<パワーアップ!!>

 もう一週間も春先の長雨が降っている。樹木や草花には恵みの雨なのだろうが、勤め人には、うっとうしいばかりだ。何もやる気がしないから、リョースケの研究所に行くことにした。
 リョースケは町の発明家だ。といっても、ぼくから言えば、彼のお姉さんの手料理には興味深々だが、彼の発明には格別の興味があるわけではない。
 たいていカギがかかっていない研究所の扉を開けて、中に声をかけると、ユキさんが笑顔で出迎えてくれた。
 「今日のリョースケには、気をつけたほうがいいわよ。なんだか妙なやる気を出しているから」
 ユキさんは、石釜を試しているところだからとあとでね、と言い残して庭に出ていった。
 部屋の奥では、リョースケが小さな機械のカバーを開けてかがみこみ、小型のねじ回しでなにやら調整中だった。
 声をかけると、ユースケはやっと気がついた。
 「おお、ちょうどいいお出ましだね」
 「待っていたとは知らなかったね」
 「いや、待っていたんだ。今日はカンが冴え渡っていてね。絶対に来るという予感がしたから、今こうやって装置をパワーアップ中だ」
 確かに今日のリョースケはやる気満々といった感じた。
 「さっそく、と言ってはなんだが、その椅子にかけてくれ。試してみたいんだ」
 「なにも聞いていないぜ」
 彼は、そうかそうかと言いながら、頭をかいた。
 「この装置はアクティベータといってね、人の活動レベルを上げるものなんだ」
 「そりゃいいね、と言いたいところだが、上げてもらわなくていいし、第一、初めての試験台というのはいやだなぁ」
 「大丈夫、ダイジョーブ。自分でもう試したんだ。問題ないし、実に爽快なもんだ」
 「最低限、どんなものか説明してもらわないとね」
 それじゃぁと彼は話し始めた。
 「人が積極的に行動する原動力は何かというのは、今日まではっきりしていなかった。そして、積極性を人にもたせるための教育がさまざまに工夫されたが、うまくいったことはなかった」
 彼は壁に貼り付けた設計図を手のひらでバンとたたいた。
 「研究の結果、実は逆であることがわかった。つまり、人は元来、積極的に行動するものであって、普段はそれを抑制するさまざまな因子が働いているということを、発見したんだ。進化の過程では、人が本来持っている積極性を抑えることと、生き延びる用心深さをもつということが同じ意味だったんだ」
 彼はズバリとぼくのほうを指差した。
 「君のようにね」
 「怠け者になることが生き延びることだという風に聞こえるが?」
 「正しい理解だね」
 「けなされている気がする」
 「絶え間ない進化のおそるべき結果と言って欲しいね。しかし、現代は違う。時代は変わった。人類は過去の抑制の歴史を振り払い、積極的に未来に生きるのだ。そのための発明品がこのアクティベータというわけなんだ」
 「壮大な構想のわりには小さな機械だね」
 ぼくは、雑誌ぐらいの大きさのアルミ製の箱を、ちょっと押してみた。結構、重いらしくびくともしない。カバーが開いているから、中に簡単な回路基板とお手製のコイルがいくつも入っているのが見えた。
 「それじゃ。試験にとりかかろうか」
 彼は、ぼくを椅子にすわらせ、いくつかの電極を頭に数箇所と両手に取り付けた。アクティベータの調整を開始すると、いくつかのメータの針がいっせいに中央の緑のゾーンまで振れた。
 「よし、準備オーケー」
 止めるなら今だろうなと思いながら、彼の顔を見たのだが、それを承諾の合図と取ったらしく、彼はスイッチを入れた。メータの針が右端の赤いゾーンまで振れて、しばらくすると元に戻った。
 「完了。気分はどうだい?」
 「これはいいね。なんというか、実に晴ればれするなぁ」
 スイッチが入った途端、頭の中でパチンと音がして、気分が一変したのには驚いた。
 装置の効果は、即効性があった。
 それからは、大変だった。抑制から解き放たれた人間が二人いると、ちょっとした会話でもお祭り騒ぎのようになってしまうのだ。二人でこの装置の効果はスゴイ。この装置を大々的に売り出そうという話しになって、デザインを変えようとか、価格の設定だとか、パンフレットだとか、どんどん話しはエスカレートし、二人は夢中で話し合った。
 話し声も研究所中に響くぐらい大きくなっていたらしい。
 「ずいぶん楽しそうに、話しがはずんでいるわね。特製のハーブティーを入れたから飲んでちょうだい。石釜で焼いてみたパンもあるから、どうぞ」
 ユキさんが焼きあがったばかりのコーンブレッドをバスケットに山盛りにして、近くのテーブルに運んできた。あたりがよい香りでいっぱいになった。手にとって二つに分けると湯気が立って、出来立てならではのおいしさだ。
 ぼくらは、コーンブレッドを夢中で食べ、ハーブティーを飲み、ユキさんに装置のすばらしさを語り、是非、すぐに試すべきだと力説した。
 「二人がいい例ね」
 ぼくらが長々と話すのをしばらく聞いた後、ユキさんは笑ってそう指摘した。
「さっきから見て、はっきりしているのは、装置の悪影響で、二人とも、頭の大事な仕掛けがゆるんでいるっていうことね」
 ぼくらは、顔を見合わせた。頭が変だって?
 「特製のハーブティーには強力な沈静効果を持たせてあるから、しばらくすると効いてくるわ。落ち着いたら、じっくり反省してみるのはどうかしら?」
 そういえは、膨らみすぎた風船がしぼんでいくかのように気分が落ち着き始めていた。
(おわり)

後書き

すんなりまとまらず難航しました。ストレスなくスムーズに読んでもらうようにするのが目標なのですが、どうでしょうか?

この小説について

タイトル <パワーアップ!!>
初版 2008年5月18日
改訂 2008年11月21日
小説ID 2099
閲覧数 1045
合計★ 4
タールトンの写真
常連
作家名 ★タールトン
作家ID 264
投稿数 5
★の数 4
活動度 783
気軽で、カジュアルな文章書きを目指します。

コメント (3)

涼月 2008年5月18日 19時12分54秒
 読むことそのものは、この作品に関しては苦に思いませんでした。
 ただ、落ちがありません。または弱すぎます。折角あと一歩のところまで来ているのに。
 頭が変だったときの二人がどのくらい変だった(どんな馬鹿なことをしていたのか?)のかわからないのです。最後にユキさんがもう一言どぎつい突っ込みを入れれば面白い終わり方をしたのでは、と思う次第です。
★ビビンバ吉田 2008年5月18日 23時06分38秒
涼月さんと同意見です。
思いつきという割に軸はなかなか良いと思います。
しかしオチが無く、読み終わった時に『あれ、これ読み切りじゃないのか?』と前書きを見返してしまいました。

あと最後の1行に誤字がある為、文章に締まりがなくなってしまってます。更に重箱の隅をつつくようで悪いのですが、膨らみ"すぎた"風船はしぼむより破裂してしまうのでは…。
★タールトン コメントのみ 2008年5月25日 17時33分54秒
涼月さん、ビビンバ吉田さん、コメントをありがとうございます。お二人から的確なコメントを大切にして行きたいと思います。
書き手としての雰囲気がこの一作ではわかりにくいかと思いましたので、数点、連作しました。
ショートショートのような強烈なオチを作る能力はなかなか願っても届かずいつも苦労します。
しかし、溜めていくと体に悪いので、自分いっぱいのところで出しております。不消化のところも多いとおもいますが、よろしくお願いします。
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