鬼姫 - -奈落-

ライン

快調。
美穂の精密的な体内時計を、
リズムによって利用することに成功した鬼姫。
快調に飛ばす。
そして、順調に賭け金を精算していく。
その反対で、じょじょに
焦るばかりの美穂。

「18回戦結果・・・・!
 私のタイムは、8,97・・・・!」

「・・・・・・6,02・・・・
 私の勝ち・・・・」

「(勝てる・・・・勝てるっ!!
 鬼姫の連勝で、
 狂ってる・・・イカれてきてる!
 奴の自信が、完全に消失してきてる!!)」

事実、美穂は焦っていた。
この勝利によって、
鬼姫はマイナス2万にまで。
残り2戦。
ジャストを出されたら一発で逆転。
逆に美穂が敗北という、
思いもよらなかった展開に。

「(嘘だ、信じない・・・・!
 何で?
 何でこの売女に、私が負けるわけぇ・・・?
 マスターした・・・
 完璧に時間感覚をマスターした私なのに、
 負ける・・・・・?
 敗北する・・・・・・!?)」

「・・・・・ククッ・・・・
 アンタが親でしょ・・・・・
 早くしてよ・・・・」

「っぐ!!
 (こ、このクソ女ぁあああ・・・・!!
 殺す、殺す、ブチ殺す・・・・!
 けど、決定打・・・・!
 必殺的な決定打が無い・・・・・!
 このままじゃ・・・負ける・・・・・!)」

美穂はただ困惑するだけ。
まさか、自分が利用されているなど
考えもしない。
このままで、美穂が勝てる要因は
微塵も無い。
その様子を見て、弁慶は安堵する。

「(へへっ、見ろよ美穂の面を・・・。
 あんな余裕かましてたのに、今はどうだい?
 さっきまでの俺だぜ。
 ・・・・よし、よし・・・・!
 今、マイナス2万。
 あと一発ジャストが出れば引っくり返る・・・!)」

「・・・・っぐぅ・・・・!!
 い、行くわよ。
 19回戦。
 私が親ぁあ・・・・!」

「・・・・・・・待って・・・・・」

「?」

勝てる。
このペースでいければ、
負けるハズがない。
美穂はもうボロボロ。
鬼姫の前にプライドもズタズタ。
勝つしかない勝負。
だが、ここで思わぬトラブル発生。
鬼姫は、じっと自分のストップウォッチを見つめる。

「・・・・・これ・・・・
 電池切れかかってる・・・・・・」

「はぁ?
 ッチ!!!
 変なチャチ入れないでよね・・・!
 わかったわよ。
 そのストップウォッチはそこらに捨てといて!!
 ・・・ほらっ、受け取りな!」

どうやら、鬼姫の使っていた
ストップウォッチの電池が
すでにゼロ寸前のようらしい。
勝負にあらぬ水を差された美穂は、
少し不機嫌そうな顔をして、
嫌々、予備の新しいストップウォッチを
鬼姫に投げ渡す。

「・・・・・・・・・・」

「それは電池満タンでしょ!?
 ったく、
 こんな時に・・・・!
 仕切り直しよ!!
 準備は良い、そこの女ぁ!!」

「・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・うん・・・・・・」

「じゃぁ、19回戦。
 親は私・・・・・スタート!!」

ちょっとしたトラブルはあったものの、
勝負は変わらず続行。
こうして19回戦、始まる。
ラスト直前の勝負。
ここで勝っておきたい。
できるならば、ここで勝っておきたい。
時間がゆっくりと流れる。
そして・・・。

「・・・・ストップ!!
 10秒経ったわ。
 勝負は受けるわっ・・・・!
 私のタイムは・・・・
 ・・・・・・・っく!!」

「(ん?
 どうしたんだ、美穂の野郎・・・。
 言い難そうな顔してやがる・・・・・。
 ま、まさか・・・・・
 まさかっ・・・・・・・!!)」

「・・・・・ククッ・・・・・・
 壊れ始めた・・・・・・
 ・・・・いえ・・・・・・もう、壊れた・・・・」

「・・・・・タ、タイム・・・・
 7,76・・・・・・!!」

「っ!!!!」

失態、大失態。
ここにきて、美穂に大失態。
さきほどのまでの美穂では
考えられぬ数値。
焦っている、焦っている。
美穂は確実に震え始めている。
精密な機械は、完全に故障してしまった。

「(やった・・・・
 やりやがったぜ、美穂の野郎ぉお!!
 ここにきて、大失敗っ!!
 ハハッ・・・・・!
 もうお笑い、笑うしかねぇ・・・・!
 狂ってる・・・・!
 奴の中の精密機械は、完全に狂ったぜ・・・・!!)」

「・・・・っぐ!!
 こ、この私がぁ・・・・・・!」

「・・・・・ククッ・・・・・・・。
 今のアン・・・・・・・っ!!」

「?・・・
 どうしたよ、鬼姫。
 早くタイム言っちまえよ。
 もう容赦することねぇぜ。
 早く勝ち名乗りしてこいよ・・・!」

「・・・・・ク、ククッ・・・・・・・」

美穂の一世一代の大失敗に、
心から喜ぶ弁慶。
数値は7,76。
もう素人の弁慶ですら勝てそうな数値。
これを鬼姫がハズすわけがない。
だが、なぜか鬼姫の顔色がさえない。
そればかりか、
今までにない表情をしだす。
そう、それは鬼姫が初めてみせる、
「焦り」の表情・・・・。

「・・・・ククッ・・・・・・・
 ・・・・・私のタイム・・・・・
 ・・・・・・・5,51・・・・・・・」

「なっ!!!!!
 何だってぇえええーーーーー!!???」

弁慶は叫ぶしかなかった。
いや、この事態に焦っているのはもう一人。
本人の鬼姫。
まさかの鬼姫すら想定していなかった
ことが起きているのだ。
平然を装っている鬼姫も、
心の中では初めて動揺し始めている。
弁慶に至っては、それを体で表現する始末。
タコ踊りのように慌てた様子で、鬼姫に問う。

「ど、ど、
 どうしたんだよ、鬼姫っ!!!
 いきなりそんな数値・・・・・!
 しかも、このタイミングで・・・・・!」

「・・・・・・ククッ・・・・・」

「あっ!!
 そ、そうか・・・・!
 そうか、分ったぞ!!
 鬼姫は美穂の機械的リズムに頼って
 ストップウォッチを止めてきた。
 だが、状況が一変した・・・・・!
 美穂が混乱、狂っちまった!
 だから必然的に、鬼姫も・・・・・・」

「・・・・・・違う・・・・・・
 それは察してた・・・・・」

「え・・・・?」

「・・・・・この勝負は・・・・・
 私の実力でやってた・・・・・・・」

「!!?
 じゃ、じゃぁ、どういうことだよ!?
 何で、何でそんな破滅的な数値なんだ!?」

「・・・・・・やられた・・・・」

「え?」

鬼姫が、ニヤリと笑い、
顔をうつぶせにして動かない
美穂の方を見る。
弁慶にはその意味が分からなかった。
「やられた」という意味が。
すると、珍しく鬼姫が
美穂に話しかける。

「・・・・・ねぇ・・・・・
 ちょっと、外で休憩したい・・・・・」

「・・・・良いわよ。
 ただし、2分。
 逃げたらゆるさない・・・・。
 アンタも指切りだからね」

「・・・・・・ククッ・・・・
 よく言う・・・・・」

「・・・・・フフッ・・・」

「?」

突然、鬼姫から
休憩を求めだしてきた。
弁慶はワケが分からずに
鬼姫に連れられて外に出る。
弁慶が分かってる事実は一つ。
今までに無いほど、焦ってる。
あの鬼姫が焦ってる、
ということだけ。

「ど、どうしたんだよ鬼姫。
 オマエがこういう・・・・
 なんて言うか、畳み込みの場面で
 ミスるなんて、珍しいな」

「・・・・・そんな悠長なことじゃない・・・・」

「あ、あぁ?」

「・・・・・このストップウォッチ・・・
 使ってみて・・・・・」

「え?
 これって、美穂から受け取った
 新しい奴だろ?
 どうしたんだよ、これが・・・・」

ポチッ

弁慶は素直に、
鬼姫に言われた通り、
美穂から受け取った新しいストップウォッチを
使ってみる。
そして、ようやく分かる。
自分達が置かれている絶望的な状況に。

「な・・・・何だよこれ・・・・・。
 おい、何だよコレっ!!!
 俺、確かに見ながら狙ってたぜ!?
 確かに、5秒を狙ってた・・・・・!
 けど、けど・・・・・・・!
 ・・・・4,49だとぉ・・・・・・!?」

「・・・・・・ククッ・・・・・
 やらかしてきた・・・・・あの女・・・・・」

「や、やらかしてきた?」

「・・・・そのストップウォッチ、細工してある。
 恐らく・・・・・ジャストは、出ない」

「なっ!!!!
 何ぃいい・・・・・!?」

「・・・・・そればかりか・・・・
 最悪な数値しかでないよう・・・・仕組まれてある・・・」

「う、・・・嘘、だろ・・・・・」

弁慶は言葉を失う。
何と、新しく受け取ったストップウォッチは
細工済みのものだったのだ。
仕組まれた勝負。
鬼姫さえも、ダマされてしまった。
これからの勝負、
いや、ラスト勝負、勝てない。
このままでは、到底勝てない。

「・・・・じゃ、じゃぁ。
 もう勝てないってことか・・・・?
 このストップウォッチ使ってる限り、
 俺達は勝てねぇってのかぁ・・・・・!?」

「・・・・・まぁね・・・・・」

「で、でもよぉ!!
 これはイカサマだろ!?
 美穂に提示すりゃぁ・・・・・!」

「・・・・・ダメ。
 ・・・・きっと、ヤクザを呼んでくる・・・・。
 武力行使でくる・・・・・
 ・・・・そうなると、もっと分が悪くなる・・・・」

「う、嘘だろ・・・・・
 じゃ、じゃぁ・・・・・・」

「・・・・・ククッ・・・・・・
 さぁ・・・・・どうしようか・・・・・」

「(ま、負ける・・・・・?
 あの鬼姫が・・・・・
 化け物、鬼姫が・・・・・負ける・・・・!?)」
 

後書き

弁慶よ、
鬼姫の敗北の心配より、自分の指をね・・・。

この小説について

タイトル -奈落-
初版 2008年6月27日
改訂 2008年6月27日
小説ID 2272
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