鬼姫 - -左腕-

ライン

鬼姫が退院してからまもなくの事。
気がつけば、
鬼姫は熱気立ち込める場所にいた。
煙が辺りを埋め尽くし、
人々の騒がしい声が嫌でも耳に入ってくる。
この場所に来たのは、
一文字怜の手紙が原因である。
そう、呼び出されたのだ。
そして、その当の本人の一文字怜は
鬼姫に目の前にいた。

「・・・・・一文字怜・・・・
 ・・・・・・どういうこと・・・・」

「?、
 鬼姫ちゃん、気に入らなかった?
 それとも、
 気分でも悪いのかしら」

「おいっ、鬼姫!!
 タン塩が来たぜ、タン塩がよぉ!!
 俺の大好物だぜ!」

「・・・鬼姫ちゃん、
 焼肉はお好きじゃないかしら?」

そこは、焼き肉店。
あの一文字怜の手紙は
招待状であったのだ。
しかも、焼き肉店の。
鬼姫は不機嫌そうな顔をして、
じっと一文字怜を睨む。
それを、
クスクスと笑いながら
微笑み返す一文字怜。
タン塩が来たと騒いでいる弁慶など、
気にもしない。

「あっ、ちょっとホモ男ーっ!!
 カルビ取りすぎぃ!」

「オマエは女だろうが!
 ダイエットしろ、ダイエット!
 ってか、
 何で美穂がここにいるんだよぉ」

「い、良いじゃん!!
 東部が領地奪えた祝賀会なんだから!
 美穂もいていいの!
 ねっ、怜さん!!」

「えぇ、そうよ美穂ちゃん。
 いっぱい食べてね。
 ほらっ、弁慶君も
 好きなだけで食べて下さいな」

「・・・へ、へーい。
 (くそっ、俺は命まで賭けたっつーのに)」

そこにたのは、
鬼姫・怜・弁慶・美穂の4人だった。
鬼姫の勝利により、
領地を奪還した東部は、
その礼として、
鬼姫と弁慶を誘って祝賀会をしていたのだ。
そして現在に至る。
鬼姫は騒いでいる弁慶や美穂とは
対照的に、
失望した表情をしていた。
そして・・・。

「・・・・・帰る・・・・・・」

「あらあら。
 鬼姫ちゃん、まだ何も食べてないじゃない。
 お肉嫌いかしらぁ・・・。
 ビビンバでも頼む?」

「・・・・・ふざけるな・・・・・。
 ・・・もう用は無い・・・
 こんな場にいても仕方ない・・・・」

「そ、そういうなよ鬼姫っ!!
 焼肉なんて
 滅多に喰えねぇんだしよ!」

「・・・・・・うるさい・・・・・。
 帰る・・・・・・」

「仕方ないわねぇ。
 鬼姫ちゃん、こっち向いて」

鬼姫は不機嫌そのもの。
当然だ。
彼女は怜と一騎打ちの勝負が
できると
意気込んできたのに、
来てみたらこの有様。
怒るのも当然だった。
すると、
帰ろうとする鬼姫を、
怜が呼びとめる。
そして、鬼姫が振り返ろうとすると・・・。

「はいっ、あーん♪」

「・・・・パクッ・・・・」

「!!!!???
 (い、一文字怜が、
 鬼姫に”あーん”したぁ!?
 ってか、
 鬼姫も喰った・・・!?)」

何という、親子プレー。
怜が鬼姫の振り向きざまを狙い、
自分の箸で、
鬼姫の口に肉を運ぶ。
それを、
条件反射的に口を開けて食べてしまった鬼姫。
ある意味、
辺りは騒然。
すると・・・・。

「・・・・・モグモグッ・・・・・。
 ・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・」

「(な、何も言わねぇ・・・。
 やっぱし、
 鬼姫は肉嫌いってことなのか?
 毎日タマゴサンドばっか喰ってるからなぁ・・・)」

「・・・・・・いて・・・・・」

「?、
 ど、どうしたよ、鬼姫?」

「・・・・・もっと焼いて・・・・・」

「うぇえええ!!??
 (く、喰いついたっ・・・・!)
 お、おぉ」

鬼姫、
いとも簡単に居座る。
焼肉というものの
おいしさを生まれて初めて
知ったのだろうか、
さきほどまでの不満そうな顔は吹き飛び、
いつもの
平然とした表情に戻る。
こうして、
何はともあれ4人で焼肉を食べることに。

「はいっ、鬼姫ちゃん。
 熱いから私がフーフーしてあげるわね。
 ふーっ、ふーっ。
 ・・・はいっ、これで大丈夫。
 あーんして」

「・・・・・・パクッ・・・・」

「なっ!!!
 おい、美穂っ!
 オマエさっきまで
 カルビって騒いでたくせに、
 今はロースに移るのかよっ!!」

「わぁ〜。
 怜さぁ〜ん、ホモ男が
 美穂をイジメてくるよぉ〜」

「あらあら。
 弁慶君、
 あんまり女の子をイジメちゃダメよ?」

「(いつも俺ばっかり・・・・)」

端から見れば、
家族もいいところ。
彼らは今、
自分達が敵同士であることを忘れているのかもしれない。
いや、忘れたいだけかもしれない。
地位・誇り・勢力・権力。
そんな下らないものが
無ければ、
本来は彼らはこうして仲良くして
いたかもしれないのだ。
何のイザコザもなく。

「あっ!!
 怜さぁーん!
 私も鬼姫にあーんしたーいっ!!
 やらせて、やらせてっ!」

「ふ、ふざけんな美穂ぉっ!!
 オマエがやるなら、
 俺の方がやる権利あるぜ!
 何てたって、
 鬼姫は俺の・・・・・
 お、俺のぉお・・・・・・!!」

「・・・・・ご主人様でしょ?
 犬のアンタが何言ってんのよ」

「テ、テメェ・・・・・・!!!
 あっ、
 飲み物が終わっちまった。
 仕方ねぇ、
 ドリンクバーの所に行っか・・・」

「ねぇ!!
 私のも入れてきてよ!
 ダイエットコーラねっ!」

「ふざけんなっ!!
 誰がテメェなんかのぉ・・・!」

「ホモ男のくせに器も小さい奴ぅ・・・!
 いいもん、
 アンタ何かに頼まないよーだぁ!」

「こ、この女ぁあ・・・!」

やはり、
下らない言い争いをしながら
二人はドリンクバーの
所に行ってしまった。
残ったのは、鬼姫と一文字怜。
基本的、
二人とも積極的に
話しかけるタイプでは無いので、
当然、
雰囲気は静寂に。
だが、その静寂に
突破口を開く者が・・・。

「・・・・・腕・・・・・」

「?、
 何か言った、鬼姫ちゃん?」

「・・・・・左腕が無い・・・・・
 ・・・なんで・・・・・?」

「・・・・あぁ、これね。
 ・・・・・昔のことよ・・・。
 そう、アレは・・・
 ウフフッ」

「・・・・?・・・・」

鬼姫はずっとあることが
気になっていた。
いや、一文字怜を目にしたら
まず気になること。
そう、
彼女は左腕が無いのだ。
その理由をこの機に
聞いておこうとした鬼姫。
すると、怜は
特に嫌な顔もせず、
ゆっくりと、語り始める。

「・・・・私もね、昔は鬼姫ちゃんみたいに
 突っ張ってたんだぁ。
 回りがゴミに見えた。
 生きててもそれを活用せずに、
 ・・・ただ死を恐れるだけの脳無しばっか」

「・・・・・・・」

「・・・だから、半ばヤケになって
 裏社会に挑んだの・・・。
 いつでも、死ねる覚悟はあった。
 ・・・ううん。
 死にたかったのよ。
 こんなつまらない世界から、抜け出したかった」

「・・・・・」

「・・・・確かに、私は
 神に愛されし女とは言われてる。
 ・・・けど、無敗とは言われてない。
 分かる?」

「・・・・・?・・・・」

「・・・・・・私ね、イカれてたんだ・・・。
 一人の男に・・・。
 この人のためなら、死ねる・・・。
 そう思えるほど、愛してた・・・・。
 相手も、それに応えてくれてた。
 ・・・・結婚しようとか、
 バカらしいことも約束してたわ」

淡々と、
一文字怜の語る話に
耳を傾ける鬼姫。
鬼姫は何か、
共通するものを感じていた。
一文字怜から、自分と。
本人も言っている通り、
やはり、
鬼姫が一文字怜に惹かれる原因は、
ただ強いというだけでなく、
どこか似ている点が
あるからなのかもしれない。

「・・・・けど、ギャンブルはやめれなかった・・・。
 ・・・ジャンキー、中毒だったのよ。
 気がつけば、
 ヤクザ連中とも対抗するほど、
 私は敵視されてた・・・」

「・・・・・・」

「・・・・止めようと思った・・・。
 彼もそれを知ってて、
 何度も止めようとしてくれてた・・・。
 だから、止めようとした。
 ・・・・・・けどね・・・・」

「・・・・・」

「・・・・6月12日の午後11時・・・。
 何の変哲もない、
 ただのヤクザとの勝負のハズだった・・・。
 けど・・・・
 ・・・・ヤクザ側が代打ちとして用意したのは、
 彼だった・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・脅されてるのは分かってた・・・。
 ・・・・・負けるしかなかった。
 私が勝ったら、彼の命は消えてた・・・。
 ・・・その敗北の代償が、腕一本・・・・・」

「・・・・・・ふーん・・・・・。
 ・・・・で、その男は・・・・・?」

「・・・・・・・逃げちゃった・・・。
 ウフッ。
 もう私なんて、
 嫌だって、逃げちゃったの。
 当然よねっ」

一文字怜の過去を聞いても、
鬼姫は無表情だった。
同情もせず、
はたまた、
それをバカにすることもなく、
ただ、
人事のように聞いていた。
だが、何とも寂しかった。
一文字怜の顔は、
何とも寂しかった。
すると・・・・。

「・・・・・・言うな・・・・」

「・・・・?・・・・」

「・・・・嘘を言うな・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・殺されちゃった・・・・。
 彼、殺されちゃった・・・・・
 ・・・・もう、会えないんだ・・・・・」

「・・・・・ふーん・・・・」

嘘を見抜いていた鬼姫。
一文字怜は、
あきらめた表情で、
鬼姫に真実を話す。
あまりにも哀れな人生。
しかし、
それが今の彼女を支えている。
全てを踏まえて、
「神に愛されし女」
一文字怜なのだ。
すると、怜はあらためて
鬼姫を見つめる。

「・・・・お願い、鬼姫ちゃん。
 止めて、
 もうこんな危ないことに手を出すのは止めて。
 もしかしたら、
 自分の命が奪われることだってあるのよ?」

「・・・・・・・」

「・・・ハッキリ言うわね。
 ・・・・・アナタとの勝負・・・
 私、やりたくない。
 ・・・アナタが望むのなら、
 私はいつだって、勝負を断る。
 今日はそれを伝えにきたの・・・・」

「・・・・・・・ククッ・・・・」

「・・・?・・・・」

「・・・・・寝ぼけるな・・・・
 アンタの過去なんてどうでも良い・・・・。
 ・・・倒さなきゃいけない・・・・
 ・・・・アンタは、私が倒さなきゃいけない・・・・。
 ・・・それが、私の全て・・・・・」

鬼姫、決裂。
自らが、一文字怜の情けを断る。
怜は悲しそうな顔をして、
鬼姫を見つめる。
鬼姫は、
一点の曇りなき、
澄み切った瞳で、
怜を見つめ返す。
その覚悟に、怜はすべてを悟った。

「・・・・ダメなのね、鬼姫ちゃん。
 貴方は・・・止まらないのね」

「・・・・・・・・
 ・・・倒す・・・・・・
 アンタだけは・・・
 ・・・・・私が倒す・・・・・・」

後書き

「(・・・?
 よく考えたら、手紙もらった時点で、
 焼肉食うって分かってたよな・・・?)」


・・・うむ、弁慶よ、
その通りじゃ。


次回、「サヨナラ・・・」

この小説について

タイトル -左腕-
初版 2008年10月10日
改訂 2008年10月10日
小説ID 2750
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