そして世界は・・・ - 第四話

「さて・・・今回で200(ニーマルマル)は完全に僕に姿を見せるだろうね。どんなゲームを仕掛けてくるのか・・・」
 小太りで低い身長の男が呟いた。ここは神奈川郊外。高級マンションの立ち並ぶ一画で彼は1人アンパンを食べていた。黒いサングラスにロングコートという出で立ちでアンパンは少々奇妙な感じもするが周りに人はいないので本人も対して飾っていない。
「ふむ・・・もうすぐ神奈川県警が来るはずなんだが」
 口をもごもごいわせて彼は辺りを見回した。高いマンションの間から風が漏れて、物寂しい雰囲気を醸し出した。
 夕日が沈みかけ、そろそろと寒さが秋の夕闇を占め始める。男はアンパンを嚥下して口元を袖で拭くと赤く染まった世界に飛び出した。
「100(イチマルマル)は200を越える。数学的には100もの壁があるがね。宇宙的に言えば小指の甘皮ほどだ」
 自らを100という彼は少し口端を吊り上げて秋の中を歩き始める。先ほどより風は、強くなっていた。

 ◇ ◇ ◇

「大ファンなんです」
 若い刑事、陣内敏明は目の前で何やら考え込んでいるゆかりに、思い切った口調で言った。
「・・・・・・・・・え?」
 しばらく無反応だった彼女だがふいに顔を上げる。
「貴女解決した事件の数々。全部ファイルに綴じてるんです。今まで報道ではフリージャーナリストってだけしか載ってなくて色々想像してたんですが、今回会えて嬉しいです」
「い、いいえ」
 求められた握手を返してゆかりは考えの淵から浮き上がった。
(疑問はたくさんあるけど、今は事件の事だけ考えよう。何せ人一人が殺されたんだから)
 ゆかりはまだ喋っている陣内の言葉を半分耳から流して、思いを新たにした。
「おい陣内!」
 年嵩の男の声が聞こえ、二人を呼び出す。ゆかりを見るとその男は一瞬だけ獰猛に鼻面を寄せて部屋へ入っていった。
「あの人が減給食らった人なんです」
 陣内はゆかりに小声で言うと先に歩いていく。広くない廊下で彼は足をぶつけていた。

「えー、それでは、件のマンションへ、えー、行きたいと思う」
 神経質そうな小さな目で山瀬が言うと刑事達がぞろぞろと部屋から出て行き、ゆかりも陣内と共に例に倣う。
 外はとっくに夕暮れになっていて赤く揺れる陽炎が山の端に沈みかけているところだった。ゆかりは白い七部袖に黒のスラックスだったのであまり寒さは感じない。
「えー、君は私と陣内君と、えー、一緒に行ってもらおう」
 山瀬が言い、陣内と車に乗ることになったゆかりはカメラをしっかりと構えながら、後部座席のシートに身を沈めた。
 
「着いたぞ」
 本部から一時間ほどでその場所へは着いた。
「うわ、風が強いわね」
 車から降りた途端髪を嬲る風にゆかりは顔をしかめる。そこは高いマンションの立ち並ぶ郊外で、あまり人がいなかった。
「どこが被害者の家?」
 顔を掠める髪束をうっとおしそうに払いのけて幾つものマンションを見つめる。
「あれ、あれです。窓が一番大きいビル」
 陣内が指差したのはゆかりの正面にあった最も高いマンションだった。他のマンションとはやはり雰囲気やら何やらが違う。
「あんな高そうなところ・・・やっぱりプログラマーは違うわね」
 ゆかりが感嘆の声を上げていると、左手の方から騒がしい声が聞こえてきた。刑事達の声だ。
「どうしたんだ?」
 山瀬が近づいていき、二人もその後に続く。
「いやー、はははは。取材をー、ちょっと」
 短めの黒髪を掻きながら愛想笑いを浮かべる男がひとり、刑事達の中で彷徨っている。
「え?」
 黒いサングラスと暑そうなロングコート。小太りで低めの身長の男は「ははは」と笑い、素なのかそうでないのか分からない対応で刑事達を困らせていた。
 その男を見たゆかりは、凍ったように動かない。まるで何かを見つけた子供用に嬉しそうでいて僅かに切なげな表情を作った。
「全くこの頃増えてるんですよ。ジャーナリストとかテレビの取材とか、現場にズカズカ入って来て。礼儀というものがなって・・・あれ?春原さん?」
 ひとり頷いていた陣内を尻目にゆかりは何も考えず、ただ目の前のものだけを追う様にして刑事達の波を潜り抜けていく。
「取材は駄目だ。帰りなさい」
「そこを何とか・・・」
「駄目なものは」
「ちょっと!ちょっと待ってー!」
 大声で話に割って入っていったゆかりは後ろの方で何か喚いている陣内を無視してその男のもとへ飛び込んできた。
「おや?君は・・・」
 小太りの男はしばらくやってきた女を見ると、呆けたように口を開けた。目はサングラスに隠れて見えないが確かに驚いている。
「あ・・・・・」
「お久しぶりです。覚えてますか?えっと・・・巣鴨の強盗殺人事件で・・・」
「ああ、覚えて・・・るよ」
 男は周りの喧騒など聞こえていないようにゆかりだけを見ながら言った。
「確か、奢るって言ってたよね」
「すごい!3年前のことなのに」
 ゆかりの目の前にいた小太りの男、柳原敏次は彼女の言葉に曖昧な笑みを浮かべる。
 彼の曖昧は逡巡に変わり、逡巡は動揺に変わり、動揺は新たな可能性に変わった。

 ◇ ◇ ◇

「200、もうすぐで到着です」
 華月の静かな声で瞼を閉じていた桐崎は目を開ける。窓の外はすっかり陽も暮れて、夜の帳が下りてきていた。
「・・・・そうですか」
 いつの間にか肩にかかっていた大き目のスーツを見ると桐崎は少しだけ目を細める。
「外は風が吹いているようですよ」
 サングラスを鼻の上になおしながら白髪の数本入った髪を撫で付けた。桐崎は無言でスーツを華月に返して、寝癖のひどい真っ黒な髪を持つ頭を数回振って伸びをした。それはさながら猫のよう。
「・・・あのマンションですね」
 伸びをした後に見えた窓の外の景色は高級マンションが立ち並ぶ郊外だった。
「筧はどこに?」
「こちらに昼間より来ております」
 静かに言って返されたスーツを着る華月は疲労している運転手に何か耳打ちして胸ポケットからドル札を何枚か取り出すと助手席に置く。運転手は少々むくみ気味な顔を緩めて脇に車を止めた。
 バタンとドアを閉めると夜の風が吹き荒れ、桐崎の寝癖だらけの髪を弄ぶ。
「200」
 華月とは違う声が桐崎を呼んだ。
「早かったですね。筧」
「ええ。辺り一帯を散策しておりましたから。しかし・・・本当に来るでしょうか?100は」
 筧が深刻そうな顔でいうと桐崎は黙ったまま歩き出す。猫背をひょこひょことさせて進む彼を見て華月は何の感情も出さずに付いて行き、筧も少しばかりの沈黙の後感情を殺すように早歩きで、彼らに追いつき目の前にあるマンションに向かって歩いていった。

後書き

どうも皆さんこんばんわ。

「私の頭の中の消しゴム」を見て大泣きしたトリニティです。

物語は終盤へ向かって進みます。被害者の残したダイイングメッセージと桐崎、ゆかり、その他諸々の謎との二つを抱えて終点地点に急いでいます。

出てきました、柳原。わたしの話に珍しいブサイクキャラです。

うーん、早く終えてラブコメ書きたいわー。

>>ありのはながささん、こめんとありがとうございます。お初ですね。読んで下さって嬉しいです。

うーん、桐崎の気持ちですか・・・。なるほどね。ですがあの場面はああいう書き方しか思い浮かばなくて・・・わたしの完全なる技術不足であります。

こんなわたしですが、これからも見放さず、見守って頂ければ光栄です。

この小説について

タイトル 第四話
初版 2006年12月19日
改訂 2006年12月20日
小説ID 1077
閲覧数 818
合計★ 4
トリニティの写真
作家名 ★トリニティ
作家ID 95
投稿数 123
★の数 498
活動度 25049
文と音楽と絵と食事を大事にする南部人

コメント (1)

★冬野 燕 2006年12月20日 10時04分48秒
 聞こう。100と200の違いはなにか?
 答えは百の桁が違うことさー!!

 言ってて後悔。友達に見放された哀れな冬野です。
 ホームとは何を目的とした組織なのか!? そして100の目的とは200への復讐だけなのか?
 ゆかりの運命を歯車を巻き込んで、神奈川を舞台に「そして世界は……」は走り出す!

 場所も修正されていて、とてもよくなっています。
 ところで髪を嬲る風って……ちょっと卑猥に聞こえる……。

 「私の頭の中の消しゴム」。登場人物の女性はスジンでしたっけ。
 少女コミックの付録マンガでしか読んでいませんが、とても切ない物語ですよね。
 ぜひ映画も見たいです。金があれば……うぅ

 僕の作品へのコメントの返答になりますが、技術を半分ならあげましょう。
 しかしネコミミパワーだけは譲らない!!(こっちが九割)
 長文すみませんでした。
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。