最強女王×最弱騎士 - 第十話 消えない気持ち

 適性検査最終日。とうとうこの日が来たって感じだ。
 でも、俺はこの日知ってしまった。知らなかった過去と、知りたくなかった現実を。



 北凰学園の体育館。全校生徒の集まる中、霧生先輩がマイクを持って言った。

「はーい、静粛に。じゃあ、今から神宮 葵の執事任命式を執り行いまーす!」
「キャアアッ!! 霧生センパーイ!!」

 霧生先輩の軽快な声に合わせて女子生徒の楽しそうな声が響く。流石、生徒会長。生徒の歓喜の声も半端ではない。中には『霧生センパイLOVE』なんて書いたうちわを持っている女子生徒もいる。まるで人気アイドルのライブみたいだ。

「す、すごいですね……霧生先輩の人気」

 俺は素直に感心した。だが、隣でそれを見つめていた天峰先輩が至極冷静に言った。

「そうでもないですよ。ほら、春日さんの名前入りタオル持っている人もいますし、海鶴さんのサイン入り色紙持っている人もいますよ。大抵、生徒会の男子は人気が高いんです」
「は、はは……確かに。俺は、人気ゼロですけど……」
「……これから、人気出ますよ。落ち込まないで下さい」
 優しく励ましてくれる天峰先輩。しかし、それでも他の生徒会のメンバーに比べれば小さく見える自分。

(何気に励まされている俺って…)


 はあ、と深いため息が出る。そんな中、中央に立っている葵さんが見えた。
 何故か、いつもの葵さんらしくなく、元気がないように見えたので俺は後ろから声をかけた。

「……葵さん? どうかしたんですか?」
「…………」
「葵さん?」
「……えっ?」
「どうしたんですか、何か、元気ないですよね」
「あ、ああ……何でもないよ、別に……」






 何かそっけないような気もする。それに、いつもの強気な眼は何だか寂しそうな眼にも見える。俺が心配していると、横からひょこ、とミツル先輩が現れた。

「葵の事、心配なの?」
「え、いや、何て言うか……元気がないな、と思って」
「……今日って何日?」

 ミツル先輩がいきなり聞いてきたので俺はしばらく考えてから答えた。

「今日ですか……? えーと……七月の五日ですけど」
「ああ、そっか」
 ミツル先輩はすぐに納得した。妙にアッサリ納得したみたいなので俺は気になってミツル先輩に聞いてみた。
「な、何ですか? 何か、あるんですか?」
「……聞きたい?」
「そりゃあ、気になりますけど…葵さん個人の事ですし、俺が聞いちゃいけないことなら、別にいいですけど……」
「……葵のことが好き?」





 唐突に、しかも直球に聞かれたので俺は思わず顔を赤らめた。ミツル先輩は前置きがない。でも、こんな質問をされるなんて完全に予想外だ。
 俺は、かなり動揺しながら言葉を濁すしかなかった。
「ええっ!? や、あの……なんていうか、その……」
「葵はさ……多分まだ未練があるんじゃないかな……東条先生に」
「東条先生?」
「僕と葵は出身中学が一緒なんだけど、その中学の体育の先生。葵は中学の時もすんごく強くて、周りの男子から一線引かれている所があってねー」
「はあ……」
「でもさ、東条先生だけが彼女を一人の女の子として扱ってくれたんだよ。周囲の男子は葵に怖がって近寄らなかった。恋もしたい年頃だったけどね。でも、東条先生だけは、違った。彼女を特別扱いしないで、しかも、格闘が強い葵の味方になってくれたんだ。そういう優しくて実直な所に葵が一目ぼれしてさ」
「その先生にですか?」
「まあ、最初から無理だって分かっていたみたいだけど。東条先生には奥さんもいたし。でも、ただ一緒にいたかったってだけだったんだと思うよ。でも、去年の七月五日に、事件が起こった」
「事件って?」
「空手の大会で葵に負けた選手が逆恨みしてさ、帰り道にある橋を渡ろうとした葵を突き落とそうとしたんだ。その時一緒に居た先生が、葵を庇って……亡くなった」
「そんな……!!」
「勿論、襲った選手は逮捕された。事件も何の揉め事もなく終わった。けど……決して癒えない傷を葵に作ったのは事実。今日、元気が無いって事は今も……思い出すんだろうね。あの時の事……」
「……」

 俺は何も言えなくなった。葵さんの過去。そんな悲しい事があったなんて。俺には、どうすることも出来ない過去が。
 悲しげな光を映す葵さんの眼。俺は葵さんを見つめながら言い表せない複雑な思いに駆られていた。

後書き

過去の恋愛って簡単に無かった事に出来ないんですよね。
思いにしても何にしても。
そういう切ない感じを書いたつもりです。

この小説について

タイトル 第十話 消えない気持ち
初版 2008年7月4日
改訂 2008年9月18日
小説ID 2300
閲覧数 857
合計★ 0
ひとり雨の写真
作家名 ★ひとり雨
作家ID 223
投稿数 91
★の数 240
活動度 10590

コメント (0)

名前 全角10文字以内
コメント 全角3000文字以内 書式タグは利用できません
[必須]

※このボタンを押すと確認画面へ進みます。