鬼姫 - -弁慶-

ライン

帰路。
焼き肉店で祝賀会を終えた後。
鬼姫は弁慶と共に
帰路についていた。
空を見上げれば芸術的なほどの
たくさんの星が輝いている。
そんな空を見向きもせず、
弁慶は鬼姫から
とあることを聞かされていた。

「い、一文字怜と戦う!?」

「・・・・・うん・・・・・。
 明後日の、午後11時・・・・・。
 ・・・東部校で、戦う・・・」

弁慶はその知らせを聞いて、
驚くという感情もあったが、
それよりも、
悲しみの方が大きかった。
表情を沈ませて、
顔を少しうつむける。
そんな弁慶の様子を察することもなく、
鬼姫は平然とした表情で
歩き続ける。

「・・・・なぁ、鬼姫・・・・」

「・・・・?・・・・」

「・・・今日、楽しかったよな」

「・・・・・・」

「・・・俺、すっげー楽しかった。
 あんなに誰かと騒いだの、久し振りだった。
 いつもは
 一匹狼気取って、
 人を避けていたけど・・・。
 やっぱ、良いもんだよな。
 仲間ってやつはよぉ・・・・」

「・・・・・何が言いたい・・・・?」

「・・・・一文字怜は・・・
 良い奴じゃねぇか?
 ・・・確かに、過去に何かしたかもしれねぇが、
 俺が今見る限り・・・
 どう見ても・・・・良い奴じゃねぇか・・・」

「・・・・ふーん・・・・」

弁慶はつらかったのだ。
あの幸せだった一時が、
鬼姫の手によって壊されるというのが
恐ろしかった。
鬼姫は無表情のまま、
弁慶の話を聞く。

「・・・・俺、心の中では信じてたんだ。
 俺達は、正義だって。
 だってそうだろ!?
 俺達が戦ってきた連中は、
 どいつもこいつもゲスばっかだっ!」

「・・・うん・・・・」

「み、美穂は更生したから良いが・・・。
 とにかく、
 俺はそれが誇りだった!!
 正義の中にいること、
 それが、命を賭けれるほど誇りだった!!」

「・・・・・・・・・」

「・・・・でも、どうだよ・・・?
 一文字怜が、一体何をした・・・?
 弱い奴から金取ったか?
 指切りを強要したか?
 イカサマ勝負したか?
 ・・・・違う・・・・・。
 なぁ、鬼姫・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・今回は、逆じゃねぇか・・・。
 気付いてくれよ、鬼姫・・・。
 ・・・悪はどうみても・・・・・・
 ・・・・・・オマエじゃねぇか・・・・・」

弁慶は、鬼姫に説得していた。
今までの経緯を踏まえて。
思えば、
いつも鬼姫は悪だくみを考える連中と
戦ってきた。
自分の利益しか考えず、
他人に迷惑をかける悪を、
結果的に懲らしめてきた。
それに、弁慶は誇りを感じていた。
だが、今回はまったくの逆。
悪は、鬼姫本人。

「・・・・・何が言いたい・・・・」

「・・・・・・やめてくれ、鬼姫。
 頼むっ!!
 一文字怜との勝負、やめてくれっ!!!」

「・・・・・嫌だ・・・・・」

「何で、
 何で戦う必要があんだよ!?
 あの人、
 オマエにだって優しかった!!
 まるで、
 子供を見るように、
 オマエも、俺も受け入れてくれた・・・!
 俺、うれしかった・・・!
 あの人に迷惑、かけらんねぇよ・・・・!!」

「・・・・・・・・・・・。
 ・・・悪とか言ってる時点で間違ってる・・・。
 ・・・・戦うのは、気の向くまま・・・。
 ・・・ただ、死線を追い求めるだけ・・・・」

対立する鬼姫と弁慶。
ここまで二人が
言い争う、意見が食い違うのも珍しい。
いつもは譲渡している側の
弁慶が、
鬼姫の反対サイドについているのだから当然。
今回の弁慶は違う。
食い下がらない。
鬼姫が勝負を止めるまで、
食い下がらない。

「何でそんなに勝負にこだわる!?
 自分を想っててくれる人にまで、
 手を出すくらい、
 大切なことなのか!?」

「・・・・・・・・」

「オマエだってうれしかっただろ!?
 素直になれよっ!!
 我慢しなくて良いんだよっ!
 甘えろ・・・・
 甘えろよっ・・・・!!
 人は誰もが敵じゃねぇんだっ!!」

「・・・・・・・・」

「・・・・オマエは一人じゃない。
 俺がいるだろ?
 一文字怜も、美穂も・・・
 オマエを仲間だと思ってる・・・!
 大切な仲間だと思ってんだ・・・・・!!
 オマエは、
 みんなの気持ちを裏切るのかよっ!!」

「・・・・・ククッ・・・・・
 だから・・・・・死んでる・・・・・」

「?」

弁慶は、
自分の思っていることの全てを
鬼姫にぶつけた。
弁慶が鬼姫に惚れた理由の一つに、
同じ孤独の身という理由があった。
だから、鬼姫の気持ちが
それとなく分ったのだ。
今日感じた、仲間との団欒。
その楽しみが。
だから、説得した。
必死に、必死に。
すると・・・。

「・・・・・他という異色に染められて、
 自分を見失う・・・・・。
 ・・・生き方を、見失う・・・・。
 何かに影響され、
 自分の信念を忘れてしまう・・・・。
 ・・・・こんな生き方は、嫌だから・・・・」

「い、生き方・・・?」

「・・・・死ぬまで、生まれた時の私でいる・・・
 ・・・私が望んだ全てを、
 ・・・・・私のままで貫く・・・・・。
 ・・・私は私、微塵も他を混ぜたくない・・・・」

「・・・・そんな生き方して、ツラくねぇのか?
 自分も受け入れてくれる人まで
 拒んで、
 オマエの心は痛まないのか・・・?」

「・・・・・・・・・・
 ・・・・・それだけが私の誇りだから・・・・・」

「っ!!
 ・・・・・そうか・・・・
 やっぱり、オマエは・・・・・
 ・・・・鬼姫なんだよな・・・・・」

鬼姫は、徹底的に
他人を拒んだ。
どれだけ自分に優しくしようとも、
どんなに自分のためにしてくれようと、
鬼姫は自分以外の
誰かは信じない。
それが、鬼姫の生き方。
異色なき、
純粋な一色のみの。
その決意を聞いた弁慶は・・・。

「・・・・・最後に、言うぜ」

「・・・・うん・・・・」

「・・・今まで戦い続けてきた仲として、
 そして、
 共に命を賭けた仲として、
 そして・・・・
 オマエを世界一愛しちまった、
 天見弁慶としてっ・・・・・・!!!
 オマエに頼むっ!!」

「・・・・・・・」

「・・・・鬼姫・・・・・
 一文字怜との勝負、止めてくれっ!!!」

全てを賭けて、
今までの鬼姫と自分の
関係を、全て全面に出して、
弁慶は、
最後の望みを託す。
一文字怜のためだけでない、
鬼姫のためもある。
鬼姫を孤独にさせぬよう、
このままの関係を保てるよう、
弁慶、頼みこむ。
対して、鬼姫は・・・・。

「・・・・・・・・
 ・・・・・断る・・・・・」

「ッ!!!・・・・・
 そう、か・・・・・・。
 そうだよな・・・。
 ・・・ハハッ・・・・・。
 オマエは一度言ったこと、
 訂正するような奴じゃないしな・・・・」

「・・・・・うん・・・・」

「・・・ハ、ハハハ・・・・・ハ・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・もう、ダメだよ、俺・・・・・・」

「・・・・?・・・・」

「・・・・・・・・
 もう、ついていけねぇよ・・・・。
 ・・・・俺、オマエが本当に分からねぇよ・・・。
 ・・・・・遠すぎるよ、オマエは・・・・」

やはり、鬼姫は断った。
弁慶も心の隅では、
聞かずとも理解していたのかもしれない。
だが、それを改めて聞いて、
弁慶はどうしようもなくなった。
そして、ついに本音を出す。
自分の限界に。
鬼姫についていくことの限界に。
弁慶は、ゆっくりと、
鬼姫とは正反対の方向へ、
背を向ける。

「・・・・オマエの進む道に・・・・
 俺はいけねぇ・・・・。
 いや、必要ねぇのか・・・・。
 ・・・・・鬼姫・・・
 俺、疲れちまったよ・・・・。
 ・・・・もう、疲れたんだ・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・・オマエは、おまえの道を行けよ。
 ・・・俺は、俺の道を行く・・・。
 ・・・・俺は・・・
 俺は、後悔なんざしてねぇ・・・。
 オマエを愛したことも・・・
 オマエから離れることも・・・・・」

「・・・・・・・うん・・・」

「・・・・オマエは、異才だ。
 ・・・・・・その信念を、貫けよ・・・。
 俺はずっと、そんなオマエを応援するからよ・・・」

「・・・・・うん・・・・」

弁慶はついに決意した。
前々から、
自分自身で悟っていたこと。
鬼姫に自分は必要ないと。
逆に、悪影響をもたらすかもしれないと。
寂しそうな顔をして、
鬼姫とは別の、
違う道から帰路につこうとする弁慶。
鬼姫に背中をみせ、
ゆっくりと歩き出す。

「・・・・体、大事にしろよ・・・・」

「・・・・・・うん・・・・」

「・・・・・タマゴサンド・・・・
 ほどほどにしとけよ・・・・・」

「・・・・・うん・・・」

「・・・・・・・・じゃぁな、鬼姫・・・。
 ・・・楽しかったぜ・・・・・」

「・・・・・・・・・・・うん・・・」

別れ。
弁慶は、鬼姫と違った道へ。
漆黒の闇の中へと、
消えていく。
鬼姫は立ち止まり、
数秒間、その後ろ姿を追っていた。
だが、
すぐに前を振り向き。
歩き始める。
弁慶は去って行った。
だがしかし、
鬼姫の気持ちも、意思も、
歩みも変わらない。
闇を前にして、
歩き続ける。

「・・・・・・・・・・・
 ・・・・焼肉、か・・・・・・・」

つぶやいた言葉に、
鬼姫は何を思ったのだろうか。
スッと星空を見上げて、
何かを決心する。
そして、いよいよ始まるのだ。
「神に愛されし女」こと、
一文字怜。
まさに、最強の敵。
怪物、鬼姫。
されど相手は神。
果たして、
鬼姫は一文字怜を倒すことができるのだろうか・・・。








「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

気がつくと、
鬼姫の後ろには、
息を切らした誰かがいた。
気配に気づき、
鬼姫は後ろを振り向く。
そこにいたのは・・・・。


それは、弁慶であった。
肩で息をしたまま、
鬼姫の前で立ち止まる。
そして、顔をうつぶせたまま、
ゆっくりと右手を鬼姫に向けて伸ばす。
それは、弁慶が鬼姫の全てを
受け入れた瞬間であった。
ハイタッチを求める弁慶の右手を無視して、
鬼姫は無表情のまま、前を向いて歩いてしまう。


急いで追いかけ、
寂しそうな鬼姫の肩にそっと、
手をかけて、陽気に話し始める弁慶。
そして、一緒に闇の中に消えていく。
弁慶を再び向かい入れ、
鬼姫、
ついに挑む。
挑むは、神に愛されし女。
勝つのは、
鬼姫か、一文字怜か・・・。
 

後書き

なんだかんだ言っても、
この二人は良いコンビだと思う。

恐らく、
お互いに純粋な生き方しかできない
からこそ、何か通じ合うものがあるのかと。

しかし弁慶よ、
鬼姫がこうまで自分を語るのは
君が初めてだということにも気付くべき。


次回、決戦!!

この小説について

タイトル -弁慶-
初版 2008年10月17日
改訂 2008年10月17日
小説ID 2762
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