蔵出し短編群 『無題放免』

「無題」

 長い間待たされたことってある?
 しこふんでないでもっと早くきてよ
 自分から行くの?
 そんな足はないのよ せいぜいぺんぺん草


「ウルトラマン号の船出」

 1.妄想の前

 児童相談所の施設である一時保護所とは、なんらかの理由で自分の家に戻れない子どもたちを保護するところだ。ここには、二、三歳の幼児から、高校生くらいまで、男女問わずやってくる。保護所では、ご飯は食べられるし勉強も教えてくれる(これはけっこう幸せなことなのである)。しかし掃除や作業といった労働もしなければならない。なぜならときには、虞犯少年や非行少年が入所することもあり、更正や生活改善の目的も担っているからだ。
 そのような日課をこなすことになっていても、規則はゆるやかに変化するので、小学校低学年の子どもくらいなら、毎日遊んで暮らすようなものだ。
 私はここで、子どもたちの相手をするアルバイトをしている。子どもは好きだし、職員はみんないい人ばかりだ。将来は教師になりたいと思っている私にとって、とても勉強になる。
 ある夏の日のお昼すぎ、保護所の職員と私、それに子どもたちで草むしりをしていた。中学生の女の子二人と、小学四年生の女の子一人と、一年生の男の子一人がそのとき保護所で生活していた。ジャージに軍手姿で、みんな汗をかいて雑草と格闘していた。
 保護所の庭には菜園があり、トウモロコシやオクラ、キュウリなどを育てていた。もっとも今のところ熟した実は一つもなっていない。というのも、一年生の男の子、カツシが、毎朝早く起きては「できたかな、できたかな」と言って菜園の中を見てまわり、ちょっとでも野菜が大きくなっていると、それをもいでは持ってきて自慢げに見せてくれるからだ。カツシは虫歯がひどくて、笑うと大きな前歯が一本だけのぞく。
 さっきまでカツシは畑の中をうろうろ歩き、野菜のチェックをしていた。しかし自分ですっかりとってしまっているので当然大きく育った野菜はない。四年生の女の子ミカにぶつぶつ文句を言われて、ようやく自分の持ち場の雑草を抜きはじめた。作業を始めたら始めたで、こんどは「ムシ!」とか「でっかいムシ!」とか言ってうるさいのである。
 作業が終わるころにはみんなすっかり汗だくで、おやつを食べる前にシャワーを浴びることになった。年長児から浴室にはいり、カツシは最後に入った。カツシはまだ六歳なので、一人での入浴は危険ということで、私は職員に頼まれ、一緒に浴室へと入った。
 服を脱ぎ散らかし、カツシは浴槽に入り、お湯を出しはじめた。シャワーを浴びるだけにしようねと言ったってきかない。くるぶし位までお湯がたまると、泳ぐような動きをしてはしゃぐ。私はすっかりあきらめて、入り口のところでぼーっとそのようすを眺めていた。
 カツシは蛇口から流れでるお湯が水面に落ちて泡をたてるところを熱心に観察していたかと思うと、鼻まで身をかがめて潜ってちょっとづつ前進してそこまで近づき、こんどはせまい浴槽の中でうまく身を返して、裏側から水の柱を見つめていた。
 私がカツシに声をかけられなかったのは、カツシには「滝つぼ」が見えているとわかったからである。
 カツシは今、船で大海原に乗り出して謎の滝を発見したところで、私は今、何年も前にカツシと同じく船に乗り、未知の大陸を発見したことを思い出していた。
 水面ぎりぎりに視線を落とせば、お風呂の中はとたんに大海原になることを、大人は知らない。私が毎夜ウルトラマン号で大航海に出かけていたことを、誰も知らない。小さいころの私は、荒れ狂う高波や、巨大な海の魔物に立ち向かい、ついに最果ての地へとたどり着いた。私はそれを飽きずに毎日繰り返していたものだった。
 大人になったことで泥がたまってしまった心の奥底が、白い細い腕によってかきまわされ泥が舞い上がり、隠れていた私の記憶が見えてきた。私はカツシの世界をのぞいてみたくなって、
「カツシ、なにか見つかった?」
 と話しかけてみたが、カツシはまったく気づかずに、私の声は排水溝の渦へと巻きこまれてしまった。

 2.妄想の後

 アルバイトが終わったあと、思い立って近くの銭湯に行った。
 まだ日も暮れぬうちだから、他にお客はおじいさんが一人いるだけであった。
 体を洗うのもそこそこに湯船につかった。おじいさんはお湯の出るところの近くにいて、険しい顔をして微動だにしない。
 おじいさんの様子をうかがってから、静かに顔をお湯に沈めた。

「ぼくはとうとうこんなところまでやってきてしまった。こんなところはどんなところかと言うと群青色の海なのだけど、波が立つと波だけ緑色になる。遠くにはげ山が見えるが(ちらりとおじいさんの方を見る)、じきにあのはげ山は海に沈むことだろう。少なくともこの海から消えてなくなることだろう。北の空から海鳥が群れをなして飛んでくるが、(銭湯の壁を見る)気をつけないとこの船はそんなに大きくないから魚だと思われてつつかれるかもしれない。つつかれたってこのウルトラマン号は超固い金属でできているから穴があくことはないけれど、鳥が集まると鳥を食べようと水中から飛び出してくる海犬(指をパクパクさせる)にまきぞえ食らって飲みこまれてしまうかもしれないから急いで海鳥を追い払わなければいけない。このウルトラマン号には必殺果物ウルトラマンゴー(ダジャレ)が実っていて、鳥に投げつけると爆発して種が飛び散って海にも芽が出て葉っぱが出て実がなってもっとたくさんのウルトラマンゴーが手にはいるから一果二鳥だ。まさに。だからぼくはずんずん進むことができたけど突然渦巻きが現れて(指で水面を押して渦をつくる)呑みこまれそうになったけどやっぱりウルトラマン号はすごくてどうすごいかっていうと三分間は空が飛べるのでここはひとまずしかたないから一日一回しか飛べないけど沈没してしまってはそれこそ水の泡だから飛んだんだ(少し顔をあげる)。三分間は空が飛べるとはいえ三分も飛んでいると時間の無駄だからすぐに着水すると(顔をもとの高さに戻す)、そのときの衝撃で海の大怪獣ホタテニューマリン(げんこつをつくる)が目を覚ましてしまった。ホタテニューマリンはその昔内村鑑三とジュンちゃんを食べてしまったとてもおそろしく冷血で残虐非道のホタテで言い伝えではえらいお坊さんが封印したはずなのだがそれが今目を覚ましたのは封印されていたからで封印が解けたのはウルトラマン号が着水した衝撃によるのは確か前に言ったはずだ。向かってくるホタテニューマリン(げんこつを近づける)から逃げようとしても無駄だ。ホタテは泳ぐのが速い。マッハ6だ。空を飛んでも絶対逃げ切れないだろう。腹をくくってウルトラマン号の緊急ボタンを押した。このボタンを押すとホタテニューマリンをやっつけられるようになるのでもうなにも怖くない。ご都合主義的スペシウム光線を発射するとホタテニューマリンはバラバラに砕け散った(げんこつをパーにして水中に潜らせる)。ホタテニューマリンのお腹から鑑三とがい骨が出てきて鑑三がお腹がすいてしまったのでジュンちゃんを食べてしまいましたと懺悔したからキリスト教っぽいなと感心しながらそういうときもあるさとまるで神父様みたく励ました。生き死にに 泣き西に向き 神の息(意訳:鑑三が生き残り、ジュンちゃんが死んでしまったことで、うれしくも悲しく涙を禁じえない。この激しくふるえる心を、ああ神さま、あなたの慈悲をたまわりますよう)。ぼくはジュンちゃんを丁重に葬って鑑三を仲間に加えて新たな旅に出た」

 そして湯船からでてサウナの方へ移動した。
 我を失うほどおもしろかったことは確かだが、なんだか子どものころの遊びとは少しちがうような気がする。
 成熟する過程で広義の意味での言語を獲得することになるのが人間だ。しかし子どもはいくら語彙が少なくても、彼らはそれを無視して物語を創造する。子どものころに可能な空想とは、じつは言語に変換できない性質を持ち、まさしく失われる物語であったことに、サウナの扉に手をかけたとき気がついた。
 サウナに入ってもただぼんやりとしてすぐに出てしまい、さらに脱衣所でもぼんやりとしていた。
 すっかり湯冷めしてしまった体で、銭湯を出た。だめだったなぁ。
 のどがかわいたから、帰りはコンビニに寄ろうかと考えた。そんなもんだ。
 明日は1コマから授業だ。それでバイトだ。毎日しんどいなぁ。
 明滅する街灯、空飛ぶ旅客機のライト。さらにその先、米粒のような星々。
 子どものころにもってたあの世界を、どこに置いてきてしまったのか。高い高い、二度とは手の届かないどこか遠いところからウルトラマン号に見下ろされ、夜の街に消える。

                                     おわり


「無害」
 飛んでもいいな
 朝から混じりあった赤と黒の境目にいるから
 超絶の垂直跳びで
 80センチ


「ぞんざいな存在」

 ささいな違和感に耐えられなかっただけだ。
 交わしていたメールの主語が省略されていたばっかりに、「わたしを」を「あなたを」と読み間違えたばっかりに、鏡に自分の姿が映らない、そんな気分になった。
 ただ一言、意思の疎通がすれちがっただけで、相手のことが気が触れたように思えるものなのか。
 相手の考えが伝わらない、自分の言葉が伝わらないことの恐怖。
 外れた歯車がそれでも回り続ける恐怖。
 E‐メールが悪いわけではないが、自分のせいにはしたくないものだ。アドレス帳から彼女の電話番号にかける。生身の声が一番だ。
 呼び出し音が耳の奥で響く。
 トゥルルル。トゥルルル。
 歯車は加速する。
 これから聞こえる電話越しの声は本当に俺の求めている人の声か。鍾乳石のしずくのような声か。
 親指が電源ボタンへのびた。
 電波のざわめき。コールがきれた。
「もしもし」
 聴きなれた声に反応して、世界が修復されていく。
 俺は自分で壊した自分の世界を、自分で直せない人間なんだ。
 俺は安心して、言葉の真意を正すまでもなく、彼女とのつながりを確かめていく。
「ああ、ごめん突然。俺だけど」
「どうしたの。○○○。」
 それは俺の名前じゃない。だから、耐えられなかったんだ。
                                     おわり


「無頼」
 じりじりと燃やして
 灰から鍵
 どこを開けられる?


「極めて男児の脳内トリップ講座。」

 今日はこんなシチュエーションでイかせてほしい。テーマは、「汗をかく女の子」。これだ。
 まずはハートウォーミングアップだ。
 みんな、想像してくれ。
「大学一年生の女の子が金曜に友だちと一緒に居酒屋で飲んでるんだ。ビール2杯くらいで結構まわってしまった。そこに注文していたアサリのバター炒めがやってくる。その子はアサリをひとつつまむと、殻ごと口に入れて、アサリを食べるんだ。くちびるで貝殻のざらざらを確かめながら。それで普通に食べたら貝柱が残っちゃうだろ。その子はふと思い出すんだよ。貝柱をきれいにはがしたいときは、裏から貝殻を箸でこするんだって。そこですごい一生懸命になっちゃうんだよ。その子。すっげーがりがり箸で貝こすってんだよ。隣の友だちは笑っててさ、なにやってんのよーみたいな感じで。で、結局きれいに取れないわけだ。その子は頭にきて無理矢理箸で強引に取って、ちぎれた貝柱を口にふくむんだ。
 そのときその子の額には汗が浮かんでいるんだよ。」
 ・・・・・・ぷっはー。たまんねー。あーもう毎日見たい。じっと見ていたい。
 どうだい? もういっちょイっていいかい?
 まだついてきてくれよ。
 俺は一人ぼっちかい?
 じゃあみんな、想像してくれ。
「東京近郊の中規模都市の駅のキップ売り場でね、すごい混んでてさ、俺は並んでるわけだ。俺の前に並んでいるのは化粧ばっちり決めて髪の毛茶色もばっちりでミニスカートもぱっつんの十代後半くらいの女の子だ。これから東京に遊びに行くのかなーって思わせるちょっと田舎在住の姉ちゃん。この姉ちゃんがすごくいらいらしている。姉ちゃんの前で券売機を操作するじいちゃんが動きすごい遅いの。ハエがとまる香田(元巨人の投手)のカーブみたい。それで電車の時間もなくて、姉ちゃんおおげさにため息ついたり舌打ちしたり厳しい視線をおくってるんだ。そのうちようやくじいちゃんがキップを買えると、姉ちゃんはじいちゃん横目ですばやい手つきでブランドの財布からお札を出して券売機にいれるんだけどね。出てくるんだよ野口が。なんど試しても。お札を変えても。野口は笑っているんだよ。いつまでたってもうまくいかなくて、そこで俺が思いっきりふーんってため息ついて舌打ちするわけ。姉ちゃんいよいよ焦ってきて、もうとかちいとかぷうとか言ってるの。しまいには小銭をいれだしてさ。どれだけ出てくるんだっていうくらいちゃりんちゃりんちゃりんちゃりん。
 そのとき小銭をつかむ姉ちゃんの手のひらは汗ばんでいるんだよ。」
 ……かーっ。もうなにがなんだかわけわかんない。手のひらなめたいよ。
 やっぱだめかい?
 一人で遠くに来ちゃったかい?
 じゃあ最後にもう一度だけ。
 みんな、いっしょにイこうぜ。
「忙しいキャリアなウーマンのOLがいるんだ。毎日毎日仕事仕事。だから見たい映画があるんだけど、なかなか観に行く時間が取れない。めちゃめちゃ感動の泣ける映画らしいんだよ。そんなとき珍しく土曜に休みが取れるんだ。彼女はうれしくなっちゃって友達誘って計画立てて、午前中に映画を見て、ランチして、午後からちょっと買い物しようなんてことになるんだけどね。土曜になって、朝早く起きて準備して、新しいパンプスをおろしたりしてさ。気持ちよく出かけるわけだ。ところが待ち合わせ場所の駅で時間になっても友達が来ない。15分ぐらい過ぎてから電話がきて、風邪ひいちゃったゴメン行けないなんて言う。いいよいいよ残念だわお大事にね、なんて言いながら心の中ではおいおい金返せって感じ。別に誰も一文も払ってないのにさ。それでもまぁここまで来ちゃってからしゃーない一人で映画を見に行くわけだ。映画館ではパンフレット買ったりコーラ飲んだりしてなんか彼女はちょっと楽しくなってきた。お客の入りもそこそこでね。それで席についていざ開演。そしたらびっくり、ものすごいつまらないの。評判を聞く限りもう泣けて泣けて仕方ないって話だったのに。全然泣けない。失敗したーって思ったその頃からね、まわりの客みんなめそめそしてるんだ。うそ。なにがいいの? なんで泣いてるの? どこらへんがあなたたちの涙腺を緩ませたの? そうすると彼女は泣けない自分が悪いような気がしてきてね。このめそめそ祭りに参加できない自分がいやらしい人間に思えてきたんだよ。でも泣こう泣こうと一生懸命見ているんだけれど彼女の心は逆に冷めてきちゃってね。映画を見てても耳に入るのは鼻をすする音だけさ。あなたはなんで泣いてないのって、まわりから激しく問いつめられている。暗い映画館でひとりだけスポットライトを浴びているような気持ちがしてきた。
 そのとき、ぴかぴかの赤いパンプスのなかは、すっかりむれているんだよ。」
 ……どかーん。俺は喜国雅彦かよ。さすがに自分でもひいてきたよ。
 思えば遠くに来たもんだ。
 ここでも太陽は昇るかい?
 それじゃあ今日はこのへんで。
 
 総括 「酔っぱらうとやたらと走り出す女の子はかわいい」

                                     おわり


「無罪1」
 選択肢は戦うか逃げるか
 戦えば 勝つか負けるか
 負けてもまた立ち上がれるが
 逃げると同じところにはもう戻ってこれない


「走り笑い」

 私が早朝に走り出した理由は他でもない。ダイエットだ。腹のまわりがたぷんたぷんだ。だから今日も汗だらだらで走る。今朝は台風明けだった。日本各地で大きな被害を出したこのマーゴンとかいう台風は、関東平野あたりから太平洋へそれ始めてしまい、ここ山形にはあっけないほどに青い空が見えていた。家から出ると、どうやら四国あたりから連れ去られたらしい空気が漂っていた。と、思う。
いつも川の側を走っているのだが、今日に限ってはまるで見慣れない風景だった。コンクリートで川底が埋められてはいるが、葦が繁茂し、浅瀬には小魚が群れるのが見える、静かな川だった。山形は、その名のとおり、山がすぐそこにある。この馬見ヶ崎川は、蔵王ダムから流れてくる。昨日はダムの放水をするサイレンが鳴っていたが。この川が音を立てて流れているさまを初めて見たかもしれない。緑の水が白い泡をたて、葦を押し倒している。生き物が息をひそめているから、余計に大きな音が聞こえる。
 ごごごご ご。
 生き物がいない分、じじいばばあが歩道に発生していた。彼らは一様にウインドブレーカーにぴったりのジャージをはいていた。もっとも私も上下そろいのウインドブレーカーだ。私もきっと、アスファルトのひび割れの間から、雨があがったからってむくむく発生したに違いない。とは、思わないけど。
 ごごごご ご。
 すっはっすっはっ。すっはっすっはっ。
 ごごすっ ごごはっ。ごすごっ ごはごっ。
 どっどっどっど。
 どごすっ どごはっ。どどはごすごはっ。
 川の水が流れて落ちる。心臓の鼓動が早くなる。わき腹が痛くなる。息が切れてくる。汗が吹き出る。一キロくらい走るともうこれだ。慢性的な運動不足に、まだ22なのに関節の軟骨はどんどんすり減っていく。湿った空気があまりに重い。いつもなら高速のインターチェンジ付近まで走れるのだが、今日はその手前の、道が川に沿ってゆるやかにカーブしているところで足が止まった。魚みたいに大きな口をあけて、めいっぱい酸素を取り込もうとするが、口の中にたんがからまり、吸うことも吐くこともできない。目の前がちかちかまぶしいのは、朝日が顔を出したからだ。もちろん、酸素不足のせいでもあるけど。
 呼吸を整えようと歩き出した。車道を車がかっ飛ばして過ぎていく。ナンバープレートをつい確認する。27‐15。フナへ行こう。もう一台車が通ったらまた走りだそうと思った。カーブの向こうから軽トラックが近づいてくるのが見えた。田舎の軽トラックの五割は遅い。たちまち、馬見ヶ崎川の上流から流れてくる真っ赤な桃に抜かされた。桃は水の上をぱちんぱちんと跳ねながら、カーブも見事なアウトインアウトで切り抜ける。水面を白く切り裂いて、赤い残像を残しながら、私が走ってきた方へ飛んでいく。ああしかし、勢いがつきすぎたのだろう。中洲に乗り上げ、岩に当たり高く跳ね上がり、群生する葦の中に落ちて、見えなくなった。
 だわだわ。だわだわ。
 だわだわ。だわだわ。
 川の音が聞こえる。じじいばばあが増えている。軽トラックが(これも運転するのはじじいばばあだ。)やってきたので、ふっと息を吸い込み、まず腕から大きく振って走るのに勢いをつける。早く帰ってシャワーを浴びたいな。まだ半分も過ぎてないのに、もう帰り道を考えている。私は笑ってしまい、じじいばばあが私に目を向ける。
                                     おわり


「無罪2」
 動物になくて人間にあるもの
 それは勇気だ
 勝ち続けるやつ負け続けるやつがいないように
 逃げ続けるやつもいないもんだ


後書き

これは大学生のときに書いたものですが、それでこれからは社会人になりますが、それで自分がどんなものを書くようになるのか、自分のことなので楽しみですよ。
うきうきべいべー。読んでくれてありがとさんきゅー。

この小説について

タイトル 蔵出し短編群 『無題放免』
初版 2005年2月26日
改訂 2005年2月26日
小説ID 314
閲覧数 1318
合計★ 14
蓮打の写真
ぬし
作家名 ★連打
作家ID 9
投稿数 14
★の数 204
活動度 8795

コメント (4)

弓射り 2005年2月26日 23時46分33秒
連打さんの作品を見て、自分がとんでもなく馬鹿に思える。技術の差、おもしろさの差、僕が必死でやろうとしてたことを貴方はこんなにもあっさりやってしまう事。中学3年の時、めちゃくちゃ頭のいいやつと同じ班になって、その時に感じた覆しようの無い劣等感と同じで、要するには「才能の差」であると思われる。

人の評価はいつだって疑ってるが、自分の直感は疑ったことはない。その直感がいう。僕は負け犬で、あなたは勝ち組。

特に気に入ったのが「家から出ると、どうやら四国あたりから連れ去られたらしい空気が漂っていた。と、思う。」でした。
馬野鹿麻呂 2005年2月27日 22時56分18秒
いやぁ、独特な書き方をしますね。大低、独特な書き方をしようとするとおかしくなっちゃう(自分の場合)のですが、その困難をあっさりと乗り切ってますね。

私の目には現代風純文学に見えました。わたしにゃぁ、純文学は分かりません。ただ、詩「無罪」の1、2は率直で分かりやすく、とても真意をついているなぁと思いました。流石です。
あと、擬音語の使い方が非常に上手いです。ダムから流れてくる水の流れをだわだわと表現するのは私には到底無理です。あと、じじいばばあが「増えている」という表現も特徴的で光ってました。車のナンバープレートを確認する何気ないしぐさの中に、「27-15。フナへ行こう。」とする点も凝ってるなぁと感じさせられました。「ウルトラマン号の救出」で最後の方の「ウルトラマン号に見下ろされ」の擬人法もおもしろいです。

やっぱり評価はつけるべきですね。自分、辛口な人間ですが。
★イカサビS 2005年2月28日 15時26分00秒
いつも感じる事は詩人なんだなぁと、いうことです。
分け隔てのない文章や音の表現、切れ目なしの書き方は非常に好きです。

「ウルトラマン号の船出」は前後に分けられていましたが、その両者ともに違った雰囲気を出しているにもかかわらず違和感を感じさせないのは凄いです。
表現が巧みで、これだけのものが書けるあなたの実力が羨ましいです!!
今回特によかったと思ったところはここです。次作が非常に楽しみです。
「子どものころにもってたあの世界を、どこに置いてきてしまったのか。高い高い、二度とは手の届かないどこか遠いところからウルトラマン号に見下ろされ、夜の街に消える。」
連打 コメントのみ 2005年2月28日 21時00分54秒
「ウルトラマン〜」とか「走り笑い」がほめられているようで、大変恐縮に感じます。「ウルトラマン〜」はぱろしょに参加する以前にビビンバ氏からお誘いがあり、『こんなのを書きたいんだけど、いいのほんとに?』と試しに読んでもらったものです。なぜそんな風に思ったのかというと、つまり自分はぱろしょ向きじゃない趣味だと思ったからです。もちろん今でもそう思っていますが、そんな私的趣味ど真ん中の作品が支持されるとは思ってもみませんでした。意外でした。だってなんで川から桃が流れてくんのよとかって思いませんでした? ホタテニューマリンってなによって思いませんでした? みんな優しいな。またがんばろうって気になります。高い評価、および長いコメントをいただき、ありがとうございますです。
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