鬼姫 - -二人-

ライン

それは、
信じられないほどにあっけなく。
そして、
単純明快な終わり方だった。
鬼姫対一文字怜の
頂上決戦を制したのは、
一文字怜。
まだ、負けた側の
鬼姫と弁慶は動けなかった。
あまりの一文字怜の奇跡、
そして現実味を帯びない敗北感に、
何も言いだせず、
動けずいた。
すると・・・。

「・・・鬼姫ちゃん、忘れてないわよね?
 敗者が背負うもの」

「・・・・・・・・・」

「?
 鬼姫ちゃん・・・?」

鬼姫は、
もう終わっていた。
意識があるのかどうかわからない。
だがしかし、
一文字怜の言葉に答えられるほどの
力は残っていなかった。
ただ絶望にひれ伏していた。
死が怖いのでは無いのだろう。
一文字怜の圧倒的な強さに、
鬼姫は壊れてしまった。
すると、
ようやく意識を保つことができた
弁慶が、
鬼姫のもとへゆっくりと近づく。

「・・・・あ、あぁ・・・・?
 鬼姫・・・?
 ・・・おい、鬼姫・・・?
 大丈夫か?
 俺の声が聞こえてるか・・・・?」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・あらあら。
 どうやら相当、敗北が堪えたらしいわね。
 ・・・でも、勝負は勝負。
 ・・・・・敗北者は、宣言通りに・・
 死んでもらわないと・・・」

「うっ!!!」

一ミリも動かない鬼姫の前に、
冷酷な宣告。
衝撃が衝撃を呼ぶ。
弁慶すら、
まだ事態をあまりのみこめていない。
あの鬼姫が負けたということ。
神の奇跡を見たこと。
何が何だか分からなかった。
ただ一つ、
分かることがあった。
それは・・・。

「・・・お、鬼姫・・・・・
 おまえ・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・仕方無いわね、
 アンタ達、鬼姫ちゃんを連れていきなさい」

「うすっ」

「っぐ!!
 (こ、こいつらっ・・・・・!!)」

止まらない。
止まらない死。
やはり一文字怜は、
情け容赦なく、鬼姫を殺すつもりだった。
後ろにいた
ヤクザ連中を使い、
動かない鬼姫を連れていくようにと
指示をする。
鬼姫は死ぬのだ。
敗北者は死。
だが、
それを認めたく無いものが一人。

「へ、へへっ・・・・・。
 ・・・待ちな、ヤクザさん達よぉ・・・」

「あぁー?
 なんじゃテメぇーはぁっ!!」

「・・・・鬼姫に指一本でも触れてみろよ・・・
 ブチ殺してやるっ・・・・!!!
 テメェらの体、
 一生使えねぇようにすっぞ!!」

「・・・れ、怜さん・・・。
 この男・・・・」

「・・・あらあら・・・。
 やっぱり、弁慶君ね・・・・。
 ・・・鬼姫ちゃんを守るナイト様か・・・・」

弁慶が、
必死に鬼姫をヤクザから守ろうとする。
その気迫に、
鬼姫を連れて行こうとした
ヤクザ達も足を止める。
そして、困った表情で
一文字怜に救いの手を求める。
それを見た一文字怜は、
クスっと笑い、
弁慶の目を見つめる。

「・・・・本当は、最初からこうなると思ったわ。
 さすがは弁慶君。
 ・・・私の思った通りの男」

「・・・・っぐ・・・・!!
 頼む、一文字怜っ・・・・・!
 今回は、ゆるしてやってくれねぇか・・・!?
 なんなら、
 俺も一緒に指や足を差し出すっ!
 ・・・だから、お願いだっ!!
 ・・・・鬼姫の命だけは・・・・・
 命だけはっ・・・・・!!」

「(・・・・本当に・・・・
 君は、私の昔の彼そっくり・・・。
 バカだけど、ずっと私を見守ってくれていた、彼に・・・)」

「頼むっ・・・・・・!!」

一文字怜は、
何処か寂しそうな、
そして懐かしそうな表情で、
弁慶の所を見つめる。
そう、
弁慶は一文字怜の昔の彼氏そのものだったのだ。
そんな鬼姫と弁慶を、
一文字怜は自分と彼を
照らし合わせてみていたのだ。
ゆっくりと考え、
そして、
一息ついて、
答えを導き出す。

「・・・・・・・・・・わかった。
 いいわ、鬼姫ちゃんの命だけは助けてあげる」

「っ!!
 ほ、本当か!?」

「・・・・だけど、敗北の条件は変わらないわ」

「?」

「・・・・鬼姫ちゃんの大事なものを取る・・・
 ・・・・・・それは、了承してもらいたいわね」

「っぐ・・・・!!
 わ、わかったよ・・・。
 鬼姫の命が助かるなら、仕方ねぇことだ・・・!」

「・・・・じゃぁ、遠慮なくもらいましょうか・・・。
 ・・・・・弁慶君・・・・
 アナタの命を・・・・・」

「っ!?」

その言葉に、
あまりにも以外すぎた言葉に、
弁慶は固まった。
この言葉が本人の鬼姫の
耳に入っているかどうかは
不明だが、
今はただ、弁慶は
困惑するしかなかった。
そして、
2秒、3秒と経って、
ようやく一文字怜の言った言葉の意味を
理解し始める。
目を丸く開けて、
鬼姫を一度見つめ、
そして、
意を決したように、
一文字怜を見る。

「・・・・どう・・・・?
 ・・・命、張れる・・・・・・?
 鬼姫ちゃんのために・・・」

「・・・・・・・・
 ・・・・へ・・・へへっ・・・・。
 なんだかねぇ・・・」

「?」

「・・・・言ってる俺もバカらしいが、
 俺、
 こんな緊迫した場面なのによぉ、
 なーんか・・・
 頭は別のこと考えちまうんだよ
 ・・・いつも、いつもだ・・・・」

「・・・・・・」

「・・・ずっと、鬼姫が頭から離れねぇ・・・。
 こんな場面でも、
 俺は鬼姫が好きすぎてこまっちまうよ・・・・。
 ・・・・・一文字怜・・・・
 感謝するぜ。
 ・・・鬼姫に俺を惚れさせる場面作ってくれたことに、
 ・・・・・・感謝するぜっ!!」

「・・・・・・・」

「・・・・俺の命、
 ・・・・・鬼姫のために捧げてやるぜっ!!」

まことな、漢。
天見弁慶、
彼は鬼姫のために、
自ら潔く命を差し出すと言い張る。
全ては、
鬼姫のために。
いまだに鬼姫は動かない。
そんな中で、
彼は鬼姫を守るために、
ついに命を投げ出した。
それを聞いた
一文字怜は、
少し悲しそうな顔をして、
溜息をつき、
答える。

「・・・・・そう。
 ・・・やっぱり、そうなのよね。
 ・・・・・アナタはそういう男よね・・・」

「へ、へへっ・・・・。
 ・・・・どーせ死ぬまで鬼姫のこと
 愛してんだ・・・・
 ・・・今死んだって変わり無ぇさ・・・」

「・・・・そう・・・・」

「・・・・・怖ぇな、一文字怜・・・・。
 人を愛しちまったら、
 自分まで殺すことになるとはな・・・・。
 ・・・でも、なんていうのかな・・・
 ・・・・・そう、青・・・・
 青なんだ・・・!」

「青・・・?」

「あぁっ!!
 俺、鬼姫に会ってからは、心が青になった!!
 ・・・何も無いつまらない毎日、
 ・・・・冴えない色、茶色ばっかの毎日・・・。
 けど、夢だ、
 ・・・・もう毎日が夢だった!!
 夢のような色・・・
 ・・・そうか・・・
 青じゃない・・・・・虹色だっ!!」

「・・・・・・」

「・・・チビるほど危ない場面もあったが、
 それも鬼姫と一緒なら・・・・ 
 ・・・全てが・・・・虹色だった・・・・。
 ・・・・へへっ・・・・
 ちっきしょう・・・・・・・
 ・・・・ちきしょう・・・・・・
 ・・・もっと・・・・
 もっと鬼姫と一緒にいてぇよ・・・・・」

「・・・・・弁慶君・・・」

いつのまにか、
弁慶の目からは溢れんばかりの
涙が出ていた。
それを見ていた一文字怜も、
何か嫌悪感に襲われる。
それは、周りにいたヤクザ達すらも。
しかし、
一文字怜の意思は変わらない。
曲げない。
決して、
一度決めたことの意思を曲げない。
目を閉じて、
そして、顔をうつむける。

「・・・・・弁慶君・・・・
 アナタのこと、きっと忘れないわ・・・・」

「・・・・あぁ・・・・・
 うれしいこと言ってくれるぜ・・・・」

「・・・・・おまえ達、
 ・・・弁慶君を連れていって・・・・」

「う、うっす」

容赦なく、
一文字怜は弁慶を
死刑執行台へと案内する。
ヤクザ達は
少し気が向かないながらも、
弁慶をこの部屋から
出そうと、
命を狩るために、
別の部屋へと移そうとする。
何もかもが終わる。
弁慶の死によって。
ヤクザ連中に連れられていく弁慶。
すると、
一文字怜があることに気付く。

「・・・?・・・・・・。
 ・・・・・
 ・・・・そういう、ことね・・・・」

一文字怜はとあることに気付いた。
そして、
ゆっくりと近づく。
鬼姫の所へ。
弁慶がヤクザ達に
別室へと移動させられそうな最中、
一文字怜は、
鬼姫の方へそっと駆け寄り、
ポッケから
何かを取り出そうとする。
すると、
教室から出ようとする
一歩手前で、
弁慶がそっと振り向く。

「い・・・
 一文字怜ーーーっ!!」

「・・・・?・・・・」

「・・・・・どうだい・・・・?
 ・・・鬼姫、まだ意識失ってるか・・・?」

「・・・・・・・えぇ・・・・」

「・・・タマゴサンド、好きだからよぉ・・・。
 ・・・・買えば、すぐに良くなるんだ・・・・!
 ・・・・・うれしそうに、食いつくんだ!」

「・・・・・わかった・・・
 わかったわ、弁慶君・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・
 ・・・・う、うぅ・・・・・・
 うぅううううっ・・・・・・・・・!
 ・・・・・・鬼姫・・・・
 笑ってるかい・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・えぇ・・・・・・・」

「・・・・・・・良かった・・・・・・・・」

弁慶は、
そう言い残し、
ヤクザ達に連れられて、
教室を後にした。
一文字怜は、最後まで、
見えなくなるまで弁慶の後ろ姿を見つめた。
そして、
さきほどやりかけたこと、
ポッケから白い何かを取り出し、
鬼姫の手に
そっと置く。

「・・・・・鬼姫ちゃん・・・・
 このハンカチ、使って・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・
 ・・・・涙、出てるわ・・・・・」

それは、涙。
鬼姫の無意識の涙。
恐らく、
体が反応したのだろう。
いや、もしかしたら
意識があるのかもしれない。
とにかく、
弁慶が自分のために死ぬという場面で、
鬼姫が反応した。
初めての、悲しみ。
涙。
鬼姫の目は涙でいっぱい。
声は出さないが、
その表情は普通の人そのもの。

その後、
一発の銃声が響いた。
それは、
一文字怜と鬼姫の耳にも
ハッキリと聞こえるほどに。
その日。
鬼姫は、
何もかもを失ってしまった。
生きる全てを、
歩くための希望も、
全てを・・・・・・・。


後書き

賭博に染まった者には、
どんな過程があろうと辿り着く場所は同じ。
つらくも、
この勝負に鬼姫がそれを受けてしまっただけのこと。


今まで自分なんかの小説を読んで下さった方々、
本当にありがとうございました!

文章の構成も、今までとは違った書き方に
挑戦してみたのですが、
難が多々、というか全部・・・。

とにかく、これにて「鬼姫」は完結です。
今まで有難うございます!

この小説について

タイトル -二人-
初版 2008年12月5日
改訂 2008年12月5日
小説ID 2854
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コメント (2)

★日直 コメントのみ 2008年12月5日 21時36分31秒
こんばんは。
“鬼姫”、今回まで読ませていただきました。

僕は小説は基本的に書籍をベースに読み書きしているので、こういったそれらしくない物は普通読む気にならないのですが、それでも試しに第一話を読んでみた時に「おや?」と思いました。
気が付けば二話目三話目と読み進めていたのです。それから改めてこの作品に魅力を感じていたことに気付きました。
弁慶の感情、勝負の場面の緊迫感、鬼姫や一文字怜の迫力と存在感、地の文の共感できる一般論。どれも文面によって心に響きやすくなっており、あまり良くなかった第一印象が覆るほど夢中にさせられました。
ただ残念だったのが、この最終回です。
今までのような意外性がありませんでした。これから続きがあるなら見逃せたかもしれませんが、鬼姫が簡単に人の心を取り戻したことに興が醒めてしまいました。
今までの鬼姫の弁慶に対する冷たい態度はただのツンデレだったのでしょうか。弁慶は冷酷な鬼姫に惚れていたように僕は認識していましたが、もしそうなら、人の心を取り戻した鬼姫に弁慶は多少がっかりするのではないでしょうか。
弁慶の死一つで、鬼姫が鬼姫らしくなくなっています。
弁慶が死んだ事で、自分の死に対して何も思っていないという、人外に近い精神を持つあの鬼姫が、生きる希望を失う程の理由があるのなら、まずそれを語ってほしかったですね。
今思えば、一文字怜以外のキャラクターの過去にはまったく触れられていませんでした。そこら辺を少々期待していたので、少し残念です。
僕が言うには多少図々しい気もしますが、提案させてもらいます。
この“鬼姫”のシリーズをもう一度推敲するか、続編を書かれてみてはいかがでしょうか。
“鬼姫”に対する消化不良を解消するには、そうしてもらうほかないと思います。まあ、消化不良なのは僕だけかもしれませんが(汗)

最後に、この作品に出会えて本当に良かったです。
物書きの端くれとして、大変いい勉強になりました。
それでは、失礼しました。
ライン コメントのみ 2008年12月6日 20時40分08秒
初めまして、ラインと申します。

ご感想ありがとうございます!
そればかりか、
自分の至らなかった点を丁寧に指摘してもらい、
ただひたすら感謝です。

それではまず、
なぜ鬼姫が泣いたか?
についてお答を。

すみません、これは記述不足でした!

怜に負け、おまけに
弁慶にまで自分の尻拭いをさせてしまい、
完全敗北に打ちひしがれる涙なのか、

それとも、現実に迫った”死”に、
身動きを取れなくなってしまった鬼姫の
くやしさの涙なのか、

もしくは、それは本当に
弁慶が死ぬことに対する涙なのか・・・?

という読者の想像にまかすハズだったのですが、
見事に説明不足でした、
まことに申し訳ございません。

各キャラの過去も何度も考えようとしたのですが、
そうなると40話を軽く超えてしまい、
引き伸ばし過ぎかな、
という自己の判断で断念致しました。

続編、についてですが、
自分としても他の皆様に迷惑をかけないのであれば、
執筆をさせて頂きたいです。
しかし、
その場合は文の構成について修正するか否かを
じっくり検討していきたいと考えています。

本作に関心を持って頂き、
本当に励みになりました。
もしこれからも執筆するようなことがあれば、
今後もどうかよろしくお願いいたします。

それでは失礼します。
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