りれしょ物語 - 第六話 青空の下で

 ――今日は朝から涼しい。清々しい
 こんな日は学校なんかサボってやりたいが、それで小雪の攻撃を喰らわされるぐらいなら登校してやるさ。
 昨日は本当に疲れた。あまりの疲れに、その後の体育で何をしていたのかいまいち思い出せない。
 村崎の顔にサッカーボールがクリーンヒットした事は覚えてるんだが……ああそうか。サッカーをしたんだっけ。
 登校中そんなことを考えていたら、いつの間にか校門を通り過ぎていた。広くなった校庭のせいで、校舎に着くまで時間がかかる。
 教室に着いた俺は、窓を開けいつもの如く机にだらーっと突っ伏していた。四階だと、風も地上にいるより涼しく感じる。
「剛、おっはよーさん」
 涼風を堪能していると、上から馴染みの声が降ってきた。
 何なんだと顔をずらせば、きれいに整った黒髪を短めのポニーテールにまとめて仁王立ちしている小雪の姿があった。
「……おはよーさん」
「あんたまたダラけてんのねー」
 こんなに気持ちのいい風が吹いてんだ。ダラダラしない方がおかしい。
「昨日も外周終わった後、こんな感じだったわよね」
「あれは急に大きくなったグラウンドが悪い」
「急にじゃないわよ。随分前から先生が言ってたでしょーが」
 あー、そうだったか? そういえばそんな気がしないでもないようなそうでもないような。
「あんたも部活入って鍛えれば、あんなトラック屁でもないわよ。どう、私がやってる部活に入らない?」
「嫌だ。大体、ソフトボールは女子部しか無いだろ」
「練習ぐらい参加させてあげてもいいわよ。私部長だし、顧問に頼んであげる」
「どっちにしても断る! 断るったら断る。意地でも断る」
 そう言うと小雪は、「そう、ざんねん」と肩をすくめた。
 何が残念だ。俺を過労死させたいのかお前は。
「そんな事よりさ、あんた明後日の日曜日、何か用事ある?」
「何だいきなり」
「いいから答えなさい」
「日曜? 何も無いよ。いつも通り暇な休日」
 用事があるといえば、犬の散歩ぐらいかな。いつもサボってるけど。
「なるほど、謎は全て解けました。須藤さん、これはデートのお誘いですね?」
 ここぞとばかりに突然ホームズ帽を被った御堂が現れた。急に出てこないでくれ。びっくりするから。
 ていうか珍しいな、御堂が朝から教室に居るなんて。
「ぬぁ! ちがっ、これはその……」
 徐々に顔を赤く染めていく小雪。まるで本村さんみたいだ。
 ていうか動揺しすぎだぞ。少し落ち着け。
「――小雪拳ッ!!」
 小雪の凄まじい鉄拳が御堂を襲う……寸前で、なんと彼はするりと避けた。
「むっふふふ。貴女が僕に拳をぶつけようとするのは、とっくの昔に推理済みです」
 それ、推理じゃなくて予測では?
 満足そうにふんぞり返っている御堂を、顔を赤くして悔しそうな顔で睨む小雪。珍しい光景だ。
「……おっとそろそろサボる時間だ。じゃあな、本寺、須藤。お幸せにー」
 なんだ、結局サボるのか。
 御堂は教室の時計で時刻を確認するとさっさと姿を消した。俺もサボろうかな。
「あ、こらまて、逃げんなー!!」
 小雪は、御堂が出てった扉に向かって叫んだ。
 出て行く際に見えた御堂の勝ち誇った顔が忘れられない。
「剛、勘違いしないでね! ただ弟の誕生日プレゼント選ぶの手伝って欲しいだけなんだからぁ!」
「分かった分かった、分かったから。とりあえず落ち着けって……」
 先生が教室に来るまで、小雪はずっと俺に言い訳をしていた。


「であるからして、サンドイッチが生まれたのは、この横着な伯爵様のおかげであり、それから数百年経った今も……」
 一時間目の歴史が始まり、先生が延々と眠りの呪文を唱えている。
 ……退屈だな。そういえば村崎がまだ来てない。このクラスはサボりが多いな。
 どうでもいい事を考えながら、俺は窓の外に目を落とした。
 グラウンドでは他クラスの生徒達が外周をしている。
 よく見ると、先頭には本村さんがいた。
 肩にかからない短めの黒いショートヘアを揺らしながらばてた様子も見せず楽しそうに走っていた。
 そういえばあの人の運動能力は小雪並みにすごかったな。
 最後尾には、半周ぐらい遅れている女子生徒二人がいた。
「あれ、煽さんと雛利だ……」
 雛利はもう体力を使い果たしたようで倒れそうによろよろと走っている。そんな雛利を転ばせないように煽さんが支えている。
 小柄な雛利の体格は、グラウンドと割りに合っていないようだった。辛そうにしている雛利の頭を煽さんが撫でている。
「まあ、頑張れや……」
 それからもちょくちょく校庭を覗いた。
 雛利は体力が無いだけでなく運動神経も悪いようで、バトミントンの羽が何度か彼女の顔に激突していた。
 ちなみに、雛利の相手をしている本村さんからは手加減する様子が欠片も感じられなかった。ちょっと怖い。
 人は見かけによらない……その典型だな、これは。


 歴史の授業が終わり、俺は伸びをしていた。
 次の時間なんだったけかな。
「おはよー」
 朝の挨拶とともに俺の視界にツンツンした黒髪の人間が現れた。村崎だ。
「おい、お前遅刻だぞ」
「分かってるよ。寝坊したんだ、見逃せ。そんなことより聞いてくれ」
 村崎は俺の前に置かれている席に着きながら言った。
「昨日の放課後さー、秋ちゃんに会ったんだ」
「ほう、そりゃよかったな」
「ソフトテニス部に入ってるらしくてさ、一生懸命練習に打ち込む彼女の姿を見てると、なんかこう、胸がどきどきするんだ」
 そう言って少し深呼吸をした後、再び口を開けた。
「これって恋だよな!?」
 うるさい。声大きいぞ。
「なになに、恋話? それならこの小雪に相談するといいよ!」
 村崎の言葉を聞きつけて目を輝かせた小雪が割り込んできた。
 他人のこういうのは好きなんだよな、こいつは。
「最初会った時は可愛いなーぐらいにしか思ってなかったんだ。でも今は違う。俺は、彼女が好きだ!」
 傍から見たら馬鹿っぽいぞお前。
「よっ! 男だねーぃ!」
 小雪も一緒に盛り上がり始めた。
「ちょっと静かにしろよ。みんながこっち見てるぞ」
 俺は二人を抑えようとするが、全く聞いてないようで騒ぎ続けている。
 やめてくれ。クラスメイトの視線が痛い。
 他人のフリももう遅いかと考え諦めかけた時、複数向けられた視線の中に殺気が混じっているのを感じ、ゾッと寒気がした。
 何処から向けられているのか何となく分かってしまった。それほどの殺気が籠められている。
 俺は殺気の感じる方向へ恐る恐る視線をずらす。
 教室の後方にある扉から、雛利五鈴が驚異的な眼差しでこちらを覗いていた。
 やめてくれ、何故俺を睨む。寒気が治まらないんだが。
 雛利は俺に向けて手招きをした。俺は隣で盛り上がっている二人を一瞥して、雛利のもとへ向かう。
「俺に何か用か」
「おい、あいつが村崎純か?」
 なんだ、大事な親友の想い人をスパイにでも来たのか。
「ああ、あいつが村崎だ。それがどうした」
「あいつの落とし方教えろ」
「落とし方?」
「だから、どうすればあいつがあたしに惚れるかって聞いてんだよ」
 よく分からんが、お前は『どうすれば村崎が雛利を好きになるか』を聞いてるんだな。
 ――あれ?


 今この人は何と言いましたか。


「ひょっとしてお前も……村崎の事を好きで――」
「気持ち悪い事言うな! あたしは、あいつと付き合って、秋にあの男を諦めさせたいんだ!」
 即否定する雛利。村崎、気持ち悪いだとよ。
 えーとつまり、お前は『雛利と村崎が付き合うようになれば、本村さんは村崎を諦める』と言いたいんだな。
「でも、なんで?」
「あんな安っぽい男を、大事な秋の夫にして堪るもんかって事だよ! それぐらい分かれ!」
 お前は本村さんの父親か。

 俺はしばらく考える。
 これを断ると後が怖いのもあるが、雛利の言う事にも一理ある。
 だが引き受けると本村さんと村崎の恋を邪魔せねばならなくなる。そんな事、決してしたくない。
 さて、俺はどうすればいいんだろうか。
 御堂でもいい。誰か教えてくれ

後書き

結構考えました。本寺と村崎の名前。
本寺剛(つよし)
村崎純(じゅん)
やっぱり無いと不便ですね。名前。

次の方は梨音さんでお願いします。
これからどうなるか、楽しみです!

この小説について

タイトル 第六話 青空の下で
初版 2008年5月19日
改訂 2008年8月6日
小説ID 2106
閲覧数 941
合計★ 6

コメント (3)

匿名 2008年5月19日 22時27分44秒
え?次 私なんですか?
こんばんわ。梨音です。
本当に急展開ですね。ツンデレみたいな小雪ちゃんに、雛利の爆弾発言。
雛利の体力皆無なところはイメージぴったりです。
これに続けられるように頑張ります。
★日直 コメントのみ 2008年5月20日 18時44分30秒
コメントありがとうございます。
本村秋が運動部という事でギャップを持たせてみたのですが、イメージ通りで何よりです。
この急展開に話がどう転がるか、楽しみにしております。
日直より
★達央 2008年6月1日 22時08分20秒
やっと・・・やっと読み終わりましたよ^^

まず、本寺の名前を見てビックリしました!!
まぁなぜビックリしたのかは内緒にしといて(笑)

性格がクールな五鈴にしては大胆発言&行動で驚きながら読ませていただきました。
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