私と彼の飛べた空 - 舞う翼風に載りて

PJ2
 次の日の朝、私はおじちゃんに起こされた。
「起きろよ、朝だ」
「んー」
 目をこすってから、寝袋から這い出てテントから顔を出した。

 まだ空は青くなく、霧がかかっていた。
 時期は春の終わりだというのに、寒さが身にしみる。
「そういえば、今年は寒いんだっけ」
 五年ほど前から、寒さの続く一年と暖かさの続く一年が交互に訪れるようになった。

「去年は気温が高かったからな」
 2026年は異常気象とよばれるほど気温の高い日が続いた。
 息を吐くと白くなった。いつもの学校へ行く時の私服だったので、寒さはしのげない。

 小さくくしゃみをすると、おじちゃんが上に着ていたジャケットを着せてくれた。
「冷えるぞ。もう一回寝てくるか?」
 それを聞いて私は、首を横に振る。しかし、その後でまたくしゃみをしてしまった。

「ちょっと来い」
 そう言っておじちゃんは、少し遠くにある大きめのテントへと歩き出した。ふと、忘れていた左腕のギブスが少し気になる。

「おい、風邪を引きたいのか」
 少しの間左腕の状態を確認していたが、おじちゃんの呼び声で我に返り、小走りでそのテントへ向かった。

 テントに入ると、結構暖かかった。入り口から少し離れた所に温風機が置かれていた。
「すいませんが小隊長、この子を自分が偵察から帰ってくるまで、ここに置いておいてくれませんか?」
 小隊長と呼ばれた人は、少し考えてから、いいだろう、と頷いた。

「偵察?」
 それだけが、自分の中で引っかかった。
「ああ、ここから十キロほど先に市街地があるんだが、そこは昨日君の家を爆撃した連中と同じ奴ららしいからな、それでこっちにも動きが無いかバイクで偵察してくるんだ」

「一緒に行きたい」
 楽しそうだからなんて考えは無く、離れたくないという思いが強い。それと・・・・・・
「駄目だ。戦闘になったら子守までできない」

 そう言ったおじちゃんの顔は、真剣そのものだった。
「ちゃんと帰ってきてやるから、それまでここでおとなしく待ってるんだぞ」
「・・・・・・うん」
 自分の願いを押し止め、頷いたが、寂しい気持ちは晴れなかった。たぶん、自分の親とおじちゃんを重ね合わせている自分が心にいる。

「ね、その銃の使い方、教えて」
 おじちゃんの提げている銃を指さして言ってみた。ただ、付いて行きたいという気持ちが消えきらずに残っているのが理由だった。
「駄目だ」

 ひっさぁつ! と言わんばかりに放つ上目使いのおねだり・・・・・・ではないが、思いきり可愛い顔をして、
「お願い」
と、言ってみる。

「・・・・・・肩に提げてみろ」
 そう言っておじちゃんは、机の上にあったおじちゃんの提げているのと同じ銃を私に手渡した。一応成功したっぽい。
「これはサブマシンガンと呼ばれる一般的な銃だ。んで、撃ち方ってのはこのバーを引いてから、この引き金を引く」

 言われたとおりにやってから、窓から見える銃の練習用か何かの的へ向けて撃った。
 耳に響く音の後、真ん中の赤い場所に穴が開いた。まぐれか、天性か、人生で初めて撃ったので、自分でも信じられない。

「ヒュゥ! なかなかやるじゃないか」
 小隊長はそう言ってくれたが、おじちゃんは無言だ。
「・・・・・・もういいだろう、俺は偵察に行ってくる」

 きびすを返してテントから出て行こうとするおじちゃんを、後ろから追う。
「待って! 私も行かせて」
「・・・・・・・・」
「私の親を、親を・・・・・・それがその人たちなら、私は母さんや父さんの仇をとりたい」

 自分はたぶん、これを言いたかった。そして果たしたかった。そのためには、やはりおじちゃんに付いて行きたい。
「俺はあくまで偵察に行くだけだ。戦闘は極力しない」
「それでもいい。連れてって」
 たぶん八年生きてきて、一番真剣な顔をしていたと思う。

「・・・・・・面倒は自分で片付けろ。死んでも知らん。それでいいなら、来い。あとな、こいつを羽織ってから来い」
 そう言っておじちゃんは私に、テントの際に吊ってあったジャンパを投げ渡した。私はそれを羽織った後で、おじちゃんを追いかけバイクの後ろ側に乗った。

「しっかりつかまってろ」
「うん」
「よし、行くぞ」
 吹き上がるバイクの音と共に、砂利道をタイヤが蹴る音が混じる。短い髪が、風で流れる。

 しばらく走ると、町が見えてきた。その町から少し離れた林のところでバイクが止まる。
「ここだ」
「・・・・・・あれ、昨日見た戦闘機」
 遠めで見てもわかるぐらい、滑走路代わりらしい地道の高速道路の脇に堂々と置いてあった。
「F−37だな。あいつら、ノンキャノピーも持ってるのか」

「ノンキャノピー?」
「コックピットにふたをした機体をそう呼ぶ。昨日見たって事は、君の家を爆撃したのも奴らで間違いないな?」
 そう言って、おじちゃんが確認する。こちらに向いたおじちゃんに頷く。昨日見た物とシルエットが類似していた。

「昨日の現場を見る限り、気化爆弾まで持ってるな。これは一度戻って応援を・・・・・・」
「撃つ。ここから」
 おじちゃんの言葉を切り、断言した。
「・・・・・・スナイパーライフルは無くはないが、弾数は限られてる。しかもさっきみたいに毎度ああなるわけない」

「やる」
「はぁ。わがままもいいが、ほどほどにしないと自分の身を削るぞ。あとそのギブスは外せ」
 そう言って私に、大きめの銃を渡した後、左手のギブスを外すのを手伝ってくれた。
 なんだかんだ言って、おじちゃんは私に優しい。でも、それは私と同じで、おじちゃんは自分の娘と私を重ね合わさっているからだと思う。

「こいつは一発撃つごとに、このレバーを引かないといけない。あとはそのスコープを覗いてみろ」
 言われたとおり覗いてみると、T字形の、おそらくどこへ飛ぶかの目安が見えた。
「それで、ちょうどあそこいる兵士を狙え」
 そう言って高台にある鉄塔のような物を指さした。たぶん見張り塔か何かだと思う。

「どこを狙えばいい?」
「血をあまり見たくなかったら、胸の辺りを狙え。あと、姿勢を低くして撃った方が銃が安定する」
 うつ伏せになってから、もう一度見張り塔を狙う。
 そこにいたのは、一人。

 ただ、頭しか見えない。
 そこから私の葛藤が始まった。血を見るのが恐かったからだ。少ないものなら何度となく見てきたが、多量のものを見てしまうと、自分が自分でなくなりそうな気がした。
 できれば、胸を撃ちたい。でも高い姿勢のまま撃てば、当たる確立は減る。

 この時私は気づかなかった。どちらにしろ、当たれば人を殺めてしまうという事実に対しての心構えが欠けていたことには。
 そしてなぜ、おじちゃんが自ら引き金を引かなかったのかにも。

後書き

遅くなりました。
どうも最近忙しいので。
では、また一週間ほど。

訂正です。ごめんなさい、十六年前ではなく、十八年前です。ご迷惑をおかけしました。(にて)

この小説について

タイトル 舞う翼風に載りて
初版 2009年5月19日
改訂 2009年5月19日
小説ID 3152
閲覧数 1181
合計★ 8
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コメント (4)

★せんべい 2009年5月19日 18時47分04秒
読ませていただきました。

いやー。なんかシリアスな展開になってきましたねぇー。
まだ子供なのに的の真ん中を射抜くとは、科学的に証明できないセンスが感じられますね。
毎度思うのですが、PJ2さんの作品は、情景を思い浮かべやすいです。
なんというか、頭の中で勝手にドラマが放映されているような。

とりあえず、読んでいてとてもわかりやすいです。


今回、とても気になる場面で終了したので、
一刻も早い更新、待っています。
PJ2 コメントのみ 2009年5月19日 19時11分01秒
せんべいさん、ありがとうございます。

雰囲気の出しかたには、皆さんからかなり指摘がありましたから。そのぶん表現が良くなったのかもしれません。

フィルナさんの射撃能力は、天性のものです。

更新は、なんとも言えません。できるだけ急いでみます。

コメント、ありがとうございました。 
★みかん 2009年5月20日 19時21分37秒
今回も楽しく読ませていただきました。

今回は銃を持つということが重要ですね。

私としては、その戦地へと行くまでの話、
特にフィルナさんがおじちゃんへ連れて行ってくれという話を、
もっと続けても良いかなと思いました。

しかし、とても読みやすくスラッと読んでしまいました。

銃を引くこと、戦争を経験していない私ですが、
人に引き金を向けるというのは、よほどの覚悟だと思います。

今後の展開が気になりますね。

次回作も楽しみに待たせていただきます。

では、失礼しました。
PJ2 コメントのみ 2009年5月20日 19時44分42秒
みかんさん、ありがとうございます。

たしかに、おじちゃんとフィルナさんの会話を長く書いたほうが良かったです。読みやすい長さとしては短かったかもしれません。

展開を楽しみに待ってもらうには、どうすればいいのか、考えてみた結果、こんな感じです。

コメント、ありがとうございました。
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