そして世界は・・・ - 第九話

「じゃ、じゃあこの“口満ち質とにラスに”っていうのは・・・」
 ゆかりと五人の目がキーボードに釘付けになる。
「ローマ字表記で同じ文字を打ってみてください」
 柳原の言葉の通りに山瀬がパソコンを操作してキーボードに指を置いた。

 くち= は
 みち= な
 しち= だ
 とに= し
 ら = お
 すに= り

「花田・・・詩織・・・?」
 ゆかりがひっそりと言った言葉に全員が固まり、喉を鳴らす。そしてゆっくりと彼女の方へ目を向けた。地毛の見え始めた金髪をほつれさせ、後ずさっていく。恭子が口に手を当てて腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。山瀬が小さく悲鳴を上げてゆかりの腕にしがみつく。立原たちは特に驚きもせずに彼女の方へ向き直った。
「あなた・・が・・・?」
 ゆかりは1人、山瀬の絡み付いている手を腕から引き剥がすと詩織に近づいていく。詩織は鞄を取り落とし、暫く黙っていたがゆかりが近づいていくと急に顔を上げた。
「あたしが犯人?ふん、偶然じゃないの、そんなの。決定的な証拠もないんだし」
 髪をかきあげて詩織は不敵に微笑む。他の五人は彼女にそろそろと近づき、捕まえるような体制をとっていた。立原たちも後に続いている。
「どうなのよ。柳原さんって仰ったわね。あたしが犯人だっていう確たる証拠があるのかしら?」
「山瀬さん、わたしの指示した内容を立原さんたちに裏付けさせてくれました?」
「え?柳原さんいつ指示なんてしたの」
「五人が来る前だよ」
 サングラスを押し上げて得意げに言う柳原の言葉に立原たち二人は頷いた。そして懐から一枚の捜査報告書を取り出すとそれをゆかりに渡す。
「?」
 それはファックスで送られてきた用紙のようで文字が書かれていた。
「何と書いてある?」
「え、山瀬さん見てないんですか?」
「指示しただけだからな」
 山瀬の行動に辟易しながらも文面を読み始めるゆかり。
「えーと、『楽雲仙から出されていた盗難届けは確かにありました。包丁一品が二週間前の九月二十二日に盗まれ、未だ未解決とのこと。犯人は中年女性で上品な格好をしていたと、目撃情報もあります。P.Sこんなの調べてどうす』ん?」
「あ、すみません調べてもらった奴が書いてたみたいで」
 立原が恥ずかしそうに言った。ゆかりは紙を柳原に渡すと疑問符を浮かべる。
「どういうこと?」
 柳原は紙を受け取るとそれに載っていた写真を詩織に見せた。詩織は目に見えて体を震わせると袖をぎゅっと握る。
「あなたが盗んだのではないですか?二週間前。中西氏を、殺すために」
「何でこの家の包丁を使わなかったんだ」
 尾方が少し怒りを込めて言うと詩織は諦めたようにその場に座り込んだ。
「あんたに・・・」
 恭子の方を睨みながら詩織は言う。恭子は息を呑み、同じ目線の詩織から顔を逸らした。
「あんたに罪を着せたのよ。あんたに変装して店で包丁盗んで。わざとあんたが使う前にここの包丁と取り替えて。計算外にその日来てた他の三人も、別の日に包丁をしまったあたしの指紋も付く事になったけど」
「わざと包丁を遺体の傍に置いてたのはそのためか」
 痛々しい表情で村尾が言うと、
「何で私に・・・」
 涙を一筋零しながら恭子は詩織に聞く。ゆかりもそれは聞きたいことだった。
「あたしは・・・秋晴さんを愛してたわ。そして同時に憎んでもいた」
 詩織は自嘲気味に笑うと、急に夜叉の形相になる。
「あたしと一緒になるって言っておきながら、あんたといつまでも別れないから!あたしだけのものに・・・してやったのよ・・」
 夜叉のまま歯を見せて嗤う詩織にゆかりは思わず寒気を覚える。
 愛憎に満ちた女の執念がひとりの人間を殺してしまったと思うと、改めて人間の心はなんと弱いのだろうと、つい感慨深げになった。
「だからね・・・」
 詩織に近づいていく立原は立ち止まる。消え入りそうな声で言う彼女の手には、カッターが握られていた。
「え!?」
 ゆかりは一瞬頭が真っ白になったが、すぐにその場を離れる。
「あの人がいない今、生きてても仕方ないのよ!」
 そう言って首元にカッターの刃を押し付けようとした。
「駄目!」
 立原もゆかりも手を伸ばすが。

 間に合わない。

 全員は思わず目を、瞑った。
 肉を切る鈍い音が響いて全員の頭に最悪の事態をよぎらせる。
「な・・・」
 そこで沈黙を破ったのは、なんと詩織の声だった。
「何で・・・死なせてくれないのよ・・・!」
 そこでようやっと目を開ける面々が見たものは、詩織とくしゃくしゃの黒髪を持つ男。

「桐崎・・!」
 
 ゆかりの声がその部屋に響いた。

後書き

犯人は花田詩織!

はぁ、男女の愛憎は嫌ですね。

さて!桐崎!久々の登場ですぞ!

いよいよ次回、200こと桐崎と100こと柳原の対決の始まりです。

そしてホームの謎も解けるはず。

乞うご期待っ!

>>冬野 燕さん、コメントありがとうございます。トリニティ怖い子!?まじで?トリニティは怖い子なの!??

はい。寸劇終了です。
あ!燕さんの小説が90日間で好評な作品に載ってましたよ!!おめでとうございますっっ!!

会話文は確かに多いでしたねー。
いやもう会話の方が楽なんだもん!描写は同じ表現が多くなるから嫌いです。
ううっ、修行が足りないぜ。トリニティ大尉。

この小説について

タイトル 第九話
初版 2006年12月29日
改訂 2006年12月29日
小説ID 1111
閲覧数 752
合計★ 3
トリニティの写真
作家名 ★トリニティ
作家ID 95
投稿数 123
★の数 498
活動度 25049
文と音楽と絵と食事を大事にする南部人

コメント (1)

★冬野 燕 2006年12月30日 8時09分39秒
 なぜに大尉?
 じゃあ僕は少尉か曹長…………いえ、調子に乗ってすみません。

 愛憎は表裏一体と申しますが、まるで昼ドラ見てる気分になりました。
 「紅の紋章」とか。うん、その辺りの憎しみドラマぷらす探偵。
 こういうものは見ていて感心します。
 だって僕は憎しみよりも愛が多いのさー。←開き直り

 (後書き返答)
 ありがとうございます。久々に来たら90日好評にあったもので驚きました(・Д・;)
 トリニティさんもコメントしていただいたそうで、本当にありがとうございます(嬉々
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。