鬼姫 - -力差-

ライン

現在地、中央地区駅前。
時間帯はおよそ午後7時半過ぎ。
帰宅途中のサラリーマンや、
部活を終えた学生、
夜が仕事場の茶髪の男女達が行きかう。
そんな中に、
あまりにも似合わぬ2人の男女がいた。
それはまさに・・・。

「・・・はぁー、ついに来ちまったか。
 なぁ、鬼姫っ!!
 何で俺を巻き込むんだ!?
 俺、
 サンドイッチ毎日買いに行ってるだろ!?」

「?・・・・・・・
 ・・・・嫌なの・・・・・?」

「当たり前だろっ!!!」

騒ぎ立てるのは、鬼姫、弁慶であった。
弁慶が怒るのも無理はない。
自分が知らない間に、
鬼姫の賭博の相方として決定していたのだから。
それも、危険な賭博。
怒る勢いも、加速する。
だが鬼姫は至って冷静。
迫ってくる弁慶を、
闘牛士のようにサラリとあしらう。

「・・・だいたいなぁ、
 オマエはいつも自分勝手過ぎるぜ!
 今までずっと目をつぶって来たが、
 もう我慢ならねぇ!!」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・なぁ、鬼姫。
 やっぱり帰らねぇか?
 だって東部と中部のイザコザなんて
 知ったこっちゃねぇ!
 無意味な戦いは、
 オマエが一番キライなハズだろ!?」

「・・・・・ククッ・・・・・
 そんなに・・・・・生きたいの・・・・?」

「っ!!!」

鬼姫は弁慶の
いつもと違う態度を瞬時に悟っていた。
そう、ここに来る前、
鬼姫に説明された。
これから行う勝負は、
恐らく「命」に関わってくるやもしれぬ
勝負だと。
普通の人ならば、
それを心の隅で何処か冗談だと
安堵できるが、弁慶は違う。
まず、あの鬼姫が冗談を言うわけがないという根拠。
そして、鬼姫からで会ってからの
危険なギャンブルの数々。
いつかは来ると思っていたのだ。
「命」を張る日が・・・。

「・・・・そりゃ、惜しいぜ。
 こんな場面で、
 カッコつけることなんて、できねぇよ!!
 俺は、
 俺は素直に、命が惜しいっ!!」

「・・・・・・・ふーん・・・・。
 そうなんだ・・・・・」

「そ、そうなんだって・・・・。
 オマエは命が惜しくないのか!?
 無意味の死が、ツラク・・・・・・・」

「・・・・・ククッ・・・・・
 腐るまで命大事にして、楽しい・・・・?」

「!!」

この時、弁慶は
くやしさと共に、圧倒的距離を感じた。
弁慶はまだ一般人。
普通という域を抜け出せていない。
だが、鬼姫は違う。
すでに突出している。
その距離感に、
弁慶はどうしようもなく、劣等感を感じ、
鬼姫を遠く感じた。

「(・・・・やっぱり、会話にすらなってねぇか。
 ・・・それだけ、無駄なんだ。
 そんな質問、
 鬼姫にとってはどうでも良いんだ。
 ・・・・死なんて、恐れることすら
 考えちゃいねぇ。
 ・・・・・やっぱりオマエは遠いよ、鬼姫)」

静寂なインパクト。
やはり鬼姫は、
人外でないことをさらっと言ってのける。
邪魔、どうでもいい。
死ぬことなど、
考える1秒すら面倒くさい。
それが鬼姫。
どうしようもなく、
鬼姫と共に雀荘に歩きだす弁慶。

「・・・それにしても、良いのか鬼姫?
 俺なんて相方にして。
 じ、自分で言うのもなんだが、
 テストの成績だって・・・・・」

「・・・・・命だけ賭ければ良い・・・・
 それが、アンタの武器・・・・」

「へ?」

「・・・・もし、相手が指や、足とか・・・
 ショボい代償を狙っているなら・・・
 ・・・・・奇襲をかけられる・・・・。
 言わば、その狂気が武器・・・・・。
 ・・・・私達の狂気が、奴らの
 勝利の可能性の1%を削れる・・・・・・・」

「うっ!!!
 (あ、相変わらず、
 とんでもねぇ発想しやがるぜ・・・)」

命を賭けること自体が、
すでに戦略。
自分達が勝利を掴むための、
狂気じみた、策略。
そのため、鬼姫は弁慶を相方にしたのだ。
2人は、歩く。
歩いて、歩いて、歩いて。
刻一刻と近づく決戦。
それに近づき、
やはり弁慶。
彼には異変が現われていた。

「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・。
 (くそっ・・・・くそっ!!
 怖ぇ、怖ぇ・・・・・・!
 鬼姫が負けるなんて、
 みじんも思っちゃいねぇ・・・・!
 けど、状況が違い過ぎる・・・・・・!!)」

「・・・・・・たぶん・・・・
 ・・・あっち・・・・」

「(3年生の勝負だって、
 命は助かってたんだ・・・・・!
 美穂の勝負だって、指だけだった・・・!
 けど、違う!!
 今回は命、
 全てを失うっ・・・・・!
 意思・聴力・視力・嗅覚、
 全て、全てだっ・・・・・・・!!)」

「・・・・・?・・・・・
 ・・・あっ・・・・・こっちだ・・・・」

「(それに、
 ヤクザ連中にも恐れられている
 一文字怜を相手にしようとする連中・・・。
 命賭ける勝負して、負けたら・・・
 どんなことをしても・・・・
 俺を殺しに来るっ・・・・・!!)」

鬼姫の能天気な案内など、
まるで頭に入らない。
頭の中は、
恐怖でいっぱい。
負けたら確実に死ぬ。
被害妄想も多少あるだろうが、
大方、正当。
敗北すれば、確実に死。
それだけが、真実、

「(・・・・・・俺は、何でこんなことになった?
 鬼姫を愛して・・・
 だけど、そんなのは無駄なワケで・・・。
 ・・・俺は、何してんだ?
 ・・・・俺は、誰だ・・・・?)
 ・・・・・・なぁ、鬼姫・・・・」

「・・・・・?・・・・」

「・・・・・・俺の命が・・・
 武器なんだよな・・・・」

「・・・・・うん・・・・・・」

「・・・・・・”もの”なのか・・・・?
 俺の命は・・・・」

「・・・・・・うん・・・・・」

「(・・・・・・分かっていた。
 分かっていたことだろ・・・・・。
 なぁ、鬼姫・・・・・・。
 ・・・・・俺はな・・・・・・・)」

弁慶の問いに、
鬼姫は率直に答える。
笑顔、
弁慶はその時、クスっと笑った。
さっきまで恐怖に
まみれていたのが、
嘘だったかのように・・・。
笑顔を取り戻した。
苦笑いにも似た、
つらい笑顔。
すると、弁慶が急に立ち止まる。

「・・・・?・・・・・
 どうした・・・・・・・・?」

「・・・・・・・へ、へへっ・・・。
 そんなに、勝ちてぇかよ・・・・・・・」

「・・・・?・・・・」

「・・・・そこまでして、勝ちてぇのかよ。
 クソが・・・・・。
 ・・・・鬼姫・・・・・」

「・・・・・・・・・
 ・・・・何・・・・・・?」

「・・・・・・便所、行ってくる・・・・。
 良いよな・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・うん・・・・・・」

何と、
ここにきて弁慶が急に
トイレに行きたいと申し出る。
それを、少し考え、
承諾する鬼姫。
「うん」の一言以上、何も言わなかった。
言葉を、かけなかった。
かける言葉が見つからなかった。
脊中を向け、
ゆっくりと、
鬼姫のもとから離れようとする弁慶。

「・・・・・じゃぁな、鬼姫」

「・・・・・・うん・・・・」

それはまるで、
永久の別れのように・・・。
誰の目から見ても、便所では無いことは事実。
そう、
弁慶は逃亡したのだ。
いや、弁慶を攻めることなど、我々にはできない。
常人ならば、
「命を賭ける」と言われた勝負を、
快諾することすらできなかっただろう。
それを、この土壇場まで、
歯をくいしばって、
恐怖をかみ殺して我慢してきた弁慶を、
逆に我々は褒めるべきだろう。
闇の中に消えていく弁慶を、
じっと見つめる鬼姫。
 
「・・・・・・ククッ・・・・・
 ・・・・まっ、あれくらい・・・・・・」

分ってほしい。
鬼姫は、感覚が違うのだ。
弁慶の気持ちが痛いほど分かる者達にとって、
鬼姫の考える気持ちは深海の謎。
死を恐怖しないのは、
鬼姫のみ。
世界は鬼姫のものでない。
それを理解できているか、否か、
鬼姫は一人、
トボトボと歩き始める。

「・・・・・ここ、か・・・・・。
 ・・・・・・・・・・」

ついに到着した、雀荘前。
もう、後戻りはできない。
鬼姫に限って
逃亡などは考えられぬが、
鬼姫もまた、
一度足を止めた。
そして、後ろを振り向く。
そこにはいつも、
誰かがいるハズの後ろを。
すると・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・ククッ・・・・
 ・・・これじゃ、一人しか殺せないか・・・・。
 ・・・・まっ、いいや・・・・。
 ・・・殺せぬなら、死んだ方マシ・・・・」

絶望的状況。
たった一人で挑まねばならぬ勝負。
それでも鬼姫は一人、
雀荘の中に入っていく。
いよいよ始まる、東部と中央の
領地を賭けた一戦。
果たして、
一人となった鬼姫に勝機は
あるのだろうか・・・・。

後書き

さらば弁慶。
君のことは忘れない・・・。

次回、新たなる戦いっ!

この小説について

タイトル -力差-
初版 2008年8月16日
改訂 2008年8月16日
小説ID 2602
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