僕らの先生 - 第四幕

初めて知った痛み。
 
心の痛み。
 
友の裏切り。
 
元には戻れないほど崩れてしまった関係。
 
信じてた、信じすぎていた。
 
私がこんなにも弱くてもろい存在だと知った。
 
冬の空、雲一つない空。
 
星がキレイだ、なんて思ったのはいつぶりだろうか。
 
「あ〜あ、もう…」
 
どうしようもなくなった時ほど冷静になる。
 
「鬱陶しいくらいキレイですねぇ」
 
不意にかけられた言葉。
 
白衣に大きな本、20代くらいの若い男性。
 
「ホント鬱陶しいくらい…」
 
不思議と警戒心が沸かなかった。
 
「どうして悩み事が増えると夜空を見上げる回数が増えるんですかねぇ」
 
その憎たらしいくらいの笑顔は全てを悟っているように見えた。
 
「あなたも悩んでるの?」
 
「い〜え、僕は悩み事を抱えない生き物ですので」
 
羨ましいと思った。
 
嘘でもそんなことが言えるのが本当に羨ましかった。
 
「…いいな」
 
「あなたも、ってことは悩み事でも?」
 
「そうですね…」
 
誰にも言えない、言いたくない出来事。
 
「信じていたものに裏切られただけです」
 
内容はとてもつらすぎて言えるものではなかった。
 
「それは残念です」
 
その笑顔からはとても残念がってくれているようには見えなかった。
 
「バカ…ですよね、ホント私ってダサイ」
 
「あはは、そうですね」
 
慰めの言葉を期待していたわけではない。
 
彼の放つ言語は逃げようとしていた現実に再び戻されてしまうような感覚だった。
 
「でも僕は好きですよ」
 
なんてとんでもないことを口にしだした。
 
「自分は信じていた、それはとても強くてカッコイイと思いますよ」
 
開いた口が閉じなかった。
 
つらくて、苦しくて、恥ずかしすぎて誰にも言えない内容を彼はカッコイイと言った。
 
「な、慰めになってないけど…」
 
それでも心の奥底が彼の言葉によって動かされていた。
 
「あはは、慰めているつもりはないんですけどね」
 
照れくさそうに笑う表情は成人した男性には見えなかった。
 
「信じた自分を、信じてあげてください」
 
「…え?」
 
「裏切られた自分を、裏切ってはダメですよ」
 
なんで信じてしまったのだろう、何故裏切られてこんなにも苦しい思いをしなければならないのだろう、と。
 
恨んで、仕返ししてやろうとも考えた。
 
そう。それだけを考えていた。
 
もう少しで自分自身までも裏切るところだったんだ。
 
「さて寒いですからあまり長居しませんように」
 
そう呟いて彼は背を向けて歩き出す。
 
「あ、ありがとう!」
 
「どういたしまして」
 
忘れない。
 
つらくなって自分自身を裏切りそうになったら彼の笑顔を思い出そう。
 
そうだ、私は間違えていない。
 
私は一生懸命友を信じたんだから。

後書き

裏切られた時のつらさは本当に苦しいですよね。
この正体不明の先生が傍にいたらいいのにな、って思います。

この小説について

タイトル 第四幕
初版 2008年2月29日
改訂 2008年2月29日
小説ID 1870
閲覧数 849
合計★ 7
HIROの写真
ぬし
作家名 ★HIRO
作家ID 199
投稿数 36
★の数 52
活動度 4305

コメント (4)

★秋水 2008年2月29日 18時10分58秒
こんにちはw初めましてですか?秋水と申します。
いつも読ませて貰っています。

とても心温まる話ですねw
浅いという意味では決っっっしてないんですが、細かいところまで深く掘り下げていないので、そこに自分を当てはめて読むことが出来ます。そのおかげで心に直接「くる」んだと思います。
何が「くる」のかはよく分からないのですが、とても良い感じがしました。

では、失礼しました。
★HIRO コメントのみ 2008年3月1日 22時02分10秒
>秋水さん
初めまして〜、HIROです!
忙しい中読んでいただきありがとうございます。
 
自分もそういう気持ちになったことがある、と思いやすくするために深く書いてない部分が多いんです。
安い慰めの言葉より、重い言葉を与えた方がいい時もありますよね。
 
高評価、ご感想ありがとうございました!
★aki 2008年3月2日 15時27分29秒
★HIRO コメントのみ 2008年3月2日 16時49分40秒
>akiさん
高い評価ありがとうございます!
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