ビビンバ文学 - ビビンバ文学素敵短編集 第2編

『野生』

ボコーン!
「ぎゃー!」
サイに突進された瞬熊(またたくま)氏は失神した。


END


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『車中の二人』

高速道をおり、海の方へと向かう。カーオーディオのデジタル時計は『ゴゴ2ジ16フン』と表示していた。
「この時計、なんでこう見づらい表示してるかな。霧香、車買うときはこういうのも確認しなきゃだよ」
助手席からクレームが入る。
「ま、慣れれば平気だよ。で、何時?」
「ゴゴ2ジ16フン」
「何そのイントネーション」
「デジタル」
「ああ。そうね……」
運転席の霧香は信号が赤になったのをみてブレーキを踏む。一般道、それも国道なので交通量も信号も多い。
「ん、余裕だね。若菜が高速ぶっとばしてくれたおかげで」
「あはは、霧香はハンドル握るとテンション上がらない?」
「あれ、テンション上がるっていうか死神のりうつってる。わざとガードレールスレスレ走ってゲラゲラ笑うって、あんた」
口では軽い感じで言ってはいるが、霧香はもう二度とコイツに運転させまいと決めていた。
「ねー、霧香ー、ヒマー」
「話聞けよ」
「あとどれくらいで着く?」
「二年」
「つまんない」
数秒の間をおいて若菜が続ける。
「ていうかもう疲れたよー、ぱとらっしゅー」
「……はー」
霧香は一つため息をつき、ドア脇のスイッチを押した。
すると宿が空き地にボヨンとあらわれた。
「じゃあ今日はここが宿」
「車ってすごいよね」

明日に続く


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『アルメナとある夜』

「今宵は下弦の月か…。うん、しばらく見ていたいわ。フィオ、何か飲み物はある?」
「めんつゆならば」
「ダージリン、持ってきて」
老執事フィオラスは衣擦れの音もなく一礼をして部屋を出る。万能かつユーモアセンスに溢れる逸材だ。
「まだ、寒いか…」
テラスの窓を開け放つと、夜気が肌に触れる。
室内灯は消してあり、月明かりだけが少女の姿を白く、白く映し出す。
そして風がさやさやと流れ込むたび、白銀の髪が靡ききらめいた。さながら、銀の粒が舞っているかのように。
アルメナは左手をかざし、人差し指と中指の間に浮かぶ月をみる。指を閉じても、掴むことはできない。ふふ、と笑みがこぼれた。
「本当、手に入れられないものほど、魅かれる」
とても気分がいい。アルメナは知らず、歌を口ずさみテラスにでた。
むかって左手が玄関口に続く石畳の道。その左右にはさまざな花々が植えられ、彩られている。今はそれらも眠り、風の中でサア、サア、と寝息をたてているようであった。
「少し冷えてきたわね…。フィオ、昨日は海老のゆで汁もってきたけど、今日は何かしら…」
普通に注文通りのものを持ってくるときもある。しかしそれは彼女、アルメナが普通に持ってくることを望んでいる場合であり、今のように興を楽しみたい時は必ず何らかの仕込みをしてくる。
そして主がどちらを望んでいるのか、それを読み違えた事は今までただの一度もない。
アルメナは計ってないが――フィオラスが部屋をでてきっかり5分後、ドアがノックされた。
「入って」
振り返ることもせず、応える。
「お持ちしました」
銀のお盆に乗せた一脚のティーセットとポット。
「外でお飲みになりますか?」
「いえ、中に入る。テーブルに置いて」
かちゃ、とお盆が置かれた。
中に戻ると窓を閉め、カップの置かれた席へ着く。
フィオラスはそれを見計らい、主を待たせず、早すぎず完璧なタイミングでカップへ注いだ。
「ダージリン?」
何をもってきたか、心踊るのを隠してつとめて冷静に言う。
フィオラスは答えない。
アルメナも答えを待たずにカップを手に取り、ゆっくりとした挙措で口に近付け、
「ん、ふっ?!」
思わず音をたててカップをおいてしまった。右手で口をおさえ、左手でカップを指差す。なんだコレは、という合図だ。
「黒酢です」
顔色一つ変えず、さも当然のように答えた。
「ふ、ふふ、今日は一段と容赦の無いこと」
「ご期待なさっていたようでしたからな」
「ええ、ちょっとまだ鼻に残ってるけど、合格よ」
「おそれいります」
アルメナは満足して席を立ち、ベッドへ向かう。
「寝る。明日は早めに起こして。庭のバラ見るから。ブルーローズ」
「かしこまりました。30分早く参ります」
「それと」
ベッドに潜り込みながら続ける。
「朝食は黒酢を使った物にしなさい。食べたくなったわ」
「お心のままに」
ティーセットを片付けて部屋を出る前、もう目を閉じている主へ一礼。
フィオラスが去った後、アルメナは間もなく眠りについた。


そして翌日、アルメナは案の定風邪を引いた。
「ゲホッゲホッ。へくしっ」


END


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『芸は身を助く』

「チョップ!チョップ!チョーーーップ!」
一家離散の憂き目に会った瞬熊(またたくま)氏は己の脳天に本気チョップをかましていた。
鉛筆を削った時のクズをフーッとやる仕事をクビになってから、毎日が夏休みだと娘に自慢しまくっていたのが間違いだったと後悔しているのだった。
日は既に落ち、辺りはもう暗い。9階一戸建ての我が家には自分一人。
――私は何をしているんだ。
後悔は尽きない。
彼は真実、朝目覚めてから不休で自戒の為にチョップをしていたのだが、特技のマッサージのおかげでどんどん頭が冴えていくのが自分でもわかる。
そして次の瞬間、彼の頭に一つのアイデアが閃いた。自分のこの特技を生かせばいいではないか。
「マッサージパン屋を開こう!」
マッサージパン屋とは、パンを食べている人を揉みほぐすサービス業だ。マッサージ料金はパン一個につき300円。画期的だ。
まずは試しに無料でパンを食べている通行人を揉みほぐしてみた。
「ぐほっ、パン食えねえだろバカモンが!」
通行人にフランスパンで殴られた衝撃で瞬熊氏はフランス人になってしまった。
「コマンタレブー?」


END


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『スゴ発明』

「できたんじゃー!」
頭もじゃもじゃでぐるぐるメガネでチビでガニ股で白衣を着た老人が一人でテンションあがっていた。
だいぶかわいそうな光景だ。
老人、釈迦人参(しゃかにんじん=名字)氏は片手にドリルのような装置をもって室内を走り回る。
ごすんっ。
「オゴッ」
壁に激突。
「バカモン!」
壁に説教をし終えると再びテンション上がる釈迦人参氏。
「でー、何ができたんですかあ?」
リビングから若い女性の声がする。
氏が、今なんか聞こえたな、誰だ、ああ、あれは確か、うーむ、そうそう、若菜君の声だ、と思考を展開している間に白衣姿で煎餅ぼりぼり食べている本人が現れた。
「若菜君、いたのか。すまん、こりゃ気付かなんだ」
「いいですよ、博士が気付かないのはいつもの事ですし」
彼女は本当に気にした様子もなく、煎餅をくわえつつ博士がもつ変なドリル物体を見ている。
アルバイト助手として週に3回、若菜はこの研究所兼住居を訪れていた。
やることは実験器具の準備や、素人からみて発明品の見た目やコンセプトはどうか、という意見のヒアリング。
そして博士は自分で呼んでおきながら用が済めば若菜の存在そのものを忘れる。研究が一段落してリビングにくると、暇そうに待機してたりご飯作ってたりする若菜に驚くのも日常茶飯事だった。
「これはな、すごいんじゃ」
「具体的にどうすごいんです?」
うれしさを抑えるつもりもなく小踊りしている博士に聞く。
「前に話したじゃろ?人間の悪い部分を掘り出す装置じゃよ」
「…うーん、聞いた事ないなあ。たぶん霧香に話したんじゃないですか?」
「うむ」
「『うむ』って霧香に言ったってあたしは知らないですよー!」
「…おお、なるほど!まあ今話したからよかろう。では試しに使ってみせよう」
博士が電源スイッチらしきボタンを押すとチャルメラの曲が流れた。
「これがチャルメラスイッチじゃ」
「わあ!のっけからいらない機能出ましたね」
若菜が変な発明爺さんの助手をしている理由がコレだった。発明一筋なのにいつのまにか全然関係ない機能をつけてたりするのが面白いのだ。
本人の脳内では重要な関連性があるらしいが、その説明が若菜に理解できた試しが無い。
「いやいや、非常に重要な…」
「あー、あたしじゃ博士の凄さわからないですから、とにかくメインの機能見せて下さいー」
「むむ、わかった。では若菜君、そこの実験台に横になってくれたまへ」
「霧香じゃダメですか?」
「いやダメではないがその発言はいろいろと君の人間性が垣間見えるな」
「えへへ。痛い所突かれたなあ〜」
肩口にかかっている髪の毛をいじりながらへらへらと答える。
「とは言ってもワシとて生身の人間に使うのは初めてじゃからな。この際自分にやってみるか」
「じゃああたしがそれ使っていいんですか?!」
今度は目を輝かせてとびつかんばかりの勢いで博士に近寄る。
「お、落ち着け若菜君。使ってもいいがきちんと説明を聞いてくれ。間違うと大変な事に」
「はい!説明お願いします!」
「まずはここのソケット部を外してこちらのお魚マークと繋ぎ…」

そして5分後、
「あはは、博士ー!いっきますよー!!」
ドリルのような物を装着し、台に寝かせた老人を見下ろして笑ううら若き乙女の図。
「霧香君を呼べば良かったかもしれん…」
「まずはこことここのスイッチを同時押しでしたよね」
「違う!ちがー」
ぎょいーん。



「ホゲー」
釈迦人参氏は大変な事になった。
「あちゃー…」
ポチ。
ちゃらら〜らら♪ちゃららららら〜♪←チャルメラ


END


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『車中の二人 二日目』

前日にボヨン宿で休んだ二人は午前三時に出発した。ただし日本時間では正午だ。
「天気良好!」
「雨降ってるけど」
「気分が天気良好だからいいの!しゅっぱーつ!」
「あ、ちょっと待って若菜。この宿を」
車を発進させる前に霧香が例のスイッチを押す。
宿が増えた。
「増えたよ?!」
「うえ?!あつっ!いだい…」
霧香は驚いた拍子に足をハンドルにぶつけた。若菜も混乱して、泊まった宿と今増えた宿を交互にみている。
「も、もう一回」
増えた。
「霧香、これ増える専用なの?!」
「そうみたい…」
どうやらボタンは宿を出す専用だった。戻す機能搭載までは到らないのが科学の限界らしい。頑張れ科学者。
「どうする?」
「と言われてもどうもできないし…」
悩む。
しかし悩んで目を離した隙に吸い込まれるが如く別の客がぞくぞくと入ってチェックインし、大繁盛してしまっていた。
ワーワーワー←繁盛
「……」
あえて見ないようにして無言でゆっくりと車を発進させる霧香。若菜もそれを咎めなかった。
時間にして15分程、沈黙が続いたが、カニ公園という標識を見つけて若菜が言う。
「カニ公園だってさ、カニを埋めてるんだよきっと」
「そりゃ無駄に残酷な公園だこと」
そんなどうでもいいやりとりを皮切りにいつものペースを取り戻す。
コンビニで飲み物を調達した折、若菜がさりげなく運転席側ドアから乗り込もうとするのを霧香は全力阻止したり。
「ほら、あの標識、上を差してるよ、上ー」
突然前方を指差して言う。
「はあ?あ、上かー。ほんと、上だ」
若菜が指差したのはただの直進マークの標識だった。しかしそれは見ようによっては真っすぐ空を指しているようにも見えるのだ。
青地に白の標識はフロントガラスからのぞく青と重なり、より白を映えさせた。
「上に進めー!ハンドルを上にきるんだ、霧香ー!」
「あはは、むりー!うわ、ハンドルつかむな、危ないって若菜ぁー」
ガチコーン←事故


END



後書き

ビビンバ吉田です。
主に会社帰りに考えてる短編集いかがでしたでしょうか。
枠に縛られない。何も考えずに読める。面白い。
というようなコンセプトを後付けで考えたのでそういう感じで読んで頂けたらいいなあと思う次第です。


よーし、次を書くぞー。

この小説について

タイトル ビビンバ文学素敵短編集 第2編
初版 2007年6月17日
改訂 2007年6月17日
小説ID 1554
閲覧数 1281
合計★ 7
ビビンバ吉田の写真
作家名 ★ビビンバ吉田
作家ID 3
投稿数 148
★の数 1180
活動度 17563

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