最強女王×最弱騎士 - 第五話 適性検査一日目〜女王との絆〜

 「執事の適性検査」という衝撃的な宣告から一夜明けて。
 一週間という期間中、俺は葵さんと女王の部屋で共同生活を送る事になった。
 今日が、その一日目。
 葵さんの部屋を訪れた霧生先輩が葵さんに鈴を渡す。
 これが襲撃者に取られたら俺は執事を辞めなければならない。
 葵さんが鈴をカッターシャツの胸ポケットにつける。霧生先輩がピストルを持って言った。

「用意はいいか? それじゃ、用意……スタート!」

 勢いよくピストルが打ち鳴らされる。そして、僕達に向かって霧生先輩が応援してくれる。

「頑張れよ、森瀬、葵ちゃん。どちらか一人だけが必死に戦っても勝てないぞ? 二人で協力するんだ」
「は、はい!」
「分かった」

 俺達はその言葉に力強くうなずいた。
 そして、一日目が始まった。



「…………」
「…………」

 とは言うものの、これは本当に本当の二人っきりというやつだ。
 俺は緊張のあまり話しかける事が出来ないし、葵さんも襲撃者に備えているのか、一言も話そうとしない。
 それに、始めの時は考えていなかったが、一日中という事は、家に帰れない。
 つまり、夜もここで葵さんと二人で過ごさなければならない。
 決してやましい気持ちがある訳ではないが、男としては相手を意識せざるを得ないような状況だ。
 家族にはもう連絡を入れてあるが、その詳細については全く話していない。話せるわけが無いけど。

 ここで、百戦錬磨のテクを持つモテ男ならば、すかさず会話に花を咲かせるだろうけど。何回も言っているけど、俺はそんなんじゃないし、女の人とまともに話した事も無い臆病者。こんな状況でさえ初めてなのに、話しかけるなんて出来るわけが無い。
 だけど、このまま黙っているのも葵さんに悪いような気もする。
 俺が心の中で声にならない叫びと葛藤を繰り返していると突然、葵さんがソファーに身を投げ出して俺に声をかけた。

「……誰も来ないな」
「へっ!? あ、ああ、俺にですか」
「お前以外いないだろう。考えてみればこの時間帯は皆授業中だからな、襲撃の確立は低いもかもな」
「そ、そういえば。……ってそれだったら、ヤバイ! 俺、ただでさえ成績低いのに、授業ついていけなくなったら退学、かも!! ど、どーしよう……!!」」

 今更ながら自分のやっている事が情けなくなってくる。ここで失格になっても、執事をやっていても退学になるかも知れないなんて。
その時、いきなり焦りだした俺を見て、葵さんが急に吹き出した。

「プッ、フフッ……お前、面白い奴だな。私でよければ、何か教えてやろうか?」
「い、いいんですか?」

 俺は驚く。葵さんがそう言ってくれるなんて想像していなかったからだ。
 だけど、葵さんは仮にもこの学園の女王。成績だって良いに決まっている。武道の事でも勉強の事でも教えてもらえれば大助かりだ。

「じゃあ、あの……お願いします」

 俺は少し恥ずかしがりながらもぼそりと言う。
 こうして、俺は葵さんから直々に授業を受ける事になった。



「空手の時は、足の位置と構えが重要だ。しっかりと足を開いて体勢を組む。後は拳や蹴りを当てる位置だな。やはりどちらも高い位置が好ましいが、無理やり高い位置にするのは難しいだろうから、型や組み手で練習して自分で掴む方が良いだろうな」

 軽く道場並みの葵さんの説明を、俺は一言も聞き漏らさずにノートに取る。
 北凰学園は武術や格闘技を広く受け入れていて、その種類は古今東西で様々。勿論他国の国技やスポーツも幅広く取り入れている。
 日本の武道が一番多いんだろうけど、俺はどれもこれもこなせていない。
 俺は、考えていてふと思ったことを葵さんに聞いてみた。

「葵さん」
「何だ、どうした?」
「葵さんは、いつから『女王』って呼ばれているんですか?」
「お前が『最弱』と言われるより前だ。この学園に入学したての頃のテストで、十人対私一人でテコンドーの試合をして勝った時からだな」
「じゅ、十人対一人って死ぬじゃないですか!!」
「そうか? まあ、相手も驚いていたな。さすがに十人に一人では私が不利と考えたんだろう」

と、その話を聞いている時に部屋中に低く唸るような音が響く。

「何だ、この音?」

葵さんが警戒する。が、それは警戒するにも及ばない物。

「俺の、腹の音です……」
「フフッ……アハハッ」
「わ、笑わなくてもいいじゃないですか!」
「悪い。でも、さすがにおかしくて」

 俺達が言い合っていると、壁にある柱時計が大きく音を立てる。

「もう六時かぁ……夕食でも作りますか?」

 俺が聞くと、葵さんも同意する。

「そうだな、結局今日は襲撃はナシだったみたいだし。私も手伝うよ」
「あ、いや、葵さんは座っていてください」

 俺が言うと、葵さんは俺をじっと睨む。その眼には何だか変な殺気が漂っている。

「まさか、私に料理が出来ないとでも言いたいのか?」

 俺がその殺気に圧倒されながらも、首を横に振って否定する。

「違いますよ。今日色々教えてもらったお礼です。それに、俺は葵さんの執事だし。こういうのは執事の仕事ですから」

 俺はそう言って葵さんに納得してもらい、今朝生徒会の人達が用意してくれた材料を使って料理を始めた。


 葵さんの部屋は大広間とキッチンとダイニングルームの他に二つの部屋がある。
 一般的に言えば、2LDKって事だ。
 軽く一つの家みたいな広さだから、キッチンも大きい。まるで、どこかの洋食屋の厨房みたいな感じ。材料もふんだんにあったし、俺はそこらへんの男と違って料理だけは出来る。
 まあ、家事全般できる変哲な男だから武道がピンチなんだろうけど。
 でも執事には向いていると自負している。

 俺は色々と試行錯誤して、作り続けること三十分。
 料理を持って葵さんがいるダイニングルームへ急ぐ。

「出来ましたよ、葵さん。トマトスープのリゾットです」

 温かそうな湯気が立ち上る料理を見て、葵さんは言った。

「本格的だな。よくこんなに材料があったな。それに、作るのが難しかったんじゃないのか?」

 俺を心配してくれているみたいだった。でも、俺は笑って言った。

「大丈夫ですよ。スープを作るのに手間取っただけですし。さ、食べてみてください」

 俺が勧めると、葵さんはスプーンでリゾットを掬い上げ、吐息で冷やしてから一口目を食べた。
 すると、葵さんは驚いたように言った。

「おいしい」
「本当ですか!? 良かったー!」

 やっぱり「おいしい」って言ってもらえると作った甲斐がある。俺は思わずガッツポーズをしたくなった。
 俺も葵さんとともに夕食を食べ始める。少しの嬉しさに包まれながら。


 やがて、ほとんどを食べきった時、葵さんが俺に向かって言った。

「侑斗」
「何ですか?」
「料理、ありがとう。また明日からも、頑張ろうな」

 その一言に、俺は心の芯に響くものを感じた。その言葉を、俺自身が心待ちにしていたかのように。
 俺はすぐに頷いて言った。
「はい!」



 この時俺は自然と感じていた。この人の、葵さんの笑顔が見たい。だから俺はこんなにも頑張っていられるんだって。
 繋がり始めた確かな絆に嬉しさを感じながら、俺の執事適性検査一日目は終了した。

後書き

何か専門的分野が出てきて、分かりにくいだろうと思いますが、
それもまた執事の仕事なので。
これからも頑張ります!

この小説について

タイトル 第五話 適性検査一日目〜女王との絆〜
初版 2008年3月21日
改訂 2008年9月7日
小説ID 1938
閲覧数 881
合計★ 0
ひとり雨の写真
作家名 ★ひとり雨
作家ID 223
投稿数 91
★の数 264
活動度 10590

コメント (1)

ming1111 vcvcb コメントのみ 2018年8月14日 18時59分03秒
http://cheapnflfootballjersey.com/ NFL Jersey Sales
http://cheapjerseysonlinesale.net/ NFL Jerseys For Sale
http://www.wellbeingguide.net/ NFL Jersey Sale
http://www.just4ufitness.top/ NFL Jerseys On Sale
http://www.kaitalog.top/ Custom Jerseys NFL
http://www.jadedanielsbridals.top/ Cheap NFL Jerseys China
http://www.pbhsjrotc.com/ Cheap NFL Jerseys From China
http://www.getresponsereviews.com/ Wholesale NFL Jersey
http://www.amybakeseverything.com/ NFL Jerseys
http://www.radiant-wind.com/ Jersey NFL Wholesale
http://www.clive-standen.com/ NFL China Jersey
http://www.sebamedurunleri.com/ Authentic NFL Jerseys
http://www.sikesdental.com/ Authentic NFL Jersey
http://www.bgmadness.com/ Authentic Jerseys NFL
http://www.newfeminismrising.com/ Cheap NFL Jerseys Authentic
http://www.dcthreads.org/ NFL Shirts
http://www.manuali-perdoruesit.com/ NFL Jersey Shop
http://www.teatrobelfast.com/ NFL Jerseys Shop
http://www.football-jerseysshop.com/ NFL Jerseys Near Me
http://www.footballtopjerseyssale.com/ Discount NFL Jerseys
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。