that faint voice - 彼岸花

 







 よく言うよね。
 お風呂とかでさ、頭洗ってるときに。
 背後になんかの気配とか感じたときは。

 も う 目 の 前 に い る ん だ っ て 。





























 これは、今から30年くらい前の話。
 ある兄妹がいたんです。
 両親は離婚して母親に二人とも引き取られました。
 元いた家は父親のものとして親子はその土地から出て行くことになり、母親の古い親戚を頼って田舎の方へ引っ越したそうです。
 兄は14歳の中学二年生、妹は五歳の幼稚園生年長さん。
 母親はそんな育ち盛りの二人の愛しい子ども達のために朝から晩まで働きました。
 そうなれば当然、兄妹ふたりだけで多くの時間を過ごす事になります。
 兄は母親から妹の世話を任されて、それはそれは可愛がりました。
 9歳差という中で彼は、妹を娘のように思っていたそうです。
 妹の名前は「あかね」といいました。
 その時幼稚園ではお友達と自分の持っているものを交換するのが流行っていたそうです。
 あかねもよくお友達と自分のものを交換してきました。
 まずはお絵かきした画用紙。
 そしてクレヨン。
 小さな黄色いお帽子まで。
 兄はそんな妹に字を教えました。
 
「あ、か、ね」

 と。
 お友達の名前の書かれた色々なものの横にあかねの名前を書くためです。
 あかねはそれに喜びました。
 皆お母さんが書いた名前なのに、あかねだけはあかねが名前を書いたから彼女はとても誇らしかったのです。
 自分の名前が自分で書けるのだという自慢でした。
 兄も自慢でした。
 そんなある日、ふたりは家の近くに古い古い洋館を見つけたのです。
 怖いような雰囲気は全く無く、天井が焼け落ちたように抜けて小鳥がさえずり、壁は同じく焼け爛れたようにすすだらけでしたが明るいのでふたりはいつも遊んでいました。
 そんなある日。
 兄は壊れかけた本棚で敗れかけたアルバムを見つけました。
 かろうじて赤いと分かるアルバムは開くとぼろぼろと崩れていきます。
 
「あ、ここだけしっかりしてる。見てごらん、あかね」

 兄は一ページだけ、写真のしっかり貼られたページを見つけました。
 写真はとても古いもので、赤いワンピースを着たあかねと同じ年頃の女の子が彼岸花を持って笑っているものでした。
 髪もあかねと同じくらいで肩よりも少しだけ下。

「あかねに、にてる?」
「うん、ちょっとだけ似てるね。でもあかねの方がかわいいよ」

 兄妹はそう言ってその日は家に帰りました。
 アルバムはもとに場所には戻さずにそこに置いて帰りました。
 そしてふたりは母親と一緒に幸せな夕飯を食べたそうです。
 
 そう。
 何も、知らずに。






 次の日、日曜日だったのでふたりはまた洋館に行きました。
 昨日と違い、どんよりと雲っていて部屋から直接見える空は悲しそうと兄は思ったそうです。
 でもあかねは気にした風もなく遊んでいました。
 兄は辺りを見回し、昨日のアルバムを探します。
 ですが昨日置いた場所にアルバムはありません。
 不思議に思った兄はその部屋を探し始めたのです。
 
「おにいちゃん」

 不意に呼ばれて振り返るとあかねは部屋の隅に置いてあった壊れた椅子に乗って遊んでいます。
 兄は首をかしげ、あかねに近づいていきました。

「どうした?」
「なにが?」

 あかねに聞くと顔を上げて聞き返してきます。
 呼ばれたのは確かなので兄はあかねの目線に合わせて膝を折りました。
 大きな目で兄を見てくるあかねは何も無かったように椅子で遊んでいます。

「お兄ちゃんのこと呼んだろ」
「よんでないよ?」
「嘘だ。呼んだだろ」
「ううん」

 嘘をついている様にも見えないあかねの様子に兄は不審に思いながらもまたアルバム探しを始めたのです。

「たなの、なか」

 また、あかねの声。
 ですがあかねは先ほどと同じで椅子で遊んで喋った様子もありません。
 兄は今度こそ不審に思いましたが声の通りの壊れかけた本棚を見ました。
 そこには、赤い、ぼろぼろの。

 アルバム。

「あ、戻ってる・・・・」

 昨日は確かに床に直接置いたはずなのに、アルバムは本棚にありました。
 何故か昨日より黒ずんで見えます。
 兄は近寄ってアルバムを取りました。

「あか」

 それを取りざまに兄はあかねに言おうと振り返ったのです。
 ですがあかねは椅子の場所にはいません。

「あかね・・・・?」

 俄かに不安になって部屋中を見回しますがあかねはいませんでした。
 兄はアルバムを持ったままその部屋を出たそうです。
 廊下に出てもあかねはいません。
 そして廊下は屋根があるので薄暗くて寒かったのです。
 とてもあかねがひとりでいけるような空気ではないように見えます。

「あかね!」
 
 呼びかけても返事がありません。
 兄は何か予感がしてその廊下を走り出しました。
 ぼろぼろになっている廊下は足を踏み出すたびに鳴って不気味でしたが、兄は構わず走ります。
 何故か嫌な予感がしたそうです。

「あか・・・」

 古い大きな時計のある部屋に、入ったとき。
 あかねの笑い声が部屋中に響きました。






 あ は 
      は
  は
    は
            は
                                                   は
                                             は
                                                              は
          は
              は
                                                          は
                  は
                                                                は
                                                                    は
                 は
                                                              は 
                                                        は
                                                                          は
            はっ
                  


















 あかねの隣にはもうひとりの影がありました。
 その影は小さくて、赤いワンピースを着て、真っ赤な彼岸花を持っています。
 
「あかね・・・・・・・・・・・・・・・・・その・・・・子は・・・・?」

 そう言うのが精一杯だったそうです。
 あかねは兄の方を向いて楽しそうに笑いました。

「あけみちゃんよ。おひがんのひのゆうがたなの」
「・・・・・お彼岸の日の・・・夕方?」
「そう。おひがんのひのゆうがた。あしたはおひがんのひの」


「ユウガタ、ヨ」

 
 あかねの後ろにいる“あけみ”がにたりと笑いながら言ったのです。
 兄は背筋に寒気が走りました。
 
「あかね、帰るぞ」
「いーやー! まだあけみちゃんと遊ぶの!」
「あかね!!」

 荒げた声にびくりとあかねが肩を震わせると彼女は渋々兄の方に近づいてきます。
 兄はその間も“あけみ”を見続けていました。
 “あけみ”はそれだけが表情のように笑っているだけです。

「あかねちゃん」

 “あけみ”が突然あかねを呼びました。
 あかねは喜び振り向くと兄の手を握りながら「なあに?」と聞いたそうです。
 兄は思わずあかねの手をぎゅっと握ります。





「おひがんのひの、ゆうがた。・・・・・・わすれないでね」





 その声がひどくあかねの声に似ていることに眩暈を覚えるも、兄は“あけみ”から目がそらせません。
 あかねはそれに対してにこにこと笑いながら微笑みます。

「わすれないよ。おにいちゃんもきいたでしょ? おぼえていてね」

 耳鳴り。
 眩暈。
 平衡感覚がおかしくなりそうな中で彼はあかねと“あけみ”の声が重なるのを聞きました。








「「おひがんのひの・・・ゆうがたを」」
 




                                (後編へ続く)

後書き

うあぁあああああ。
ホラー初挑戦というのがありありと分かりますなぁ・・(泣
もっと怖くしたいのに!
では!

この小説について

タイトル 彼岸花
初版 2007年3月13日
改訂 2007年3月13日
小説ID 1369
閲覧数 1058
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トリニティの写真
作家名 ★トリニティ
作家ID 95
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活動度 25049
文と音楽と絵と食事を大事にする南部人

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