僕と寝ぼすけ男 - 僕と寝ぼすけ男とニッポン


「ふう、疲れたなぁ…。今日も野宿かぁ」
日は沈みかかっている。
美しい夕焼けだ。

サヤは、ふと隣りの青年を見やった。


「うう。俺は腹いっぱいステーキが食いたい。ものすごく食いたい」
「そこらじゅう走り回ってる奴でもいいなら」

即答だった。
ちなみに『そこらじゅう走り回ってる奴』=『モンスター』である。
コウタは「うわーん!」と叫んでぎゅるぎゅる鳴るお腹を押さえた。

「もういい。俺は構わない。腹を壊してもいい。今の俺は人肉もOKだ!」
うふふ、と不気味に笑って剣を抜きかけた。
「わぁぁっ!? や、やめてよ僕食べても美味しくなッ……」
「大人しくしろ、痛みはねぇからぶわぁ!?」

サヤの目の前からコウタが一瞬にして消えた。
周りを見ると、彼は下にぶっ倒れていた。

「あんた、大丈夫かい?怪我は?」

綺麗な女の人だった。
黒い髪を長く伸ばしていて、それを赤い糸で結い上げている。

コウタはユラァ、と立ち上がると、女性を睨んだ。
「あァ?テメェ初対面の奴に何しやがんだグルァ!? 」
「あんたこそ。彼女が迷惑そうな顔してるから助けたんじゃないか」

彼女じゃないよ、と心の中で突っ込むサヤ。完全に蚊帳の外である。

「で、あんたら冒険者かい?随分汚れてるけど」
ケンカはようやく収まったようで、サヤは首を縦に振った。
「はい。王都に行く予定なんです」
女性は、にっこり笑って手を叩いた。

「そう、ならあたしたちの村に寄っていきなよ。あんたたち、疲れてるみたいだし」

女性は何か思い出したように、あっと声を出した。
「あたしの名前を言ってなかったね。あたしはリン。藤山リンさ」

コウタは、ぶはっ、と噴出して、
「お前の名前フジヤマっつぅの!? だっはぁ、変な名前」
「あぁ、あんたらの言い方だとあたしの名前はリン=フジヤマだね。…って、変っていうんじゃないよ!」

またまた、完全に蚊帳の外のサヤであった。


*********************

「ここが宿屋。今日はあたしが払っておくからね」
2人に、というよりはサヤに笑いかけてるような気がする。
コウタは鍵の代わりとかいう『木札』を受け取って、指定の部屋に向かった。



「これが『おふとんー』ってやつかなぁ?」
サヤは白い、もこもこした物体をつついた。
「俺的にはもっとフワフワしてると思ってた」
どうやら兵士のコウタもこの村は始めてらしい。

「そうだ、俺のメシ!俺のメシはどこだ!?」
「ったく、お腹が空いてるのは解るけどさ…」

失礼します、と女の声が聞こえた。
引き戸が開いて、綺麗な女将は頭を下げて、後ろを向いた。

豪勢な食事が次々に並べられていく。
「丁重にもてなせ、との事でしたので」

「うっひょー!メシメシ!神様何様俺様ありがとう!」
「神様はわかるけど変なもんに感謝しないでよ…。そろそろ突込みにも疲れてきたし」
「ほらぁサヤも食えよ。食えないなら俺が食わせてやろうか?」
「結構ですッ」
「ほーらサヤちゃん口開けようねー」
「うぅるさぁぁぁぁあい!うう、ぐすっ」


せめて頬を流れたのは汗だと信じたい。
サヤはようやく箸に手をつけたのだった。



「立ち聞きとは、感心ならねぇなぁ」
コウタは鯛の刺身を頬張りながら、箸を天井に向かってぶん投げた。
「きゃああっ」「うわぁぁ」

いきなり突き出してきた箸にビックリしたのか、屋根裏でガタゴト、と音がした。
挙句の果てには、料理の上に落ちてくる始末だ。
「ああーっ!俺のメシーっ」
「あんたが箸投げるからでしょっ!」
上から落ちてきた女が言う。
コウタはそばに置いてある剣を取り、
「で、用件はなんだお前ら。事によっちゃお前等2人とも剣の錆にすんぞ」
怪しい男女2人は「「ヒィッ!!」」と声を揃えた。







「つまり、その新任の『おぶぎょーさまー』がおかしいの?」
サヤはここの村の言葉にいまいち慣れないようだ。
「そうです。何でも、この独自の文化を廃止して、周りの国の文化を取り入れようとしているらしいのです」
男が言う。そこで、さっきまで料理にがっついていたコウタが、
「ってかさぁ、お前等何者?聞くの遅せぇよっていう突っ込み無しで」

ああ、と二人は正座をして、
「私達は、藤山家に仕える忍者です。私がおきよ、こっちのパートナーが銅蔵」

サヤは首を傾げて、
「コウタ、『忍者』って何?」
「俺たちの言葉でいうとアサシンだな」

アサシン、つまり暗殺者だ。
そこでおきよがすかさず、「情報収集なども行ってます」と付け加えた。

「私達の文化は、あなたたちには関係ないことかもしれません。でも、腕の立つ者達は他に仕事があって…」

「おきよっ!!」
ばん、と扉が開いた。リンだった。
「奉行の所へはあたしが行く!この人たちに迷惑かけるんじゃないよ!」
「ですがリン様…!貴女一人では危険です!」

「行くぞサヤ、付き合ってらんね」
コウタは頭を掻いて部屋を出た。
「あ、ちょ、どこに行くんだよ、コウタ!」
続いてサヤも部屋を出た。一瞬ためらってリンを見たがすぐにコウタを追った。
*************************




「どういうことだよ、コウタ。助けてあげようよ」
コウタは大あくびをして、


「あんなクソ長い話なんて聞いてられっか」

サヤは何もいえなかった。
コウタは息を吸って、言葉を続けた。

「用はあの奉行って奴をぶっ飛ばせばいいだけのことだろ?」

彼はそう言って、だらしなく笑った。








       ・       ・       ・

「奉行様、長屋の取り壊しの準備が整いましたぞ」
 太った男が、下品に笑う声が聞こえる。

屋根裏に上ったサヤとコウタは穴から下の様子を見ていた。
「気持ちわりィ奴だなぁ…」
コウタがぽつ、と言い放つ。

その声にも気付かず、奉行は笑い、
「ほっほ。ならば取り壊しの事故と見せかけてあの藤山の小娘も殺してしまえ」
言葉に2人はせせら笑う。
「ホホホ!貴方も悪よのぅ…」


「っだー!何が面白くてハゲを眺めなくちゃいけないんだよグルァ!!」

バキバキバキィ!と音を立てて天井をぶち壊す。

「行くぞサヤ、こんなハゲども秒殺だ!」
赤い剣を見た奉行と男は悲鳴を上げて、
「く、曲者じゃ、くせものじゃー!!」

叫び、さっさと逃げようとしていた。
「あっ、逃げんな!!」
腰の引けたボディーガードのような侍どもを切り伏せながら、コウタとサヤは2人を追う。

「な、なんだ、あの者達は!」
「あの剣…、おそらく他の村の奴らですじゃ!」

「ぉらぁ、逃げんじゃねぇ!」
コウタの走るスピードが上がる。

「ひ、ひぃぃっ!!」
コウタは笑って剣を一閃した。



****************
村の中心は人だかりが出来ていた。

縄でぐるぐる巻きにされた挙句、顔に墨で落書きされている。

間違いなく奉行と傍にいた男だ。


サヤとコウタは2人を気絶させた後、そばにあった墨と筆でらくがきをしたのだ。





「ごめんなさい、あたしたちの事、助けてくれて」
リンが頭を下げた。
サヤはあたふたして頭を上げさせ、
「ぼ、僕達こそ、勝手に首を突っ込んじゃって…」
「でも、どうしてこの村を助けてくれたんだい?あたしたちは、あんたたちに何も…」


コウタは頭を掻いて一言。

「ごちそう」

「は?」
リンが聞き返す。

「だから、ごちそう。あれ、美味かったからさぁ。またいつか来た時に食えないのは嫌だなぁってさ」
リンは笑って、うん、と言った。

「もうすこし、ゆっくりしていけばいいのに」
「うん、今は急いでるんだ。だから、また来るよ。いつか、絶対に」


リンは頷いて、
「絶対だよ!」




サヤがうん、と返事をしようとした瞬間、


ぎゅるるるる〜、とコウタのお腹が鳴った。


「ああ、朝ご飯食べてないのかい?」
「うッ……かっこわり」
リンは笑って、背を向けた。


「あたしの家に来なよ。お礼もあるからね」







コウタは目を輝かせた。
「ステーキ出るか!?」
「出る訳ないだろ?」





おわり。

後書き

長い!リンと忍者の影が薄いし…。
ただ、ギャグを書きたかっただけ。。

この小説について

タイトル 僕と寝ぼすけ男とニッポン
初版 2007年3月29日
改訂 2007年3月29日
小説ID 1415
閲覧数 806
合計★ 0
霜柱 光の写真
ぬし
作家名 ★霜柱 光
作家ID 97
投稿数 45
★の数 83
活動度 5973
まったりファンタジー。
最近幽霊部員と化してましたが生きてます。

コメント (0)

名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。