隙間を廻る季節 - 第一章

淀みの中から思考が浮き上がってくる。
目を開け白い天井を見上げる。
「…ん。」
自分が生きている事を確認する。
鼻につく消毒液の臭い、浄化された四角い部屋。
病室だと分かった。
他に人はいない、個室だ。
むくり、と起き上がる。
「…?」
どうも身体の勝手が違う。
動きにくい、と言うかどこか至らない部分がある。
横を見て、窓ガラスに映った自分に気付く。
「あぁ…。」
今度は女か。
知らない身体が窓ガラスには映っていた。
何故か髪の毛は黒髪だった。
今は結んでいないが結構長い髪、毛先がベッドについている。
今までの世界、黒い髪の人間などいなかった。
金か銀か白か、あって茶髪。
こんな漆黒は初めてだ。
面白くて包帯の巻かれた手を伸ばし触れる。
そしてその手を下げる。
前は堅かった胸板が柔らかな胸になっていた。
結構なボリューム。
こんなのも初めてだ。
まぁ女って事自体も珍しいが。
『〜♪おはようございます。』
窓際に置かれていたラジオから声が流れた。
「?!」
電源は入っていない。
病院の院内放送か?
だが電源の入っていないラジオから声は流れ続けた。
『はじめまして、アリス。』
「アリス?」
『ええ、あなたの名前。覚えてないの?』
私の、名前?
茶色いラジオを見つめる。
「お前、何だ。」
ラジオに、声の主に、聞いた。
「俺に名前があった事なんて無い。」
『ぁ〜…。そっか、そうなんだ。いいや忘れてくれる?』
ラジオの声は一人納得する。
苛立ちながらラジオを睨み続ける。
『今から今のあなたの設定を話しますね。いいですか?』
「設定?」
聞くがラジオの声は答えず進める。
『今のあなたの名前は八玖寺麻子。性別は見ての通り女。』
「八玖寺麻子?」
今の?
じゃあ《アリス》は何?
と考えたが口が話したのは違う言葉だった。
「何であいつの名前を…。……え?」
『覚えてるんですか?』
ラジオがコレ幸いと聞いてくる。
だが言った自分も《あいつ》が誰なのか分からない。
八玖寺麻子と言う人物だろうか。
首を横に振る。
ラジオは俺が見えているのか納得して続きを話した。
『年齢は13歳で、中学二年生。学校でのイメージは病弱な少女。守ってくださいね。』
「おい…俺に何をさせる気だ。」
包帯が巻かれた腕で頭を抑える。
頭にも包帯が巻いてあった。
『何も。普通に生活してください。』
ラジオは飄々と言う。
『あなたは代理…いえ、まぁ簡単に言えば《実験台(サブジェクツ)》ですから。』
「《実験台》…?!おい、何なんだ!!お前は誰だ!」
ラジオの台詞が徐々に小さくなっていく。
俺は慌てて聞いた。
『ハクナ…。』
最後にそれだけ聞こえた。
ラジオはうんともすんとも音を上げなくなった。
「何なんだよ…。」
俺は窓ガラスを見つめた。
諦めきった少女の顔が映っていた。



右腕の手首と指先、頭、左足は全体的に包帯が巻かれていた。
他に怪我は無いようだった。
だが、左腕は根元から消え去っていた。
そしてコレはあとで風呂に入った時気付いたのだが左胸に黒い文様が描かれていた。
「…はぁ…。」
ラジオはなんだったんだろう。
声はあれきり聞こえないしラジオは元々壊れていた。
たまに看護師がやってきて包帯を変えていった。
変える時にちらと見える傷が、生々しい。
リストカットの痕だと分かった。
親と見られる人間は来ないしお友達も来ない。
それだけでこの人間《八玖寺麻子》が見える。
たまに八玖寺麻子が起きそうになり押さえ込むのに必死だった。
八玖寺麻子もそこまで起きようとしないので助かった。
そしてラジオの声がしてから一ヵ月後、退院した。
「――…っ?!」
驚いた。
病院は国際病院で俺のいた部屋は最高級の個室だったらしい。
病院の前は綺麗に整えられていてホテルのようだ(窓はシャッターが閉まり景色は一切見えなかった)。
そして玄関の前に黒く長いリムジンが止まっていた。
俺は嫌々女物の服を着てその車に乗り込んだ。
八玖寺麻子の家の車らしい。
退院、なのに両親は来ていない。
眼鏡と黒スーツのいかにもっておっさんばっかが車を運転して車に乗っていた。
「麻子お嬢様。」
おっさんの一人、一番若い奴が言った。
「何?」
窓の外を眺めながら適当に答える。
「父上様が暫くの間、別館で暮らす様にとお言いでしたので別館に荷物は移させて頂きました。」
「…あっそう。」
少しきつくなった。
父親がむかつく奴なら一発殴っとこうか、と考えた。
「麻子お嬢様…?」
何時もと違うように感じたのだろうか。
男が聞いてくる。
ちら、と見やる。
「アンタ誰?」
めんどくさくて聞いた。
男は拍子抜けたように驚いた。
「武中最中(たけなかさなか)です。」
車は竹やぶに囲まれ塗装された細い道を進んで行き門を潜った。
門の表札には《八玖寺》と書かれていた。
ココが八玖寺家、なのか。
威圧感があって潰されそうになった。
暫くまた車が走って開けて所で止まった。
「麻子さんっ。」
遠くから声が聞こえた。
良く通る声だった。
父親…かと思った、けど違った。
車の中で声をかけてきた若い奴より少し老けている(それでも二十代だが)様に見えた。
「退院おめでとう。よかったよ。」
近寄ってきて近くに立つ男。
青色の着物を着ていて見上げるほどの長身。
髪は肩口まであり少し長め。
縁なし眼鏡をかけていた。
「…。」
とりあえず頷く。
てか、誰?
まぁ聞きはしないけど。
「また、会いにくるから。」
にこ、と笑うと手を振ってきた。
押される様に歩き出しながら俺は振ろうか迷ったが…やめた、振らなかった。

ばたん、と戸が閉められる。
ざっざっざっ、と遠ざかっていく男達の足音。
大きな家だった。
でも建っているのは八玖寺と書かれた表札のかかった門を通り抜けて三十分ほど行った所で少し山の高台にある。
家の中にはどうももう一人使用人がいるらしい。
その人が全ての世話をしてくれるらしい。
私は二階へ上がり、三階へ登った。
見渡せるほど開けていてこの家の建つ山の麓に小さく街が見えた。
「これで、別館かよ。」
はっ、と笑い俺は振り返った。
「――…。」
息を呑んだ。
三階に一つだけのこの部屋の入り口に誰かが立っている。
身長は私と同じくらいで、髪は短髪で茶色。
着物を着ている…男、と言うか少年だった。
静かに私を見つめ佇んでいた。
「…誰だ。」
「…………〜♪」
少年は俺の睨みに一歩も引かずにやり、と笑い鼻歌を少し歌った。
「その歌は…っ。」
あのラジオの声の始まる前に流れた歌だった。

頭にずきん、と頭痛が走る。
身体がよろめきがたり、と右手で窓枠を掴む。

「お前…。」
「当たりですよ。お久しぶりですね《八玖寺麻子》さん。」
声がラジオのあの声だった。
にやにや、と笑いながら出口の暗がりから出てきて私に近付いてきた。
「ハクナ、だったか…?」
「おや。覚えてらっしゃいましたか。そうです《白無》です。この家の使用人してます。よろしくお願いしますね。」
ピース、と指でマークを作りまた笑う。
「どうですか?彼女。」
彼女とは八玖寺麻子だろう。
「…まぁな、こんな負の気ばっか持った奴は久しぶりだぜ。」
「…あら…。あら、あらあらあら。思い出したんですか?」
「今ココで、お前に会った時からな。」
《アリス》…自分の名前で俺がこの世に存在した時からの名前。
《実験台》…この世界を支配する世界《リミッツ‐レス》で起きたバグの調査に使われている魂の通称。
《八玖寺麻子》…前の世界で俺のために、死んだ奴。
《白無》…バグの調査を無理に結構したために発生した不純物。
どんどん、前の世界の情報が思い出される。
一字一句間違いなく思い出される惨劇。
「胸糞悪ぃ…。」
左胸に刻まれた文様…アレは実験台の印だったんだ。
何でそんな大切な事を忘れてたんだ…。
開かれた窓から風が吹き込む。
日が暮れ掛けれていた。
「…っ。」

俺の使命――…『バグを起こした人間を削除する』。

夕暮れの光が俺の影を長くする。
赤い光が白無の顔に当たった。
「さて…アリス。窓閉めましょうか。寒いですしね…。」
白無が窓とカーテンを閉める。
一気に部屋の中が暗くなる。
木の臭いに消毒液の臭いよりも臭い。

影がかかった彼の顔に微笑が浮かぶ。
そして彼女に問いかけるように言う。

調査開始ですよ、アリス。

後書き

頑張って書きましたーーーーー´;ω;`
続くかな…?

この小説について

タイトル 第一章
初版 2009年4月26日
改訂 2009年4月26日
小説ID 3121
閲覧数 771
合計★ 7

コメント (6)

2009年4月26日 17時53分30秒
どうも、丘です。
では、感想を。
文章力はあるとおもいます。内容も良いとおもいます。しかし、登場人物の出方が突飛ではありませんか?
あと、小説の基本がなっていないので勉強した方がいいと思います。
では、失礼します。
★相楽 コメントのみ 2009年4月27日 18時44分42秒
コメントありがとうございます。
もう一度いろんな小説を読んで基本を直したいと思います。
ありがとうございました。
★鏡子 2009年5月7日 19時33分42秒
初めまして^^
鏡子と言います。

私としてはとても良かったと思います。
次回、楽しみにしていますね。
それでは。
★相楽 コメントのみ 2009年5月16日 15時08分21秒
ありがとうございます!

いやぁ…次回続きそうにありませんよ〜。
ネタが思いつきません^^;;;
★エーテル 2009年5月21日 0時55分39秒
情景描写をちゃんとやった構成は買えます

第一話を読み終えた時点で話の骨格はなかなか不明瞭ですが
作品の批判には一概に結びつきません

ただ個人的にはアニメ映画の雰囲気のヴィジュアルで想像しながら読み進んでいって結構イメージ豊だと思いました

続き是非読みます
★相楽 コメントのみ 2009年5月23日 16時50分23秒
コメントありがとうございます。

今ゆっくりですが、続きを書きつつあります。
構成を考えて皆さんに貰ったコメントを参考にして投稿させて頂きます。

ありがとうございました!!!
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