していた。彼の額には汗が滲んでいる。
「この世は正当でなければならない。正義こそが全て。悪など虫けら以下のものです」
「・・・・・・200」
「私は狂っていますか?」
「・・・いいえ。あなたは正しい」
 運転手が喉を鳴らした。僅かにハンドルを持つ手が震え、汗も吹き出ている。
 外は夕闇。
 車は神奈川へ。
 桐崎の運命と。
 誰かの運命と。
 春原ゆかりの運命を乗せて。
 舞台は、神奈川へ。

後書き

こ、こんばんわ・・・。眠い・・。

非常に眠いトリニティ一号です。

物語は大筋の説明と・・・っていうかあまり進みませんでしたね。

桐崎の情報源は、筧さんでした。筧さんの正体見たりです。

あと2・・・3話くらい続きそう・・・。

>>シェリーさん、コメントありがとうございます。更新スピードが速いのは。文章が少ないからであります。ううう、区切りすぎなんですよね。わたしの場合。

ああ、分っちゃいましたか。長めの苗字のあの子が出てくる漫画です。もう犯人分ったんじゃないですか??今度の謎はオリジナルでいきたいです。

>>冬野 燕さん、いつもコメントありがとうございます。筧善弘のキャラは何となく桐崎っぽいですね。彼もまたこの物語に欠かせない奴です。

神奈川県の北西・・・うーん、わたし自体神奈川に行った事がないので全く勉強不足のまま書いてしまって・・・反省しております。

>>涼月さん、コメントありがとうございます。筧さん、妙なんて言われてますよー!はい。はっきり言いまして妙なのです。奴は。でも今回の話で彼のポジションがお分かり頂けたかと思います。

地域名・・・!冬野さんへのお返事にも書きましたがわたしの勉強不足により地域名を書くことが出来ませんでした。下手に書けば行っていないわたしには想像が出来なくてきっとおかしくなってしまうので、やむなく・・・。
あ、わたし都会には住んでません。東京とか書いてますがわたしは全然違います。ゆかりは一応巣鴨かそこらに・・・(渋っっ

この小説について

タイトル 第二部第三話
初版 2006年12月18日
改訂 2006年12月18日
小説ID 1072
閲覧数 1814
合計★ 3
トリニティの写真
作家名 ★トリニティ
作家ID 95
投稿数 123
★の数 498
活動度 25049
文と音楽と絵と食事を大事にする南部人

コメント (1)

★ありのはながさ 2006年12月19日 18時36分56秒
修学旅行行っている間に大変なことに!?!?
最初の画面に「NEW」の文字がざっと・・・数え切れません。
えーと、作品ですがどこか物足りないなって。
最後の方の桐崎が「私は狂っていますか」の部分。
なぜそうなるのかもう少し彼の思いを取り入れるべきでしたね。
まあ、ありのが言えた立場ではないですが・・・;
これからも応援しています。
がんばりはって!!
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。