ボイジャーガール - 11 太陽系最後の日

題11話  太陽系最後の日

ルシファー太陽に異変が発生して以来、早いものたちは二ヵ月後から太陽系外へと脱出する船に乗って母なる恒星系に何の未練もなく旅立っていくものたちは続出した。
富豪などのお金持ちは個人の宇宙船で、財閥の団体は都市規模の宇宙船で自由に太陽系外へと旅立って行った。
人類は、大統領の声明にもあったとおり脱出すべく目的地はあえて制定されていなかった。
ただ、ひとつの決まりごとは義務付けられた。 人類としての起源を記したあるプレートを各自移民後ちゃんと大切に守っていくというもので、宇宙に散らばっていった沢山の人たちが移民後何千年経ってそれぞれの起源を忘れることのないようにといった配慮からであった。
移民団一チームに一つづつ特殊金属で加工されて、どんなことをしても壊すことのできない処置が施されていた、そのプレートは人類の全ての人種の平均的身長と同じ直径で、時計のような形をしていて、そこにはもし存在し続けたら標されている地球という惑星の標準時が刻まれ続ける仕組みとなっていた。
金銭的に余裕のあるものたち、富める者たちは容易に早くから特定のグループによって構成された移民団をつくり太陽系外への旅にたびたてたが、貧しきもの、弱い立場の者たちは何のバックグラウンドもなくただ地球へと集中していった。

地球のアフリカという人類生誕の地に、太陽系外へと旅立っていく全ての者たちに手渡された人類の時計記念碑の大元となる地球時計の埋め込まれた聖堂が建造されつつあった。
もし地球が、成功率は低いにせよ太陽系脱出の資本を持たぬ弱者たちとともにうまく地球ごと太陽系外の旅に出ることに成功した暁には永久に散り散りに太陽系外に旅立っていった多くの集団たちの記念碑と同じ時間を何万分の一秒の狂いもなく永遠に同じ時間を刻み続けていくのだ。

あれから一年半、いっぱいに拡張したルシファーは小惑星帯を灼熱地獄に変えていた。
火星もルシファーの軌道にクロスする一部の季節によっては温暖化して一時的には住みやすい惑星に変貌していた。
土星系 それ以降の外惑星はルシファーの公転とニアミスする時期に氷層に融解が発生してそれらと本来の寒冷期を繰り返し環境的にはとてつもなく不安定なものとなっていた。
一部のならず者たちはそういった将来のない外惑星に勝手に入植して将来のことを成り行き任せにもう少しすれば訪れる太陽系最後の日に備えていた。

アステロイドの小惑星の手ごろな大きさのものはうってつけの外宇宙への移民の拠点となっていた。アステロイドベルトの既存の大きな施設基地 都市型宇宙基地などは5000以上の数がルシファー異変一年後以内に太陽系外に旅立っていった。
太陽系から活気が消えていった。 太陽系消滅半年前の現在、今現在太陽系に残る人類の数は元々の半数にも満たなかった。
太陽系脱出計画は順調に進んでいた…。


遠くにはキリマンジャロの山が広がる、辺りは緩やかな丘に草原が広がる空気の澄んだ場所でトゥイリーとロジャーは敷物の敷いてバスケットにはいっぱい詰まったサンドウィッチとコーヒーを楽しんでいた。
トゥイリーは自分で作ったサンドウイッチを自分で食べてしまうよりはたっぷり恋人のロジャーコーラガンに楽しんでもらうほうがよいらしく一切れ食べるとコーヒーばかり咽を通していた。
遥か上空を眺める…透き通った青い空だ
…ついこのあいだまで落花生の殻のようなスカスカとなってしまった月を眺めることができたが、あの月もひとつの宇宙船として改造され30億人の人間を乗せて太陽系外に旅立っていった。
今、地球の空を覆っているのはかつての月とは比べ物にならないくらい派手なシルバーホワイトの巨大なリングだった。 すっぽり地球を包み込むように建造されつづけている巨大なリング状の建造体は地球自体の推進力ともなる重力加速を与えるシステムプラントとなる予定だった。
建造は80%完了していた。 システムのテストは直接旅立ちのときに行われる手はずとなっていた。 もしシステムの失敗は、太陽系外に移民していく何のコネも持たない権力もお金も持たない最後の手段として地球に集まってきた60億の人口の運命さえ握っていた。

何の工業的束縛を逃れた地球は、本来の自然の美しさを取り戻していた。
トランバーチームのエネルギー鉱からのエネルギー抽出技術はそのまま地球の重力推進システムに必要な莫大なエネルギー取得目的のみに開発が行われてきた。
地球自体半年後の太陽系脱出に備えて地下に居住プラントが建造されつつあった。
トラスリング衛星による重力推進システムによって出発時には地上表面はとてつもなく強力な負担がかかることは明らかだった、地球にとてつもない負担をかける、 そうしてでも地球自体を宇宙船として使うことには意義はあった。
地球がもし重力推進システムによって旅立ったとき 出発時の加速で進行方向表面に存在している建物や地形は重力の加速により押しつぶされる。
逆に加速方向と逆の地表に立ち並ぶ建物や地形は大気圏外へと弾き飛ばされるだろう…問題はそれらの境界に位置する地域だった。 それらは未知数だった。
それらの地域は赤道直下に位置していた。 アフリカもその一部だった。
計算によると南極が進行方向となり、地球は南十字星方面に向けて太陽系外への旅へと出る。
地下居住プラントは元々地下交通システムの中継点のミリノイエ ワン など地下に築かれた施設の拡張工事から始まっていた。
既に地球上の自然区域の動物たちは人類の強制的な指示によって地下の居住エリアへと誘導し終えていた。
アフリカ象もキリンも居なくなった寂しく静かなアフリカで ロジャーとトゥイリーはつかの間のデートを楽しんでいた。
長いキスを交わした後二人は遥か上空を見上げていた。 もう半日もすればトゥイリーは自分の仕事場である軌道上のリング衛星へと戻っていく。
ロジャーの仕事場は地下の居住エリアの拡張工事プラントだった。 トゥイリーもロジャーも今度はいつ会えるか予定は立っていなかった。
草原の上でのびをしているトゥイリーを見てロジャーはトゥイリーの身体のラインにどことなく違和感を覚えた。
それは彼女に聞くまでもなくトゥイリーの口からロジャーに告げられた。
地球が太陽系外へと旅立っていく一ヵ月後に、遥か太古に太陽系に訪れた異星人の遺伝子を持つクゥオーターがまだ初々しい14歳の少女のお腹から誕生するのだ。
それはロジャーの子供だった。

「そうだなっ…何にもお祝いできないなぁ…」
「お祝いなんていいわよ…それより歩きましょ」
「そうだっ…記念碑まで行こう…」
「いいよっ」

草原をなめるように暖かいかぜが辺りを包んでいた。
ふたりは記念碑にたどり着くと記念碑を囲むように植えられた七色の花々を好ましく微笑みながらこうトゥイリーはしめくくった。
「もしかして気が変わったでしょう?」
「あたり…」
「この花でキミにネックレスを作ろうと思ったけど、このままここに植えておいたほうがいいと思った。」
「それは正解よ…」
低いジェット音が響いてきた。 フロートカーのような小型のシャトルが遥か後方に着陸した。 リング衛星からトゥイリーを迎えに浅黒い肌のセクシーなカルメンがやってきたのだ。 カルメンは感情を押し殺して仕事に励む性質の女性だった。
本当はロジャーと同じ区画で地下都市整備に明け暮れているジョディーのことが気になっているに決まっているが、カルメンもジョディーもお互いを気にしながら突っぱねあっていた。
きっとストレートに感情を表現できる自分たちのほうがよっぽど恵まれている、ロジャーはそう考えながらトゥイリーとカルメンの乗った小型シャトルを手を振って見送った。


予想だと、旅立っていく地球は太陽系から離れるにつれ寒冷化していくだろう。
強力なエネルギー炉が地球中心に建造されつつあった。 最近の研究でアステロイドで発見されたエネルギー鉱を生成する薬品の合成量産が可能となっていた。 それらを地球の地中で土壌に注入することでエネルギー鉱を意図的に自在に造ってエネルギー源として活用していくことも可能なのだ。

ロジャーはしばらく南へと向けて歩いた。 とめてあったフロートエアカーに乗ると東に向けて走り去った。



衛星リングプラントに戻ったトゥイリーはある区画へ向かった。 彼女にとってとても気にかけている人物に会うために…
そこは病院エリアだった。 生命維持装置にゴテゴテにされながらひとりの老人が眠っていた。 そこにはかつての メシア 総裁 フレデリックメシアその人の横たわる姿があった。 フレデリックの傍には三歳半位のトゥイリーと同じ髪をした幼児がフレデリックを気遣うように寄り添ってその場を離れようとしなかった。
その男の子はトゥイリーが部屋にはいってくるのに気付くとトゥイリーの傍に駆け寄って甘えるような仕草をしてじゃれた。
この一年半、トランバーチームとメシアはこれまでにないくらい協力関係を取り合い一つの事業に懸けてきた。 それはエネルギー鉱の活用による地球の重力推進システムの開発だった。
それと同時に、地球が旅をする目的地についても吟味してきた。 それは長年の メシアの研究で明らかとなった遥か太古この太陽系にエネルギー鉱を埋めていった異星人たちの故郷に向けての旅についてだった、それは南十字星の方角であることは大体分かり始めていた。
多くの太陽系脱出者たちが目的もなしにただばらばらに散り散りに太陽系外の宇宙へと散らばっていく、事実上人類は解体していく、しかし人類の可能性は宇宙のいたるところに拡がっていくのだ。 そしてそのオリジナルともいうべく地球自体の旅の目的地には地球外知的存在との出会が内包されていたのだ。

病床のフレデリックメシアは意識を回復すると十三番目の子供とトゥイリーの手を握って大粒の涙を浮かべた。 やがてこの世を去っていくフレデリックの脳裏に彼の生涯の記憶が鮮明に蘇えっていた。

彼は五歳の時既に自分の手でジェット推進システムを造った。
4歳のとき初恋の三歳年上の親戚のお姉ちゃんに会うために月に向かって自家製のスペースプレーンで単独飛行をしたこと。
十五歳の時、宇宙市民としての資格を取得したこと、その頃宇宙に拠点を置く宇宙国家と呼べるものはどこにも存在していなく、人類の手によって開拓された宇宙のエリアは地球上の権力の構図がそのまま反映されたものであったこと。
フレデリックにとって、宇宙を地球の抱えた権力と戦乱の歴史を引きずったものにしたくなかったこと、それが メシア なる宇宙国家の誕生の背景にあった。
18歳の時フレデリックは財力こそがすべての強みであると認識した。 まずフレデリックが目に付けたのは太陽系外部へ拡大しつつあった開発施設に中央で無尽蔵に手にはいるソーラーエネルギーを木星や土星などへ供給するエネルギーパイプラインのシステム構築だった。
それらパイプラインのプラント建造とそこから得れる莫大な利益が宇宙国家メシアの直接の誕生のきっかけとなっていた。
フレデリックの最初の恋人は地球を賛美する立場に居る女性だった。 彼女は人類が宇宙に出て行くことにことごとく拒否反応を示していた。 そこから来る葛藤、自分の行く末について深く悩んだ青春の日々。 一度は宇宙へ出て行くことを捨て去ろうとしていた若い頃のフレデリックだったが、その頃地球上に再度蔓延していたペストがフレデリックの恋人の命を奪った時、フレデリックには地球そのものに潜むあらゆる事柄にこだわる考え方は捨て去る決心をした。
宇宙での開拓アドバイザー兼何でも屋をその天才的な頭脳でこなしながら35歳でつかんだ宇宙国家メシアの初代総裁としての席。
最初は弱小で取るに足らない組織からスタートさせ葛藤と苦難の日々。
フレデリック自身の利益など全くなかった。 彼のその天才的なエンジニアとしての様々な宇宙アイテムの開発とそこから得れるライセンス料とそして彼自身の無理によって作り出された莫大な借金が初期の頃の メシア の全ての推進力だった。
投げ出してしまえたらと思ったことは数え切れないほどあった。 けれど、何かに取りつかれたようにフレデリックをあまりにも波乱の人生へと驀進していった。
フレデリックは延命処置を施して本来の人間の寿命を遥か超えた年齢を通り越して 宇宙国家メシアの行く末を見守った。
フレデリックに子供はなかった。 フレデリックは一度 かなり高齢になって自分の遺伝子を精子バンクとして提供していた。
能力的にも容姿にも恵まれていたフレデリックの精子は人気が高かった。 しかしフレデリックの冷凍精子は遺伝子を故意に操作してバイオジーンとして実験体の新種の優秀な人体を作ることに唯一利用された。
ルナカーターはフレデリックがかなり高齢になっていたころフレデリックから若い頃採取した冷凍精子で誕生した唯一のフレデリックの遺伝的要素を引き継ぐ個体といってよかった。
ルナカーターは里子に出され、フレデリックは遠くからそれを見守って、ルナカーターの窮地の時には何度も助け舟をその強大なバッググラウンドにチラホラ隠れながら指示を出してルナを助けてきた。
ルナカーターを政治家として進む下地を引いていたのもフレデリック自身だった。
けれど、フレデリックは自分の存在をルナに明かすようなことは一切しなかった。
フレデリックはとにかく遠くで見守りながらルナに試練を与え強い人間として成長することを願っていた。 それがフレデリックにとっての父親としての愛情だった。 フレデリックはルナにとって敵と呼ばれるべき存在としてルナ自身の前に立ちはだかることを父親としての責任だと感じていた。

病床に伏した頃のフレデリックはいつも傍に居てくれるトゥイリーをまるでルナカーターのように思えてならなかった。 ルナカーターはフレデリックの手によってルシファーをああいった状態にしてから、ルナの敵対心はより強くフレデリックに向けられていたしマスコミを利用してフレデリックを名指しで攻撃するようなことはあっても会いに繰るようなことはなかった。
そしてルナカーターは月面を改造した人類史上それまででは最大の宇宙船で30億人の同胞と共に銀河系の中心部へと向けて旅立っていった。

フレデリックが起き上がろうとするのでトゥイリーは肩を貸そうとした。 そのとき十三番目の男の子は室内の重力発生システムのスイッチをオフにした。いくら無重力でも、死を目前にした老人には容易に空間を移動できるものでもなかった。
トゥイリーとフレデリックはリング衛星の窓から遥か眼下にいっぱいに広がる地球を眺めていた。
百歳はとうの昔にこえていた宇宙開発の神フレデリックメシアはトゥイリーと十三番目の特殊クローンに抱きかかえられながら地球を前進で感じながらその波乱の余りにも大きな波乱の生涯を終えた。 ただひとつ太陽系の破壊者としての余りにも大きな汚名を背負って…。


全ては順調に進んでいった。
地球を囲むようなリング重力推進プラントは予定より二ヶ月早く完成した。プラントは地球の重力加速時に地球からはなれ消滅する。
全ての任務を終えて多くの同僚たちと地球の地価プラントに移動してきた頃トゥイリーのお腹はひどく目立つようになっていた。
その数日後地球の重力加速はすぐさま行われた。 チャンスは一度きり失敗の許されないものだった。
地球の発進時 地価プラントは酷く揺れた。とてつもない加速は一週間以上続いた。
それに悲鳴をあげながら60億の人たちは耐えた。
地上の様子は酷いものだった。海水は地球加速時に大気圏外に剥ぎ取られ、全ての山脈美しい景観、地上の建造物はその多くが破壊されたり宇宙空間に砕け散っていった。 地下プラントの至る所で事故も発生した。 一千万人近くの命が発進時の衝撃で奪われた、それと共にその数以上の保護動物の命も失われた。

そんな混乱の中トゥイリーは新たな命を出産した。女の子だった。
新しい時代を告げる新たな命だった。 十四番目の子供…そう呼ばれたその仔はやはりシルバーグリーンの頭髪をしていた。

地球の加速が安定した頃。地球市民の一部分の人たちは一旦地上に出てアフリカのキリマンジャロの麓に作られた記念碑に集合した。
不思議なことにあれほどの大破壊が起こった後でありながらも記念碑は何の被害も受けては居なかった。 当のキリマンジャロ山の形は大きく歪に変形していることを考えれば奇跡に近かった。
地上はとても暗く人工灯なしでは何一つ見分けがつかなかった。 おまけにとてつもない寒さが、氷河が地上を覆いつつあった。
これからますます太陽系から離れて別の恒星系にたどりつくまで静寂と暗闇と極寒地獄は地上を支配する。
記念碑を前に多くの人たちはそれぞれ誓いをたてた。

…これから私達は地下に潜ります、そこで或る者は新世界にたどり着くまで永久の眠りにつき、或る者は活動しながら人類の息吹を後世に伝えていく準備をするでしょう。
いま、この地球に存在する人類は60億です、これは人類が宇宙に旅立っていく直前の世界人口に戻った換算になります。
私たちは宇宙にばらばらに散り散りになっていった多くの旅人のことを思うと、この宇宙の果てしなき拡がりと大きさに愕然としてしまいます。 どうか散らばって宇宙に拡がっていこうとするわたしたち全ての未来に光り輝きあらんことを、 散り散りになった多くの同胞が再びこの記念碑のもとに集わんことを…今ここに願います。

後書き

太陽系最後を描いたSFは世の中に数多く存在していて、読んだ方によっては新鮮さを感じない印象を持たれる方も居ると思います。地球自体が宇宙船として旅をするというのも目新しいものでもありません。
先日、 2001年宇宙の旅の小説版を再読しました。以前読んだときは忙しく、かなり荒々しく読み飛ばしていた可能性もあり、確かにそれは的中していました。
ラストの着想の拡がりはここでも影響を受けた部分です。
何より最終回の12話と特別篇で外宇宙の拡がりを表現して、このシリーズ自体壮大なフィナーレへ持って行きたい創作意欲を2001年の小説を読んでインスパイアされました。

この小説について

タイトル 11 太陽系最後の日
初版 2008年5月3日
改訂 2008年5月3日
小説ID 2068
閲覧数 2219
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エーテルの写真
ぬし
作家名 ★エーテル
作家ID 179
投稿数 38
★の数 72
活動度 6746

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