鬼姫 - -指切-

ライン

「イヤ〜ん。
 美穂、また負けちゃったぁ〜」

「へへへっ。
 本当に弱いなぁ、美穂ちゃんは」

ここは、とある小屋の中。
数人の不良達と、一人の女性が
何やら良からぬことをしているようだ。
男達は牛のように息を荒げながら、
熱い視線を女へと向ける。

「じゃぁね、美穂、
 負けちゃったからソックス脱ぐね」

「へ、へへへっ!
 今度はブラだぜ、美穂ちゃん!」

情けなくも、これが男の性。
単純、阿呆、愚か者。
瞬きを忘れ、
ソックスをゆっくりと、つま先から
脱がしていく美穂の姿を観察する男たち。
ソックスの下から現れた
今にも弾けそうなほどの、
生暖かく、果汁たっぷりの果実、
艶やかな美脚を見た男たちは、
もう止まらない。

「何で美穂勝てないのかなぁ〜。
 次はブラ取られちゃうよぉ」

「さ、さっ!!
 早く次のやつやろうぜ、なっ!!」

「うん、良いよ。
 ・・・・でも、ちょっとルール変えたいなぁ。
 このままじゃ美穂、おもしろくなくて
 止めちゃうかも」

「えっ!?
 そ、そんなぁっ!
 良いよ、全然良いよ!
 ルールの改変なんてまるでOK!」

「本当っ!
 わーいっ!!
 ・・・・・・あのね。
 美穂ね・・・・・・・・
 ・・・・・貴方達の指、欲しいなぁ・・・」

美穂の言葉に、場は急激に変化。
だが、男たちの性欲は止められなかった。
果たして、この男達の運命は・・・・・・・。


ここは西部高校。
ちょうどお昼時、生徒達は皆、
友達や仲間と弁当を食べて和気藹々と
していた頃。
現在位置、学校近くの川原。
なぜか天見弁慶は汗だくになって、
鬼姫の前に立っていた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・。
 タ・・・タマゴサンド、
 売り切れる前に買ってきたぜ・・・・」

「・・・・・・・うん・・・・」

完全なるパシリ化。
あの孤高の不良、天見弁慶の落ちぶりを見よ。
今では一人の女性に軽く
操られているではないか。
鬼姫は当然のような顔をして、
ダルそうにタマゴサンドを受け取る。
礼も言わず、
何も感謝せず、鬼姫はパクパクと
タマゴサンドを食べ始める。

「ふぅ。
 けっこうキツかったんだぜ?
 あそこのコンビニの
 サンドイッチは人気だからなぁ。
 4時間目に抜け出さねぇと・・・・」

「・・・・・パクッ・・・・」

「(聞いてるわけねぇよな)」

あれから一週間。
このようなことが毎日続いていた。
鬼姫は弁慶を良いように
コキ使っているとしか思えない態度。
それに乗ってる弁慶も弁慶だが、
それでも不思議に、弁慶はイラつくことは無かった。
同じく買ってきた自分のペットポトルを
飲みながら、思い出したように、
鬼姫に話し始める。

「あっ、そういや知ってるか?
 最近起こってる、指切り事件っての」

「・・・・・・」

「何か知らねーが、
 ウチらの学校の連中も被害にあったらしい。
 どういう経緯かは知らねぇが、
 ギャンブルやらされて、
 指を落とされたらしいぜ・・・」

「・・・・」

「・・・・でけぇ声じゃ言えねぇが、
 その指切り魔がヤクザ連中と関わってるって
 噂もあんだ」

「・・・・・」

「だっておかしいだろ?
 アンタみたいな奴はともかく、
 平気で指を切り落とす奴なんていねぇ・・・。
 つまり、だ。
 その背景にはヤクザがいる。
 故に、強いられた。
 指切りを・・・・・強引にな・・・・・」

淡々と語るにしては
あまりにも残酷で恐ろしい話。
事実、最近ここらでは「指切り事件」と言えば
誰もが知っているほどの事件。
それもヤクザが裏に潜んでいるとするならば、
震えるのは必然。
暗く語っていた弁慶だが、
一変、明るさを取り戻す。

「そこで、だっ!!
 そーいう狂ったギャンブルなら、
 アンタの出番ってワケだ!
 どうよ!?
 俺とアンタで、
 その指切り魔をギャフンと言わせねぇか!?」

「・・・・・・パクッ・・・・・。
 ・・・・・・?・・・
 聞いてなかった・・・・・・」

「・・・そ、そうかい、そうかい」

やはり鬼姫。
自分の関心の範囲外のことは、
一切、聞かない、関わらない、記憶しない。
完璧な自己中心的人間。
弁慶は落胆した表情で、残った
ペットボトルを飲みほす。


そして時は経ち、夕方。
弁慶は一人、
悲しげに帰路についていた。
今の弁慶を苦しめるのは
「指切り魔」ではなく、「鬼姫」だった。
どう考えても、彼は
彼女の手の平で躍らされている。

「(はぁ・・・・。
 とりあえず、鬼姫と知り合い以上の
 関係になったのはうれしいが・・・。
 結局のところ、
 知れたのは携帯の電話番号だけかよ。
 しかも・・・・)」

 ・・・・私から掛ける・・・・
 ・・・・・アンタから掛けたら、殺す・・・・・

「(だしなぁ・・・・)」

あまりの絶望的状況に、
落胆するしかない弁慶。
唯一、携帯電話の番号知れたことも、
自分からは電話してはならないという、
圧倒的、不合理。
弁慶でなくても、誰もが不満に思うであろう。
哀愁漂う後ろ姿を見せながら、
トボトボと帰る弁慶だが・・・・。

「・・・ねぇ、ねぇ!
 そこの君ぃ!」

「あぁ?
 (ん・・・こいつの制服・・・・
 東部校の奴か)」

突然、人の声がする。
辺りを見回したところで、
自分と、この声をかけてきた女性以外、
人はいない。
つまり、声をかけられたのは
紛れもなく弁慶、自分。
めんどくさそうな表情をして、
女性の方を向く弁慶。

「私ね、美穂って言うんだぁ!
 美穂ね、今、寂しいの・・・。
 一人ぼっちでね、
 イケないことしちゃいそうな気分なの・・・」

「あ、そうかい。
 病院で見てもらいな」

「ね、ねぇ!
 酷いよぉ、もーっ!!
 ・・・・・・仕方ないなぁ。
 ・・・これで、どう?」

「っ!!」

女性はあきらかに、
弁慶を誘っていた。
だが、ここは一匹狼、天見弁慶。
我々は誤解していた。
確かに彼は鬼姫に関わってからは、
ひ弱、軟弱、馬鹿、間抜け、
その証明しかしていなかった。
しかし、心の底は変わらない。
男としてのプライドは、まったく汚れてない。
そんな弁慶に対し、何と、
女性は自分のミニスカートを
ゆっくりと持ち上げ始めたではないか。

「なっ!!!
 い、いきなり何しやがんだっ!
 見ねぇ、興味ねぇ!!
 消えろ・・・・消えやがれっ!」

「・・・本当かなぁ〜。
 アナタも本当は、美穂の体に触りたいんでしょ?
 サルみたいに
 私の体をイジくり回したい・・・・・ 
 自分のおもちゃにしたい。
 ・・・・そうでしょ?」

「・・・・っく!!
 テメェ・・・・何が言いてぇ・・・!」

「・・・・いいよ、美穂の体、
 アナタの好きにさせてあげる。
 ・・・性欲のまま・・・・
 ・・・・美穂、アナタの肉人形になってあげる・・・」

「(こ、この女っ・・・・!!)」

女性はスカートの下の
パンツをチラつかせながら、
弁慶を誘惑する。
そこらの男なら、もうイチコロ。
言葉だけで言うならば、
並大抵の男なら「引っ掛からない」と
心の中で見栄を張るだろう。
だが、実物を目にしたら、
そんな見栄も簡単にフッ飛ぶ。
むしゃぶりつく、珍獣のように、むしゃぶりつく。
それが男の性。
果たして、弁慶は・・・。

「・・・・・へ、へへっ。
 そいつぁ、良いぜ・・・・・。
 調度、惚れた女にも、
 ゴミ扱いされて、
 ガラにもなく落ち込んでたんだ・・・」

「フフッ・・・。
 そうだよ、忘れちゃいなよ。
 それより、
 美穂と、一緒に楽しいことしよう・・・。
 ・・・裸で抱き合って、
 ウサギみたいにピョンピョン・・・・」

「・・・・・あぁ。
 ・・・・・だがな・・・・
 聞きな、淫乱女ぁ!!
 俺はなぁ、アイツを愛してんだっ!!
 ゴミ扱いされようが、クソミソに見られようが、
 俺はアイツを愛すっ!!
 それが俺の誇り!
 アイツを愛し抜くことが、俺の全てだっ!!」

弁慶、言い放つ。
キッパリ、ハッキリと。
弁慶は真の、男であった。
堂々と言い放った弁慶の表情を、
おもしろおかしく見つめる美穂。
そしてクスっと笑い、
また話し始める。

「・・・そっか。
 アナタには効かないか・・・。
 じゃぁ、直球勝負でいこうかな」

「?」

「・・・・美穂ね・・・・ 
 アナタの指・・・・とっても欲しいの・・・・」

「っ!!!!!!」

弁慶、ここでようやく気づく。
そして、今までの美穂の誘惑が
このために存在していたことを、
ようやく悟った。
弁慶は驚きの表情から、
じょじょに、
笑みを浮かべだす。

「へ、へへっ・・・・。
 化けの皮剥がしてきたかい・・・。
 当然、ギャンブルってんだろ?」

「うんっ!
 負けたらアナタは指だけど、
 勝ったら現金。
 ・・・アナタ、女の子の体に興味無いみたいだしね」

「・・・・・そうとくりゃ、話は別だぜ。
 ・・・・・・いいぜ、やってやる!!
 指切り勝負、受けて立つ!!」

弁慶、指切り勝負を承諾。
何と愚かな男であろう。
さきほど褒めちぎったことも
全て流したいくらいの、
愚かっぷり。
無言で、美穂に連れて行かれる弁慶。
だが、弁慶はニヤリとする。

「(へ、へへっ。
 オメェは知らねぇ・・・
 こっちにはいるんだよ・・・
 オマエの知らない、未知の化け物。
 必勝の勝負を、
 想像つかぬ発想で覆す、
 最強の怪物をよぉ・・・・!!)」

そう、切り札は「鬼姫」。
例えどれほど分が悪い勝負だとしても、
鬼姫なら、鬼姫ならば
どうにかなるかもしれぬ。
そう弁慶は思った。
美穂にバレぬよう、
携帯を使って鬼姫に電話する弁慶。

プルルル、プルルルッ、・・・・ピッ

「あっ!
 鬼姫、俺だ、弁慶だ!
 あの指切り魔を発見した!
 今、そいつと勝負するんだ!」

「・・・・・・・」

「場所はウチの学校の近くの・・・」

「・・・・・だから・・・・?」

「あ、あぁ・・・?
 だからって・・・・。
 アンタなら、勝てるだろ?」

「・・・・・・断る・・・・・・
 アンタの指図は受けない・・・・・・・。
 ・・・・それに、約束破った・・・・・・」

「っ!!!!!!」

弁慶の体温が、一気に冷める。
マズイ。
予想外のことが起きてしまった。
鬼姫が、乗らない。
鬼姫の自己中心的本能が、
弁慶の思惑を簡単に叩き壊す。
焦る弁慶。
声を荒げて必死に説得する。

「じょ、冗談言ってる時じゃねぇんだ!!
 負けたら指なんだぜ!?
 俺は指を取られちまうっ!」

「・・・・・・死ななきゃ良い・・・・・
 指なんて・・・・10本もある・・・・・
 ・・・・・1本無くても、平気・・・・・・」

「なっ!!!
 お、おいっ!!
 頼むよ、おい、鬼姫っ!」

・・・・ブチッ・・・ツー、ツー、ツー

「き・・・・・切ら、れ、た・・・・・?
 (あ・・・・・あぁ・・・
 あぁああああああああーーーーっ!!!)」

弁慶、絶望。
心の中で奇声を上げて、困惑する。
さっきまでの軽快な足取りは、
ドロ沼を這うような足取りに変わる。
負ける。
弁慶程度では、到底勝てぬ。
相手の実力は未知数だが、
今まで何人もの指を切ってきた者。
弁慶もその同類と変わりない。
切る。
切られる。
指を、弁慶は切られる。

そのころ、鬼姫はと言うと・・・。

「・・・・・パクッ・・・・」

のんきにタマゴンサンドを食事中。
鬼姫、やはり弁慶を
助ける気無し。
果たして、弁慶は一人で
美穂に勝つことができるのだろうか。

後書き

ここで一言。
鬼姫は「ツンデレ」というやつではないです。
鬼畜そのものです、後にも先にも。

この小説について

タイトル -指切-
初版 2008年5月30日
改訂 2008年5月30日
小説ID 2162
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