アエモノ学園の夏 - 5 お城一歩手前

 日の出前という早い時間から、王妃と国王は、城の『玉座の間』にいた。紅色の玉座には王妃が、藍色の玉座には国王が座っている。2人ともが家臣や使用人に対して気丈に振舞っていても、頼みの綱である息子とその友人を待ちわびている気持ちはその場にいる全員が知っている。

 突然、望遠鏡を持った兵士が玉座の間に駆け込んできた。2人に頭を下げることすら忘れて、大声で報告する。
「申し上げます! 王子とそのお友達がこちらに向かっていらっしゃるのを発見致しました!」
「分かりました。こちらまで案内しなさい、滞りなく」
さっきよりも張りのある王妃の声。瞳の光り様も全く違う。
「かしこまりました」
そう返事をして玉座の間を去る兵士に
「待て」
と王妃の声。歩みを止めた兵士の背中にまたもや王妃の指示が飛ぶ。
「この国、いや、この世界ではない場所から来た者が、ケイの友人の中にいるのを感じます。もしものことがあってはならないから、警戒していなさい。ただし、危害は加えないように。さあ、行きなさい! 皆に知らせよ!」
「はいぃ!」
 彼は、脱兎の如く玉座の間を飛び出していった。

「あの者が、悪しき心の持ち主じゃなければいいのだけど……」
 王妃の独り言は国王には聞こえていた。
「大丈夫。ゆったり構えておけばいいさ」


   兵士と王妃と国王のこんなやり取りの数十分前――

 岩山通路の中で『頼みの綱』の6人は出発の準備をしていた。
「ねえねえ、朝ごはん食べようよ〜 食べなかったら元気が出なくて、お城に着くまでに倒れちゃうよ〜」
 駄々をこねているミホに突っ込みが入る。
「ここで朝飯を食べる予定にはなっていない! 城まではそう遠くないから我慢しろ。お腹が減ってる状態で、城で出来た料理食ったほうが美味いと俺は思うけど」
「ほぅ、ヒロの言ってることは間違ってないね。」
 納得しながらヒロと目線を合わせる。
「我慢す……」
「おい、どうした? ……はっ!」

 ヒロとミホの視線の真ん中に、握りこぶし一個分の小さな物体が浮かんでいた。乳白色だが、少し透けている。霊体の一種だろうと彼は気付いた。彼女が絶句したということは……。
「メガネが外れてる! え〜っと〜、メガネ……メガネ……」
こう指摘してメガネ探しを始めたのはケイ。失神には至っていないが固まっているミホの他は、全員が手伝った。
「寝ている間にメガネが外れたんだろう、たぶん」
「そうとしか考えられないだろ!」
 当然ながら、リョウにも突っ込むヒロである。
「はい、どうぞ。わたしが見つけたんだよ」
 壁付近に転がっていたメガネがユリを通してミホの手元へと戻る。ロボット風に手を動かして顔へメガネを近づける。その時のことだった。

<メガネを掛けないで!>

「なんだろう……今の声。みんな、聞こえた?」
 誰一人として首を縦に振る者はいない。
「私たちに聞こえない声ということは、霊体さんの声ですのね」
(わかっているってば、マナ。霊能者だから、聞こえているんだ、よ、ね?)
どうやら、例の『握りこぶし一個分オバケ』に話しかけられているらしい。深呼吸して、とりあえず応対する。


「……ど、どうしたの?」
<お伝えしたいことがあります>
 一言で言い切ったら性別不明の幼い声。しかも敬語。
<絶対に、城へ近づかないでください! もと来た道を、戻ってください!>
「へ? お城は……ケイの家なんだよ? 私たちは、行かなくちゃ……ならないんだから」
<『縛られし者』が、あなた方の存在を感じて狙っています>
「……狙われてる? 『縛られし者』? まさか、あいつに?」
 声も体も震えている。他5名も、『縛られし者=ガネッコ』と感づくと、鳥肌が立った。どうすれば、というボソボソ声を無視して、霊体は一方的に話し続けた。
<それともう一つ>
「な……何なのよ!……もう一つって…………さっさと喋って、じ、成仏してよぉ……」
 涙が溜まった目はまだ、『それ』を見つめていた。
<もしも城へ抜ける道を進むのなら、戦いの用意をしてください。『縛られし者』が集めた何百匹ものモンスターが、通路の出口で待ち構えています>
「で、出口に……も、モンスター!?」
 女子はビビり、男子は闘志を燃やす。
<申し上げることは、これがすべてです。あなたのお望みどおり、やっと成仏が出来ます……では、ごきげんよう……>
 それだけ言って、『それ』はフラっと揺れて、6人の前から姿を消した。出所や性別とかも結局分からずじまいとなってしまった。
「……そっかぁ……よかったぁ…………いろんな意味で……」
ミホはそう呟き、渾身の力でメガネを掛けた後、両手をぶら〜んと下ろし、しゃがみこんだ。意識はあるが動けない、という意思は仲間に伝わり、リョウの背に負ぶさることとなった。


 『握りこぶし一個分オバケ』の心配も何のその状態で、ミホ以外の5人は戦闘を繰り広げた。
 回復しか脳がないと誰かさんに勘違いされていたマナも、短剣を振りかざして参戦した。ユリは魔力で相手の動きを止めて、味方の攻撃をサポートした。ケイは愛剣でモンスターを斬りまくった。ヒロはそんなにいえない突っ込みを、拳と足に込めて攻撃した。リョウはミホをおんぶしたまま、正確に矢を放った。
 そして、最後の数匹を倒し終え、のんきに歩き始めている光景が、望遠鏡を構えた例の兵士に発見されたのである。ミホはまだ、リョウの背から降りていない。それは、城門までの坂が急だからと、彼に言われていたためだった。

後書き

また新キャラ出しちゃいました。
ご意見・ご感想、大歓迎です!
次回、やっと核心に迫れます。

この小説について

タイトル 5 お城一歩手前
初版 2008年3月30日
改訂 2008年3月30日
小説ID 1967
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作家名 ★メリエリ
作家ID 210
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