7月29日、最高の快晴。ついに剣の大会である、裏剣道殺陣大会の日がやってきた。
「よっしゃ、今回はいっちょ暴れてやるか。」
結城は、会場である武道館を見つめながら笑って言う。
この武道館は、結城たちの住む町から電車で1時間、そこから山道を30分ほど来たところにある。辺りを見回しても民家などは見当たらず、ここから見える小高い丘に宿舎と思われる建物が建っているだけである。
「ほら、急がないと。受付時間過ぎちゃうよ。」
黎夏が先頭に立ってみんなを急かす。
「・・・俺は鳴海がいなかったら今頃みんなバラバラだったと思うンだよな。」
「僕もそう思うかも。」
この会場に到着するまでにたくさんの分かれ道があった。しかし黎夏は、地図と方位磁石を頼りにしてここまでみんなを引っ張ってきたのである。
4人は、小さな入場門の前に到着した。
「先日郵送でお送りいたしました参加証はお持ちでしょうか?」
「はーい。これでいいのか?」
「はい、エントリーナンバー67番、チーム名『KYRT2』様ですね。どうぞご入場ください。」
受付の女性は、小さく一礼をして入場門を開けた。
「どうもー。」
結城は、門の中に入る。そのあとに3人も続く。黎夏は結城に聞いた。
「あのチーム名なんなの?『KYRT2』って。」
「あれか?あれはな、みんなの名前の頭文字だ。」
結城は自信満々に答える。それを聞いていた友則から
「・・・センスねーな。変えられねェのか?」
という声を漏らした。
「んだとぉ!3時間考えたんだぞ!」
「それでこの成果かよ!」
狭い通路でいつものようにケンカしていると、後ろから何かただならぬ雰囲気を感じた。
「アンタ達。なにか大事な人忘れてないかい?」
結城と友則から、一気に脂汗が噴き出す。そして、硬直したまま前を向いて2人同時に言う。
「この声は・・・久野川先生・・・。」
「大正解ー♪前向いてるのによく分かったなぁ。」
と言いながら、2人に後ろから抱きつく。
「ほら、先急ぐよ。」
先生は2人から離れ、1人で通路を進んでいった。
「当真くん。先生って嵐みたいな人だってつくづく思うよね。」
「僕も今、それ言おうとしてたよ。」
しばらく進むと、明るくて広い場所に出た。
「ここが、武道場・・・。」
すでに観客は超満員で、辺りは熱気に包まれている。ステージはテニスコートほどの大きさだとすると、武道館は野球ドームだろうか。ステージの上は、見るからに強そうな猛者たちが集結している。すると、大きなモニターに映像が流れ始めた。
「やぁ諸君。この大会の発案者の黒羽隆昌(くろはねりゅうしょう)だ。」
その映像に、武道場内がざわめく。なぜなら、モニターに映った人物は、明らかに中学生ぐらいの子供だっただからだ。
「諸君らがどよめくのも無理はない。確かに私は、15歳だ。しかし、例えお前たちが束になってかかろうと、私には勝てない。」
その言葉に、また武道場内がざわめく。結城の隣にいる大男は、なんだとてめぇ!絶対殺してやるからな!と、大声で叫んでいるが、周りもみんな同じ状況なので、そんなに目立っていない。
「ふふふ・・・。弱い犬ほどよく吠える。まぁいい、とりあえず諸君、受付で渡したトーナメント表を見てくれ。」
結城は、折りたたんだトーナメント表を開いた。その周りに、4人が集まる。そして当真が言った。
「・・・ほんとに強いのかなぁ、あの人。」
「そんなの、俺の方が強いに決まってるでしょうが。」
と、自信満々に答えた結城を見て
「あいつに勝つより、まず先生に勝ってほしいよな。」
と目を細くして言った。結城は笑って頭をかくしかなかった。
「そのトーナメント表の左上のチームが私たちのチーム、『DISCARD』だ。無論、第1シードとなっている。諸君らはそのチームと対戦するまで負けないことを目標としてくれればいい。」
「・・・なんだかイヤミな奴だなぁ。ところで黎夏、DISCARDってなんだ?」
「捨て札って意味よ。なんとなく不思議な雰囲気を感じるわね、あの人。ほんとに強いのかしら。」
その黎夏の言葉に対して、久野川先生がまじめな顔で即答した。
「強いな、オーラが周りの奴と全然違う。ただ、周りもとんでもない剣豪ばかりだがな。ほら、あそこに内山忠昭がいるぞ。」
その言葉に、友則が過敏に反応した。友則は、部屋に内山忠昭のポスターを貼っていて、写真や、サインまで持っているほどの熱狂的なファンである。
「どこ!?内山さんどこ!?・・・いた!後で握手してもらわねェと・・・。」
いつもの友則からは想像できないほど、目を輝かせている。
「それとルール説明だが、5人の団体戦で、先に3勝したチームが勝利となる。各決闘の勝利条件としては、相手に降参と言わせるか、殺すかのどちらかとなる。さぁ諸君、優勝賞品の『五輪書・闇の巻』を目指してがんばってくれたまえ。健闘を祈る。」
黒羽がそう言い終えると、モニターは元の黒い画面に戻った。
「さぁ、試合は明日だし宿舎に戻るぞ。あれ、今西。内山忠昭と握手しなくていいのか?」
「はい!もうしてきました!」
さすがの友則も、先生には敬語である。それに比べて結城は、常にため口で、それがきっかけとなっていつも先生に斬られそうになる。
「じゃあ先生はさっさと帰って、みたらし団子食べるぞ。ちゃんと大会全日分持って来たんだから。みたらし本舗のみたらし団子がまたうまいのよ・・・。」
などと言って、先にさっさと帰ってしまった。
「みんなどうする?俺は先生追いかけるけど・・・。」
「僕は、試合観戦するよー。いろんなチームの実力や情報を集めたいしね。」
「じゃあ俺も当真と一緒に行動するか。」
「私は結城と一緒に宿舎に行くわ。」
「よし!じゃあ各自夜の7時には宿舎に戻るようにしてくれよ。晩飯が出るらしいから。」
4人は、ひとまず武道場を出ることにした。もう間もなく、第1試合が行われるからだ。
外に出ると、さっきまで澄み切っていた空が曇り始めていた。しかし、それをかき消すように武道館の中からは大きな歓声が外まで響いてくる。
「・・・もしこの大会で死んだらどうしよう。パパとママに申し訳ないよ。」
黎夏はうつむきながら言った。結城は肩を叩いて黎夏を励ます。
「2人とも、この大会の出場を認めてくれたんだろ?じゃあ黎夏は、その思いに応えて、優勝しなくちゃ。」
「そうだよ、黎夏ちゃんらしくないよ?いつもあんな元気なのに。」
「俺たちはただの中学生じゃねェってことを、周りの奴らに見せつけてやりゃアいいんだよ。」
「・・・ありがとう、みんな。」
振り絞ったような、震えた声だった。しかし、黎夏のようにもしかしたら死ぬかもしれないという緊張感は、全員の心の中に存在した。
「黎夏は俺が落ち着かせて宿舎に連れて行くから、お前らはもう偵察に行って来てくれ。」
「まかせろ。」
友則と当真は、ニコリと笑って先ほど出てきた入り口とは違う方向へ向かって行った。観客席への入口は別になっているんだと、結城はこの時初めて認識した。そして黎夏に声をかける。
「ほら、宿舎に戻るぞ。」
そう言いながら、結城は黎夏の手を握る。その結城の行動に、黎夏はうつむいていた顔をはっと上げ、目だけでなく、頬まで赤らめていた。そんな様子に、手を引いて前を歩いている結城が気付くはずがなかった。
「・・・首領。先ほどのモニターでの挨拶、もう少し穏便なものにしてもよかったのではありませんか?」
「俺がそんな性格か?」
「・・・おっしゃる通りでございます。」
黒羽は、ガラス張りの特別席から、第1試合を見下ろしていた。
「首領、この試合の勝者が我らのチームと対戦することになります。」
「このレベルでは、どちらが上がってきても一緒だ。そうだ伊勢川、次の試合、お前は出場メンバーに入っている。準備はしておけ。」
と言うと、黒羽はガラスから離れ、この部屋を出て行ってしまった。
伊勢川と呼ばれた女は、部屋の片隅に立ててあった剣を手に取った。
「首領のために、・・・私は負けません。」
「うめー!このみたらし団子、ステーキよりうめーよ、先生!」
「確かに、団子がもっちもちで美味しいですね。」
「そうだろう、そうだろう!先生がみたらし団子好きになるのもわかるだろう。1本300円もするんだからな。」
結城と黎夏は、宿舎までたどり着いていた。黎夏はすっかり泣き止み、それどころか、この宿舎の内装が豪華すぎて驚いていた。
「それにしても、外から見たらオンボロなのに、中はこんなに高級ホテルみたいな感じなんて、びっくりしました。」
「先生がフロントで聞いた話だが、食事もいろんな国の料理が出るらしいぞ。」
「マジで!?うわー、俺今めっちゃ幸せだー。」
3人は、みたらし団子を口に含んで、ものすごくテンションを上げている。
「さあ、明日の試合も死なないでここの料理を食べるぞ!」
「おおー!」
そうこうしながらも、運命の試合までの時間は刻々と迫ってきている。
後書き
試合前日の様子を書いてみました。
何でこんな浮かれてるんでしょーね。笑
コメントよろしくお願いします。
チーム名、マジで思いつかなかった。泣
募集中でーす。汗