そして世界は・・・ - 第八話

「は・・・?」
 彼は絶句した。あまりの驚きに怒りを通り越して唖然とする。
「違いますか?尾方武弘さん。あなたが、犯人なのでしょう?」
 少しびくつきながら言う山瀬の言葉に次第に顔を歪めていく尾方武弘はいきなり立ち上がった。
「冗談じゃねえ!何で俺が犯人扱いされなきゃならねえんだ!」
 ゆかりは嘆息し、据えたような目であたふたしてい山瀬たち三人を見る。
(そりゃそうだっつーの)
 彼女が思うのも無理は無かった。何せ山瀬たちは被害者を殺害したとされる包丁の種類だけで彼を犯人と思い込んだのだから。いくらゆかりの協力者とはいえ、部外者の言葉だけで勝手に捜査を進めた彼らの浅はかさは呆れの一言だ。
「だ、だから、包丁が楽雲仙の・・・」
「俺が店のモンを勝手に持ち出してきたと思ってんのか!」
「え・・・?持ち出したのでは・・・」
 山瀬は柳原をちらちらと見ながら必死に言葉を紡ぐ。尾方の後ろにいた花田が僅かに身じろいだ。
「ふん、店のモンを持ってっちまったらそれの罪で俺は捕まる」
 少し落ち着いて尾方が椅子に座りなおす。ゆかりも息を吐いて頬杖をついた。
「お前本当に警察か?」
 尾方が不審そうに言った言葉に陣内が僅かに反応する。
「どうせあんた、お偉い椅子に座って指示ばっかり出すインテリなんでしょ」
 ゆかりが少しだけ侮蔑の意をこめて放った言葉に山瀬は顔を赤くして、立ち上がった。眉根をもっともらしく寄せて腕を組む。
「では春原君。君はどうなんだね?君はこの事件の真相が分ったのか?」
 今度はゆかりが詰まる番だった。頬杖をとき、すっと立ち上がる。幾許かの期待を込めて桐崎を見たが彼は先ほどから黙ったままだ。
「もちろんさ。春原先生はとっくに分ってらっしゃる。先生のお口を煩わすのも僕の気が引ける。僕の口から説明させてもらうけど」
 柳原は肥えた腹を揺らしてゆかりに向き直り、いたずらっぽく笑った。
「いいですか?先生」
「えっ?え、ええ」
「よかった。では」
 柳原は前に出てくると、まず山瀬に問いかけた。
「当日のままパソコンはいじってませんか?」
「当たり前だ。だが鑑識は隅々まで調べたぞ」
「中身はいじってませんよんね?」
「恐らくな」
「結構」
 柳原は手をぱんぱんと払うとゆかりの方を一度見てにこりと笑う。彼女はその笑みをどこかで見た気がした。
 いや。笑みではない。
 雰囲気をどこかで感じたのだ。
「皆さん、現場でお話しますからどうぞご起立を」
 今までの軽かった口調から一変し、後に出る話し方で柳原が言う。その場の面々はそれぞれに不安な心で立ち上がった。だがゆかりの下にいる桐崎は動こうとせずに、座ったままでいる。
「・・・・・・・」
 柳原は不敵に口端を吊り上げると彼に近づいていった。
「どうぞ君も?」
 ゆかりは威圧感にも、圧迫感にも似た雰囲気に呑まれそうになりながらも二人の動向を見守る。容疑者五人と山瀬たちはぞろぞろと奥の部屋へと向かっていた。
 窓の外で何かの音がして、雨が降っていることを知らせる。
「・・・・・・」
「ふうん。ダンマリかい?」
 ゆかりは何となく二人の間に入っていく事が出来ずに目を泳がせながら後ろの方で控えている筧と華月を陣内を見る。
「ん・・・・ん!?」
 三人を一通り見てゆかりは二度見してしまった。そこにいるべきではない人物がいたから。彼女は後ろまで行き、陣内の前に立つ。
「陣内さん!?何でここに」
「すみません春原さん。僕も・・・こちら側なんです」
 申し訳なさそうに言う陣内。
「ええっ!陣内さんも!?」
 衝撃の事実に、動揺を隠せないゆかりだったが何かを思ったように声を顰(ひそ)めると陣内に口元を寄せた。
「もしかして山瀬達も・・・アレなの?」
 至極真剣な表情で言うと陣内は少し笑う。
「な、何よ」
「すみません、彼らは何も関係ない人たちなんですよ。ちゃんとした警察の方です」
 陣内の言葉に筧も笑った。何もせず立っているのは華月だけだ。
「それにしてはあのすかすかな推理といい、怒りっぽい性格といい・・・。何とも言えないわね」
「ははは。確かに」
「!」
 笑いあった陣内とゆかり、密かに笑っている筧の前で華月が身動ぎする。筧がそれを敏感に察知して組んでいた腕を解いた。  
 ゆかりも何事かと後ろを振り向く。

 桐崎が腰を上げていた。

「え?」
 ゆかりが驚いていると周りの三人は彼に続いていく。動揺しながらも行ってしまった彼らを追いかけた。

 ◇ ◇ ◇

「パソコンを起動してどうする」
 山瀬の言葉を無視し、柳原はパソコンを立ち上げた。ぱっとデスクトップが出る。ワード画面にすると捜査員の1人が保存しておいた被害者の残したダイイングメッセージを出した。

『口満ち質とにラスに』

「これ・・・意味があるんですか?」
「もちろん」
 恭子の言葉を返したときにちょうどゆかりたちが入ってくる。桐崎は後ろの方でじっと動かず見ていた。
「これ、ちょっと打ってみてください。そうですね・・・じゃ山瀬警部」
 指名されて山瀬は少し驚きながらもパソコンの近くまで来る。容疑者候補の五人も固唾を呑んだ。
「何と打てばいい」
「何でも。“やませかっこいい”でもいいですよ。うん、これでいきましょうか」
 冗談なのか本気なのか分からない口調で言うため、山瀬も静かに頷くしかない。そうしてパソコンの前に座るとキーを叩き始めた。

『んちもちと命魚野良に荷』

「あれ?」
 山瀬が確かに打ったにみえたパソコンの文字には意味の無い単語の羅列が出ている。恭子と晴彦が画面を覗き込んだ。
「んちもちと命魚野良に荷・・・?何かしら」
「実はこれも“やませかっこいい”と読めるんです」
「ええ!?」
 柳原の言葉に五人全員が疑問符を頭に浮かべる。ゆかりもそうだった。
「あ」
「え?」
 村尾の素っ頓狂な声に五人、いや六人は彼を振り返る。村尾は人差し指を立てて何かを見つけたときのような顔をしていた。
「これ、仮名打ちになってるんだ」
 彼の言葉に、他の面々は難しい顔をしている。
「ほら、ローマ字で打てない人のためにあるじゃないか。仮名でキーボードが打てる操作が」
「ああ・・・なるほどね」
 
 早く事件を解いて君との勝負がしたいよ。
 200.

後書き

半端なところで終わってすみません。

じ、次回で真相アンド犯人がきっぱりくっきりはっきりと出てきますので・・・!

この小説について

タイトル 第八話
初版 2006年12月27日
改訂 2006年12月27日
小説ID 1103
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トリニティの写真
作家名 ★トリニティ
作家ID 95
投稿数 123
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活動度 25049
文と音楽と絵と食事を大事にする南部人

コメント (1)

★冬野 燕 2006年12月28日 15時36分05秒
 あー、めちゃくちゃ久しぶり。
 忙しくて最近まともにパソコンに触れてないです。

 か、仮名打ち!? トリニティ……怖い子!
 感想としてはこれまでと比べるとちょっと会話文が多いかな、と。
 でも楽しいのー、会話がたくさんって賑やかなのー。
 だって僕は会話下手ですのことよ? 言葉のキャッチボールなんて……うぅ。
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