とある所の物語 - とある魔術師と剣士の物語。

『人魚』

それはとある海に面した山道での話。
「なんていうか……此処、あんまり長く居たくはないよなー…」
道幅はあまり広くなく、しかも高い崖になっている山道を進みながら、剣士は言いました。
特に落下防止用の柵も泣ければ看板も無い道でしたので、ひどくそれが危険なように剣士には見えたのです。
「だが、見晴らしは凄くいいぞ。此処で思い切って明日に向かってジャンプしたくなると思わないか?」
すぐ後ろに進んでいた魔術師は、きらきらと光る水面を見つめながらまぶしそうに手をかざします。
「着地地点が安全に確保されてたらな。
 こんなところでジャンプしたら明日に向かうどころか明日そのものを失っちゃうよ。」
はぁ、ど何処か疲れたため息を、剣士は吐きます。
「ま、そもそも今の私達には明日も危うい状況だがね。」
「知ってる。誰かさんが地図に落書きして読めなくなったんだしな。」
今度は深めに、剣士がため息をつきました。
疲れた表情を浮かべている彼の背後で魔術師はひょいと肩をすくめます。
「アレは落書きではない。陣だと何度も言っているだろうが。」
「……知ってる。触ったら地図から火柱が上がったしな。」
ははは、と疲れた顔を剣士は浮かべます。
その手には、やけどの跡が微妙に残っていて、事件の凄惨さをかもし出しています。
「そうだな。
 思いつきで描いてみただけなのにまさか成功するとは流石の私も思わなかった。天才って怖い。」
「その意見には反対しないけど、天才としてその行為については疑問符がつく。」
「ははは、残念ながらお前のような凡人に私の崇高なる行為を理解してもらおうとは……
 これっぽっちも思っていないが。」
「もうアンタが今から明日に向かって跳んでくれないかな?
 そうしたら俺の明日はとりあえず開ける気がするんだよなー?」
剣士は言葉こそ穏やかでしたが、口は笑っていませんでした。
もちろん、そんな表情など彼の後ろを行く魔術師には見えていないのですが。
「何を言っているかなお前は。
 今私が海に向かって跳んだところで、今目の前に見える状況は一切好転しないぞ?」
魔術師の至極真っ当な返答に、剣士は言葉を詰まらせました。


そう、何を隠そう二人は現在進行形で絶賛迷子中でした。


つまり、この危険そうな道も人が通らないので放置されているのでしょう。
全然人と出会わない事さえも納得できる理由が、
目の前に形となって現れている事に剣士は思わず頭を抱えました。
「あぁー、もぅ、何が歩いて2日の港町だよ!もうかれこれ1週間は経過してるじゃないかッ!!」
剣士が絶望のあまり慟哭しますが、魔術師はあくまでも平常心でした。
「そうだな。一直線で2日だったはずなのに。
 迷いに迷いまくるお前が愉快すぎていつ抱腹絶倒するかこちらも少し焦っている。」
というか、むしろこの状況を楽しんでいるようでした。
不謹慎すぎる剣士が思わず振り返ると、魔術師はコレでもかとばかりに輝かん笑顔を携えています。
「……あのさ、もしかして……ここ一週間ずっと俺が先頭あるいたけど……現在地……わかってる?」
剣士の質問に、魔術師は笑顔を浮かべたままでした。
それは所謂―……肯定の意であることをわからないほど、剣士も頭が悪くはありませんでした。
……―ッ!ふざけ―…ぇ?」
剣士が怒鳴りつけようとしたとき、ふいに足場がゆれました。
それは地震前の地鳴りのようなものではなく、崖下で直接大きなものがぶつかった様な―…そんな、揺れでした。
「な、なんだ!?」
さっきまでの怒りはどこへやら。
剣士は崖下を恐る恐る覗き込みます。
すると、目の前もとい、崖下にはそれはそれは巨大なタコが一匹、
なぜかちょうど自分達がいる真下の崖に向かって何度も体当たりをしています。
「おお、この辺の地域に住むという巨大ダコじゃないか。
 確かあまりにも美味で乱獲され、数が減少気味だと聞いたが。」
魔術師が言葉どおりにかなり珍しいのでしょう。そのタコを見て感嘆の声を上げます。
その間も、ドンドンとタコは勢い良く崖に向かって体当たりを繰り返します。
そう、自分達が今居る場所も揺れるほどに。
「いや、そんな冷静な観点はいいから。それより早く此処から離れないと―……」
そう、剣士が言いかけたときでした。
やはりというか、なんと言いますか―……
二人が座ってタコを見守っている場所の地面が大きくひび割れました。
「うぉっ!?」
剣士がひとたび大きな揺れに驚きの声を上げます。おそらく、それが崖にとっての寿命だったのでしょう。
しかも何の因果か、ちょうど剣士が座っているところのみがらりと音を立てて崩れだしたのです。

う、そ、わ、あぁぁぁ――……

剣士の声が姿と共にフェードアウトしていきます。
それを一部始終見ていた魔術師は、一瞬だけ驚きの表情を作ります。しかし。
「…………ぷ。」
剣士にこの光景を見られていればまた怒鳴りつけられていたでしょうが、今は誰も居ません。
その事をいいことに、その場で抱腹絶倒しました。腹を抱えての大笑いでした。



ぁ、ぁぁあああああ――ッ!!!
剣士は、重力のままに体を投げ出していました。
しかも自分にはどうする事も無いので口を大きく開けてあらん限り叫んでいました。
それが程よいドップラー効果を生み出し、
崖上で魔術師がさらに笑い転げていたのですが、そんな事は気にしてはいられません。
眼下に移るのは大きく崩れた足場と、大きなタコ。それと海。
恐らく自分は海に叩きつけられて死ぬか崖に頭をぶつけて死ぬかどちらかだと思った剣士は思わず目を瞑りました。

ぼよん。

しかし、しばらくたって襲ってきたのは痛みの無い不快な衝撃でした。
まるで、少し弾力のあるねとりとした大きな大きなスライムの上に落下したような、そんな衝撃でした。
「……へ?」
目を白黒させながら開くと、自分はどうやら粘膜に包まれた体の上に居ました。
ようするに、落下した場所は海でもなく崩れ落ちた崖でもなく、タコの上だったのです。
しかもタコもタコで崖と自分の頭突きのダブルアタックを食らったせいか、完全に動く様子はありません。
なんというか、気絶してぷかりと海上に漂っている―……そんな感じでした。

「ぇー……っ、ちょ、っ、ちょっと、俺、置き去り!?」

隣は崖。下は海。そして自分は何時目覚めるかわからないタコの上。
剣士はある種の絶望を感じ、頭上いるはずの魔術師に助けの声を上げようとします。
しかし、見上げてみても何故か魔術師の姿はなく、ただ一人だということが現実味を帯びてきただけでした。
ちなみに、魔術師は見えない位置で剣士の姿をせせら笑っていただけなのですが、剣士はそれに気がつきません。
「ちょ、冗談は止めてくれって!お願い!其処に居るのはわかってんだよ!!だからマジで助けてぇー!!」
立ち上がろうものなら滑りそうだったので、剣士は座ったまま必死に崖の上に向かって声を張り上げます。
その声に魔術師の姿は見えませんでしたが、代わりに自分の目の前からざばり、と海の中から『何か』が現れました。
「ッぎゃー!今度は何だよー!!」
タコのご友人さんか何かかと思った剣士は、情けない悲鳴を上げてしまいます。
しかし、現れたのはタコではありませんでした。
「あ、あの…その、はじ、始めまして……わ、私、人魚というものですが……」
美しい長い水色の髪を携えた、それはそれは美しい女性の上半身でした。
透き通るほど綺麗な海中からは、その人の下半身が魚だということがわかります。
「……あ、は、始めまして。どうも、旅人です……」
思い切り肩透かしをくらった剣士は、とりあえず丁寧に返事をしておきました。
しかし、先程の情けない悲鳴を聞かれたと思うと、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になります。
「え、えと、先程は、助けていただき、ありがとうございました……」
初めて人間をみるのでしょうか。人魚は何処かしどろもどろになりながら御礼を言ってきました。
「助けた?」
「は、はい。このタコは人間に襲われ、八つ当たりのようにして私達の集落を襲ってきたのです。
 貴方が体を張った体当たりをしてくださらなければ、集落は海の藻屑となってしまっていたので……」
思いっきりこっちも被害食っただけなんだけどな。と剣士は思いましたが黙っておきました。
言ったところでどうにもなりませんし、崖の上からの助けは来ないからです。
「ほう。人魚の集落とは……面白い話だな。」
「うぉっ!?どっから沸いて出てきた!?」
いきなり背後からの魔術師の声に、剣士は驚きの声を上げました。
剣士の質問に、魔術師は上空を指差します。
「面白かったぞ。崖から落ちるときのあの顔。いやー、笑った笑った。3年分くらい笑った。」
まだ笑い足りないのか、魔術師は半笑いで口を手に当てました。
ほんの数分前の光景とはいえ、思い出し笑いをするのに十分なインパクトがあったのでしょう。
「……えーっと、人魚さん、それで?」
剣士は力の限りスルーする事にしました。
魔術師に一字一句付き合っているとストレスで胃の辺りに不調をきたしそうだからです。
それでも魔術師は一切残念そうな顔を浮かべることなく、人魚に向き直りました。
「あ、はい。それで、長老様からぜひお礼にとコレを。」
人魚はそういうとタコの上に綺麗に滑り乗りました。
海上に、人魚の下半身である虹色の尾びれがあらわになります。
そして、剣士の傍に近づくと、鞭と短剣を手渡しました。
「…いや、短剣はわかるけど、鞭ってどーよ……」
剣士は手渡されたものをしげしげと見つめます。
シンプルな短剣は、あまり価値のあるようなものに見えませんでしたし、鞭はどっちかというとアッチ方面の人が喜びそうな形状をしていたからです。
もちろん、剣士はアッチ方面とは係わり合いがないし、そもそも持ちたくありませんでした。
戸惑う剣士に、人魚は少しだけ笑顔を浮かべて言葉を続けます。
「人魚の涙は真珠の涙。その鞭で私をぶっていただければぶっていただくほど貴方は大金持ちになるでしょう。
 人魚の血は万病を治す薬。その短剣で私を切り刻んでいただければあらゆる病を治せるでしょう。
 人魚の肉は不老をもたらす。
 最期に、私の肉を余すところなく貪っていただければ時の流れを超越できます。
 人魚の里を救ってくださった勇者様、どうか私を好きに扱ってくださいませ。」
人魚の笑顔は、すがすがしいものでした。
後悔や懸念など全くなく、心からの言葉だとわかるほどに―…それはそれは清清しいものでした。
「……は、い?」
思わずならべたてられたグロテスクな選択肢に、剣士は目が点になりました。
ちらり、と魔術師のほうに困ったような視線を向けると、
魔術師は視線で『お前の好きにしろ』と言ってきます。
剣士は、しばらく考えました。
その手に、鞭と短剣を手に持って。





「……いやー、びっくりした。」
とある場所の、とある町から歩いて2日の港町。
二人の旅人、剣士と魔術師が歩いていました。
「だから言っただろう。珍しいと。」
その手には、ぷっくりと膨らんだ財布が握られていました。
「そうそう。あのタコがあんなに高く売れるなんて。」
思いがけない収穫に、剣士は顔をほころばせます。
「……だが、良かったのかあの人魚。」
「何が?」
「今頃手元においておけば、さも遊びがいがあったろうに。」
魔術師が残念そうに息を吐きます。
その言葉に、剣士は苦笑を浮かべました。
「いいんだよ。あれで。だから、こうやって無事に港町までつけたんだしさ。
 それにしても、人魚ってすげぇな。
 タコを押していけるほどのパワーを持ってるとは、びっくりした。」
「まあ、基本的にミステリアスな生き物だからな。」

活気あふれる港町を、二人の旅人が歩き出します。
今日はきっと、美味しいタコ料理にありつける事を期待しながら。

後書き

いつまでたってもHP用のオリジナル小説が書けないので試験的に書いてみた
後悔はあんまりしていない。ごめんわりとした。

ファンタジーが総じて読みにくいのはきっと『俺様設定』がわんさかあるからだろうと思って全体的に取っ払ってみました。
いかがでしたでしょうか?

近頃方向性を見失いがちなので、今後の参考にしたく感想とかいただけると嬉しいです。
辛口、激カラなんでもかんでも来たれ!!

この小説について

タイトル とある魔術師と剣士の物語。
初版 2009年1月2日
改訂 2009年1月3日
小説ID 2928
閲覧数 785
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冷奴の写真
ぬし
作家名 ★冷奴
作家ID 452
投稿数 18
★の数 66
活動度 2156
どうも、別名絹越 木綿とか名乗っている奴です。
本家『http://www.geocities.jp/minyatyuki/index.html
辛口でも甘口でも激カラでも、今後の参考のためにさせていただきますので
感想とかよろしくしてくれるといい感じです。

コメント (2)

★鷹崎篤実 コメントのみ 2009年1月2日 20時40分05秒
どうも初めまして鷹崎篤美です。
早速ですが、コメントさせていただきます。気に触られるようなことを書きますが、平にご容赦を。
まず、読み終わって感じたことです。そんなに人魚が強いなら、大ダコごとき袋叩きに出来たのでは?と思ったのですが。まあ、矛盾点を論うのは読者として愚の愚ですね。
あと、絶対的三人称小説の書き方と相対的三人称説の書き方が混ざっているので、そのあたりの混同をなくしていけば、いいと思います。私は地の文で「自分」とか書かれても、『え? 誰?』みたいな感じでした。
それと、注意点ですが剣士、魔術師、人魚と名前がないのはそれなりの考えがあってのこととは思いますが、読み手を意識するならば、今後は避けた方がいいです。
それなりの文章力があり、かつ魅力的なキャラクターであればこそ、名前がないというギミックも生きるのですが、この作品ではその必要性は皆無だと思います。
最後に一番引っ掛かっていることなのですが、仲間の危機に大笑いして転げ回っている魔術師の気が知れません。あの描写ですと、茶目っ気があるとかいうレベルを超して、酷薄、いえ、異常者のようなイメージしか持てませんでした。
色々と書きましたが、あとがきに「むしゃくしゃしてやった」とか書くのは読者の反感を買うのでやめた方がいいです。
では、次の作品にてお目にかかれることを願いながら。
★冷奴 コメントのみ 2009年1月3日 8時31分32秒
始めまして、鷹崎篤美さん。
まずは、コメントを頂き、真にありがとうございました。
今後の一物書きの人間として、参考にさせていただきます。

頂いたコメントを参考にしながら自分の作品を読み返してみたのですが、確かに人魚が強すぎましたね...
せめて、どこかに『何人もの人魚が〜』
という1文くらいは付け加えても良かったですね。気をつけます。
絶対的三人称と相対的三人称混同の部分については、言われるまで気がつきませんでした。というか、そういうルール(?)を知らなかったので、今回初めてこうしてコメントを頂く事で一つ賢くなりました。
注意点ですが……今回、このような書き方は私としても初めての試みでしたので、今後は控える事にします。相手にとって読み難ということがよくわかりましたので。もう少しキャラクターに魅力を出せるようになったら再挑戦してみます。ひどく漠然とした目標ですが。
一番最後の点ですが……今回書きながら若干やりすぎかしら?
と、心配はしたんです。ええ、心配だけは。
酷薄、くらいを意識したんですが。飛び出してしまったようですね。逆に、相手に登場人物を『異常者』として捕らえさせるにはどうしたら良いかを学んだ気がするので、それはそれで......

あとがきにまで注意を頂き、ありがとうございます。
どうも自分、あとがきは書き終えたテンションで書くので適当な事口走ってる節があるみたいです。編集しておきます。

今回は、このような作品にとても参考になるコメントを頂き、感謝しています。今後の励みにしながら、次の作品を作り上げていこうと思っています。
では、最後にもう一度、ありがとうございました。
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