僕と寝ぼすけ男 - 僕と寝ぼすけ男

もう、僕のいた平和な日常はないんだ。
僕は一人で生きていかなきゃならない…。
苦しいよ…、ジュリア。


僕と寝ぼすけ男


王都を目指す旅に出て、三日目。
ガノフとの戦い以来、サヤは魔法を使ったことはない。
あれっきりなのだ。
何も無い王都への街道を進んでいる時の話。
「日も落ちてきたなぁ…。寝るかぁ」
隣りに立つ軍人(自称大佐…らしい)がライフルを下げて瞼をこすり始めた。
「まだ大丈夫です、もう少し進みましょう」
サヤはサーベルを腰に戻すと、スタスタと歩き出した。

「お前ね…、何をそんなに急いでる訳?」
コウタの眠そうな声が届く。
「僕の…!僕の村が滅ぼされたんだ!のんびりしてられないに決まってるじゃないですか!」
「忘れろとは言わない。だけどさぁ、それで命を落としたら元も子もねぇだろ?」
サヤの表情には怒りが滲み出ていた。
「ッ…!あなたに何がわかるんですか!大切な人を殺された気持ちが、あなたにわかるんですか!」
サヤはコウタの胸倉を掴み、怒号を発した。
「…わかるさ」
それなのに、コウタは表情一つ変えずに口を開いた。
「俺にはねぇ…兄貴と弟がいた。でも、俺が13の誕生日の時、兄貴と俺以外の家族は全員死んだ」
「…っ」
サヤは何も言わなかった。
コウタは更に話を続けた。
「兄貴がさ、殺したんだよ。父さんも母さんも弟も」
胸倉を掴む手は自然と緩んでいった。
「俺は兄貴が許せなかった。だから軍に入ったんだ。力をつけて、いつか兄貴をぶっ殺す為に」
コウタは緩く笑い、
「だからさぁ、お前の気持ちは、痛いほどわかるんだよ。だから、俺はお前を助けてやりたい。めんどくさい事は嫌いだけど、見逃せは出来なかった」
サヤは俯いて、
「…、ごめんなさい」
「いいって、気にすんな」
コウタは笑ったが、サヤは笑う気になれなかった。
「…、おい、サヤちゃん?人生楽しく行こうぜ。俺、こんなしんみりした空気嫌いなんだよ」
コウタはごそごそポケットをあさり、何か見つけたように手を動かした。
「ほら」
傷跡が所々に残っている手のひらにのせられた一つのキャンディ。
「…、なんですか?」
サヤがキャンディからコウタの顔に視線を移す。
コウタはにへら、と笑い、
「これやるからさ、元気出せや」
やる気の欠片が感じられない笑顔につられて、サヤも少し笑った。
「何味ですか?」
「へへ、俺が好きなオレンジ味」
サヤは包みに包んであるキャンディを手にとると、包みを開いて中身を口に入れた。
「…美味しいです」
「だろ?俺のとっておきなんだぜ。まだあるけど、いる?」
ポケットに手を突っ込み、片手一杯にキャンディを掴んで見せた。
「い、いや、そんなにはいらないです」

「あー、よかった。サヤが笑った」
コウタが頭の後ろで手を組み、笑ってみせた。
「あれからお前、全然笑ってなかったからさ。よかったよかった」
「そう、だったんですか?」
「おう。いっつも難しい顔してんだもん、声掛けづらいし」
コウタは似合わない難しい顔をしてみせた。
「やっぱり、これからの事とか考えてたし」
コウタはぐしゃぐしゃ、とサヤの頭をかき乱した。
「こうなったのは、俺の責任だ。出来る限りは俺がなんとかしてやるよ。だからお互い難しいことは無しにしようぜ」
乱れた髪を直しながら、サヤは言った。
「…すいません」
「だー!謝るなって!敬語もしなくていいし!堅苦しいのは嫌なんだよ」
サヤの顔には、笑みが浮かんでいた。

「うん…!」


旅は、始まったばかりだ。
続く。

後書き

完全夜型人間です。はい。
日光に当たると体力が奪われていきます(嘘
さて、そんなこんなで五話です。あぁ、またあんまし進んでない…。
次はとうとう王都レリーフに到着です。

頑張ろう…。

この小説について

タイトル 僕と寝ぼすけ男
初版 2006年12月30日
改訂 2006年12月30日
小説ID 1122
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霜柱 光の写真
ぬし
作家名 ★霜柱 光
作家ID 97
投稿数 45
★の数 83
活動度 5973
まったりファンタジー。
最近幽霊部員と化してましたが生きてます。

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