龍神 - 〔水 雷 鬼(スイライキ)〕2

例の塚まで来ると無数の小邪鬼が…………
「凄い数になっている…………」
[キヲシュウチュウサセルノジャ  イッシュンタリトモ  キヲユルメルナ  ヤラレルゾ]
「よし!」
建物の前まで来ると小邪鬼の数も半端ではなかった。
これが見えない人達はこの中を歩いているのだ、おかしくなっても当たり前だ。
「あっ?…………うっっっ…………」
[ドウシタ アッ…………・]
あっという間にできる血溜まり。
「あの女が見ている!うぅぅ…………」
立っていられないほどの激痛、急激な出血。
[スグ  コノバショカラ  ハナレルノジャ  モウスコシ  ガンバレ]
“鬼”の文字の傷からのおびただしい出血は急速に意識を遠のかせる。
必死の思いで塚まで戻って来た。
あの女は分かっていたのだ、必ず俺がここに戻ってくる事を、
そして、この傷が有る限り俺には何も出来ない事を。
「ハアハア…………」
携帯を出し連絡を取ろうとするが手も思うように動かない。
「俺だ…………うぅ……ハアハア……兄貴を…………ハアハア…………あ・に…………」
大量の出血の為意識を失ってしまった。
[マズイナ  ココニハ  コジャキガ   オオスギルワイ]
血の匂いに誘われたのか、意識が無くなった俺の身体中に小邪鬼が取り付く。
おじじの必死の攻撃も空しくあっという間に身体中を小邪鬼にうめ尽くされてしまった。



20分後携帯の電波を頼りにやっと兄貴が来た、血溜まりの中の俺を見て、
「何だこれは?どういう事だおじじ!」
[…………]
おじじも必死に戦ってくれていて、声も出せなかったのだ。
「チッ!意識なしか…………翔太!翔太!」
兄貴の声が遠くに聞こえた。
「あっあ・に・き……ハアハア…………」
「よし!車に運べ!止血剤と輸血の用意だ!急げ!」
 車の中での緊急治療、屋敷に戻ってからの数時間にも及ぶ治療。
始めての鬼との戦いは俺の体力、気を思いの他奪っていたらしい。
40度の高熱、意識の混濁、丸3日の間生と死の間を彷徨っていた。

4日目の明け方、意識のないまま俺は左手を、左手の龍睛を自分の額の梵字へと押し当てていた。


龍瞳は弱く光り、俺は目覚めた。
「兄貴…………俺は…………?」
殆ど動かない身体、腕の激痛…………
[リュウセイガ  ネツヲ キニカエタノジャ  ソンナチカラヲ  ミニツケテイタトハノウ  イヤ リュウシンノ チカラカ   アマイノウ]
おじじに言わせれば、龍神が助けてくれたのだと言う。
激痛に耐え、動かない身体を無理矢理動かし起き上がろうとすると、
「動くな!出血が止まらないんだ!」
「出血?」
白く巻かれた包帯には今切り裂かれたばかりのように血の滲みが広がってくる。
自分の身体をよく見ると、輸血や点滴、コードや管が沢山付けられていた。
「あいつ……いや、水雷鬼の事は古文書で調べた、おおじじさまの残した資料も見た。ちゃんと弱点も見つけたぞ!」
“おおじじさま”とは曾祖父の事、曾祖父をそんな風に呼べるのは俺達2人だけだった。
いや、おじじだけは“馨(かおる)”と名前を呼んでいたが。
「弱点?」
「ああ……だがこちらにもデメリットか有るんだ」
「?」
「お前の腕の傷、その傷はあいつ水龍鬼を倒さなければ塞がらない……傷を付けた邪鬼を倒さなければならないんだ。」
「…………判った、やつの弱点は?」
声さえ出すのも辛い痛みが絶え間なく襲ってくる。
遠のいてしまう意識をなんとか繋ぎとめながら会話をしていた。
「焦るな翔太。まずは傷を・・・」
「やっ奴を倒さなければいけにいのなら、早くっ……うぅっ……」
「そうか…………」
と、兄貴は話し始めた。 



―――あいつ…………水邪鬼は水の鬼だ。
 あの建物の裏には沼がある、奴はそこに根をはっている。
 水辺から遠くには離れられないのだ。

 調べた限りではあそこでは人間の気を吸えるのは奴1人、そこのまわりにいる小邪鬼はおこぼれの肉体を狙っているだけだ。
 奴の吸い取った人間の気は殆どが根から何処かへ流れているらしい。
 多分、“琥珀”を復活させる為に使われているのだろう。

 奴等は大量の気を必要としている。お前の気も例外じゃ無い。
 お前を帰したのも他の人間とは比べ物にならない程強い気を再び吸い取る為だろう。

 でも、奴にも弱点は有る。まず、奴の根を切り沼から離せば奴は急速に弱る。
 が、奴もばかじゃないから自分から沼の側を離れる事は無いだろう。

 奴をおびき出し根を見つける為にはお前が自ら奴の懐に飛び込まなくてはならない。
 但し、奴に近付けばその腕の傷は開きお前のダメージも大きくなる。

 さらに、根を見つけ斬る為には接近戦しか無い。
 多分チャンスは1回だろう、その身体では2回目はない…………―――






「どうする……とは聞かないぞ。何時やるか……だ。但し今直ぐは無理だ。」
「…………分かった、……明日……」
「翔太、いま何時だと思ってる!明後日だ、2晩ゆっくり休むんだ。」
「……明後日……」
その会話の間にも何回も遠のく意識を何とか止めておくのが精一杯だった。

使える最高量の鎮痛剤を使い、深い眠りに落ちる。
  千切れるような激痛の右腕を見ると奴・・・水雷鬼が喰らい付いている。
  ニヤリと笑うその眼の奥に大きく黒い闇に被われた何かが居た。
  そして、紅くどろどろとした灼熱の沼に引きずり込まれる夢を幾度となくくり返しみたような気がする。
 2晩の間、兄貴は俺の身体を少しでも回復させようと色々手を尽くしていた。
外側からできる事は全てやってくれていた。

 3日目の朝・・・・・
まだ酷い痛みは有るものの、自力で身体を動かす事はできるようになっていた。
「俺も一緒に行く。まわりの小邪鬼はこっちで何とかする。外からお前に気を送る、タイミングはお前が出してくれ!」
「分かった!」
車を走らせる。塚の所まで来ると黒い靄がかかっているように見える。
よく見ると小邪鬼の塊だ。
「こっこれは…………」
2人同時に思わず呟く。
 何も音のしない静寂の世界だった。
車も走らず、昼間だというのに誰1人歩いていない。
側に在る小学校からも子どもの声ひとつ聞こえない。
人の気配が全く無くなっているのだ。黒い靄に包まれた街、 俺達だけに聞こえるあの音。
小邪鬼たちが地を這い獲物に向かってズルズルと移動する音。
そして、獲物を狙ってキーキーと鳴くあの声…………

 俺はちらりと兄貴をみて、小さく頷くと、車から降りた。
息をするのも苦しいくらいの小邪鬼の群れをかき分けて、例の建物の中へ入っていく。
?…………奴の気配が感じられない!
俺は気を緩めずに地下へと降りて行った。
地下室の扉を開けると、そこは俺が始めに捕われていた部屋だった。
【小邪鬼たちが騒がしいと思ったら…………】
不意に後ろから覆いかぶさるような重圧感と共に声がした、途端に、右腕の傷から滴り落ちる血。
「……くっ……!」
【短い時間で随分元気になった事…………】
水雷鬼はじりじりと近付いてくる。
「つっ…………」
俺は思わず後ずさりをしてしまう。
【また、もう少し気を頂いてもいいようね。いいえ、これで終わりにしましょう。貴方の苦しむ顔を見られなくなるのは残念だけど、邪魔をされると困るのよ。】
じりじりと近付いてくる水雷鬼。
俺はとうとう壁際まで追い詰められてしまった。

【ふふふ…………】
と笑いながら伸ばした水雷鬼の手が、俺の右腕の傷を服の上からグッと握った。
「!…………」
激痛……というより一瞬にして痛みも感じない程一気に気を奪われていく。
倒れそうになったその時、奴の肩ごしに奴の足下から延びる根を見つけた。
左手に隠し持っていた短剣に気を込めて龍爪剣に変化させ、一気に振り下ろす。
奴は軽く身をかわしたが、足元の根までは避ける事はできなかった。
【ぐはっ!】

 それまで端正な顔だちの女だった水雷鬼は、あっという間に醜い鬼の姿に戻った。
有に3メートルを超える身の丈、頭には大きな2本の角が有った。
青くテラテラと光る鱗を持ち、耳まで避けた口からは真っ赤な舌がだらりと垂れ下がっていた。
三本の指の間には水かきが有り長い爪はどれも短剣程の長さが有った。
龍爪剣で傷ついた根からは黒い液体が吹き出していた。

 思わず緩んだ水雷鬼の手を振払い、残った気力を振り絞って外へと駆け出た。
【オオノレ  コシャクナ コワッパメ オマエノキハスベテ  オレサマガ  イタダクゾ】
外へ出るとかっきまで靄のように沢山いた小邪鬼の姿は跡形も無かった。
どうやら兄貴が始末してくれたらしい。

 一転にわかにかき曇り、物凄い稲光りが空を走る。稲光りは矢となって俺の頭上へと降り注いだ。
怒りに我を忘れた水雷鬼は持てる全ての鬼の力で俺を殺そうとしていた。
怒りに満ちた水雷鬼は自分のテリトリーである水辺を自ら離れた事にまるで気が付いていなかった。
できるだけ遠くに・・・・俺はそれだけを考えて走った。
奴は巨体を感じさせない程の早さで追いかけてくる。
塚を越えて暫くの所で俺の背後に奴の手が延び、奴の爪が俺の背中を引き裂いた。
「うぅ!」
【ツカマエタゾ  コワッパ スグニラクニシテヤルカラナ】
首を締め上げられ空中に持ち上げられる。

 
 気力を振り絞って構える龍爪剣も閃光を放つ事無く、弱々しく光るだけだった。
【フハハハハ! ムダナコトヲ オマエニハ  モウキノチカラハノコッテイナイ】
水雷鬼の手に力が入り、俺の首がミシミシと音をたて始めた。 

(…………兄貴!)
俺は心の中で叫んだ!
閃光と共に俺の中に気が満ちあふれ龍爪剣は碧い光を放つ。
(兄貴…………)
俺は左手の龍爪剣を一気に右へと払う。
まるで水を斬っているように何の抵抗も感じられない程に奴の身体に龍爪剣が入っていく。
【グゥ?】
水雷鬼の胸を真横に1本の光りの筋が走る。
緩んだ手から滑り降り様に、2本の角の間から真下に向かってもう一度龍爪剣を振り下ろす。

【ナッナゼダ? ドコニソンナキガ ノ・コ・ッ・テ…………ガバッ!】
水雷鬼の身体に今度は縦に光の筋がはしった。
4つに切り刻まれた水雷鬼は大量の水となって流れ落ちた。

 俺の中に満ち満ちていた気は急速に無くなり再び激痛のする身体が戻ってきた。
水雷鬼が水となって流れ落ちた後に青く輝く石が落ちていた。
その石にてを伸ばそうとした時、意識が遠のいていった。
遠くで兄貴が呼ぶ声が聞こえた。
「翔太!翔太!」
「兄貴……あの石を……」
薄れ行く意識の中で何故か青く光る石が気にかかり……

 六邪鬼の一匹、“水雷鬼”を倒したが、改めて鬼の恐ろしさが分かった。
ずば抜けた治癒能力の有る俺だったが回復には丸5日もかかった。
今回の戦いで付けられた右腕の“鬼”の文字の痕は消える事は無かった。
曾祖父の身体中に付いていた傷を思い出していた。

 俺達には優しかった曾祖父も他の人達にはかなり厳しかったようだ。
会社での曾祖父は俺達の前にいる時と顔つきまで違っていたそうだ。
俺達とは遊びながら気の使い方を教えてくれた事が一度だけあった。
小邪鬼を滅散させる時の曾祖父の厳しい顔は今でも忘れられない。
厳しく、辛く、長い戦いを一人で乗り越えてきたのだろう。
俺達の前にも続く、厳しく、辛く、長い戦いを思っていた。 


−−−−−−−龍神・大和一族・怨魔皇鬼−−−−−−−

何故戦うのだろう…………

過去への扉を開こう…………

 遠い昔、この世ができた頃の事。
神・人・鬼は一緒に暮らしてた。
天上も地上も地下も無く、混沌とした世界だった。
 力で勝る鬼達はまず一番弱い人間を支配した。
考える事ができない鬼達は自分達の力を過信し、有ろう事か、神をも・・・この世を作りし神をもその手中に収めようとしたのだ。
無論、神にかなうはずもなかった。
 考える事しかできない人間は自分達では何もせず、全てを神に頼った。
鬼をつくり出した神のせいだと呪ったのだ。

 神は怒り、このような者達を作り出してしまった事を嘆き悲しんだ。
神はこの世を3つに分け、鬼も、人間達も滅びてもかまわないと、鬼達を地下深くに落とし、自らは天上へと登った。

地上には人間達だけが残った。
自分の事だけを考え、自分の私利私欲だけを求め争う、人間という種族だけが残った。

 何もかも神々のせいにし、力を借り、鬼達の手から逃れようとした人間達の中で、大和一族の祖先に当たる男だけは鬼と戦っていた。
自分達の安住の地を守る為に。

 人間達を、鬼達を見限り天上へと登った神々だったが、その中で“龍神”だけはその人間に興味を持った。
決してかなわないとわかっている相手に立ち向かってゆく人間に。
鬼達は再び地上を我が物にしようと執拗に這い上がってくる。

 龍神は思った。
《この者達を少し見ていよう、私の力を分け与え、人間達がどこまでやれるかを。》

 それから何年・何百年・何千年の歳月が流れた。
その間人間達は、人間同士の無意味な争いを続けてきた。

今でも人間界では争いが絶えず、自分の力だけが本物と、一番だと思う人間で溢れ返っていた。
その中で、やはり大和一族だけは、本当の意味でこの世を守る為の戦いを続けていた。
100年に一度の鬼達との戦いを。

 力では鬼達に劣る人間、大和の者達は、頭を使い、考えて戦いを勝ち取っていった。
与えられた“龍神の力”を最大限に駆使して戦っていた。
 
 龍神は見ていた。
神々にとっての100年など、一瞬の事、何回も続く人間、いや大和の者達と鬼との戦いを。
 龍神は不思議だった。
何故この人間達だけが己を犠牲にしてまで鬼達と戦うのか。
 
 そして遥か昔の事を思い出したのだ。
大和一族の祖先の男は、神々が人間達を見限る前に [神と人間の間に生まれた最後の子ども]だったのだと。
神々が人間達を見限った事で、神から受継いだであろう力を失っても、その男は戦ったのだ。
 そして、六邪鬼を率いる、“怨魔皇鬼”も[神と鬼の間に生まれた最後の子ども]だった。

 龍神は地上に残り、最後までこの戦いをみようと思っていた。人間がどこまで鬼の力に対抗できるのかを。
龍神は神々の一員として、自らの力で鬼達を消し去る事はしようと思わなかった。
人間だけを助けようとも思っていなかった。

 生まれた時から、いやうまれる前から、戦う事を定められている大和一族の男達。
男達の血の中には、“逃げる”“戦いを止める”という考えは元から存在しない。
鬼と戦う血、この世を守るという血だけが、何千年もの間脈々と受継がれてきたのだ。

 そこは神の血……人間の血で薄まる事も無く脈々と…… 
己の身体、命を犠牲にしてまでも……
惜しむらくは、人間の力では完全に鬼達を消し去る事はできなかった。
人間界での100年の間それ達を封印しておくのが限界だったのだ。

龍神は見守りつづけた。

龍神はこの戦いを面白いと思うようになっていた。

龍神はこれから先も見守り続けるだろう……


                                                第1話 水雷鬼 完

後書き

1つ目のお話は終です。
少し手直ししました。

この小説について

タイトル 〔水 雷 鬼(スイライキ)〕2
初版 2007年11月28日
改訂 2007年12月8日
小説ID 1734
閲覧数 903
合計★ 2
葛籠 暁の写真
駆け出し
作家名 ★葛籠 暁
作家ID 175
投稿数 5
★の数 8
活動度 413

コメント (2)

★冬野 燕 2007年12月8日 9時35分51秒
 初めまして、ツバメという猫です。

 プロローグから今作まで読ませていただきましたが、思うのは圧倒的に描写と説明が不足しています。
 また段落がないので読みにくく、全体的に抑揚や迫力が感じられませんでした。

 龍双剣がどういうものなのか、主人公の目的、龍神は具体的にどんな役割なのか?
 すべてが曖昧なので、物語として不足感が否めませんでした。
 ですが大和一族の使命や敵である六邪鬼の強大な存在が感じられる、
怪異と呼ぶにふさわしい物語だったと思われました。
 次の二章(?)への期待をして待っています。


 最後に、マジで偉そうなことばっかり言ってスイマセンでしたっ。
★葛籠 暁 コメントのみ 2007年12月8日 15時00分10秒
コメント有り難うございます!
自分で書いて自分で読んでいるといいように解釈が出来てしまうのです。
(わかって書いているので描写が足りなくても平気で・・・・)

言って頂けるとうれしいですっ!
これからもよろしくおねがいします。
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