僕と寝ぼすけ男 - 僕と寝ぼすけ男

帰ってきちまったなぁ…
なんか嫌な予感がするぜ…

その勘が、当たらなきゃいいがな。



僕と寝ぼすけ男




「うわぁ…ここが王都か…」
店が道の両際にズラリと並び、人がたくさん歩いている。
「王都は初めてか?」
隣りに立つコウタが訊ねた。
「うん、村の外には猟の時しか出ないからって…えぇ!?コウタ!?」
隣りにいたはずのコウタがいない。
「(こ、こんな大きな街に一人にしないでくれよ〜!!)」
サヤは辺りを見回すが、人が多くて探しきれない。もとより背が低いサヤにとっては致命的だった。
とりあえず人の少ない通りに入ったサヤは、どうしようかと悩んだ。
「坊ちゃん、一人かい?」
「っ!?」
黒いフードを被った男が隣りに立っていた。
手には血管が浮き出ていて、しわくちゃなのからして、年は老人だろうとわかった。
「坊ちゃんの顔には不安が滲み出ている。迷子なんかのレベルじゃないね…」
「ぼ、僕は忙しいんです。すいません」
「そう言うな。これを飲めば、幸せな気持ちになれるぞ?」
しまった。
サヤは走り出そうとしたが、怪しい老人がキリキリと腕を掴む。
「すいませんねぇ。その坊ちゃんは俺の連れなんです」
やる気がない、のんびりした声が聞こえてきた。
「コウ…!?」
サヤが声の持ち主の名前を呼ぶ。
「おい、じいさん。そいつは軍の備品じゃないか?」
老人はフードを元から深く被っているが、さらに深く被った。
「俺はレリーフ王国軍特務師団所属のコウタ=レジェンディアだ。悪いが、その薬を何処で手に入れたか教えてもらえるかい?」
ひっ、と老人は声を上げる。
「その薬は戦争の時によく使われる薬なんだ。一般人には出回らない薬の筈なんだがなぁ」
コウタは手に持っている2本のイカ焼きの一本を食べながら、だらけた声で老人を追い詰める。
「こ、この薬は渡さん!わしは、わしはこれがないと」
「じゃぁあんたはもうそれ使ったんだな、じいさん」
老人の言葉を遮り、コウタが喋る。
サヤは呆然と話を聞いていた。
コウタは残った一本のイカ焼きをサヤに渡すと、表の大通りを歩いている兵士を手招きした。
「レジェンディア大佐!帰られたのですか!?」
兵士がコウタに向かって敬礼をする。どうやら彼の部下だったようだ。
「ん〜、今はちょっと忙しいからまた今度ゆっくり話すわ。とりあえずこのじいさん、薬物取締法違反の罪で逮捕。連行せよ」
「はっ!」
兵士はもう一度敬礼をすると、老人を引っ張っていった。
************************
「こ、これイカ焼き。返すよ」
「ん?それお前の。食べていいよー。俺さっき5本食ってきたからさ」
「食いすぎだよ」
すかさずサヤがツッコんだ。
サヤはじっとイカ焼きを見て、がぶっと噛り付いた。
「俺もう一本買ってこようかなぁ」
「気持ち悪くなるって…」
うへへへ、とコウタは気持ち悪く笑う。
「まぁ、今日は王都見学ツアーって事にしようぜ。これからはちょっと自由が利かなくなるからな」
コウタは財布を広げて、中身を確認しながら歩く。
「少しは息抜きも必要って言うからね」
サヤも少し笑って、隣りを歩いた。



「おーいおっちゃん。帰ったぞー」
歩く事数分。大通りに面している大きな酒場に、二人は入った。
「おお、帰ってきやがったな寝癖コウタ!…、と、そちらの坊ちゃんは?隠し子か?いけねぇなぁコウタ、お前その年で…」
「黙れバカオヤジ。勝手に妄想膨らますな」
少し小太りの、髭が伸びまくった白髪の男(おそらくはこの酒場のマスターだろう)が声をかけてきた。
「俺はな、食って、寝て、食って、寝れる生活を出来ればいいんだよ。女の生活ペースは俺には合わん!」
「お前は一生独身で終わるぞコウタ」
男がコウタにビールを並々注いだ大ジョッキを出した。
サヤはその量に物凄くビックリした。
「酔うのだけはやめてよね」
その言葉に男が豪快に笑い、
「がはははははは!坊ちゃん、コイツを甘く見ちゃいけねぇぜ。23歳のくせに恐ろしく酒に強いからな。お、そろそろか…」
後ろにいた大勢の客の一人がコウタの肩を叩く。
「帰ってきてたんだってな、ボウズ。次は負けねぇぞ!」
コウタは振り返らずに財布の中身を確認する。
「んー、じゃあ俺に負けた奴は1000ギースな」
(ギースとはこの世界での通貨であり、日本円に直すと1ギース=10円である。ちなみに万国共通)
「ちょ、コウタやめろって、あなた軍人でしょ!」
「資金不足なんだよなぁ」
にへっ、とだらしなく笑うと、コウタは大ジョッキのビールを飲み干して男たちへの元へ行ってしまった。
「あー…」
サヤが机に突っ伏す。
マスターの男がサヤに小ジョッキについだオレンジジュースを出した。
「まぁ、見てなって。あいつぁ、いつもやる気がねぇけどやる時はやるからな」
「お酒でやる気出されても困りますけどね」
サヤがコウタの方を振り返ると、すでに何人かの男はぶっ倒れていた。



「おい、ボウズゥ。ヒック…、最後は、この俺様よゥ!」
「あんたもうベロベロじゃねぇか、やめとけよ」
コウタは顔も赤くせずにへらへら笑っていた。
サヤはその状況を見て絶句していた。
「すげー…」
「うう、オエェッ!」
直後、酔った男がぶっ倒れた。
「にっへへへ、俺の一人勝ちだな」

その時だった。
「クロウク様!国家反逆者コウタ=レジェンディアを発見しました!」
「取り囲め!」
外が騒がしい事に気付いたコウタが、
「サヤ、隠れてろ」
声を鋭くし、小さくする。
「えっ!?」
「大きな声出すなバカ!おっさん、そいつ頼むぜ」
マスターの男はサヤの服の襟を掴んでカウンター側へ引きずり込み、しゃがませた。
「コウタ!僕も戦うって!」
「いや…多分、逃げられない」
ガゴォン!と酒場のドアが蹴り破られた。
「貴様が最後の軍の犬、コウタ=レジェンディアだな?」
流れるような長い金髪に、切れ長の蒼の瞳。
鎧は着用しているが、簡易なものだった。
「…、お前もあの女王の下っ端かよ」
「ふん、減らず口もいい加減にしろ」
クロウクと呼ばれた男は、腰に下がっている長剣を抜き、コウタの首に軽く切っ先を当てた。
「軍は滅びたのだよ、コウタ大佐殿。街を見回りしている兵士ももうほとんど殺したな」
コウタはあの老人の件を思い出す。
「今生きている兵士は何故殺していない!?」
「我々についたのさ」
クロウクはパキン、と指を鳴らした。
「反逆者コウタ=レジェンディアを連行しろ!」
ぞろぞろと入ってきた兵士がコウタを取り囲む。
耐えられなかったサヤは立ち上がり、腰のサーベルを抜いた。
「サヤ、やめろ!!」
コウタの声が響くが、サヤは兵士に斬りかかっていった。
「コウタ逃げよう!早くッ」
「ちッ…2人とも取り押さえろ!」
クロウクの命令が飛ぶ。流石のコウタも大勢の兵士には適わなかった。
2人は手刀を入れられ、意識を手放した。


続く。。

後書き

王都は危険な所ってイメージが植え付けられたであろう第六話でございます。
次は牢屋かな…?牢屋かも。

この小説について

タイトル 僕と寝ぼすけ男
初版 2007年1月3日
改訂 2007年1月3日
小説ID 1134
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霜柱 光の写真
ぬし
作家名 ★霜柱 光
作家ID 97
投稿数 45
★の数 80
活動度 5973
まったりファンタジー。
最近幽霊部員と化してましたが生きてます。

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