鬼姫 - -恐怖-

ライン

「あぁん!?
 女を連れてきやがっただとぉ!?」

当然、当たり前の反応である。
ここまでずっと男達のみでこの賭博をやってきた。
故に男性専用という暗黙の了解が成立していた。
だが、それを弁慶は破った。
しかし、弁慶は曲げない。
意思を曲げる気無し。

「関係ない、平等だろっ・・・!
 女が賭博やっちゃいけないなんて、
 それこそ不合理っ!!」

「ッチ!!・・・自分の運命を
 そんな女に賭けるのかよぉ、正気じゃねぇ」

「・・・・ただの女ならな」

「・・・・・・・ねぇ・・・・
 バカやってないで・・・・・おしえてよ・・・・」

「あ、あぁ。まずな、このサイコロを・・・」

反論のキッカケを作ることができない3年生。
よって、しぶしぶ承諾。
その間に、弁慶はこの「大小」のルールと、
自分と相手の点差について説明を行う。
すると、少女をクスっと笑う。

「お、おいおい、笑うなよ。
 これでも俺は退学が懸かってるんだぜ?
 絶望的なのは・・・・」

「・・・・・・ズレてるよ、アンタ・・・・。
 笑うべきは・・・・・アンタの節穴」

「あ、あぁ!?俺が節穴だとぉ!」

少女が考えた論点と、弁慶が考える論点は
まるっきり別次元だった。
すると、少女はテーブルに置いてあった
3つのサイコロを手に取り、
弁慶に見せつけるように、手でイジくる。

「サイコロってね・・・・・
 低能ほどハマり易い・・・・・・
 公平、平等、イカサマなんてできない・・・・ってね」

「な、何っ・・・!?」

「・・・・ククッ・・・・・。
 ズレてる・・・・・典型的、エサの発想。
 今のアンタと同じ・・・・・・」

「ど、どういうことだよ!!
 ちゃんと説明しやがれっ!」

「・・・・・回転・・・・・。
 サイコロは回転を加えることによって、
 ある程度、目を操作できる・・・・・・。
 無論、この場合・・・・3つも使ってるんだから、
 回転を加えられるのは2つが限界。
 でも・・・・・それで十分。
 十分過ぎるほどに・・・・・相手を殺せる」

「な・・・何だって・・・」

絶望、そして歓喜。
こうも表裏一体の感情が一気に噴き出ることなど
無いであろう。
まず歓喜。相手がイカサマを使っていたことが
分ったという、自分の不運でないという一定の安心感。
そして絶望。故に、次戦は・・・。

「ちょ、ちょっと待てよ。
 じゃぁ・・・じゃぁどうするんだよ!?
 次は俺の先行の番だぜ!?
 ・・・・や、やられる・・・・・
 必然的、敗北じゃねぇか・・・・・・!!」

「・・・・・うん・・・・・・・
 だから・・・・・このサイの目に、意味なんてない・・・」

「あっ・・・・・・!!!!」

負けるしかない勝負。
それをあきらめたのか、絶望したのか、
少女、暴挙に。
何も考えずに、いや、
考えもまとまっていないうちに
サイコロを振ってしまったではないか。
弁慶は失神しそうな衝動を抑え、
必死に意識を保つ。
だが、相変わらず、少女は冷静。

「・・・・・2・・・4・・・1・・・
 7だって・・・・・」

「7じゃねぇよ!!!
 もう何してんだよっ!
 これでもう俺は完全な敗北・・・・!
 サイを振っちまったら、もう無駄、終わりだぁ!!
 あぁ・・・俺がバカだった・・・・・
 オマエに頼んだ俺が・・・・・・・!」

「・・・・・ククッ・・・・・・
 そうでもない・・・・」

「?」

「・・・・・この回転には、高度な技術が必要。
 そう、繊細な指の動き・・・・・。
 これを少しでもブラすことができたら・・・
 話は別・・・・・・」

「え、えぇ?
 どういうことだ・・・?」

「・・・・・何か書くもの・・・・・」

「は?」

「・・・・・・出して・・・・
 書くもの・・・・・」

「・・・・っ!!!
 あ、あぁ!!」

少女の突然の申し出に、一瞬呆然とする
弁慶だが、数秒後、その意図を察して
急いで自分のポッケのシャーペンを差し出す。
そう、弁慶すら理解できた。
少女の起こす行動を。

「(そうか、繊細な指の動き・・・!!
 つまり奴の指を動きを鈍らせればいい・・・!!
 どうやって?
 ・・・・簡単だ、"焦り"でだっ・・・!!)」

「・・・・・・ククッ・・・・」

「(今までの結果の記録を描けば、
 奴の出目の操作性はモロ見え、丸裸・・・!
 それで十分・・・・!!
 奴らは焦る、震える・・・・・!!
 イカサマを封じられて、必ず奴らは震える・・・!!)」

そう、これだったのだ。
誰がどう見ても、今までの記録を見れば、
明かなる操作性、イカサマが明るみに出る。
必然的勝利を失った彼らは、焦る。
焦らざるを得ない。
絶対的勝利の勝負しかしていなかったのだから。
弁慶は得意げな顔をして、
少女に小さな紙も渡す。

「ほらっ、この紙も必要だろ。
 へへっ・・・考えたな。
 アンタを誘って正解だったぜ・・・!」

「・・・・・・?・・・・・・
 なに、これ・・・・・・・邪魔」

「え、えぇえ・・・!?
 だって、この紙に今までの記録を・・・!」

「・・・・そんなの、誰が覚えてるの?
 アンタが覚えてるの・・・・?
 それをアイツらが信じてくれるの・・・・?
 ・・・・・・・そんな小細工、無駄・・・・・」

「そ、そんなぁ!!」

少女は、いとも簡単に弁慶の
理論を踏みにじる。
ならばどうやって勝つのか?
いや、この少女は本当に勝つことを
考えているのだろうか。
そんな不安が、弁慶にのしかかる。

「じゃ、じゃぁ、どうやって対処するんだよ!
 相手はイカサマを使ってる!
 それを何とかして暴かなきゃ、
 俺に勝ち目はねぇ・・・・・・!」

「・・・・・ククッ・・・・・・
 使えない脳で考えても無駄・・・・・・。
 アイツらもイカサマしかできない、所詮猿・・・・・。
 ・・・なら、こちらはエサ・・・
 勝機を譲渡し続ければ良い・・・・」

「じょ、譲渡って!!
 アイツらは出目を自由自在に操れる!
 譲渡いぜんに、必然な敗北っ!
 どうやっても勝てるワケ・・・・・・!」

「・・・・・・恐怖・・・・・」

「え・・・?」

「・・・・・・・単純なこと・・・
 相手に恐怖を植え付ければ良い・・・・。
 指先が・・・・繊細な動きができぬほどの・・・・」

「で、でも、そんなこと・・・!!」

「そう、簡単じゃない・・・・・。
 相手に恐怖を植えつけることは・・・・・
 それはつまり、視覚による脅し・・・・・。
 ・・・・相手の心を惨殺させることが必須・・・・」

「?」

弁慶の考えることは一般論。
だが、その一般論を完全に否定する少女。
ならば、少女はどうするというのか?
どうやって「恐怖」を植え付けるというのか?
少女の考えは、まるで想像つかない、
ブラックホール。
我々では辿り着かぬ、圧倒的な境地。

「ククッ・・・・・。
 ・・・それこそ、またたく間の殺戮・・・・・。
 ・・・・・こうするのよ・・・・・・!」

ブスゥウウッ!!!

「ひぃっ!!
 う、うぇえぁああああああーーーーーっ!!」

その場にいた全員が、目を丸くして、
口を大きく開けて、後ろにのけ反った。
3年の一人は絶叫してしまうほど。
それほどの衝撃、インパクト。
少女がとった行動、
それは貫通。
いや、言い方がよろしく無いだろう。
丁寧に説明すると、弁慶にもらったシャーペンで、
自分の右腕の手の平を、
思いっきり突き刺したのだ。

「こ、こ、こいつ正気かよぉ!?
 いきなりペンで自分の手を刺しやがったぁ!?」

「お・・・・おい・・・・・
 おい、何してんだよっ!!!
 大丈夫かよ、早く出血を止めねぇとっ!」

「・・・・・・どう・・・・?」

「え・・・?」

「・・・・・震え始めた、ゆっくりと・・・・・
 ・・・・血という・・・・・
 恐怖の糧を目にして・・・・・・・」

「あ、あぁああ・・・・・・!!」

「ククッ・・・・・・
 ・・・・・奴らには勝機という名のエサを・・・
 ・・・・・・こちらには・・・
 ・・・・必勝を・・・・・」

「(あ、あぁああああああああああっ!!!!)」

それこそまさに、命を賭けた脅し、恐怖。
これは体質的問題。
女性は生理のため、血という存在を身近に感じる。
しかし、男性はその点に弱い。
血という見慣れぬ光景に、簡単に崩れる。
それは、砂山に水をかけるように。
この男たちも例外ではない。
見よ、今にも吐きそうなほどの表情を。
勝機は、着実に傾きつつあった。

「イ、イカれてる・・・・!!
 バカじゃねぇのか、オマエ!!
 いきなり何してんだよ!
 アホか・・・!?」

「(化け物・・・化け物めっ!!!
 素直にそう言えるっ・・・・・!
 まず、称賛すべきは度胸!!
 鼻で笑いながら手を犠牲にする、その大胆さっ!!
 ・・・・まさに人外っ・・・・!)」

「・・・・さて、アンタの番だよ・・・・・
 早く振ってよ・・・・・・・さぁ、早く・・・・」

「っく・・・・!!
 ブ・・・・ブッち切れてる・・・・・・!
 くそぉお!!・・・・・だ・・・・大だぁ・・・・!」

「(それに加え、自分の血と引き換えに恐怖を植え付けてきた!
 言わば、等価交換!
 死神に血を搾りとらせ、
 そして、自分には・・・・・!!!)」

少女の血は、噴水の如く止まらない。
不気味な水しぶき音を立てて流れ出る血に、
3年生は、恐怖を抑えきれなかった。
その恐怖は、脳を通じて体に、
そして体を通して指に。
震える指が生み出す、イカサマ目とは・・・。

「っぐ!!バ、バカなぁ・・・・!!
 この俺が、目を・・・・・!」

「・・・・・・・・ククッ・・・・・・
 出た目・・・・・・2、3、1・・・・・
 私の勝ち・・・・・・・・」

「(自分には、圧倒的なる勝利を!!
 凄ぇ、凄ぇよ、この女・・・・・・!!
 やっぱり、最高だぜ・・・・!)」

逆転。
点差的には逆転とは乏しいが、
この恐怖の植え付けは、莫大なる保険。
勝負は分からなくなった。
この少女の登場によって、
まったく分からなくなった。
常人が描く理想を、簡単に壊すほどの
異端者、少女。
果たして、勝利はどちらの手に渡るのであろうか。

後書き

第4話にして、主人公の名が分からないのも、
また斬新かな?

この小説について

タイトル -恐怖-
初版 2008年5月17日
改訂 2008年5月17日
小説ID 2090
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