アエモノ学園の夏 - 6 緊張と空腹との闘い

 日が昇って数分後。城に到着した一行は、玉座の間に続く扉の前に立っていた。城は例の結界の中にあるので、ミホはそこでメガネを外した。

「ついに王妃様と、ついでに国王とも、ご対面、か……」
 ついでに、とは何だ! ついでに、とは! ――と国王の突っ込みが跳んだのは空耳として置いといて、不安がるミホに救いの手が(たぶん)差し伸べられた。
「わたしも、お城に来たのは今日が初めてなの。緊張して当たり前よ」
 ユリは自分に言い聞かせるように、ちょっと小さな声で言いつつ、ケイをチラ見した。自分の家だからとはいえ、彼がリラックスできる理由がない。霊体をメガネ越しに見ないミホと同じような固まり様だ。マナはこうアドバイスした。
「さあ、みんなで深呼吸してみましょう〜 『すって→はいて』の順で行きますよ〜? せ〜の、」

  す〜ぅ  は〜ぁ  す〜ぅ  は〜ぁ  す〜ぅ  は〜ぁ  す〜ぅ  は〜ぁ

「皆様、ご用意はよろしいでしょうか?」
扉を守る兵士に尋ねられ、6人全員で返事をした。
『はい!』
ギギギ音を鳴らし、とうとう扉は開かれた。『きれいにハモった』と感動しあうかわりに、横一列で足並みを揃えて入室した。


「お母様、お父様、 た、ただいま帰りました」
 というケイの挨拶を合図に、6人は頭を下げた。女性の静かな声が響く。
「顔を上げなさい」
 顔を上げたミホの目の前には、金髪の美女が座っていた。昨夜マナが着ていた、空色のドレスと銀白のティアラを身に着けていることから、彼女がアエモノ王国の王妃で、声の大きさと方向から、先程の声の主であることを理解した。
「コホン……本題に入る前に、確認しておきたいことがあるのですが……」
 王妃の隣にいる国王の一言に、ミホはギクッとした。まるで漫画のように、顔が引きつってしまった。


「……王国出身でない人は……」
「……はい、私です」
 ミホは小さな声で、だがはっきりと返事した。同時に、顔の近くまで恥ずかしながら手を挙げた。王妃と国王、更には、玉座の近くに控えた側近の注目が自分に集まっていると彼女は感じた。
「出身地、名前、特技、その他必要なことを述べなさい」
(王妃様!! 『その他必要なこと』って何ですか!?)
 ヒロの叫びは口の中で寸止めされた。突っ込む相手が高貴すぎる。また、ミホは冷や汗を流しながら、脳内でこう呟いていた。
(なんだか、面接みたいだなぁ)
が、彼女は一呼吸おいて、質問に答えた。

「はい。日本国出身のミホと申します。この国に来て、一応霊能者の力を授かりました。でも……」
「でも?」
 クエスチョンマークを突きつける王妃の視線がきつい。目を見て答え続けるしかない。
「でも、オバケ……霊体恐怖症です……」
 部屋の中が凍りついた。この事実を知らなかった人々の、心の声は一つだけ。
((霊体恐怖症の霊能者は、本当にいた!!))

 気を取り直した国王が次の質問をした。
「ゴホン……どのようにしてアエモノ王国に来たのですか?」
「は、はい…… 一言で申し上げますと、アエモノ学園の学園長先生に呼び出されました……具体的には……」
「もういいでしょう。彼女は嘘をついていないと感じました」
 返答を遮ったのは王妃だった。
「感じました…………って王妃様!! 彼女を認めるとおっしゃるのですか!? 彼女を警戒せよとおっしゃったのは王妃様、貴女ではありませんか!? ……あっ、申し訳ございません……」
 側近も忠告するのに必死であることが伺える。王妃も負けていない。
「これは学園長と話をつけていることです。本当に呼び出されない状態で、さっきの言葉を私の前で口にすると、『ウソつきの報復』が発動する仕組みです」
国王が言葉を継ぐ。
「つまり、『報復』が発動していない彼女は、我らの味方ということだ」
全く話についていけず、そのうえ空腹でポカ〜んとしている6人に、王妃がにっこりと微笑み、こう言った。
「お腹がすいたでしょう? 別室で朝食をとりましょう」
6人とも(特にミホ)が、涙を流して喜びたい気分だった。


 自己紹介を終えて、彼らが最初に発した言葉は「いただきます」だった。朝食を懸命に食べているから仕方ないのである。もちろん、行儀よく。全員の腹が満ちたところで、王妃との会談が再び始まった。

「では、本題に移ります」
『はい……』
「私が手紙に記した『困ったこと』とは……」
『困ったこととは?』
「城の図書室のある本棚に昔から縛られていた霊が、一ヶ月前に目覚めてしまったのです」
「その霊ってまさか……こんな名前じゃありませんでしたか?」
 いち早く事態を飲み込んだリョウがある名前をメモ帳に書き、王妃に見せた。
「ええ……よく分かりましたね……どうして、それを?」
今度は王妃が、事態を飲み込めなくなったようだ。彼は、学園を出てから何が起こったかを簡潔に説明した。

「そうですか、ユリに宿る先祖が、縛られし者の婚約者だったとは……」
「で、霊が目覚めて、図書室はどうなったのですか?」
 相手が王妃だろうと質問した、ミホの勇気に、ケイは感激した。聞かれた王妃は、口にするのはもうこりごりという様子で、答えた。
「その本棚は、図書室の真ん中にあります……入り口に近い場所にいれば害はありませんが、奥にある本を取りに行こうとすると……あの霊の魔力で通れなくなるのです…………どんなに優秀な霊能者や専門家に頼んでも、事は解決しませんでした……」
こんなに沈んだ母の顔を、ケイは今まで見たことがなかった。
「……あそこには、古文書とか、国に関わる貴重なものが置かれています……夫と私がここまで国を治められたのも、国民や城で働いてくれている人たち、そして本のおかげといっても、過言ではありません……」
「大事が起こった場合、解決できなくなる恐れがある、ということですよね……」
 マナが結論を予想し、述べた。王妃は、こっくりと頷いた。
「そうです……。 さあ、図書室へ参りましょう」

後書き

最終話が近いのに高校生活が始まるので、続きの駄文を書く暇が失われつつあります。
ですが、暇を見つけて頑張ります!
現在よりも時間が掛かることが予想されますが、今後ともよろしくお願いします。

この小説について

タイトル 6 緊張と空腹との闘い
初版 2008年4月6日
改訂 2008年8月27日
小説ID 1995
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作家名 ★メリエリ
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