夜に咲く花 - 第六話 「焼き鱈っ!こりゃうまいぜ!100g増量っ!!」

「ふぅ〜、あがったぞ〜」
楓の後に風呂に入った俺はホクホクと頭から湯気を立ちのぼらせながらリビングのソファーにどっかりと座った。
「おー」
この力の抜けるような返事は床でゴロゴロしながら雑誌を眺めている楓のものだ。
「何読んでんだ?」
首に掛けたタオルで頭を拭く俺。
「ん〜……?料理の本……」
その意外な答えにタオルを落とす。
料理の本だって!?
「お、お前、今朝も弁当作ろうとして台所ゴチャゴチャにしてたけど……」
今日弁当が作れなかったのはそのせいだ。
「まーねー」
「……でも何でまた料理なんて……?」
まぁ、さっきはあぁ言ったが……。(第五話参照)
楓は少し考えて、
「ん〜……。今日みたいに兄貴が遅く帰ってくることがあったら飢え死にするし〜………。先週優紀が蘭くんにお弁当作ってきたの見たからさ〜、私にも出来そうな気がして……」
……嘘だ。
俺は一瞬でそれが嘘だと見破った。
楓は昔から嘘とか誤魔化したりするときは、結構な確率で語尾をのばすことがあるからということと、
楓は小四ぐらいの時から蘭丸のことが好きだったから、たぶん蘭丸に家庭的な所を見せたかったんだろうと思う。中学二年の時に優紀が大阪から中三に上がる前に二人が付き合い始めたから、楓はもうあきらめようとしているんだと思うけど、絶対今もまだ好きなはずだ。蘭丸を見ているときの目が違う。勿論、優紀には言ってないし、蘭丸にだって言ってない。でも優紀は気付いてるんだと思う。蘭丸は……あいつはモテるのにニブチンだから確実に気付いていないだろう。
……でもそう考えるとこんなドロドロした関係なのによく優紀と楓、二人は仲は良いよな。女ってコエー……。まぁ、嘘っていったけど優紀が蘭丸に弁当作ってきていたのを見て、ってのは本当だろうと思う。
そして、俺は軽く地雷に触れてしまった……。
「……今でも蘭丸のこと好きなのか?」
「…………」
だんまり……。そりゃそうか。やっぱまだまずかったかな……?
こいつは、5月の初め頃に教室に忘れ物を取りに行った時、優紀と蘭丸の二人のキスを見てしまったんだと思う。
何故「〜だと思う」なのかは、
俺は、忘れ物を取りに行った楓の後を追って教室に向かっていた時、逃げるように走り去る楓と肩がぶつかった。楓はそのまま家に帰ってしまったが、俺は何事かと教室をのぞきに行ったのだ。そうしたら、教室の中で顔を真っ赤にして照れている二人がいたからそーなんだろなと思っただけだからだ。たぶん二人は奥手だから初めてだったんだろうな〜。まぁ、奥手って言ったって俺だって人のこと言えねーよな。俺だってまだ……って、何を言わせるんじゃい!
まぁ、そんでも次の日の楓は普通に楓と喋っていたから、我が妹ながら偉大だと思う。
「……あ、いや……」
思っていたより随分長い沈黙だったようだ。
「あ、あのさ――」
俺が何かを言おうとしたとき、楓はバッと立ち上がって、料理の本とタオルを背中越しに俺に向かって投げてきた。
後ろ向いて投げていたはずなのに……顔面クリーンヒット……。不意打ちでキャッチには失敗した。
「………寝る」
楓はやはり背中越しに、ぼそりとそう呟いて二階へ上がっていった。
「……はぁ………」
俺は楓の背中が見えなくなってから、大きなため息をついた。
……傷口に塩ぬっちまったかな……?
きっとあの教室でのことを思い出したんだろう。
こういうとき、本気で自分の無神経さに腹が立つし、嫌になる。


                   ―……今でも蘭丸のことが好きなのか……?―
二階の自分の部屋に電気をつけずに入り、ベットにうつぶせで倒れ込む。
枕の横には、小四の時のクリスマスに、蘭くんがくれたくまの人形が、月明かりの中で私のことを見つめていた。
私はそのくまの人形の手をギュッと握る。
兄貴の言葉が頭を巡る。
          『今でも蘭丸のことが好きなのか……?』
……分かってる。
友達の、しかも一番親しい友達の彼氏をまだ好きだなんて駄目。
分かってる。
分かってるつもりなのに、やっぱり辛い。辛かった。あの教室での事を見たとき。
思い出すのもやっぱり少し、チクッとするし、涙も出る。
「はぁ……。どーしよ………」
そのつぶやきは、暗闇の中に消え、沈黙が漂う。
何かが頬を伝った気がした。でも気にしない。私はただ、くまの人形の手をまた強くギュッと握った。
くまの人形は月に照らされ、私は闇に沈んだ。


楓が寝ると言って、二階に上がってすぐに親父が帰ってきた。
「ただいまー」
「ん〜、おかえり〜」
父・梅崎啓汰(うめさきけいた)が仕事から帰ってきて食卓テーブルの自分の椅子にジャケットと鞄を置いて、ネクタイを緩めた。
……実に親父臭い……。これじゃあ、楓に嫌われる理由も分かるぞ……。
「あれ?今日は外で食べたのか?」
台所がさっぱりしていることに気が付いたらしい。
「今日はレトルトカレーでございます」
俺は雑誌に目を落としたまま答える。
「そうかぁ〜」
親父は食卓テーブルの自席の隣に腰掛ける。楓の席だ。
「そーいえば、楓は?」
少し黙る俺。さっきのことが頭をよぎる。
「……もー寝た」
やはり目は雑誌。
「早いな」
「……そーだな」
なんだっ。この続かない会話は!!
「酒でも飲むかな……」
俺はちらりと、向かいの俺の席の隣に目をやったのを見逃さなかった。
親父は食卓テーブルにつくといつもその席に目をやる。
俺は親父のその視線の行方に、本日何回目かのため息をつき、ソファーに横になっていた体を起こした。
親父はビールとコップを食卓テーブルに置いたが、まだ何か探しているようだ。
………ま、まさか……。
焼き鱈かっ!?
じっとりとした汗が俺の背中を伝う。親父から目が離せない。
すっかり忘れて風呂に入ってしまったが……。
焼き鱈か……?
探しているのは焼き鱈なのか……!?
い、言い訳……どうするどうするどうする俺!!
何か考えろ俺!!
ちくしょう、寝てんじゃねーよ楓!
起きてこーい!お前の出番だろー!
「なぁ」
親父が呼びかける。俺の心臓が跳ね上がり、口から飛び出しそうになった。
焼き鱈……?焼き鱈なのか……?
俺は狂ったように心の中で焼き鱈を連呼していた。
「はいっ!?」
声が裏返った……。
「焼き鱈知らないか?ここにしまっといたんだけど」
き、来たーーーーーーーーーー!!
ど、どうしたら……。
「えっ!?焼き鱈……?ハハハ、知らないよ、そんなの。っていうか焼き鱈って何?ハハハハハハハハハハ」
何じゃそりゃ。
焼き鱈ぐらいしってんだろーよ。いや、っていうか、むしろ日本人として知っとこうよ……。
「知らない?そっかー食っちゃったっけなぁ」
親父は少しがっかりした顔で食卓テーブルにつこうとする。俺はホッと安心しかけたが、次の声に心臓が口から飛び出した。
「………………これは…………?」
親父はゴミ箱の中に捨ててあった「焼き鱈っ!こりゃうまいぜ!100g増量っ!!」と書いてある袋を発見し、俺に見せてくる。
ヤバイ……。
「………えっと、か、楓が―……いや、俺と楓で食べました………」
なんて理不尽なんだ……。俺が食べたのは200g中の三本だぞ!?gにしておよそ5gにもみたないんだぞ!?なのに楓は夢の中?え〜〜〜〜……。まぁ、寝てるとは限らないけど。
それでもちゃんと自分の名前も言う辺り、俺は偉い。しかし、誰も褒めてはくれないのでした。ちゃんちゃん♪
「そっかぁ〜……」
親父はすごく、ものすごく残念そうな顔をして「焼き鱈っ!こりゃうまいぜ!100g増量っ!!」の袋を少し眺めて、そっとゴミ箱の中に入れた。
あぁ、罪悪感。何故俺が罪悪感?もっと罪悪感を感じなくてはいけない人がこの上にいるのに……。
くそぅ!弁当にソーセージ入れてやんねぇ。
それが今の俺に出来るせめてもの復讐………。フハハハハハ。
「あ、な、何かつまみ作るよ……」
俺は雑誌をソファの上に置いて、慌てて立ち上がった。
「あぁ、いやいいよ。ビールはやめる。今日はもう風呂入って寝るよ」
あぁ……そんなに寂しそうな背中を見せないでおくれ、父さん……。
親父は静かに自室へと引き上げていった。
またしても一人取り残された俺は、ボスッとソファーに座り込んだ。

              ……………………………むなしい……………………。


後書き

ふ〜……。こんにちは。一仕事終えた後のOLさんのような状態の秋水です。どもw
今回は長さ的にはそんなにないかもしれませんが、文字的にはかなり多かったと感じています。。。
文字の量と、精神力の削られ具合は比例していると思います。
その考えは私だけでは無いはず……。うぅ。
そして、公立入試前に風邪を引いてしまうという有様。。。。
ついに神様も見放されたのですね。。。。
というわけで、大賀と同じくむなしい気持ちでいっぱいです。
次回はもう少し遅くなると思います。
光栄にも楽しみにしている方々がいるのであれば、もう少しお待ち下さい。
では次回も頑張ります。ではでは〜/~~~

この小説について

タイトル 第六話 「焼き鱈っ!こりゃうまいぜ!100g増量っ!!」
初版 2008年2月18日
改訂 2008年2月20日
小説ID 1838
閲覧数 964
合計★ 2

コメント (2)

★達央 2008年2月18日 18時13分26秒
夜に咲く花−第六話・焼き鱈っ!こりゃうまいぜ!100g増量!!を読ませて頂きました。

第五話目のコメントは先走っちゃいましたね><
すいません・・・。

まぁ今回の話は楓の煮え切らない恋の話&親父の初登場で淡々としていましたが、楓が今後どうするのか期待しています!

ちなみに・・・「ソファ」ではなく「ソファー」が正解です。
                   ※広辞苑参照
秋水 コメントのみ 2008年2月20日 12時57分08秒
>達央さん
コメントありがとうございますw
毎回本当に嬉しいです。

  >第五話目のコメントは先走っちゃいましたね><
全然気にしないで下さい!
分かりづらかったこっちが悪いんですから。
すいません。もう少し編集の仕方があったなぁ〜と反省しています。

ソファーですか。
広辞苑まで引いて頂いて、ありがとうございますm(__)m
修正しておきました。。。

次回は……ん〜〜……。
イメージではどんなことを書くか決まっているんですけど、文章にするにはもう少しかかりそうです。
では、次までしばしお待ちを……。
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