死にゆく場所で

何をしてでも、護りたい人があった。



 この身は、お国のためのものだと分かっている。そして、だからこそ、彼女を抱きしめるわけにはいかないと、自分で理解している……。
「本当に、行ってしまうんですね」
悲しそうな顔をしないで。本当に辛いのは、君を抱きしめられない僕のほう。だから、そうやって服の裾を掴まないで。縋らないで。
決心が鈍ってしまう。
「この身は、お国につくす為にあるのです。だから、行かないわけにはいかない」
そっと、彼女の手を離した。優しく、できる限り優しく、服の裾を掴む手を、離した。
 見上げた彼女の悲しそうな顔。子犬のようなシュンとした顔に、一瞬の罪悪感。ああ、どうして神様は、抱きしめるということを許してくれないんだろう。
優しく掴んだ彼女の手が震えている。
「分かりました。私も、あなたが日本男児ということは理解しています。でも……生きて帰ってきてください」
「はい……」
俯き、いつもみたいな話し方をする彼女の声が震えている。抱きしめることができれば、彼女を泣かしたりしなかっただろうか。
「必ず、戻ってきます」


もう、神様のいうことなんて知らない。
どうせ死んでしまうなら、いっそ彼女を……。


「だから、泣かないで」



抱きしめてしまおう。


 抱きしめた瞬間の、彼女の優しい香り。柔らかい身体。
もう二度と、抱きしめることはない。


   死にざるをえないこの場所で、何を思って生きるのか……。




















「浩一も陽奈も、意外に演技上手いじゃんっ!」
「うんうん。思わず涙ぐんじゃったし〜」
 パチパチと、クラスの皆が拍手をしてくれた。
そのことに、ついつい恥ずかしさを覚えてしまうのは、隣の彼女も一緒のはず。
「この身は〜から死にざる〜まで映像も完璧だったし、拍手喝采だね」
彼女がそう言って、まだ抱きしめたままだったと気付く。慌てて離れた。

 お国の為にと死んでしまった兵隊と、その恋人。
本番の舞台でもこれを発揮できるかどうか、不安で仕方ない……。

後書き

すいません。明日が文化祭なもので……。ついつい書いてしまいました。

ネタは文化祭でやる劇から。私、先生役なんですよ〜。で、恋愛パートも入れよう、みたいなゴタゴタから生まれた作品です。
結局おじゃんになってしまいましたが……^^;

この小説について

タイトル 死にゆく場所で
初版 2008年10月25日
改訂 2008年10月25日
小説ID 2779
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