そして世界は・・・ - 第六話

 迅速に動いた刑事達の活躍で、五人の容疑者と包丁の謎はすぐに洗われた。五人はすぐに警察署に集められる事になるはずだった。

「何ぃ!?このマンションに集めるだと?」
 山瀬があからさまに険悪な表情で、ある提案をした陣内を睨んだ。他の15人ほどの刑事も陣内のその提案には賛成していない雰囲気を醸し出している。
「ええ。現場に連れてくれば犯人は動揺して、何かボロを出すかもしれません」
 至って冷静に陣内は言った。ゆかりは彼の意見に賛成だった。陣内の言葉の通り、犯人にとって現場というのは何かを悟られるような心理状態になって挙動不審になる。
 普通の、人間の場合。
 隣にいるこの男は普通ではなさそうだ。今も余裕の表情でロングコートのポケットをまさぐっている。
「駄目でしょうか?」
「ふむ・・・」
 山瀬はしばらく考えると、窓の外を見た。月は雲に隠れて見えないし星などは影も捉えることは出来ない。
 その中を、遠いところでは署から7キロ離れている者が集まるには相当の時間がかかるだろう。
「7時半か」
 壁にかけられた古い、メッキが貼られた時計はその時間を指していた。今から署まで帰るとなれば全員が集うのは9時ごろになってしまう。だがここならば8時過ぎには行動が起こせるはずだ。そして陣内の言葉にも一理あるのだ。いちいち面倒なことをするよりも、ここにいた方が絶対に有益なことは目に見えている。
「そうだな。えー、ではここには私と陣内と、えー、立原、狩谷と春原君・・・と・・・えー、君は・・何故ここにいる?」
「え?」
 前歯二つが銀歯の口を開けて山瀬に聞き返した。柳原はサングラスで大半が隠れた顔をゆかりに向ける。
「あ・・・あたしの協力者なんです。この人も一緒に」
 ゆかりが言うと山瀬たちは納得したように何も言ってはこなかった。ただ唯一陣内だけは釈然としない表情で形の良い眉をしかめる。
「なんのために?」
「おい陣内」
 刑事の1人が諌めるが、陣内は更に前へと出る。
「お答えを」
 引かない陣内を前に先輩らしき刑事は黙った。
「だからあたしの協力者だって・・・」
 柳原の言葉を待たずに、ゆかりは言う。それまでとは全く違った雰囲気を纏いだした陣内に、少しばかり淀みながらもはっきりと。彼の目は敵意に満ち、柳原を決して自分の領域にはいれたくないというような鋭い気配を彼に向けている。
「僕はただ記事が書きたいだけさ。彼の承諾ももらったしね」
 柳原はそう言うと後ろでランプをいじくっていた山瀬を顎で指した。
「君にそんな事を言われるとは思って無かったよ、ボウヤ」
 柳原の言葉は棘のように陣内に突き刺さる。彼は言葉を詰まらせて前に進もうとするが周りの雰囲気が牽制に入ったため、何かを考えた後自分から柳原に頭を下げた。それに回りはまたざわめきを取り戻す。刑事達はざわざわと話し始め、何人かが部屋の外へ出て行った。
「大変失礼しました」
 頭を下げた状態で言う陣内の表情は見えない。そんな彼の元に静かに歩み寄った。
「まだイヌをやってるのかい?」
 後ろのゆかりには聞こえないように言う柳原に陣内はパッと顔を上げる。
「苦労人だね。大変だろう?あの男のお守りは」
 陣内にだけ聞こえるように言う柳原は背後のゆかりが聞き耳を立てていることを悟ると口の端を吊り上げ、最後に陣内に一言だけ言った。
「そんな君に朗報。お守りも、今夜で終わる」
「な!?」
 驚愕に打ち震えるように、陣内は顔をゆがめた。
「どういうっ」
「おい、陣内!ホシ候補呼びに行くぞ」
 年配の刑事、立原が言うと陣内はまだ何か言いたそうにしていたが柳原を睨むと立原の元へ向かう。
「あの、柳原さん?陣内・・さんと知り合いなんですか?」
 柳原は素なのかそうでないのか分からない余裕の表情は崩さず、ゆかりの方を振リ向いた。
「いいや?初対面だよ」
 サングラスの奥で光る目ではそれが本当なのか嘘なのか推し量る事は出来ない。ゆかりは自分と同じ目線の男を、今度ははっきりと疑うように見た。
 かつて尊敬し、自分の運命を変えてくれた人物への憧れは、180度変わり、今はある種の畏怖の目で柳原敏次という男を見ている。それは彼女の心に深い傷をもたらしそうになったが、ゆかりは三年半前と同じように弱くは無かった。
 今は彼の本質を突き止めたいと、本心から思っている。
(あなたからもらった心よ。柳原)
 複雑な心境ながらも、何かがおこりそうな予感を感じて彼女はすっと目を閉じた。

 ◇ ◇ ◇

「上には陣内が待機しております。容疑者はここに全員集めるよう、指示してありますので」
 階段を上がっている三人はちょうどエレベーターで住人が進んでいく様を見た。
「そうですか」
 それだけ言って依然ペースを崩さず階段を昇るのは白い鎖骨の見えるトレーナーにぼろぼろのジーンズを履いた寝癖のひどい男。
 桐崎リュウだ。
 長身なのだが猫背のせいで不恰好に見えるその人物は後ろに黒いサングラスとスーツを着込んだ初老の男と、先ほど喋っていた茶髪の若い男を従えて上へ上へと進んでいる。
「200(ニーマルマル)・・・・本当に」
「静かに。何も喋らないで下さい。私は今あの男の事など聞きたくありません」
「・・・・失礼しました」
 かつかつという靴跡が、その場の会話と雰囲気には似つかわしくない音が三つ出ていた。
「32階」
 初老のスーツの男が呟く。上の方にあるフロア表示には確かに32階となっていた。どうやら彼らは階段でここまで昇ってきたようだ。
「今夜で二百と百の差が埋まるかもしれません」
 唐突に桐崎が言った。20段ほどの階段の中腹で筧と華月が止まる。ひょこひょこと昇る桐崎を残して二人は黙っていた。
「200・・・」
「そうなれば貴方は“ホーム”に戻ることになります」
 華月が言うと桐崎は階段の上の方で初めて足を止める。フロア表示はもう33階となっていた。
「戻る気はありませんし、負ける気もありません。もちろん、死ぬ気もありませんし、あの男を死なせるつもりもない」
 筧と華月からは猫背とくしゃくしゃの黒髪しか見えない。換気扇か何かの音がうるさく響いていた。
「ですが、二百と百の間は埋まるかもしれない。彼は“ホーム”きっての天才。私を超えることなど容易いはずです」
 桐崎は後ろの二人を見ることなく淡々と話す。だが何かを切望しているような、何かの存在を追い求めている焦燥に似た感情の切れ端が声の所々で見えた。
「何を考えているのですか」
 華月が静かに言うと桐崎は何も言わず、しばらくそこに留まったあとに廊下を進んでいく。
 後に続いていた二人も、何かを諦めたかのように何の会話も無いままに桐崎の姿を追いかけていった。
 桐崎は角部屋にあたる一画に入っていくと、躊躇いもせず部屋に入って行き、丁寧に靴を脱ぐと何人かの声がする一室のドアを開く。
「!?」
 皆一様に、入ってきた不審な男を見て固まった。
「初めまして。桐崎というものです」
 そこに集められていた五人は、それぞれ顔に翳りを見せている。桐崎は目を細めると勝手に部屋に上がりこんだ。

 ◇ ◇ ◇

 集う。
 白の死神と、
 黒の皇帝が。
 騎士が二人に、
 軍師が1人。
 
 女神が、1人。

 集った。
 夫を裏切った妻と、
 兄を裏切った弟。
 友を裏切った男と、
 不倫相手を裏切った女、
 客を裏切った男。

 今、事件と謎は複雑に絡まりあって大勢の運命を狂わせていく。

後書き

どうも皆さんこんばんわ。ブーツを買おうと思ったら「足の幅のサイズがないですね」といわれたトリニティです。

今回の話は、主に本性編です。柳原と桐崎の未だ謎だらけの二人の心を表してみた・・・つもりです。

ゆかりさん、全然出てきてませんね・・;

>>冬野 燕さん、コメントありがとうございます。いやん、芸達者なんてっっ!(←すみません、きもいでした;

五話はこの六話より長かったんですよぉ、本当は。でもメモ帳とやらが不祥事を起こしまして・・・全部消えてしもうたのです。だからあんなうすっぺらーな内容になってしまった次第です。

体がネコ!?!?いやぁ犬猫好きのわたしには堪らん話ですな。うへへへへ。(ひぃぃぃすみませんっっ

この小説について

タイトル 第六話
初版 2006年12月22日
改訂 2006年12月23日
小説ID 1083
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トリニティの写真
作家名 ★トリニティ
作家ID 95
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活動度 25049
文と音楽と絵と食事を大事にする南部人

コメント (3)

★冬野 燕 2006年12月23日 11時08分41秒
 誤字→桐崎とういうものです。

 ちょ、ちょっと何これ!?
 キラとLみたいな展開はっ!? 軍師は……華月?
 100は一体何を考えているのか、非常に気になるところです。
 そろそろ推理でしょうかね。楽しみです。

 まぁまぁ、落ち着いて。粗茶ですが(黒烏龍茶)
★トリニティ コメントのみ 2006年12月23日 11時16分02秒
ほ、本当だっっ!
直しておきました。ああ、恥ずかしい・・・・。
そ、粗茶をもらいますっ。
ズズズズーッ
はあ、落ち着きました。
★シェリー コメントのみ 2006年12月30日 22時20分15秒
 最近忙しくて、トリニティさんの作品全然読めませんでした。ですので、まとめて最新話にコメントしようと思ったのですが、ここの部分はちょっとコメントしておこうかなと。

 最後の『集う』の演出が素晴らしいです。ホント、体が震えるくらい! 推理小説の引きとしては、これ以上ない演出……見事です!
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