sing for fog 0.5 - 霧に唄え!

声が出ない。
体に力が入らない。
鞄を持つ掌が冷たい汗でじっとり湿っているのを感じる。

ええと・・・

俺は役立たずとなった思考を奮い立たせようとした。

この目の前の蝦蟇蛙は何と言ったっけ?

『君には今日から研修に行ってもらうよ』

そう言った?

***

俺は都内の私立硯美中学に教師として勤務している。
いつもどおり校門をくぐり、生徒からの挨拶をうけ、職員室に入った。
なんにも変わらない日常。しかし、あの一言でぶち壊し。

『君には今日から研修に行ってもらうよ』

「いやぁ、すまないねぇ。東雲クン!」

蝦蟇蛙、もとい校長はその締りの無い口で笑いながら、
俺の肩をバンバン叩く。

「私も本当に困ったんだよ。いやホントに!なかなか適任者が見つからなくてねぇ」

蝦蟇はまだニヤニヤを止めない。

「君に伝えるのが遅くなって申し訳ないッ!
申し訳ないついでに、かなり遠い所だからね、しばらく家には帰れないことも伝えとくよ。
期間は1年。
かなり長いけど、ま、休暇をとった気分でゆっくりしてくるといいんじゃないかな、田舎だしね。
何か質問は?」

蝦蟇はここまで早口で捲し立てた。
呆然としていた俺は、その半分も内容を聞いてはいなかった。

「・・・あの、どういうことでしょうか。これは」

やっとでるようになった声で紡いだ言葉はしわがれていた。
研修?なんだそれは。そんなもの、俺は聞いてない。
そんな俺の困惑を読み取ったのか蝦蟇は慰めるように、うんうんと頷きかけた。

「君が戸惑うのも良く分かるよ、実に急なことだった!」

それから蝦蟇は、真剣かつ威厳のとれた格好に見せようと腕組みをして顔を引き締めた。
しかし、傍から見たら腹痛を起こした蛙そのものだ。

「君は私立中学の研修会があるのは知っているね?」

それなら俺も知っていた。
私立中学が教師育成のため行っている企画で、
教師を適当な公立中学に送り込み、私立とは違うものを体験させましょー。というものだ。
しかし、有名私立の教師がイモ臭い公立の学校に行きたがるわけも無く、
案の定、私立教師に恐れられ『結果を出さなきゃ研修送りにされる』とまで言われるようなていらくだ。

「あの会の年がねぇ、ちょうどうちに回ってきたんだよ。
で、誰がいいか教育委員会で話し合ったら、君に白羽の矢がたったってワケ」

君、最近目立った実績出てないしねぇ。
と、蝦蟇は困ったような笑顔を浮かべた。
本当に困っているのはこっちだ。困ったついでに泣きそうだ。

「ま、決まっちゃったものはしょうがないから、ここは一つがんばってきなさいよ!」

蝦蟇は俺の背中を一発強く叩くと、あ。そうだ、と俺に一枚の紙を押し付けてきた。

「これ、君の書類ね。向こうの職員に渡すんだよ」

それじゃ!そういって蝦蟇は俺に背中を向けて去っていく。

手に持っていた鞄を、このハゲ頭目掛けて振り下ろしてやりたくなったのが、午前8:00。

後書き

はじめまして、晶といいます!
処女作品がこんなんで申し分けないです・・・
こんな作品でよろしかったらお付き合いお願いいます。

この小説について

タイトル 霧に唄え!
初版 2008年1月19日
改訂 2008年1月19日
小説ID 1792
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駆け出し
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