KanonSS 優しさと勇気と奇跡と

KanonSS 優しさと勇気と奇跡と

注)このSSは「Kanon」のネタバレを多く含みます。もしこれからやろうとかそういう風に考えてらっしゃる方はその点を了承してお読みください。














とある夜

街からは遠く離れた郊外の森林に、二人の少年と少女が、黒い衣装に身を纏い、その手に刀を構えて立っていた。

二人の前には、人間ではない、いわゆる「化物」とでも形容すべき存在が、四本の足で立っていた。

化物の呼吸は荒く、体のあちこちに少女がその刀でつけたであろう傷がある。

「・・・もう、降伏してください。これ以上抵抗しても苦しいだけです」

刀を下げて化物に通告する少女。

黙れ!私は・・・戦士として戦い抜く!降伏などしない!!

それを打ち消すように叫ぶ化物。傷口から血が吹き出す。

「そう、ですか・・・」

「だから言っただろ。こいつ等は降伏するような甘いやつじゃないって」

少女は悲しそうに目を伏せ、少年は当然といったような口調で少女に言い、それぞれ刀を構え直し化物と向き合う。

おおおぉぉぉぉ!!!

化物が鉤爪を振り翳し二人に襲い掛かる。

「「・・・・・」」

二人はそれに対し、体制を低く構え、化物の動きをじっと見つめる。

死ねェェ!!

化物が二人に鉤爪を振り下ろす。

「・・・」

「遅い!!」

少女はそれを横に避けると、同時に上に跳ぶ。

少年は化物の下を潜り抜け、後ろを取る。

!!

化物がそれを見上げる。が、遅い。

「・・・せいっ!」

「はあぁっ!!」

気合のこもった声とともに刀を振り下ろす。

ザンッ

ッ・・・・・

上と後ろから同時に一閃を浴び、断末魔を上げる間も無く、化物はその場に倒れこみ、そのまま事切れた。

「・・・ごめんなさい」

化物の亡骸を見下ろし、悲しげに目を伏せながら謝る少女。

「・・・綾乃、いい加減慣れろ・・・って、慣れれるモンでもないか」

刀を腰の鞘に収め、少年は少女を咎めようとしてから、やはり自粛した。

「やっぱり、お前にはこの仕事は向いてないよ。今からでも遅くないから、上に掛け合ってお前は事務処理のほうに回してもらって、これは僕だけで・・・」

「ううん。私、続けるよ」

少年の言葉を途中で少女が断ち切る。

「綾乃・・・」

「大丈夫・・・大丈夫だよ」

心配そうに呼びかける少年に、自らに言い聞かせるように呟く。

ピピーッ、ピピーッ

その時、少年のポケットで、電子音が鳴り響く。

「ん・・・新しい指令か・・・っ!」

少年はポケットをから携帯電話のようなものを取り出し、そのモニターに映し出された文字を見ると驚いたような反応を見せる。

「・・・了解しました。これより任務遂行の為の準備に戻ります」

復唱するように呟き、またそれをポケットに戻す。

「・・・次の任務?」

「ああ。何でもとある高校に『奇跡』がいるらしい。今度の任務はその学校に潜入。最終目的はそれの保護及び護衛。余剰任務はそ

の近辺の『異端』の排除だってさ」

少女の問いにその『任務』の内容を教える少年。

「そう・・・それで、その人はどういう人なの?」

「その『奇跡』は男子生徒、学年は二年、名前は・・・『相沢祐一』だ」

その日の空には、気味が悪いほどに月が燦然と輝いていた。







―この世の中に、妖怪とか、怪獣とか、はたまたそれを退治する陰陽師や正義のヒーローが存在すると思う人間が、一体どれほどいるだろうか。

多分、いや、間違いなくそんなものを信じる人は、5%も存在しないだろう。

陰陽師はその筋の人間の中だけ、正義のヒーローは子供の中だけに実在するもの。実際にこの世に存在するわけがない。

しかし、残念ながら俺はそんな常識など一切通用しない土地に住んでいた。

周りには眠りながら会話するイトコ、ついこの間まで生霊だった昔の友達、妖狐、超能力者、四次元ポケットを持つ後輩、そして・・・ジャムマスター。

これだけ周りが異常だと、もうどんなことがあったって驚かない自信があった。

だが、この前転校してきた二人から聞いた事実には、流石に驚いたかもしれない。

そう、あれは一週間ほど前のことだったか







AM7:25

『朝〜、朝だよ〜。朝ごはん食べて〜、学校行くよ〜』

カチッ

眠気を誘う目覚ましを止め、俺は夢の世界から現実へと戻る。格好良く言ったが要するに起きたということだ。

「・・・さてと、着替えて名雪を起こさないとな・・・」

そう呟いて、俺は布団から出て、制服に着替え始める。

さて、知ってる人はもう知ってると思うが、ここで俺のことを説明しておこう。

俺の名前は相沢祐一。乙女コスモ満載の高校二年17歳独身。特に何をしたというわけでもないのにモテてしまう罪な男だ。

え?自分でそんなこと言うなって?軽いジョークだから受け流してもらいたい。

何やら俺はどうにも奇跡を招きよせてしまう体質らしく、この冬、俺の周りでは奇跡としか例えようのないことが大量発生した。

例えば、事故にあって意識不明だった俺の叔母が突然意識を取り戻したり

病気でもう長くないと言われていた後輩が回復したり

7年間眠り続けていた昔の友達が目を覚ましたり

まぁとにかくいろいろあった。もう既にネタバレ多数なのでもうこれ以上は勘弁してもらいたい。

説明してる間に着替え終わったので、俺は部屋を出て、俺のイトコが眠る部屋へと向かう。

え?何でイトコが一緒に暮らしてるんだって?そういえば言い忘れていた。

今俺は両親が海外に仕事で出張してしまっているので、親戚の叔母さんの家にお世話になっている。

先ほど出てきた「名雪」と言うのがその叔母さんの娘、つまり俺のイトコだ。

え?何でわざわざ起こしに行くのかって?うむ。いい質問だ。

起こしに行く、というのは正確ではないのかもしれない。いや、たしかに起こしには行く。行くのだが、それ以上に重大な問題がある。

それは何なのかと言うと・・・

「あっ、おはよう。祐一くん」

と、その時、後ろからパジャマ姿の、ヘアバンドをした少女が声を掛けてきた。

「ん・・・よぉあゆ。おはよう」

俺は振り返ってその少女―うぐぅ娘こと月宮あゆに朝の挨拶を返す。

このあゆこそが、先ほど例えた奇跡の例のうちの一つ、奇怪、植物状態から突如復活した少女!である。

「うぐぅ、そんな言い方しないでよ・・・それにボクはうぐぅ星人なんかじゃないよ」

むぅ、俺の素敵に無敵なネーミングセンスにケチをつけるか・・というか、人の心を読むとは・・・さすがはうぐぅ星人

「思い切り声に出してたよ」

またか・・・いい加減このクセどうにかならんのかな・・・

え?何で叔母さんの家にその昔の友達がいるのかって?うむ。これもいい質問だ。

簡単に説明すると、あゆは7年前に事故にとある事故にあって植物状態になったのだが、その前にたった一人の肉親だった母親を亡

くしてしまっていたのだ。

当然、目を覚ました7年後、つまり今現在、あゆに身寄りはいない。

家はまだ残っていたのだが、女の子が一人暮らしするのは危険、ということで、俺が叔母さんにこの家においてやってくれ、と頼ん

だ所、「了承」の一言であっさりとこの家に住むことを許可してくれたのだ。

「そういえば祐一くん」

俺が回想に浸っていると、あゆが声を掛けてきた。

「ん?何だ?」

聞き返した俺に、あゆが返した質問は

「名雪さんはもう起こしたの?」

「・・・っ!!」

あゆの言葉を聞いた瞬間、俺は慌てて駆け出す。しまった、完全に名雪のことを忘れていた!急がなければあの大惨事が・・・

「名雪〜!起きろ〜!!」

名雪の部屋の前についた俺は、ドンドンと部屋のドアを叩く。

もちろん、こんなことで起きないことは分かっている。これは一種の、儀式のようなものだ。

「起きないんだったら入るぞ〜!いいな〜!!」

・・・・・・

返事はない。が、俺はちゃんと忠告はした。これで後で文句を言えないはずだ。

がちゃっ

ドアを開けて名雪の眠るベッドの周りの、有に30個はあろうかという目覚まし時計を見る。残り時間は・・・

「あと40秒・・・くっ、マズイ・・・あゆ!手伝え!!」

「うっ、うん!!」

俺とあゆは慌ててベッドに近づき、手当たり次第に目覚ましを止めていく。そして

「・・・まっ、間に合った・・・・」

「うぐぅ、心臓に悪いよ・・・・」

残り3秒というところで、最後の目覚ましのスイッチを押すことができた。どうにか大惨事は避けられた。

え?大惨事って何のことだって?

これはこのストーリーとかは関係無しに言えることだが、目覚まし時計というのは、鳴るとうるさい。電子音式のものなら兎も角、

旧式・・・いわゆるジリリリという音を発するものはうるさい。二の次なしにうるさい。

そんなのが30個も同時になったら、どういう事態になるかは誰にでも予想できるだろう。

飛行機の離陸時よりもうるさいことは保証できる。

というかそれだけの大音量が発生したら確実に騒音だと思うんだが・・・なんで近所の住人は文句を言ってこないんだ・・・?

「く〜・・・・」

そんな俺達の苦労など知ったことではないというように、幸せそうな表情で眠りこけるセミロングヘアーの少女。これが俺のイトコ

の水瀬名雪。通称睡眠魔、もしくは苺ジャンキーだ。

「うにゅ〜、私苺ジャンキーなんかじゃないんだお〜」

眠りながら俺の心の呟きにつっこんでくる名雪。声に出していたのはともかく、何で寝ながらつっこめるんだ・・・?

それはともかく、早く起こさないと遅刻する。

「・・・お〜い、名雪〜!起きろ〜!!」

とりあえず、耳元で怒鳴ってみる。

「ふみゅ〜・・・・」

が、そんなものなど聞こえていないように気持ち良さそうに寝息を立てる。しかしこの程度は計算の内だ。

むにっ・・・むにゅ〜

次に頬を掴んで引っ張ってみる。

「く〜・・・・・・」

変化無し。なら・・・・

「・・・名雪〜!起きろ〜!!」

ゆさゆさゆさ

次に肩を掴んで揺らす。

「う〜、地震だお〜」

「そうだ。南海大地震だぞ!起きないと瓦礫に埋もれるぞ!!」

「祐一くん、ここ北国だよ」

「この際そんな細かいことは気にするな、あゆ。起きろ名雪〜!!」

どうでもいいところにツッコミを入れるあゆを軽く流してから、さらに名雪を揺する。

「うにゅ〜」

・・・ダメだ。これでも起きないか

「これだけ揺すっても起きないなんて、流石は名雪さんだよ・・・」

・・・あゆ、それは褒めてるつもりなのか?

それはともかく、そろそろ起こさないと時間がマズイな・・・仕方がない。実力行使だ。

「・・・起きろっ!!」

びしっ

「!?」

舞直伝のチョップを頭にかましてやると、名雪は驚いて飛び起きる。

「うにゅ・・・痛い・・・」

「よぉ。おはよう。名雪」

「おはよう。名雪さん」

頭を抑える名雪に朝の挨拶をしてやる。

「あれ、祐一・・・・?」

「ダメだぞ名雪。朝起きたら「おはようございます」だよ」

さも不思議そうにこちらを見てくる名雪に口調を真似ていつも言われることを言い返してやる。

「うにゅ・・・おはよう・・・」

まだ意識は眠っているのだろう。どうやら俺がチョップしたことには気づいていないようだ。

「朝飯抜きたくなかったらさっさと着替えて降りて来いよ〜」

「う〜、分かったお〜」

名雪の返事を聞いてから、俺とあゆは名雪の部屋を出て、そのまま下の階に降りる。



「おはようございます。祐一さん。あゆちゃん」

「あ、おはようございます。秋子さん」

「おはようございます。秋子さん」

下に降りると、俺の叔母さん―水瀬秋子さんが朝食の準備を済ませていた。

ちなみにこの秋子さん、名雪という娘がいるとは思えないほど若い。名雪と並んで歩いていたら十人中十人ともが確実に姉妹だと思うほどに若い。

「名雪はちゃんと起きましたか?」

「はい。・・・多分」

秋子さんに聞かれて答えるが、正直言ってあまり自信はない。

何せ口調がまだ「お〜」だったし。

「あらあら、しょうがないわねぇ・・・とりあえず、冷めないうちに朝ごはんを食べてしまってください」

「あ、はい」

秋子さんに言われて、俺とあゆはテーブルにつく。

ちなみに、今日のメニューはご飯、味噌汁、玉子焼き、漬物だ。

「いただきま〜す」

そんなこんなで食事にがっつく俺達。



「ご馳走様でした」

20分後、食べ終わって箸を置いた俺は、まだ名雪が降りてこないことに気がついた。

ちなみに、現在時刻は8:00、まだ間に合うが、まだ起きてないというと状況は厳しい。

「ったく・・・しょうがないな・・・・」

俺は席を立って、もう一度二階へ上がろうとするが

「あ、祐一さん、かまいませんよ。これ以上待っていたら遅刻してしまいますし、私が起こしに行きますから」

秋子さんがありがたいお言葉をくださった。

「あ、そうですか?それじゃあ、お願いします」

その言葉に甘んじることにして、俺は鞄―といっても、殆ど何も入っていないが―を掴んで、玄関へと歩く。

その途中、一瞬だけ視線の端に見えた秋子さんの手にオレンジ色の何かが入った瓶が見えたが、それは気にしないことにした。気にしたら終わりだから。

「んじゃ、いってきまーす」

「いってらっしゃい。祐一くん」

あゆに見送られて、俺は家を出る。

「今日はそんなに飛ばさなくても楽勝だな・・・」

改めて遅刻の原因が俺ではなく名雪にあることを認識して、俺は走り始める。

「だ、だお〜〜〜!!!」

途中で後ろから名雪の悲鳴が聞こえた気がしたが、耳の錯覚だろう。うん。



25分後

「ふぅ、やっぱり楽勝だな」

始業まで10分以上の余裕を残して学校の前まで到着した。うむ。これからは名雪を置いていけば遅刻とは無縁の生活ができるな。

ただしあんまりやるとイチゴサンデーを奢らされそうだが

ざわざわざわ

「ん・・・?」

校門をくぐると、道の真ん中辺りに何やら人だかりができていた。

「何だ何だ〜?」

面白いことが大好きな俺は、当然気になってその騒ぎを見に行く。

「ちょいと御免よ・・・っと」

そう断って人込みに割って入って見ると、その中心には、不良っぽい男子と眼鏡をかけた背が低めの男子が向かい合って立っていた。

俺はあまり男の顔を覚えるのは趣味じゃないんだが、不良のほうは見覚えがあった。

名前は分からないが、この学校の番頭・・・じゃなくて、番長というやつだ。

時代遅れにも程があるかもしれないが仕方がない。だってここは雪国だから。・・・って、あんまり関係ないな

と、そんなことを考えていると

「あら、相沢君じゃない」

「あ、祐一さん。おはようございます」

横からふわふわパーマの女子とショートカットの女子が声をかけてくる。

「ん・・・よぉ。香里に栞」

俺は二人―美坂香里と美坂栞に、軽く手を上げて答える。

苗字が同じだから分かると思うが、二人は姉妹で、香里はクラスメイトで名雪の親友、学年首席で学級委員。しかしながら意外と話しやすい、何というかまぁ、いいヤツだ。

栞は一年生で、冒頭で俺が挙げた例の一人、奇跡!不治の病から生還した少女!!である。ついこの間までは病気で休校状態だったが、あの奇跡以来は、元気に学校へ登校している。

「珍しいわねこんなに早くいるなんて・・・あれ?名雪は?」

「・・・俺がこれだけ早くいること考えたら分かるだろ」

「・・・それもそうね」

不思議そうに尋ねてきた香里だが、俺の一言で理由を分かってくれたようだが。

「う〜・・・どうして名雪さんはいないんですか?」

が、栞は分かっていなかったようで、更に俺に訊いてくる。

「・・・あまりに起きないから置いてきたんだよ」

「あっ、そうだったんですか」

俺の言葉に納得したように頷く栞。

「・・・それで、これは一体何の騒ぎなんだ?見たところ喧嘩みたいだが」

二人ともが事情を理解してくれたようなので、今度はこちらから質問させてもらう。

「え?う〜ん・・・私たちも最初から見てたわけじゃないからよく分からないんだけど・・・どうもそうみたいね」

「成る程・・・でも何で喧嘩になったんだ?あの番格のほうは血の気多そうだからまだしも、あの眼鏡のほうは喧嘩するようには見えないが・・・」

どうやら香里たちも詳しいことは知らないようだ。

「(う〜む・・・どういう理由があるか・・・ひょっとしたらいきなり番格の方が絡んだのか・・・いやそれとも・・・)」

俺が推理を張り巡らせ、原因を考えていると

「あ、私最初から見てましたけど」

「おわっ!あ、天野!!い、いつからそこに!?」

横から突然声を掛けられて思わず2mほどバック走してしまう。

声を掛けてきたのは天野美汐。栞と同じく俺の後輩で、これといった特徴はない。強いて言えばおばさんくさいといったところだろうか。

「失礼ですね。物腰が丁寧だと言ってください」

むぅ、また声に出していたか・・・どっちもそんなに変わらないと思うんだが・・・ちなみに、おばちゃんくさいだとケチくさいみたいな聞こえ方になるので注意だ。

「あら相沢君、天野さんなら最初からいたわよ」

そうだったのか・・・流石は天野。存在感のなさは北川並だな・・・

「・・・そんな酷なことはないでしょう」

・・・またか。本当にどうにかならんのかこの癖・・・

「それで天野さん、何で喧嘩になったんですか?」

そんなことはどうでもいいといった感じで、栞が天野に詰め寄る。

「あ、はい。実は・・・」

そういうと、天野は一呼吸置いてから

「おいこらてめぇら!俺の前でイチャつくなんていい度胸してんじゃねぇか!!」

「え?そ、そんな、僕達は別にイチャついてなんて・・・」

「うっせぇ!口答えすんな!!(何かを蹴るような真似をする)」

「痛っ!!(倒れこむ真似をする)」

「ちょ・・・何するんですか!!」

「っせぇ!俺に口答えすっから悪ぃんだよ!!」

「そんな・・・理由が無茶苦茶すぎです!!」

「んだと・・・テメェも口答えすんのか?(拳を振り上げるフリをする)」

「っ!!(目を瞑る真似をする)」

「くぉらっ(走る真似をして何かを蹴るような真似をする)」

「ぐっ!?(倒れこむ真似をして)テ、テメェ、何しやがる!!」

「(腰に手を当てて)何しやがるじゃねーよ。そっちこそ何してやがんだ」

上の12行を全て一人で演じ、天野は一呼吸置く。・・・って、12行ってなんだ?

「と、こういうわけです」

「「「・・・・・・」」」

その演技を見て、俺と栞、そして香里までもが目を点にする。

「あの・・・分かりにくかったですか?」

その反応を不服と見たのか、天野が申し訳なさそうな声で聞いてくる。

「い、いや、分かりにくかったわけじゃないぞ。うん、むしろ分かりやすかった」

「そうですか?それならいいですけど・・・」

慌てて俺がフォローを入れると、安堵のため息をつく天野。

「・・・なあ天野、お前、演劇部かなんかに入ってるのか?」

「いえ、入ってませんけど・・・でもどうして?」

「いや、あまりに演技がうまかったからそう思っただけだったんだが・・・」

「んだとぉ・・・?俺の前でイチャついてたこいつ等が悪ぃんだよ!」

と、天野の演技を見ているうちに、再び二人の口論が始まった。

「・・・・・はっ」

眼鏡の男子が嘲り笑う。

「あ゛ぁ!?何笑ってやがる」

「いや、アンタの馬鹿さ加減が丁度笑いのツボをついてくれたんでね」

不良が苛立った声を出すが、眼鏡の男子は挑発的な口調で受け流す。

「んだと・・・テメェ、俺が誰だか分かってんのか!?」

「さあ?今日転校してきたばっかなんだから知ってるわけないね。あっ、ひょっとして番長ってやつ?うわっ、時代遅れにも程があるだろ」

こみかめを引き攣らせながらの不良の言葉にも、眼鏡の男子はあくまで挑発的な口調で返す。どうやら彼は今日転校してきたらしい。

「あわわ・・・ちょっと達樹!わざわざそんな挑発的に言わなくても・・・」

その様子を眼鏡の少年の後ろで見守っていた女子が、眼鏡の男子に忠告するが

「大丈夫だって綾乃。コイツ頭悪そうだから俺の皮肉に気づいてないって」

女子を振り向きながら、またも不良を挑発する。

「んだとぉ・・・俺は英語以外全教科平均以上だ!!馬鹿にすんじゃねぇ!!」

「ゑっ?嘘っ?」

予想外の反論に、驚きのあまり「え」が古典読みになってしまっている。まぁSSでしか使えないネタだが。

「こんにゃろ・・・人が下手に出てりゃいい気になりやがって!!」

その反応についにキレたのか、不良は拳を振りかぶり少年に殴りかかる。

「おっと」

ブンッ

眼鏡の男子は器用に上体を反らしてそれをかわし、そのまま地に手をついて後ろ向きに一回転する。

「やれやれ・・・これだから単細胞なヤツは短気で困るんだよな・・・」

「う〜・・・今のは半分くらい達樹の所為だよ・・・」

華麗に着地してぶつくさ呟く眼鏡の男子に、女子が的確なツッコミを入れる。

「綾乃、ちょいと眼鏡預かっといて」

が、そんなツッコミなど露知らずといった感じで、眼鏡の男子は女子に振り向きもせず眼鏡を放る。

「へっ?あわわっ・・・はうっ!」

べちっ

女子はそれをキャッチ・・・すると同時に豪快に転ぶ。

「いたたた・・・達樹、いきなり投げないでよ〜」

「だからって普通転ぶまではしないだろ・・・さて」

打った頭を抑え、涙目で文句を言う女子に、眼鏡の・・・いや、もう眼鏡を外したから正確には眼鏡ではないが・・・まぁ細身の男子と呼ぶことにして、細身の男子は呆れ半分といった口調で返し、正面の不良を軽く睨む。

「戦る気なら別に戦ってもいいけど?・・・ただし、保健室くらいは覚悟しといてもらおうか?」

「テメェ・・・見かけのワリには随分と好戦的じゃねぇか・・・」

先制のパンチを軽々と避けられたからか、不良の表情が若干険しくなっている。

「まぁ一方的に殴られる趣味もないんでね。戦るからにはそれなりに本気でやらせてもらうさ」

「・・・上等だ」

それぞれにいつでも動けるような構えをとる。

喧嘩になると、外野の連中は主に4つのパターンに別れる。

「おぉっ?何だ!?喧嘩か!?」

「いいぞ〜!やれやれ〜」

まずはその喧嘩を囃し立てるやつら。

「ちょっと、誰か先生呼んだほうがいいんじゃないの!?」

次に自分では止められないから教員などを呼ぼうとする奴ら。ただし、大体の場合この場にいるやつで呼びに行くやつはいない。

「さぁっ、どっちが勝つか一口100円!!張った張った!!」

「番格のほうに5口!!」

「じゃあ俺は眼鏡のほうに2口!!」

次にその喧嘩で賭けをしようとする奴ら。こういうのに限って有言実行だったりする。

「あ、始まっちゃいましたね」

「触らぬ神に祟りなし、関わらないのが一番です」

「なぁ香里、一時限目って何だっけ?」

「たしか数学よ。まっ、相沢君はどうせ寝るんでしょ」

そして第四のパターンは、俺達のように特に関心なし、我関せずな人間達だ。

まぁそんなことは喧嘩してる本人達にはどうでもいい、というかむしろ迷惑なことなんだろう。

「・・・いくぜチビっ!!

「・・・・」

叫びながら細身の男子に殴りかかる不良。

が、彼は気づいていなかった。

「チビ」と言った瞬間、細身の男子の目つきが一瞬にして変わったことを。

「誰が・・・」

「あ・・・!?」

不良が細身の男子の目つきの変化にようやく気がつく。が、遅い。

誰が思わずプチッと踏み潰したくなるような超ウルトラスーパーどチビだぁぁぁぁ!!!

どきゃあっ

「ぎにゃあっ!?」

さながら何処ぞの錬金術師さんのような台詞を叫びながら不良の顎に強烈なアッパーを叩き込む。

ひゅいぃぃぃん

不良の体が、宙に舞う。

周りで歓声や悲鳴があがるが、不良の耳にはもちろん、細身の男子の耳にも届いていない。

不良はこの時点で気絶しているし、これだけやれば大体の人間は満足する。

しかし、細身の男子の怒りはこんなものでは収まらなかった。

ばっ

げしっ

彼は上昇中の不良に向けて跳躍。そのまま跳躍の勢いを利用して背中を蹴り上げる。

がしっ

ぐるんっ

蹴られた勢いで更に上昇する不良の足を掴み、それを支柱にして一回転し、不良の上を取る。

「・・・堕ちろ」

ずどどどっ

そのまま不良の腹部に一撃・・・いや、一見一撃に見えるが恐らく十発以上叩き込んでいるだろう。

ひゅんっ

そして不良の体が地に付く前に下に回り込み、

めきゃあっ

もう一度上空へと蹴り上げた。

ひゅいいぃぃぃぃん

どさっ

数秒間空の旅を堪能した後、不良は背中から地面に落ちた。

「おぉぉぉ〜」

「だっ、誰か保健の先生!!」

「っしゃあ!500円勝ったぁ!!」

「あっ、あのやろ番格のくせに素人に負けやがった!!」

先ほどの外野が騒ぎ出す。

「わ〜、あの人すごいです〜」

「なかなかに見事な動きですね・・・何らかの格闘技をやっていると思われますね」

感心したような声を出す栞と天野。

「・・・というかあの人生きてるのかしら?」

「ああ。泡吹いてるしなぁ」

それとは相反して冷静な見解を見せる俺と香里。

「・・・・・次俺のことチビ呼ばわりしたら・・・地獄見ることになるよ?」

恐らく彼はただ今現在進行形で地獄から手招きされていることだろう。

ひょっとしたら天国かもしれないが。

「あう・・・達樹、ちょっとやりすぎなんじゃ・・・」

その様子を見ていた女子が恐る恐るといった感じで彼を咎めるが

「これくらいやんねーとこういうタイプは反省しねーだろ」

対する彼のほうは自分には全く非がないといった口調で返し、少女の手から眼鏡をひったくる。

「で、でも、転校初日なのにこんな騒ぎ起こしちゃって、大丈夫なの?」

「大丈夫だって。一応こっちには正当な理由があったわけだし」

正当な理由、というと、やはり絡まれていたカップルを助けたことだろうか。たしかに理由にはなるだろうな。

と、二人がそんな会話をしている所に

「一体何の騒ぎです?」

校舎のほうから一人の男子が歩いてくる。

そいつの顔は、俺もよく知っている。

というか、恐らくは全校生徒が知っていると思われる。

何故ならそいつは、この学校の生徒会長だからだ。

「よぉ。久瀬じゃないか」

とりあえず、俺はそいつの名を呼んでやる。

そう、こいつこそがこの学校の生徒会長、苗字は有名だが名前は誰も知らない、久瀬だ。生徒会長の名前を誰も知らないのは問題なんじゃないかとか言っちゃいけない。所詮本編ではほぼ使い捨てキャラだったんだから。

「・・・相沢君、また君ですか」

俺の顔と、倒れている不良を見たとたん、久瀬は呆れたような表情で大きなため息を吐く。

「・・・何を勘違いしたのかは知らんが、今回俺じゃないぞ」

というかその言い方だと俺がしょっちゅう問題行動を起こしているみたいだぞ。

「それでは一体誰だというんです?」

久瀬が周りを見回しながら言うと

「俺だよ」

先ほどの男子が久瀬に直接申し出る。

「君は・・・今日転校してくる予定の、君島達樹くんですね」

男子の顔を見て、久瀬は少し思い出すように目を泳がせてから、その男子の名前を呼ぶ。

「へぇ・・・わざわざそんなの覚えてるんだ」

「これでも生徒会長ですからね。生徒の名前を覚えるのは当然です」

感心したような男子―君島の言葉に、さも当たり前、といった口調で返す久瀬。そこまで真剣に生徒会長として取り組みだしたのはごく最近のクセしてよく言う。

「・・・転校初日に喧嘩騒ぎを起こすとは、なかなかに大胆ですね。ウチの高校は喧嘩騒ぎはご法度なんですよ」

倒れている不良を見て呆れたようにため息を吐く久瀬。

「あっ、久瀬、別に何の理由もなしに喧嘩してたって言うわけでもなさそうだぞ」

まさかいきなり退学なんてことはないだろうが、一応フォローを入れておく。

「・・・まぁ、詳しいことは生徒会室で聞かせていただきますよ」

そういって君島を連れて行く久瀬。

「はぁ・・・達樹ってば、転校してきたばっかりなのに、いきなり喧嘩なんかして・・・」

「・・・まぁ大丈夫だと思うぞ。ちゃんとした理由があるわけだし。もしそういうことになるとしたら終止事情を知ってるやつに説明し

てもらえばいいし」

「そうそう。今のケースだと悪いのは100%あっちのほうよ」

「そうですね。私も終始見ていましたが、悪いのはどう考えても向こうですね」

「そうですよ」

疲れたようにため息をつく女子をとりあえず四人がかり慰めておく。

「あ、ありがとうございます。えっと・・・」

「ん?ああ。俺は祐一。相沢祐一だ」

「―っ」

俺の名前を聞いた瞬間、女子の顔が一瞬強張った気がした。

「私は美坂香里」

「天野美汐と申します」

「美坂栞です」

「・・・あ、私は綾乃。君島綾乃・・・ありがとう。相沢くん。美坂さん。天野さん」

自分の名前を名乗ってから改めて礼を言ってくる女子―君島綾乃(きみじま あやの)。

「いや、別に礼を言われるようなことはしていないが・・・」

というか実際してないし・・・ん?

「君島って・・・ひょっとして、さっきの人って・・・」

俺の言いたいことを香里が代返してくれた。

「あ、はい。達樹は私の双子の弟です」

すると返ってきたのは予想通りの答え。成る程・・・そういえば、さっきのヤツとよく似ている気もする。

「つーことは・・・綾乃も今日転校してきたわけだな」

「あ、はい。ウチの親の急な転勤で・・・」

「へぇ〜、相沢君と似たような理由ね」

まぁ俺の場合は両親が海外に転勤になったから秋子さんに世話になってるだけだが。

「はぁ・・・達樹、大丈夫かな・・・」

改めて不安そうにため息をつく綾乃。

「・・・なんだったら、今から生徒会室に行ってみるか?ちょうど最初から見てたやつもここにいることだし」

「え・・・?」

天野を指差して提案する。

「たしかにそうですね。まぁ久瀬さんもあの一見以来少しは懲りたでしょうから、それほど酷な判断は下さないと思いますが」

それに天野も同意する。

「で、でも・・・」

「別に大したことじゃないから、遠慮しなくてもいいぞ。始業時間まで時間もあるし」

どうにも遠慮がちな綾乃に、軽い口調で答えてやる。

「・・・それじゃあ、お願いします」

しばらく考えてから、綾乃が協力を受け入れてくれた。

「じゃ、早速行くか」

「そうね」

「「「はい」」」

そんなこんなで俺は4人を引き連れて生徒会室へ向かうのだった。


続く確率・・・70%


あとがけ

どうも。まだ一作品ろくに書けてないのにもう一作書いてる阿呆な関西人です(笑

どうにもこのサイトに来てる人には結構「Kanon」知ってる人がいるみたいなので迷った挙句投稿してみました。

また、私は「Kanon」のゲームは未プレイなので色々とおかしい点があると思いますが・・・というか確実にあると思われますので、気づいた方は容赦なくつっこんでくれると非常にありがたいです。

できるだけ作品を知らない人でも分かるように努力はしたつもりですが、多分分かりません(ヲイ

・・・つーかあっちのほうもちゃんと書かねぇとなぁ・・・(汗

それではまた。

この小説について

タイトル KanonSS 優しさと勇気と奇跡と
初版 2004年2月16日
改訂 2004年2月17日
小説ID 283
閲覧数 1024
合計★ 6
関西人の写真
熟練
作家名 ★関西人
作家ID 8
投稿数 15
★の数 187
活動度 1830

コメント (5)

弓射り 2004年2月16日 21時48分20秒
へえ・・・・Kanonてこういうゲームなんやあ・・・・絶対やらねえ(爆)改行がうまくいってないので、ちょっと読みにくかったですね。わざわざ一行あけなくてもいいんじゃないか、と思います。
イカサビS 2004年2月16日 21時52分10秒
やけに白紙のところが多いのが気になりますね^^;自分は内容よく知らないくちなんでどうもこうも・・・とりあえず最初の戦う少女が別のキャラクター(名前思い出せない)と似てて混乱しました。
シキ 2004年2月16日 22時33分34秒
コメントなし
シキ コメントのみ 2004年2月16日 22時38分07秒
一言いってしまうと、自分も似たようなもの書いてます(ぇてか、時間設定がいつなのか知りたいですね。あゆ、栞がいるならすでに祐一は3年のはずだと思うのですが・・・あと、ヘアバンドでも合ってると思いますが、あゆがつけてるのはカチューシャです
匿名 コメントのみ 2005年1月21日 12時37分56秒
 
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