りれしょ物語 - 11話 デートの行方

 テーブルの隅の方から、窓際の男女をジーっと見ている3人組を、怪しいと思わない人はいないだろう。
さっきからジロジロ見られる視線が痛いくらいだ。
「にしても、村崎がね〜」
物陰から2人の様子を見ている小雪が、興味深そうに呟く。
「あんなののどこが良いんだか。村崎に比べたら剛の方がマシじゃない……」
アイツと比べられても嬉しくないんだが……。
そう言おうと思い小雪の方を見ると、小雪は微かに赤い顔で俺の肩を掴んで、
「べっ、別に剛のことを格好良いって言ったわけじゃないからねっ!村崎に比べたらマシってだけだからっ!」
豪快に揺らした。
やべ、マジで気持ち悪い。吐きそう。いや、それ以前に、そんなに騒いだら気付かれるだろ。
「須藤。あんまり大声を出すと怪しまれる」
もう十分に怪しまれてますが?
雛利は雛利なりにフォローをしたらしい(あまりフォローになってない気もするけど)、小雪は見る間に大人しくなった。
「にしても、村崎があんなに可愛い子と一緒っていうのは違和感があるわ……」
それは俺も同感。
珍しく小雪と同じことを思った俺は、素直に頷いた。
 休日ということもあって、店内には幸せそうな顔をした子連れの家族や、(バ)カップルで溢れている。時折(バ)カップル達が俺らを見てクスクス笑っているのはあえて無視しよう。

「雛利。こんなことしてて楽しいか?」
「全然」
 本末転倒じゃねえか。何の為に俺まで付き合わされるんだよ。
コーヒーを片手に2人から目を離さない雛利に、俺は人知れず溜息をつく。
俺はこんなことのために大事な休日を潰しにきたんじゃない。小雪が弟のプレゼントの買い物をしたいからって言ったから付いてきたのに、これじゃあ無駄にしてるだけじゃねえか。小雪のために休日を潰したのに……。
  あれ? 小雪のため?
何でそこで小雪のためになるんだ? 普通なら「小雪の弟のため」だろ? 
俺、ちょっと可笑しくなった?

「あっ、2人が出て行くっぽい。ボーっとしてないで追いかけるわよっ」
 お前は何時からそんなに乗り気になった?
急いで、かつ慎重に席を立った小雪を背に、俺は伝票を持ってレジに向かった。
「何で俺が巻き込まれなきゃなんだか……」
店内に流れるゆったりしたクラシックが、妙に俺の不幸な感じを際立たせている。店内ではしゃいでいる子供はあんなに幸せそうなのに、何で俺は女二人に巻き込まれなきゃなんだか。
「ありがとうございました〜」
店員さんの元気の良い声に、弾かれるように俺は店の外に出た。
「剛、遅い!! あの2人を見失ったじゃない」
 店の外に出た途端、俺を待ち受けていたのは夏独特の暑さと小雪の怒ったような声。別に俺が悪いんじゃんくて、尾行しようとする方が悪いんじゃないか?
そう思ったが、小雪拳を喰らうのは嫌なので黙っていた。
と、そこで雛利の姿がないことに気付く。
「雛利は?」
「追いかけて行ったわ。邪魔して悪かったって言ってた」
おそらく雛利が向かって行ったんであろう方向を見て、小雪はそう言った。陽はちょうど真上にあり、照りつける日差しが肌を焼いていく。こんなに厚いのに平気な顔をしてる小雪が凄いと思う。
「さて、早速買いに行くわよ」
そう言って小雪は、半ば強引に俺の腕を引っ張った。夢と同じ、小雪の白いワンピースが動くたびに軽やかに揺れている。目のやり場に困るんだが……。
 小雪に腕をひかれて歩くと、何だか街の光景がすこし明るく見えた。何だ、小雪効果か? それともあれか? ご主人によって気まぐれに散歩コースをかえられはしゃぐ犬のような気持ちか? 
「どっちも違うと思うけどね」
 まるで俺の思考を読んだかの如く、聞きなれた声がした。
「でも、右だったらでる確率が高いと思うんだ」
「あえてそっちを意識してるってこともあるから。真ん中が良いと思うよ」
振り返った先には、店先のくじびき(らしきもの)に対して真剣に話し合ってる天然が2人いた。幸いというか何と言うか、2人は俺達に気づいていない。というか、周りが全く見えていない。
「御堂。に……煽さん?」
あぁ。小雪にまで見つかってしまった。
興味津々といった風な小雪は、俺に同意を求めるような目で見てくる。そんな目で見られても、俺は何もできません。かくなる上は、小雪が話しかける前に逃げ出すっ!
 そう覚悟を決めて、俺は小雪の手を握った。
「へっ!? つっ剛!?」
「良いから行くぞ」
案の定、事体が飲み込めない小雪は顔を真っ赤にして俺に引かれるがままに歩き出す。さっきとはまるで逆だ。
握った手から小雪の熱が伝わってきて、手持ち無沙汰な方の手が、少し汗ばんだのが分かった。緊張してるんだろうか? 小雪相手に?
「あ、本寺くんに須藤さん」
 神様は俺を助けてくれる気はないらしい。
角を曲がろうとしたところで、何も知らないであろう煽さんが俺たちに手を振っている。流石に無視はできないだろう。害のない人だし(ちなみに、害のある人物:雛利)、何よりあの人を落ち込ませたら仕返しをくらってしまう。
「本寺。今度は違う人とデートなんて、モテる人は違うね」
誤解に決まってるだろうが御堂。さっきのは半分拉致で、今は小雪の弟のための買い物に付き合ってるだけだ。しかも、お前だってモテるんだよ。すぐ隣にお前を想ってくれてる人がいるんだから。
「誰と誰がデート? もう一回言ってみなさいよ」
さっきの発言は小雪の気に障ったらしい。繰り出される小雪拳を、御堂が軽々と避けている。どうせ反射神経じゃなくて推理(という名の予測)なんだろうけど。
「須藤さん可愛いし、本寺くんとお似合いだと思うよ? 自信もちなよ」
凄まじい攻防戦を傍から見ていた煽さんが、何とも癒される可愛らしい笑顔で小雪に諭す。確かに、黙ってたら可愛いよな。小雪も。
そう思っていたら煽さんの癒しオーラに感化されたのか、小雪も大人しくなり小雪拳をピタリととめた。癒し系って凄いな。是非とも毎日うちのクラスにきて俺を助けてほしいくらいだ。
世の中、そう甘くはないけど。
「邪魔しちゃ悪いし、そろそろ行こうか」
キリの良いところで、さり気なく御堂が煽さんの腕を掴む。おいおい。お前、何時からそんなキャラになった?
「あ、うん。頑張ってね。須藤さん」
煽さんも煽さんで、元気良く手を振って俺達に別れを告げた。頑張れってどういう意味だ?
ともかく、まるで嵐が去ったかのような気になった俺と小雪は何も言わずに歩き出した。
 明日になったら御堂に今日の感想を聞いてみよう。そう思ったのは俺だけの秘密。

「で、結局それか」
「何よっ! 弟の喜びそうなものなんてこれしかなかったのっ!」
「はいはい。良いから店の中で叫ぶな」
 綺麗にラッピングされたものを受け取って、小雪は嬉しそうな顔をした。
が、中身を知っている俺はあまり嬉しそうな顔はできない。俺が弟だったらあんまり嬉しくねえな……。
店内で大声を出した小雪に、女子高生らしきグループがこちらを見て、クスクス笑っている。あぁ、今日は笑われてばかりだ。
「あのカップル、可愛いね」
「うんうん。初々しい感じ」
なんて小声も聞こえてきた。うん。俺達を見てじゃないことを祈ろう。そう思って店を出た。
 外は綺麗な夕焼けに染まっている。もしも雛利に巻き込まれたりしなければもっと早くに別れたんだろうか?
「じゃ、帰るか」
そう言って俺が住宅街の方へ歩き出すと、小雪が後ろから俺の服の裾をひっぱった……。
「……剛」
「ん?」
「その……えっと、ね……」
が、小雪はモジモジするばかりで中々言おうとしない。
「今日は、その……付き合ってくれてありがとう!!」
 普通よりも少し大きな声でそう言って、小雪は走り去って行った。
「あっ、ちょっ……小雪の帰り道って、向こうじゃないよな?」
残された俺は、家とは正反対の方に走っていった小雪の後ろ姿を、呆然と見来るしかなかった。

後書き

 雛利は奢らせるだけ奢らしといて、さっさと置いて帰りました。
それは、彼女がツンデレだからであって、決して用済みになったというわけではないのです。気を遣ってあげたのです。
なんて、皆さんなら分かりますよね?

今回は御堂&初音のシーンが非常に楽しんで書けました。
次は達央さんに丸投げしますね(笑)

この小説について

タイトル 11話 デートの行方
初版 2008年8月12日
改訂 2008年8月12日
小説ID 2590
閲覧数 996
合計★ 5
梨音の写真
作家名 ★梨音
作家ID 119
投稿数 83
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活動度 11119

コメント (2)

★日直 2008年8月13日 23時17分49秒
さすが小雪、最後はまんまと逃げましたね。遠回りして帰るつもりでしょうか。
ところで須藤弟くんの誕生日プレゼントには何を買ったのですか?

一応このりれしょ物語ではメインヒロインということになってるのかな。小雪は。
それなのに最近影が薄かった小雪が今回はかなり目立ちまくったので、須藤小雪という登場人物の原案者(?)である僕はかなり満足でした。

さて、次回は達央さんですね。楽しみにしております。
★達央 2008年11月7日 22時49分17秒
私はここからコメントしてないみたいですね><
本当に遅れてコメントさせていただきます。

この後に自分が書いたんだなと思うと、自分の作品が失敗したかなぁと思ってしまいました。
最後のシーンの小雪が逃げる場面なんかはうまくできているし、キャラの役柄もしっかりと固めてきた部分では私も見習うべき点ですね。
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