鬼姫 - - 鬼の子 -

ライン
俺が彼女と初めて出会ったのは、

まさに最悪の場面だった。


彼女の回りを取り囲む、
イカツイ顔をした不良共。
その中心に堂々と立っていた彼女に、
俺は、
心底イカレちまった・・・。



それはある夕方の出来事。
俺、天見 弁慶(あまみ べんけい)は
非常に厄介な場面に遭遇していた。
不良達との喧嘩を見つけてしまったのだ。

「(ッチ、ありゃ東部校の奴らだな・・・。
 相手は誰だ?北部、いや中部か・・・?)」

俺の覗いている角度からだと、
背中を向けている北部高校の連中しか見えなかった。
しかし、見るからに大群衆。
その数、およそ100。

「(あの数、ただ事じゃねぇ・・・。
 やっこさん、戦争でもおっ始めるつもりかい)」

この地区には、東西南北、加えて中部の
五つの高校が拉ぎ合っていた。
皆、対立し、抗争もしばしばあった。
だが、それにしても異常。
相手側はどれほどの大群衆なのだろうか?

「(ウチの学校じゃねぇことは確かだが・・・
 へへっ、相手の学校を拝ませてもらおうじゃねぇか。
 何処のどいつ・・・・・・・っ!!!!!)」

弁慶は、言葉を失った。
相手をしている側の正体を見て、驚愕した。
東部校の不良、約100人を相手にするは
ただ一人の少女。
銀色の長い髪の、制服を着た、いかにもか弱そうな少女。

「う・・・・嘘だろ・・・・」

この時弁慶は、驚愕と共にとある感情を抱いていた。
興奮、溢れるばかりの高鳴る鼓動。
少女を見つめる度に加速する心拍数、
そう、恋心だった。

「(ッチ!俺もはぐれ者だが、立派な不良。
 助けてぇのは山々だがぁ・・・)」

しかし、弁慶は震えた。
少女を助ける正義心を邪魔するのは、
圧倒的な恐怖。
勝てるわけがない、いや、負けるだけなら良いのだ。
この数を相手にして、生きれる保障が無い。
そのことを想像すると、自然に手は震えだし、
飛び出そうとする足もすくんでしまった。

「(殺される・・・確実に、殺される!
 奴らの顔を見てみろ・・・いかにもブッチ切れてる。
 しかも手には武器・・・。
 キレた奴は、何をしでかすかわかったもんじゃねぇ)」

相手の顔は、遠くから見ても怒顔。
顔を真赤にして、今にでも爆発してしまいそうだ。
怖かった、単純に怖かった。
何もしていない弁慶すら、恐怖する。
見ているだけの、第3者の弁慶すら震えるその場、
だが、しかし・・・。

「(な、何でだよ・・・。
 何で・・・何でオマエは怖くねぇんだ!?)」

当の本人、少女は冷静。
震えない、まったく震えない。
いや、その姿はまさに、全校朝会を退屈に
立ちながら聞いている者と同じ気配すらする。
この場を、退屈だと思っている?
死が怖くないのだろうか。
弁慶は困惑した。

「(アイツ、自分の状況がわかってんのか!?
 死ぬのは自分なんだぞ・・・!)」

勝手に困惑する弁慶をよそに、
少女は眉一つ動かさず、視線も反らさず、
堂々と、100人の不良の前に立つ。
すると、この重苦しい雰囲気の
口火を切る者がようやく現れる。

「おいコラぁあッ!!!
 ワシらの島に無断で入るたぁ、
 何考えとんじゃぁあ!!!」

「・・・・・・・・・・」

無言。少女、一言も喋らない。
この不良の言葉、対面だけの時に言われれば
さほど怖くない。
だが、後ろに100という仲間がいれば別。
全ての遠吠えが、圧倒的な武器と変わる。
脅しだけでも、十分心臓をえぐられる。
だが、しかし・・・・。

「(分からねぇ、分からねぇよ・・・。
 何でアイツ、平気でいられるんだよ!?)」

少女はさきほどとまったく変わらない。
退屈そうな眼差しのまま、視線を変えない。
常人なら誰でも震え、絶望し、発狂し、困惑し、
おまえけには涙すらする場面で、
少女、動かず。
すると、それを見ていた東部校の一人が口を出す。

「クソ女ぁあああっ!!
 耳ついてんのか、ボケぇえっ!!」

「・・・・・」

相変わらず、少女は何もしない。
そのうち、弁慶は恐怖を感じてきた。
圧倒的に、さきほどと気配が違うのだ。
皆、殺気立っている。
このままでは、殺される、少女が。

「(駄目だっ!シカトなんてして挑発してたら、
 アイツら、全員で飛びかかってくるぞ・・・!!
 くそっ、どうすりゃぁ良い・・・!?)」

まさか、少女がスーパーマンでもあるまい。
不良100人を相手にして一人で勝てるほどの
実力でないことぐらい、弁慶でも分った。
それは漫画やアニメの出来事。
現実は違うのだ。
冷汗垂らして打開策を考えていると、
何もしなかった少女の口がゆっくりと動き出す。

「・・・・・・ククッ・・・・」

「(?・・・・あの子・・・・
 喋った・・・・・?)」

「・・・・・・もう駄目ね・・・・・
 生きて価値無しの、死んで猿以下ばっか・・・・・」

「なっ!!!!!!!」

弁慶も、そして少女を取り囲む不良達も
一瞬虚を突かれる。そして次の瞬間、噴き出す。
マグマの如く、豪音立てて、怒りという
火が、辺りを真赤に染める。

「こ、この女ぁあああーーーーー!!
 ブッ殺す!!ブッ殺してやるっ!!!」

「ただ済むと思うなよ、クソ女ぁああ!!!」

「・・・・・ククッ・・・・・・」

馬声と、異様な殺気が辺りを取り囲む。
不良達は怒りまかせに騒ぎ立てるだけだが、
弁慶はその突然のことに、
まったく動けなかった。
違う、これは少女に圧倒されただけではない。
少女の度胸に度肝を抜かされたのも事実だが、
それ以上に感じたのは・・・。

「(な、何だよアイツ・・・
 何言ってんだよ、この雰囲気で・・・
 マジかよ・・・正気じゃねぇ・・・・
 凄ぇ・・・・・・凄ぇよ・・・・・・
 イ・・・・イカスぜぇ・・・・・・・・!)」

こんな場面で、弁慶は完璧に惚れた。
まさにライオンの群れの中で、
ウサギが「捕まえてみろ」と言ったようなもの。
その度胸に、愚かさに、そして、勇気に、
弁慶はメロメロだった。
すると、少女は初めて手を動かす。
何かを持っているようだ。
それは・・・。

ピッ、ピッ、ピッ・・・・プルルルルッ

「あぁーん?ププッ・・・
 アーッハッハッハッハッハッ!!!
 見ろよ、オマエらぁあ!
 このクソ女、今頃ビビって警察に電話してるぜぇ!!」

「ハハッハッハッハッハ!!
 ダッセェー!!」

「何が猿だよぉ!
 テメェもビビってただけじゃねぇか!!」

何と、少女はいきなり携帯を取り出し、
電話をしだしたではないか。
無論、こんな状況下。
警察以外にかける宛てなど無いことは誰もが承知。
しかし、弁慶はそれに焦った。

「(バカ野郎っ!!ここから警察署は片道30分!
 すぐに警察は来ねぇ・・・・!!
 それどころか・・・やっちまった!!
 アイツ、ついにキッカケを作っちまった!
 東部校の奴ら、警察が来るまでに
 あの子をボコるに決まってる・・・!
 まさか、拉致ってことも・・・!!)」

そう、これは最悪の行動だった。
少女がここまで生き残れたのも、
不良達の気まぐれな躊躇のおかげであった。
言いなおすなら、少女の強運。
だが、それを少女は自ら踏みにじった。
警察に電話したならば、
不良達はもう、容赦しない。
確実に、襲いに掛かる。
泣き叫ぼうが、謝ろうが、何をしようが・・・。

「ケケッ、もう容赦しねぇ・・・。
 俺達も警察が来るまでにやること
 やっとかなきゃなぁ・・・・・!」

「・・・・・・逃げる・・・・・」

「あぁあーーー!!?
 何んか言ったか、クソ女ぁっ!!」

「・・・・・・・逃げるだけ・・・・・・。
 もうアンタ達は、無様に退路を這うだけ・・・・・
 ・・・・・・・ククッ・・・・・・・」

「な、何だとぉおお!!?」

少女の、無謀とも思える挑発。
何と、自分が追い詰められているのに
不良達が自ら退散すると宣言したのだ。
だがこの言動、弁慶は逆手に見た。

「(うまいっ!!!
 一見、下らない、いや情けない
 遠吠えに聞こえるが・・・・違うっ!!
 この言葉は言わば幻惑っ!
 奴らに良からぬ事態を想像させるための罠!
 これで時間を稼げれば・・・!)」

弁慶の考えは、理に適っているように見える。
だがそれは結局のところ理想論。
1対100の場面で、そんな危機感を
生み出す者などいない。
それどころか、さらに火に油を注ぐ結果となる。

「誰がそんなこと信じるかよぉ!
 もう容赦しねぇ。やっちまうぞっ!!!」

「(だ、ダメだっ!!
 やっぱり今の奴らに脅しは効かない・・・!
 こ・・・・殺される・・・・・!!)」

「・・・・・・・・・・ククッ・・・・・・」

・・・・・・・・

・・・

・・・・ウゥー、ウゥー・・・・・

それは、女神の奏でる音色だった。
その音に、皆が動きを止めた。
弁慶も、不良達も。
その音の正体は、「サイレン」。
だが、警察ではないのだ。
このサイレンの正体は・・・・。

「(お、おいおい・・・・
 何で・・・・・な、何で・・・
 消防車や救急車がこっちに来るんだぁ!?)」

その正体は、消防車、救急車だった。
それに加え、音が近づいてくるではないか。
何と、消防車達はこちらに向かってきているのだ。
この時、弁慶は悟った。

「(ま、まさかっ!!!
 あの少女、消防局に電話していたのかぁ・・・!?)」

「こ、この女ぁあ・・・・!!」

「(凄ぇ!!遠距離の警察を捨て、近くの
 消防局を選んだ発想も素晴らしいが・・・
 褒めるべきは、その神経っ!!
 あの状況なら、誰だって警察を考えるっ・・・!
 ましてや、消防局なんて脳裏にもカスめやしねぇ!
 凄ぇ、凄ぇよ・・・・!!)」

「ッチぃ!!
 構わねぇ!!車が来るまでに・・・・!!」

「っ!!!(ダ、駄目だっ・・・・!!
 所詮は通報っ!車の移動っ!
 瞬時に来てくれないのが痛手・・・・・!
 駄目だっ!殺される・・・・・・!)」

消防局に電話をしていた少女。
だが、この素晴らしい発想も無駄。
不良達は消防車達が来るまでに、
少女を痛めつけようとする。
だが、終わらない。
少女が起こした奇跡は、まだ終わらない。
弁慶はその後、震えるほどの奇跡を目の当たりにする。

「パパァー!救急車だよー!」

「あらぁ、奥さん。
 消防車だわぁ、何処か火事なのかしら」

「嫌だぁ、こっちに来るわよ。
 何処のお家かしら?」

ザワザワザワザワッ

「(あ・・・・あぁああ・・・・・
 あぁああああああーーーーーーっ!!!)」

弁慶、雷に打たれたように、悟る。
そう、少女の一番の狙いはこれだったのだ。
消防車のサイレンを聞いて、辺りの
家々から、次々と人々が出てくるではないか。
不良達の顔色が、一気に青冷める。

「か、頭ぁあ!!
 ヤバイっすよ、こんなに人がいちゃぁ。
 顔見られたら、お終いっすよ!?」

「っぐ・・・・・・!!
 ち、ちきしょう!!
 おまえら、逃げるぞぉっ!」

不良達は、くやしそうな顔をしながら
その場から去っていく。弁慶は、動けなかった。
あまりの衝撃に、動くことすらできなかった。
不良達を凌いだのもそうだが、
宣言通り。少女の言った遠吠えが、まさに予言となったのだ。

「(消防車すら、囮だったってのか・・・?
 本当は、ここら一帯の住民を外に出させることが
 目的だったってのかぁ・・・!?
 ば・・・・化け物、かよ・・・・・・!)」

高鳴る鼓動を抑えきれないまま、
再び、弁慶は少女の方を向いた。
だが、そこにはもう、少女の姿は無かった・・・・。

後書き

初めまして、ラインと申します。
文章は長めですが、
読んで頂ければ幸いです。

この小説について

タイトル - 鬼の子 -
初版 2008年4月27日
改訂 2008年4月27日
小説ID 2055
閲覧数 1041
合計★ 3
パスワード
編集/削除

コメント (2)

★メリエリ コメントのみ 2008年4月28日 18時57分18秒
初めまして メリエリと申します。
自分は初め、鬼姫という題を見て、少しビビりました。
でも、少女の作戦が分かるうちに、かなりわくわくしてきました。弁慶の心の声も、読み応えがありました。
乱文失礼しました。
★エーテル 2008年5月4日 0時34分51秒
影で一部始終見物している 主人公の焦りと複雑な気持ちが良く伝わってきました。
ストーリィの最初から繋がっている何の伏線もなく その後にやや引きずって入るもののあっさりとしたピリオドに
潔さを感じました。
こういった世界観もいい気がします
名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。