DEATH NOTE another story

 人間は醜い。
 何処に行ったって、こんな人間は必ずいる。
「ちょーっと金貸してくれね?」
「え、よ、よしてよ・・・・・・」
「だいじょぶだって! たった一万円だから。な?」
「で、でも・・・・・・」
「良いだろ?」
「う・・・・・・」
 さもないとおまえを殺すぞ、と言わんばかりの目で睨まれた彼は、結局、あの金髪の男に一万円を渡してしまった。
 貸したのではない。事実上、あげたのだ。あの一万円はもう帰って来ない。それは、彼自身もよくわかっている事だ。 
 金髪の男は、やりぃ、と言って、一万円を持って教室を出ていった。
 教室には、彼だけが残った。
 彼は、これまでにも何度か、あの金髪の男、またはその友人からお金を奪われている。
 彼の被害総額は、たぶん、二十万は超えているんではないだろうか。
「はあ・・・・・・」
 彼は大きな溜息を落とした。そして荷物をまとめ、教室を出ていった。
 その背中は、日々に怯えた小鹿のようだった。
 きっと、明日もああやって、お金を巻き上げられるのだろう。仕舞いには、自殺するかもしれない。首を吊るか、飛び降りるか。手段はどうでもいい。確実に、彼の寿命は縮んでいた。
 一部始終を隠れて見ていた私は、静かに教室に入った。
 忘れ物を取りに此処へ戻って来ただけなので、さっきの出来事を見たのは、本当に偶然だった。でも、彼がいつも、何かに怯えているのはわかっていた。そして今日、その「何か」を知る事ができた。
 だからと言って、私は、彼に何かをしてあげるわけではない。慰めも、同情も、何も無い。

 立ち並ぶマンションやビルの向こうで、赤が燃え落ちていた。
 夜になる前に帰ろう。
 あの人へ祈る時間を、減らしたくはない。
 私は廊下を小走りで進んだ。





 DEATH NOTE another story
 性善説を掲げて凶器を振るえ 






 私は、冷めた人間だった。
 本当は、もっと明るく元気な女の子でありたいのだが、それは無理というものだ。
 両親は交通事故で死んだ。
 私は親戚に引き取られ、今年で十年目になる。
 おじさんとおばさんは、私を嫌っている。理由は知らないし、知りたくもない。嫌われているという事だけわかっていれば良かった。
 幸い、ちゃんとした部屋を使わせてもらっているが、肩身は狭い。おじさんは普段は仕事で家に居ないから良いけど、おばさんは私と会話をしたくないようで、必要最低限の事しか言わない。と言うか、私の顔すら見たくないようだった。
 『なんで彼女は、あんな子を産んだのかしら』
 『あんな男と結婚するから、あんな子が産まれたんだわ』
 『でもま、死んだし・・・・・・』
 『私、あの二人が嫌いだったのよね』
 『あの子も事故で死んでくれたら良いのに』
 耐え難い怒りと苦しみを味わった。
 私だけではなく、大好きな、母親と父親までも侮辱した。
 おばさんの愚痴を聞いたのは、私がこの家へ来てからすぐの事だった。当時、私は九歳だった。
 おじさんは、それを、冗談を聞くかのように、まあまあ、と軽く宥めて酒を飲んでいた。
 許せない事だった。
 その日だけではない。私の顔を見る度に、おばさんは、声には出さなかったけれど、私を侮辱していた。顔を見ればわかる。死んでくれって顔をしていた。自意識過剰? そうかもしれないけど、それで良い。
 でも、ユルセナイコトダッタ。

 高校三年生。
 私は、大学へ行きたかった。
 高校卒業までは面倒見てあげる。その後は、好きにしな。でも、あたし達には関わらないでちょうだいね。
 それが、私が此処へ来た時、おばさんに最初に言われた言葉だった。
 ああ、好きにしよう。
 私はアルバイトをして、大学に行く為のお金を稼いでいた。
 休む暇なんて無い。学校が終われば、そのままバイトへ行き、帰ってからは勉強。毎日が繰り返しで、本当に、何も変わりはしなかった。
 青春なんてものは無縁だった。
 遊ぶ時間なんて無い。そのせいで、学校では友達もできないでいた。いや、友達はできたけど、私の付き合いの悪さに、みんな私から離れていった。
 諦めていた。
 仕方ないと思うでしょう。
 生きてる意味はあるのかな。そんな事も思ってしまうくらいに。
 唯一優しいのは、夜空の月くらいで。
 まるでそれは、神様にも見えて。
 心で祈った。
 
 神様。
 私は、心が腐ってしまいました。
 私は、どうしたら、幸せになれるのでしょう。

 心を、何度も偽ってきました。
 どうしたら、いいのでしょう。

 唯一、心が本当を見せる時。
 夜、
 神を想い、
 月に祈る。

 そう。
 神と呼ばれ、悪と呼ばれる人が居る。

 キラ。

 彼は私にきっかけを与えてくれた。
 ああ、あなたが神様だったのですね!

 悪人を、超能力で裁く、つまり殺すと言われるキラ。
 その死因は、どれも心臓麻痺。
 その行為が正義なのか、悪なのか。
 私にはわからない。
 ただ、ふたつだけ、わかる事があった。

 人は、本当は優しい生き物。
 性善説、って言う。
 きっと、キラはそれを信じているんだと思う。
 だからこそ、悪人を憎んでいるのだと思う。
 私には、キラの意思がわかるような気がした。

 そして、
 キラは、私の神様。

 ただ――。
 あなたは、私が憎む人に裁きを下してはくれないし、
 何より、私の大切な人を生き返らせてくれないけど。


 *


 一ヵ月後。
 私の通う学校で、殺人事件が起きた。
 殺されたのは、あの金髪の男だ。

 死因は、刺殺。
 ナイフで胸を一突きされたようだ。
 でも、犯人はそれだけで終わらなかった。
 身体の至る所を刺して刺して刺して、刺しまくって、仕舞いには目やら内臓を抉り出したそうだ。

 そして、犯人は、彼。あの男に、お金を巻き上げられていた、彼。
 彼は、泣きながら、こう言っていたそうだ。

 仕方なかったんだ!
 あいつが・・・・・・! あいつが・・・・・・!
 僕は悪くない!
 悪いのはあいつだ!
 僕から散々金を巻き上げて、それだけじゃ飽き足らずパシリ扱いもして、イジメもした!
 死んで当然なんだ。
 そうさ・・・・・・。
 僕は悪くない!
 あいつは死んで当然だったんだ!
 裁きだ!
 裁きが下ったんだよ!
 キラだ!
 キラ様に裁かれたんだ!

 私は、また、彼について知る事ができた。
 ひとつは、お金を巻き上げられているだけではなく、パシリにされたり、いじめられたりしていた事。
 そしてもうひとつ。
 次第に彼は狂って行き、彼は自身の犯行を否定した。
 そして、あの男は、キラに殺された、と言い出した。
 きっと、彼の神様も、キラだった。


 *


 そして私は高校を卒業した。
 大学にも無事合格し、私は一人暮らしをする事になった。

 この家で過ごすのは、今日が最後になる。
 翌日は此処を出て、アパートで一人暮らしだ。
 部屋で荷造りをしている時、私の心は、少し、安らいでいた。
 この窮屈な場所から、醜い人達の巣窟から、抜け出せるのだと。
 荷造りを終え、お風呂に入ろうと思い、私は、寝巻きを持って階段を降りていった。

 その時、私は聞いた。

「はあ、ようやく、あの子のお守から解放されるわ」
 おばさんの声だ。相変わらず苛立つ声だ。
 私は、居間の前に立って、二人の会話を聞いた。
「ま、お疲れ様ってところだな」
 これはおじさんの声。相変わらず呑気だが、その心は、おばさんのそれと何一つ変わりはしない。
「全くよ。責任感からあの子を引き取ったけど、本当に、やめておけばよかったわ」
「お、おい・・・・・・。あいつに聴かれたらどうするんだ」
「平気よ。上で楽しそうに荷造りしてるわよ」
 私は息を殺して、そして耳を澄ませた。
 心臓の鼓動が、はっきりとわかった。緊張している? それとも、怒りのあまり興奮している?
「大体、あなたが適当な運転をするから、あんな事になっちゃったんじゃない」
「おいっ、その話はもうしないって約束だったろ!?」

「うるさいわね! あなたがあの子の両親を轢き殺したから、こんな事になっちゃったんでしょう!?」

 心臓が止まりそうになった。
 まるで、キラに裁きを下されたような感覚。

 頭が真っ白になった。

 全てが、
    
     世界が



 真
             っ         





       白
                         に、



















 *


 きっかけは、キラ。
 引き金は、金髪の男を殺した、彼。
 案外、簡単なもんなんだ。


 *


 翌日の朝。
 荷物を持って、私は居間へと来た。
 そこには、すでにおじさんとおばさんが居て、早く出ていけと言わんばかりの視線を私に送っていた。
 私は荷物を降ろした。
「おじさん、おばさん。お世話になりました」
 二人は無言だった。
 良い。
 それで良い。
 何も要らない。
 あなた達の言葉なんて、何一つ。
「アリガトウ」
 止めどナい怒リト苦しミ。
 償いも要ラナイ。
 たダ、
「サヨウナラ」
 死ンデクレレバ良イ。


 *


 神様。
 キラ。

 私は、心が腐ってしまいました。
 私は、どうしたら、幸せになれるのでしょう。

 そう、尋ねた時がありましたね。
 私は今、幸せです。

 心を、何度も偽ってきました。
 どうしたら、いいのでしょう。

 そう、尋ねた時がありましたね。
 私は、答えを知りました。

 偽り続けた心は、これからも偽り続ければ良いのだと。
 それはいけない事だと知りながらも、私は。

 私には、最強の武器があったのです。
 金髪の男を殺した彼と、同じ、最強の武器が。

 あなたは、私が憎む人に裁きを下してはくれなかったけど。
 私の大切な人を生き返らせてはくれなかったけど。
 それでいい。
 私は、あなたに少し近づいた。
 キラ。
 私の神様。
 それだけでいい。

 きっかけは、神様。
 引き金は、彼。
 案外、簡単なもんなんだ。

 だって、仕方ないでしょう。
 人はみんな、本当は優しいんだ。

後書き

「分からない」という雰囲気でも良かったのですが、ダークで。
DEATH NOTE二次創作、「性善説を掲げて凶器を振るえ」。

「私」が狂い始めた辺り、正確には「彼」が狂い始めた辺りで、
僕も狂い始めてたので、最後の方は何が何だか、って感じかもしれません。
細かく触れてない部分もありますが、あえて、という事で。

性善説の意味を履き違えてたりするかもしれないのですが、
必要悪でも結果悪でも、絶対悪でもない悪。
そういう悪を書きたいと思いました。
結果悪っぽいけど。

更に言うと、これ、デスノートの二次創作なの? という感じ。
何分、「私」の想像が多いし、たぶん、彼女はいつかキラに裁かれてしまうかもしれません。

りんさんの「あかいばつ」に触発されて書いたものです。
「みんな日記」に「書いてるよ!」って言ってから投稿が早いです。
すみません。

逃げるようにさらば。

この小説について

タイトル DEATH NOTE another story
初版 2007年3月5日
改訂 2007年3月5日
小説ID 1352
閲覧数 1144
合計★ 16
ひでどんの写真
ぬし
作家名 ★ひでどん
作家ID 60
投稿数 13
★の数 91
活動度 4044

コメント (6)

★トリニティ 2007年3月5日 22時16分16秒
夜、
神を想い、
月に祈る

の部分を図ってやったというのなら、あなたはとんでもねー奴だわさ!

どうも、デスノと聞いてすっ飛んできたトリニティです。
まず、勝手に影響など受けて勝手に作品など投稿したことをお詫び申し上げると共に、深い感謝の念を。

人の本質は元より善である、という性善説。
孟子だったような気がしますが違ったかも。

でも性善説と唱えながらどこか矛盾しているような雰囲気もあったかなぁ、というのは私の読み込みが足りないからかな?
全体はまとまっていたし、読みやすかったんです。
衝撃の真実も、その後の描写も、どこでタガが外れたのか、自然に壊れていく様子は、かなり上手く書けていると思います。
★蒼井幹也 2007年3月6日 16時01分15秒
俺もトリニティさんと同じで
「夜、
 神を想い、
 月に祈る」
この部分、図ってやったらすげぇよ、と。
しかし、両親を殺したのが叔父叔母っつーのがなんとも……。実にダーク。
では、また(ペコ
★冬野 燕 コメントのみ 2007年3月6日 16時02分52秒
 性善説。一発で変換できた、うれしいなーっ。
 おっと、ごめんなさい。通りすがりのツバメです。

 なんとなく最初に「すごいタイトルだなぁ」と惹かれて
 いざ、読してみるとこれまたダークな……。
 昼ドラマとおなじくらいにおそろしい関係だぜぃ。
 引き取ってくれた人の悪意を知りながら耐え忍んだ主人公は性善説を語り、
 善い人ぶって最後まで彼らに手を上げなかった。
 心のなかでは彼らが死ぬことを望んでいたのに、ですね。

 性善説で言う、悪の部分でしょうか。
 善の道徳的本性を隠す。それが悪の行為。
 大辞林で調べてみたら「なるほどな」と思い至る点も。
 殺人を思いとどまれたのはそういうことなのでしょう。

 いろいろ矛盾しちゃってきたので、では〜(;;
★シェリー 2007年3月6日 21時13分18秒
 僕も皆さんの意見と同じで、
 
 夜、
 神を想い、
 月に祈る
 
 は、とても面白く素晴らしいなぁと思いました。
 今回の作品、惨劇ものとしてもとても楽しめました。
 少し短いですが、このくらいで。
 次回の作品も楽しみにしています!
★ひでどん コメントのみ 2007年3月6日 23時43分45秒
みなさん、ありがとうございます。
此処で、ふたつ、書き足す事に。

夜、神を想い、月に祈る。
これですが、これ、実は図ったのではなく、原作者・大場つぐみの言葉を拝借したものです。
単行本13巻の何処かに書いてあって、うまくできてますよね、と自分で仰ってました(笑)。
夜神月なんて、たまたま出てきた名前なのに、って。
ただ、このフレーズをどうにか入れたいという気持ちもあって、無い頭を捻ったりして、このような感じになりました。
こういう事は後書きに書くべき事でしたね。
申し訳ありません。
でも、僕も「良い」と思うフレーズです。

それと、最後の部分。
冬野さんの仰るような終わり方でも良かったかもしれない、と感じましたが、
「私」は、はい、殺っちゃってます。
だけど、それは悪ではない。
だって、人間の本性は善なのだから、人を殺す事すら、善である。
そうやって偽り続ける事を、「私」は決めました。
物凄い端的に言うと、「しょーがないじゃん」って感じです。
最強の武器とはつまり言葉を発する口と性善説で、これって、誰もが持ってる武器だと思います。


しかし、「私」が最終的に殺人をしたのかしなかったのかは、みなさんの納得のいく方で捉えていただけたらと思います。
それが決まっているのも良いけれど、決まっていないのも、また楽しいと思います。

なんて、言い訳にも程があります。
改めて申し訳ありませんでした。
★りん 2007年3月15日 16時53分30秒
トピックにコメントされていたのでカキコいたします〜。
リクエストありがとうございました☆

で!

嬉しい〜!!「りんに影響されてる」っていうところ、この小説にたくさんにじみ出てて!!
文の書き方とか、ダークな感じとか♪♪♪

まず、題名がいいです。すごくいい。読み手に「読もう」って思わせる題名ですね。
りんはそのハードな題名に心を動かされ読みました。
信者ってこんな感じなのかも。
自分が憎い人に裁きを下してくれなくてもいいんです。
醜いモノを罰する人がいてくれるってだけでカッコイイと思ったり、正しい
…と思ったりすると思うんです。
あの神様の信者たちは。

物語自体かなり凝縮されていた気がしますが、雰囲気がとてもいいです。

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