鬼姫 - -神-

ライン

決着。
全てが終わった。
結果論から言えば、
全ては鬼姫の手の中の出来事。
その掌中に、
美穂も、そして味方の弁慶も踊らされていた。
小刻み震え、うずくまっている美穂に、
鬼姫はゆっくりと近づく。

「・・・・・何バカやってんの・・・・?」

「ひっ!!!」

鬼姫は、緩めない。
例え相手が泣き叫び、
渾身の土下座をしようが、
何をしても、
ダメ。
鬼姫の前に、
そんな情は無用。
殺したい時に、殺す。
それが鬼姫。
それを見て、弁慶は静止しようとする。

「お、おい、鬼姫っ!
 ・・・・もう、勝負は終わったんだ。
 今の奴は、完全に壊れちまってる」

「・・・・・演技・・・・・」

「え、演技・・・・?」

「・・・・・・まだ戦える・・・・。
 演技なんてしても無駄・・・・。
 ・・・五体満足の体が・・・・・・・
 ・・・・・演技を物語ってる・・・・・」

「ひぃっ!!!
 わ、分かった、分かったわ!!
 ほらっ、受け取りなさいっ!!」

「・・・?・・・」

鬼姫、容赦せず。
例え子供であろうとも、
この女は容赦しないであろう。
それを察した美穂は、
とてつもない絶望と共に、
一筋の逃れ道を思い描く。
そして、懐から
数枚の万札を取り出す。

「ほ、ほらっ!!
 現金で20万はあるわっ!
 無条件で、譲渡っ!
 だから、だからっ・・・・・・!!」

パシッ!!

「痛っ・・・・!」

美穂は、万札の束を
チラつかせて鬼姫を買収しようとする。
だが、無駄。
鬼姫はピシャッと、
万札を持っていた美穂の手を叩く。
空中に散らばる万札。
そう、
鬼姫は、そんなものに興味なし。
万札よりも、欲しいものがそこにあるからだ。
そう、それこそ・・・。

「・・・この紙キレで、鼻でも拭けっていうの・・・?
 ・・・・・・ねぇ、もっと考えて・・・・
 ・・・・私が欲しいもの・・・・」

「え、えぇ?」

「・・・・・ククッ・・・・・・
 アンタの脳みそから下全部・・・・・・。
 ・・・・それが、真の譲渡・・・・。
 私に対する、正しい譲渡の仕方・・・・・」
 
「っ!!!!
 っひ・・・・あ、あぁあ・・・・・!」

「・・・・さぁ、始めよう・・・・・。
 もっと楽しい勝負にしよう・・・・・・。
 ・・・・・きっとアナタも・・・・楽しくなる・・・・」

「ひ・・・ひぃ・・・・・!
 い、嫌ぁああああああーーーっ!!!」

・・・・・・ギィイイ・・・・

ある一種、暴走気味の鬼姫。
鬼姫も自分を止められなかった。
ただ、興奮に身を任す。
そう、美穂という人間を搾りつくすまで。
だがその時、運命は大きく揺れる。
美穂の絶対絶命のその時、
天は、運命の出会いを授けた。
化け物の暴走を止めるべく、
送り込んだ、言わば刺客。
ゆっくり、ゆっくりと、
小屋のドアが開く。

「・・・・・ウフフッ・・・・
 夜遅く、ごめんなさいね」

「!」

誰も、その気配に気づけなかった。
それは、鬼姫すら。
3人は視線を、ドアに集中させる。
どうやらその人物は、
ドア越しで少し、立ち止まっているらしい。
顔は見えない。
だが、声からして女。
ときたま、風にゆられて、
蒼色が混ざった髪が見える程度。
だがその瞬間、
弁慶は、絶望的な恐怖を感じた。

「あ・・・・蒼色混ざった、長い髪・・・・!
 鬼姫っ!!
 逃げろ、逃げるぞっ!!」

「・・・・・・?・・・・・」

突然焦りだす弁慶。
思い出した、思い出したのだ。
蒼色の混ざった長い髪。
その特徴的な髪に、
弁慶は思い出さざるを得なかった。
その人物は、王。
鬼姫がいるというのに、
弁慶が焦るほどの者。
鬼姫の手を取って、窓から逃げようとする
弁慶だが・・・・。

「お取り込み中、申し訳ないけど・・・。
 ちょっと、お邪魔させてもらいますわね」

「っ!!!!
 (だ、ダメだっ・・・・・・!!
 間に合わねぇ・・・・・!)」

「・・・・・・!・・・・・」

姿を現した、蒼色の髪の女。
まず、目に飛び込んでくるのは
一つの強烈なイメージ。
そう、腕。
その女、左腕が無い。
次に目を向けるは、顔立ち。
繊細で、おしとやか、冷酷だが優しそうな顔立ち。
その女が、ゆっくりと部屋に入ってくる。
急激に、場が凍りつく。
動けない。
誰も、動くことすらできない。
まるで、虎に睨まれた獲物の感覚。

「(・・・・・へ、へへっ。
 マズイことになったぜ、こりゃぁ。
 まさか、この女を目にする時が来るとはなぁ・・・。
 一文字 怜。
 ・・・・別名、神に愛されし女っ・・・・!)」

「・・・・?・・・」

鬼姫は、困惑した。
まずは弁慶の異様なほどの警戒心。
冷汗をかき、
おまけに手の指先は震えている。
なぜここまで恐怖するのか?
そして、もう一つ。
なぜか自分も、動きを止めてること。
この一文字という女性が現われてから、
鬼姫は、固まってしまった。
動けなかった。
凍ったように。
弁慶のささやき声を、聞き続ける鬼姫。

「(高校生にして裏社会に喧嘩ふっかけた
 キレ者・・・・・・。
 それだけなら良い・・・・・
 だが・・・・奴は登り詰めた・・・・
 勝ち続けて・・・・・頂点に立っちまったんだっ!)」

「(・・・・・噂・・・・バカげてる・・・・)」

「(・・・俺だって信じたくねぇ、信じたくねぇよ!
 だけど、本当なんだっ!!
 ヤクザ連中もチビっちまってんだ!
 ・・・・あの女が、神に愛されてるってほど・・・!)」

神に愛されし女、一文字怜。
弁慶は、絶賛。
噂だとは信じているが、
その風貌を目にして、
確信をさらに強める。
だが、納得いかぬ者が一人。
無論、鬼姫。
どうにもうさんくさい。
そんな肩書きばかりの人間など、
五万と見てきたからだ。
二人が多様な想像をしている間に、
怜は震えている美穂の元へ。

「美穂ちゃん、
 こんなに脅えちゃって・・・。
 大丈夫、
 もう大丈夫よ、美穂ちゃん。
 私が来たからね」

「っ!!!
 れ・・・・怜さぁん・・・・。
 怜さぁああああーーーーーーんっ!!!」

「ウフフッ。
 良いのよ、今はいっぱい泣きなさい。
 怖かったでしょう・・・。
 よしよし」

あの美穂が、こうも手懐けられている。
例えるならば、母と子。
イジメにあって泣いて帰ってきた
美穂を、寛大なる母が、
愛しそうに抱き締めるようなもの。
美穂は、子供のように
怜の胸で泣く。
わんわん、わんわん、泣き叫ぶ。
それほど、安心できる。
この怜が来たからには、
鬼姫が例えそこにいようと、
絶対なる安心感があったのだ。
すると、怜はふと、
鬼姫達を見る。

「・・・そこのお嬢ちゃんと坊ちゃん」

「!」

「ごめんなさいね。
 私の後輩が、随分と迷惑かけちゃったみたいで・・・」

「・・・・・」

「もう、この子も反省しているみたいですし・・・
 どうか、ここは堪忍してやって下さい。
 私からも、キツく言っておきますので・・・」

「(っ!!!!!
 な、何ぃいいいいいーーーーー!?
 一文字怜が・・・・
 神に愛されし女が・・・・・
 俺と鬼姫に、頭を下げたぁああーーーー!?)」

鬼姫と弁慶は、
衝撃に身を震わせていた。
何と、
あの一文字怜が、
恥を忍んで、何処ぞやの
チンピラとも分らぬ
弁慶と鬼姫に頭を下げてきた。
その腰の低さに、
二人は驚きっぱなし。
これが、神に愛されし女?
どう見ても、腰ぬけ。
いや、ある意味で完成され切った女性。
到底、噂通りの女とは思えない。

「(す、凄ぇ・・・・。
 あの一文字怜が、俺達に頭を下げた・・・。
 唐突過ぎて、
 何も言い返せねぇ・・・・)」

「・・・・・・ククッ・・・・・
 ふざけるな・・・・・・腕無し・・・・」

「っ!!!!!!!???」

言ってくれた鬼姫。
せっかくの相手の好意を、
完全に踏みにじる言動。
弁慶は驚いたまま、
呆然と鬼姫の表情を見つめる。
そして言われた本人の
怜は・・・。

「・・・・ウフフッ。
 私が無茶を言ってるのは、ご承知。
 けど、この先の勝負に・・・・
 もう意味なんてないわ、お嬢ちゃん」

「・・・・・ククッ・・・・・
 神だか知らないけど・・・・・
 ・・・・所詮は、人間・・・・・・」

「?」

「・・・・・気取るな・・・・・
 私に勝ってないのに・・・・
 ・・・・神を気取るな・・・・・・・」

「・・・あらあら。
 随分と、嫌われちゃったのね。
 ・・・よいしょっと」

挑発する鬼姫。
相手は神に愛されし女。
だがひるまない。
決して、ひるまない。
鬼姫、逆に勝負に誘いこむ。
それに対して、怜は。
怜は、泣きじゃくる美穂に
肩を貸して、
ゆっくりと立ち上がる。
そしてその途中に、落ちていた
ストップウォッチをスクッと拾い上げる。

「・・・・ストップウォッチ、か。
 たぶん、時間止めかな。
 ・・・当たってるかしら?」

「・・・・・・聞くな・・・・・」

「・・・・ウフフッ、かわいい子。
 お名前、聞いてもいいかしら」

「・・・・・・・断る・・・・」

「あらあら。
 嫌われちゃったみたいね。
 ・・・はい、お嬢ちゃん。
 ストップウォッチ、返すわね」

「・・・・?・・・・・
 ・・・・・・っ!!!・・・・」

よく考えると、この怜という女性、
神に愛されし女などという
巨大な誇示を抜かせば、
今の状況から見ても、普通の女性でないことは伺える。
まず、不良の弁慶に対して、
まったく恐れない。
それに加え、後輩の美穂が
泣き叫んでいるという異常な光景にも、
まったく動揺しない。
やはり、この怜という女、恐ろしい。
だが、本当の恐怖を知るのはこの後。
すでに怜と美穂が立ち去った後。
鬼姫は、渡されたストップゥオッチを見つめて、
震えた。

「へ、へへっ・・・。
 案外良い人だな、一文字怜って!
 ・・・ん?
 どうしたんだよ、鬼姫。
 ストップウォッチがどうかしたのか?」

「・・・・・これ・・・・・
 アイツが・・・・・渡してきた・・・・」

「?・・・・・・
 なっ!!!!
 1,00・・・・・!?
 1秒ジャストだとぉおお・・・・!?」

かましてきた。
あの怜という女性、先制攻撃をしてきた。
何と、
鬼姫に渡したストップウォッチを
渡すあの瞬間、
自分で時間を止めていた。
それも、ジャスト。
1秒、ジャスト。
弁慶は感心した様子で、
ストップウォッチを眺める。

「ハ、ハハッ・・・。
 流石は神に愛されし女だなっ!
 まさかあの一瞬で!
 しかも、狙ってたぜ、きっと!」

「・・・・・うん・・・・・狙ってた・・・・」

「さすがに強ぇよ、あの人は。
 助かって良かっ・・・・」

「・・・・・ク・・・・ククッ・・・・」

「?
 ど、どうしたんだよ、鬼姫」

この時、すでに鬼姫は気づいていた。
怜がやらかした、
神業に。
だからこそ、底心震えていた。
弁慶はまだ気付かない。
後に気付くであろう、
一文字怜、
神に愛されし女の、
神掛かり的な力を・・・。

「・・・・・これ・・・・・
 違う・・・・・」

「は?」

「・・・・・このストップウォッチ・・・・
 細工したやつ・・・・・」

「?・・・・・?・・・・・・
 え?・・・・・えぇ?・・・・・
 ・・・・あ・・・・あぁあ・・・・・?
 あ・・・あぁあ・・・・あっ・・・・
 な、何ぃいいいいいいいいいいいーーーーーーっ!!!??」

弁慶、心臓の飛び出る思い。
そして、あらためて目の当たりにする。
これぞ、神の力。
何と、怜が1秒を叩きだしたストップウォッチ、
何とそれは、
細工されたったストップウォッチ。
絶対に、ジャスト数値が出ないとされた
ストップウォッチだったのだ。

「ど、ど、どういうことだよ、これっ!!?
 だってこのストップゥオッチ、
 細工されてあって、
 ジャスト数値はでないハズだろ・・・!?」

「・・・・・ク、ククッ・・・・・・
 神、か・・・・・」

「はっ!!」

「・・・・・・・人外、か・・・・・
 おもしろい・・・・・」

「(やっぱり、神・・・・
 神掛かってる・・・・・・・!!
 一文字怜・・・・奴は、神に愛されし女っ!!)」

もう、認めざるを得なかった。
鬼姫すら、圧倒された。
この奇跡を目の前にして。
一文字怜。
神に愛されし女。
果たして彼女は、
鬼姫達に新たなる嵐を
吹かせる者なのだろうか・・・。


「・・・・タマゴサンド、忘れてないから・・・・」

「ギグッ!!」

後書き

最強の敵、出現。
次回、たまには恋も進めようスペシャル!

この小説について

タイトル -神-
初版 2008年7月11日
改訂 2008年7月11日
小説ID 2336
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