りれしょ物語 - 自身の気持ち

 放課後。窓から日の光が差し込んだ教室で、俺はひとり自分の席に座ってぼーっと考え事をしていた
 昼休みに九条先輩の言っていたことを、あれからずっと頭の中で繰り返していたのだ。
『好きな奴でも居るんじゃないのか? 気がついていないだけで』
 自慢じゃないが俺は高校二年生になった今でも初恋を済ませていない男だ。好きな奴が居るだなんて考え難い。それに、気がついていないならどうしようもないだろう。それは好きな奴が居ないのとほとんど変わらないんだから。
 あーもう何かむしゃくしゃする。こういう空回りするのは苦手だ。ふと教室に設置されている時計が目に入る。放課後が過ぎてからずいぶん時間が経っていた。
 やばいなぁ、帰って試験勉強しないとまた赤点だ。俺は席を立ち、荒く荷物をまとめて誰も居ない教室を出て行った。


 校舎の玄関に向かう途中の廊下で、窓の外に体育館が見えた。きっと今頃あの中では九条先輩とその他サッカー部員が筋力トレーニングをやっているのだろう。
 雛利はどうしてるかな……俺と九条先輩の会話を盗み聞きしてたみたいだけど、あんなに離れた場所からだとよく聞こえなかっただろう。
 きっと明日あたり直接聞きに来そうだな。そう思いながら歩を進めていると、突然俺の肩に誰かの手が置かれた。俺は置かれた手を一瞥して後ろへ振り向く。
 雛利だ。噂をすれば何とやらだな。雛利はまだ部活の途中らしく、体操着姿でストップウォッチやら笛やらを首に提げている。
 俺の肩から手を離して、それから何やら俺を怪しむような目つきで睨んでくる。嫌な奴だな。今思えば雛利は俺と会うたびにこんな目をする。
「よお、雛利」
「おう……お前、放課後はとっくに過ぎてるぞ。こんな所で何やってんだ?」
 そんな事聞かれてもなぁ……恋愛について悩んでたらいつの間にかこんな時間になっていただなんて恥かしくて口が裂けるような思いでもしなければ言えるわけがない。
「教室で昼寝してたんだ。日差しがあったかくてな、つい眠っちまったんだよ」
「あっそ」
 雛利はさもどうでもいい風に返す。
「そんなことどうでもいいからさ――」
 やっぱり。
「――九条先輩、何て言ってたんだ?」
 唐突にかけられた質問に、俺は一瞬どう答えようか迷ってしまう。
 雛利は多分九条先輩に惚れているだろうから、九条先輩が、
『一番身近に居る奴だけを見てるよ。今は、それでいいんだ』
 って言っていた事をそっくりそのまま伝えたら雛利は不安になるだろう。なんせ九条先輩の身近には女の人が多すぎるほど居るからな。
 どう答えるかを思案中とはいえ俺がいつまで経っても質問に答えないから不機嫌になってやいないだろうかと一瞬不安になり、雛利の顔に視線を持っていく。
 雛利は、とっても大事にしていた宝物を失くしてしまったかのような、どこか悲しげな顔をしていた。
「やっぱり――」
 雛利が口を開く。どうした雛利、まさか九条先輩の言っていた事を悟ってしまったのか。
 ますます悲しげな表情になる雛利を前に俺は慌てた。
 さらに雛利が、俯き座間に呟く。
「やっぱり、九条先輩は……私の事が好きだったのか……」
 …………。
「…………は?」


 話によると、ある日部室で九条先輩とその友達が恋愛を話題に喋っていたらしい。先輩は友達に雛利の事が好きなんだろうと茶化された時、肯定したんだそうだ。
 雛利は偶然それを部室前で立ち聞きして以来、好きでも何でもなかった九条先輩に対して変に意識するようになったんだとか。まあ、そんな落ちが適当かな。
 ちなみに雛利は一年生の頃、今はもう卒業している先輩を追っかけてサッカー部のマネージャーになったんだそうだ。
 それらの出来事を一通り喋り終えた雛利は、最後に俺の胸倉をつかんで「今話したこと、他の誰かに言ったらお前の口が裂けるからな」とドスの利いた声で脅して去っていった。まったく、こいつのこういう乱暴的なとこさえなければ俺だって惚れてただろうに……。
 真実を知った俺はすっきりを通り越して安堵するのと同時に、雛利の態度に腹を立てる。これからあいつが何を頼んできても絶対手伝ってやるもんかと心に誓うのであった。
 そういえば、雛利のせいでだいぶ時間を浪費してしまった。早く帰って試験勉強をしないといい加減俺の成績が落第点になってしまう。
 俺は靴箱前で靴を履き替え、校舎の玄関を出て校門へ向かう。門の向こうは既に夕日が沈みかけていた。そして早歩きで進む。急いではいるが走って帰るのは疲れるので、とにかく早歩きだ。だだっ広いグラウンドを歩き抜け門を出た瞬間、俺の頭の隅で何やら嫌な予感がした。
 ……何者かが俺に危害を及ぼす気配。
 数秒後、その予感は見事に的中した。
「そこの人! あぶな――いっ!」
 ――小雪の体当たりによって。
 俺は見事に転倒。小雪は俺にぶつかった時、俺を突き放す事で自分の体勢を保ったため平気な顔をして立っている。
「いってぇなこの野郎!」
「す、すみませんっ。ブレーキ効かなくて……って、なんだあんたか。何してんのそんな所で」
 小雪はさっきまですまなそうにしてたのに、俺の顔を見た途端急に呆れた表情に変わる。
「そんな所につっ立ってたらランニングの邪魔だし、危ないわよー」
 こいつ、俺だったら体当たりしても大丈夫だと思い込んでいるらしい。そうではないことを今の内にはっきり言ってやらねば。
「お前なぁ――」
「あ、そうだ!」
 小雪は俺のありがたいお説教の序章を大声で遮って、ぽんっと両掌をあわせる。
「ね、剛。私もうすぐ部活終わるから、それまで待っててくんない?」
 俺が立ち上がるのと同時に、小雪はこっちに近づきながら言った。
「はぁ? なんでだよ」
 聞くと、小雪は少し俯いた。前髪が垂れて小雪の表情がよく分からなくなる。
 一体どうしたんだ。いつもなら誰にも劣らないであろう元気さを振舞って俺に小雪拳の一発や二発かました後高笑いしながら去っていくのに、今回はやけにおとなしい。
 俺が不審に思っていたら、やがて小雪は俯かせていた顔を持ち上げ、ゆっくりと口を開いた。
「その、一緒に……」
 小雪は一瞬躊躇う。そして、意を決したように構え声を張りあげる。
「……一緒に、帰ってあげてもいいわよっ」
 その時の小雪の表情は、夕日に照らされていてよく見えなかった。
 ただ、いつもと違うのにいつもと変わらない、そんな小雪が居るのを俺は感じた。


 この頃からだったんじゃないかな。俺が俺自身の気持ちに気付き始めたのは――。


後書き

どうでしょうか。勝手に九条先輩を失恋させちゃいましたが。
まあ、これからの展開によっては今の状況を覆されるかもしれません。そこのとこ、次の梨音さんに期待してみましょう。
よろしくお願いしますね〜。

この小説について

タイトル 自身の気持ち
初版 2008年10月18日
改訂 2008年10月22日
小説ID 2764
閲覧数 962
合計★ 8

コメント (3)

★ひとり雨 2008年10月21日 19時19分26秒
 面白くなってきましたねー。九条先輩が失恋したかどうかは梨音さん次第と言うわけですね? 楽しみにしてますよー。
 小雪も素直になって欲しいですね。読んでいて一番にそう思いました。
 素直になれないってすごく分かります。他人から見るともどかしいんですが、どうにもならなくて皮肉ってしまったり、思ってもいないことを言ってしまったり;;
 りれしょを読んでると青春だなあって思います。
 それに、いつの間にか九条先輩がキャラとして目立ってきてますし♪ 私としては嬉しい事です。
 けど、あんまりややこしくしても続かないですからスッキリさせるのもいいと思います。まあ、その調整具合は梨音さんにお任せですけど。
 続き、楽しみにしてます。日直さんも私も♪ それでは。
★千春 2008年10月24日 16時30分40秒
チャットで書いた通り、遊びに来ちゃいましたっ!

全部このシリーズは読んだのですが、一番最新のこの作品にコメントを付けておきます☆☆

…えっと、感想は、――とにかくおもしろいですっ!

あと、私はたくさん行を開けるんですが、日直さんは詰めてあって、そんなのも良いなあと思いました。

それに、みんなとリレーで小説を書く、とゆ〜うのも良いと思いましたっ♪

みなさんの個性が出ておもしろいですねっ!!!

次回も期待しますっっっ。
★梨音 2008年10月24日 19時02分42秒
はぁ。
九条先輩を失恋させるかさせないか、ですか。
悩むところですね〜。
とにかく、ツンデレ小雪の可愛さが……。そうですよねぇ「一緒に帰ろう」なんて、好きな子には言えませんよね〜。素直じゃない小雪に自分を重ねちゃったり(笑)

雛利のこと、村崎のこと、小雪のこと……考えるのが大変な剛くんは、何を思うのでしょう?

では、頑張ってみます!
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