突如恩返しに現れたアイツ

「………」
俺は、突然現れたこいつをただ見てるだけしか出来なかった。
……こいつが誰なのか。誰か、俺にも納得できる様に説明してくれ。
いや、すまない。一字訂正しよう。
『誰』ではなく、こいつは『何』なのか―……。

それは数分前。
持っているシャーペンが目の前の数箇所空欄のある紙の上を滑る事なく浮いている。
もう一度、横にある字が頭が痛くなる程並んである用紙と、俺の真下にある用紙を見比べる。
だが、結局答えなど出てこない。
ただ呆然と、俺は紙の上に出来ているシャーペンの影を眺めていた。
そう、今はテスト中なのだ。
絶対こんなの好きな奴はいないだろうと断言出来るテスト中なのだ。
もしこれを好きだという奴が出てきたらあれだ、何かする。

とりあえず分かる所をざっと埋め、後はテスト直前までに教科書に齧りついて必死に頭に叩き込んだ単語や熟語などを思い出す。
だが浮かんでくるのは、これから、もしくはもうやったテストの公式や英文のみ。

ははは。本当、何故人の頭はこんなに都合悪く出来ているんだろうね。

周りはもう地獄絵図だ。
目の下に隈を住み慣らせてげっそりやけこそせてるのはまだマシ。
問題はあれだ。
例えば俺の目の前の奴は、吐血してぐったりしながらも「ふふふ」と笑って手をハイスピードで動かしているし、横にいる奴は頭から血の噴水を出し天使の様に微笑みながら、「か〜め〜は〜め〜波〜〜ッ!!!」と叫んでいる

それはそうと、先生まで隈が出来痩せこけた顔で不気味にほくそ笑みながら、どっかの民族の様に踊り狂っているのはどうかと思う。
わかった、先生の苦労はよ〜く分かってる。
徹夜明けでテスト完成させたんですね?
だからいつもの先生に戻ってくれ!!

もっと問題な奴はいるが、一番ムカつくのはあれだ。
絶対にクラスに一人は完璧人間がいるというこの世の理不尽な法則。
実際に斜め横の席を見るとほ〜ら。
規則正しい安らかな寝息を立てて寝ている奴が一人!!

そのまま永眠させてやろうかぁあぁあぁぁっ!!!

ほら、まだ正常な人達はあいつの悪口言ってるよ!
「ちっ、またあいつかよ」
「ムカつく黒縁眼鏡しやがって」
「それよりなんだよあの髪型」
「本人はかっこいいと思ってんだよ」
「まじださくない?ぷぷっ」
「よぉし。これからあいつ無視ろーぜ」
「あ〜、あの頭に無性にシャーペン突き刺してぇ……」

テストが原因でいじめ(殺人未遂)が出てきそうでーす。
まぁその意見も分からなくない。
俺も日頃、ヨガのポーズして骨折ってくれねぇかなあと思ってるから。
バック転して頭蓋骨粉砕でもよし!ってか尚よし!!

おっと、こんな事考えてる場合じゃなかった。
はやくテスト欄を埋めなくては。
だが、勘で埋めていくのにも限界があるものだ。
とうとう諦めて、自己採点してみるとそこそこいい点数だったのでもういいかと机に寝そべった。

「おや〜。そこ間違えてますよ〜」

……変な声が降って来た。

「あ〜、そこもそこも。ここもじゃないですか〜」

恐る恐る、玩具の様にぎこちない動作で顔をあげていく。
するとそこには……。

……何だ、こいつ。

いや、待て待て待て。頼むからマジ待って。
あ〜、これはあれだ。ここ一週間分の疲労感が幻覚として現れているんだ。
うん、そうに違いない。てか絶対そうだって。そうだよね?

俺はもう一度目の前の奴を見た。
やはり、いる。
体育座りで目の前の用紙を円らな瞳でじっと見据えている。

「……あの」

声を掛けるとそいつは顔を上げ、にっこりと笑った。
「あ〜、ご挨拶遅れて申し訳ありません〜。私、消しゴムと申します。以後宜しく〜」

……あぁ、うん、分かってたさ。
でも信じたくなかったという俺の思いはごく普通の人間として当たり前なんだ。
ってか『消しゴム』を何気に強調してたのは聞き間違いか?
よし、それなら負けるわけにはいかない。
俺も負けじと最上級のスマイルを浮かべる。
「そっかそっか〜。別に宜しくしたくねぇよ

「それですね〜」

「おい、無視か?無視なのか?小学生レベルのいじめか?泣くぞ?」

「今回は〜、恩返しに来させて貰った次第なのです〜」

「まず人の話を聞くという事を学んでから出直してこい」

うっせぇな。とっとと黙って恩返しされてろや

命令形になっちゃったよ〜。
この子根は絶対ヤーさんだよ〜。
いや、それよりも……。

「俺、消しゴムに感謝される様な事しましたっけ?」

そう問うと、消しゴムは嬉しそうにパァッと目を輝かせながら手を組んだ。
……一瞬可愛いと思ってしまったのは俺の間違いではないはずだ。

「そうなんですよっ!貴方は僕達消しゴムのカスを捨てずに練り消しにしてくれたじゃないですか!
 消しゴムにとってこれ程嬉しいリサイクル法はないんです!よって、恩返しさせてくださいっ!!」

あ、あ〜。あの時ね。
でも言っちゃ駄目なんだろ〜な〜。
まさか、ただ捨てるのが面倒臭くって暇だったから少しの遊び気分でやっただなんて。

これこそ知らぬが仏。はははっ、上手いぞ俺〜。
……だんだん虚しくなってきたから止めとこう。

「で、恩返しとはどんな事してくれるんだ?」
「う〜ん、そうですねぇ〜」

消しゴムは一瞬考える様な素振りを見せた後、すぐに笑顔で俺のテスト用紙を指差した。

「とりあえず、この間違いだらけのテスト用紙を消して差し上げますね〜」

そういうと有無を言わさず、頭を逆さにするとテスト用紙の上を滑った。
それはまるで〜華麗なバレリーナの様〜〜。

「はーっはっは!消せる!消せるぞ!!ゴミの如く易々とぉおおぉぉぉおぉぉっっっ!!!!!」
「それを消しカスに変えて本当のゴミ作ってんのはお前だろぉおぉぉおぉッ!!!!!」


あっという間にあらま不思議。
真っ白用紙に大変身♪って……

おいぃぃいいいぃぃぃいいいぃぃいぃ!!!!

何で真っ白!?
あれだよ、半分以上は確実に正解だったんだって!
お前本当に分かってたのか!?
それともあれか!?あれなのか!?
『もうメンドイから全部消しちゃえ〜キャハッ☆』的なあれか!?
どうすんだよもう10分ジャストじゃねぇかぁっ!!
ってかおい!そんな『いい汗かいたぜ。ははは、いい事をやったな。これぞ青春の汗?なんつってー』みたいな清々しい顔をするな!なんか腹立つ。
ってか何で消しゴムに水分あるんだよ。

……いや、待て。
ここはテストを何とかするより、こいつをどうやって消そうかだけ考えよう。
俺は消しゴムを乱暴に掴むと、教室を飛び出ていった。

「先生ー。中沢君がうるさく一人で漫才の如く叫んでると思ってたら今度は勝手に出て行きましたー」

「あははははっ!飛べる!今ならこの大空を翔られるわナイチンゲールッッ!!!」

「ナイチンゲールに頭を治療して貰ったらどうですか。いっその事真面目な頭に取り替えてきてください」

そんな会話が教室から聞こえてきたが、無視だ。
俺はなるべく人気の少ない所に行くと、消しゴムをべチャッと地面に叩き付けた。

「あいたたっ、何するんですか〜」

そういいながら起き上がり、涙目で俺を見上げる消しゴム。
いや、だから何で消しゴムの体内に水分あるんだよ。消す時紙がぐちゃぐちゃになるじゃねぇか。

「ふざけんな。あれのどこが恩返しだよ」

軽くキレ気味に消しゴムを掴むと千切ろうと力を入れる。

「あいたたたっ!千切れるんる〜〜!!!」

「じゃあもうふざけるな」

「わかりましたからやめて下さい〜っ」

仕方なく力を緩める。
消しゴムはふぅと溜息をつくと、
「しょうがないですね……。ではとっておきのものを……」
と、もったいつける様にいった。

「ハルヒダンスを踊れる様にして差し上げましょう」

「却下。」

再び千切ろうと力を入れる。
「あいたたたっ!わかりました!ではもっととっておきなものを〜っ」

「つまんねぇ事言ったら今度こそ何の未練もなく引きちぎる」

「分かりました〜。では『らき☆すた』の「もってけ!セーラー服」を踊り+、歌える様に……」

……うん、抹殺決定☆

思う存分に引きちぎろうと力を入れた。
「いたたたたた〜っ、何処が気に入らないんですか!?」

「あのなぁ……」

一呼吸置いてから、続ける。

「こちとらそんなのとっくにマスターしてんだよ!!」

「………」
―……静寂。
え?俺にこの空気どうしろと?

「……え〜っとまぁ……もう時間なのでここで失礼させていただきますね〜」

ドロン。

……なんだったんだ。
疲れた様に息を吐き、今度会ったら絶対殴ってやろうと今日も俺は一人机に向かって練り消しを作っている。
そう、あいつを殴るためなら―……周りからのイタイ目も気にしない。
涙を飲んで今日も頑張って生きるのさ。




後書き

暑い……暑かった。
なんか、消しゴム君の仕打ちが酷い様な……でも面倒臭いので直しません〜
ちなみに「ハルヒダンス」と「もってけ!セーラー服」は気になった人はyoutubeにレッツゴー。
溶ける前にクーラー行って来ますじゃ。。。
ではでは〜

この小説について

タイトル 突如恩返しに現れたアイツ
初版 2008年8月19日
改訂 2008年8月21日
小説ID 2614
閲覧数 873
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梨奈の写真
ぬし
作家名 ★梨奈
作家ID 301
投稿数 12
★の数 96
活動度 3120

コメント (2)

★日直 コメントのみ 2008年8月19日 13時38分40秒
こんにちは。これが前から言っていた作品ですね。読ませていただきました。
終盤のネタ、分からない人を遠ざけてましたよね。まあそれは置いておくとして。
コメディとしてはこの作品、心の中で笑わせてもらいました。
心の中でというのは、表情には一切笑みを出せていないという意味です。
消しゴムくんのつぶらな瞳を想像しました。似合いませんねー。消しゴムにつぶらな瞳。そのミスマッチに吹きました。
ちぎったらどうなるのでしょうか。


ここからはダメだしとアドバイスです。
消しゴムくんの登場が遅かったので少し興醒めしてしまいました。
冒頭であった『誰』や『何』が、消しゴムくんではなく周りの生徒や先生のことを言っているように思ってしまったからです。
周りの生徒や先生を正常にしていないからでしょうかね。消しゴムくんという「異常」まで「正常」に見えてしまいました。そこも問題点です。

所々を太字にしているのは、作者本人が面白いと思ったからでしょうか。
太字だらけで面白い(笑える)部分が掴みにくくなっています。フレーズをまるまる太字にするのではなく、そのフレーズの中で重要な部分だけを太くしてみてはどうでしょうか。
その方が読む側にほんの少しでも頭を使わせられるので、読んだあとに充実感を得られると思います。

消しゴムくんが恩を仇で返すところが一番魅力的でした。それでは。
★半熟ダンプティ 2008年8月22日 22時36分56秒
どうも、はじめまして、半熟ダンプティです。

『突如恩返しに現れたアイツ』拝読いたしました。

すさまじい勢いですね。言葉の奔流が細かな設定のおかしさなど流しつくしてしまう。あげく、いつの間にかこの世界観に引き込まれました。いや、おもしろい。
消しゴムの恩返し、いや、仇返し。いいですねえ、彼らのハイテンションな会話。
ちょっと思ったのが、「故人」という言葉があります。何故+人、何+故人。読み返せば、すぐに分かることなのですが、文章のリズムがここで崩れているように感じました。できれば、句読点をいれるか、ひらがな表記でよかったかもしれません。そういった箇所が見受けられたので。
全体的に、ネタが分かる人のツボをくすぐる面白い作品だと思います。

ではでは。
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