光と闇と剣と - 第13話

 「どうすれば強くなれるんだよぉぉぉぉぉぉ!!!!」
 昼間、一人で奥義『炎刃』の特訓をしていた小高い丘で、結城は獣のように叫んだ。
 まるで自分の葛藤を打ち消そうとするかのように。
 結城は草原に寝そべった。目線の先には満点の星空が広がり、苛立った結城の心を自然に落ち着かせてくれた。
 「・・・どうすれば。」
 服の袖でかすかに滲む涙をぬぐう。それでもぬぐいきれないほどの涙がなぜか流れてきてしまう。
 そんな結城の横に、人が一人腰を下ろした。
 「だいじょうぶですか?先ほど大声を上げておられたようなので・・・。」
 はっ。と、結城は我に帰った。そこには、結城と同い年ぐらいの女の子が視界に入っていた。急いで目をごしごしとこする。
 「もう遅いですよ。あなたの涙目、もう見ちゃいましたから。」
 少女はくすくすと小さく笑っている。
 「私は伊勢川誇紀(いせがわこのり)と申します。あなた、蓼科君ですよね?開会式のアピール、なかなかかっこよかったですよ。」
 伊勢川は、体育座りをして星空を見上げながら言う。
 「それで、どうかなさったのですか?なんだか元気無さそうに見えますけど・・・。」
 「・・・当たり前だ。黒羽との実力差をあれだけまざまざと見せつけられちゃあな。」
 伊勢川は、黒羽という単語を聞いて少し背筋を伸ばして反応した。
 「黒羽様とお会いになったのですか?」
 「黒羽様?なんでそんな尊敬するような呼び方なんだ?」
 「・・・あの方が、私の命を助けてくださったからです。ちなみに私も、『DISCARD』のメンバーの一員でもありますしね。」
 今度は結城が驚いた表情を見せた。
 「お前、・・・敵か!?」
 「気にしないでください。私、あなたに何もするつもりありませんから。ただ、散歩中にたまたま元気のないあなたを見て、おかしいなぁと思って来てみただけです。でも、その理由が黒羽様との実力差だったなんて、気づくのが遅すぎですよ。」
 「なに!?」
 結城は、急いで体を起こす。
 「だってあなた、私にだって勝てるかどうか分からないですよ?」
 伊勢川は、優しい笑顔で、鋭い言葉を発した。
 「・・・へぇ。お前、よほど自分の剣道に自信があるようだな?」
 結城は顔をひきつらせて言う。
 「はい。まぁ、実際に戦ってみるとどうだかわかりませんけど、根拠のない自信は大事ですよ。」
 「・・・え?」
 伊勢川は一呼吸置いた。
 「自分の剣道に自信がなくて誰に勝てるんですか?たとえ弱くたって、一生懸命やる姿こそが、人間として一番尊い姿だとは思いませんか?がむしゃらじゃだめです。今の自分に何が必要なのか、どうすれば自分に自信が持てる剣道ができるのかを考えるのが今のあなたに一番必要なことではないですか?がんばって剣を振るうことだけが、一生懸命じゃないんですよ。もっと冷静に、自分を見つめ直す時間が必要なんじゃありませんかね。」
 そう言い終わると、ニコッと優しく結城に笑いかけた。
 「そう・・・かもしれないな・・・。」
 認めたくない。そんな気持ちが結城の心を支配していたが、伊勢川の意見は、あまりに正論過ぎた。そんな気持ちなど、一瞬で消え去ってしまった。
 「それに黒羽様は、あなたと試合をすることを心待ちにしておられますよ。昼間どんなことがあったかはわかりませんけど、それはきっと黒羽様の厳しいアドバイスなんじゃありませんかね。人から学ぶことは、とても大事なことだと思いますよ。」
 いつの間にか、2人は寝ころんで空を見上げていた。結城は時々溜息を吐きながら深刻そうな顔を、伊勢川はそんな結城を見てずっと笑顔でいた。
 「伊勢川・・・さん?」
 「・・・はい?」
 「黒羽に助けられたって言ってなかった?」
 「そうですよ。本当に黒羽様には感謝しています。」
 「・・・そのこと、詳しく聞かせてくれないかな?」
 「・・・はい。」
 その時、一筋の流れ星が見えたことに2人は気付かなかった。






 「た〜で〜し〜な〜・・・。」
 先生は、赤ちゃんが見てもイライラしてると分かるほどに、つま先を激しく上下させていた。
 「大丈夫です!結城だってさすがに明日が試合だってこと分かってると思いますから!」
 「『光の3原則』すら理解できていない蓼科に、そんな予定言ったって忘れてるに決まってるだろ!この前だって先生が寝る前に言うまで知らなかったとか言い出すし・・・。」
 先生は頭を抱え、大きなため息を一気に漏らした。
 「ほら先生。みたらし本舗のみたらし団子、朝の食べかけがまだ残ってますよ。」
 当真がすかさずプラスチックの箱を目の前に差し出す。
 「・・・おう、ありがと。」
 機嫌よさそうに、みたらし団子をほおばる。
 (当真ナイス!!)
 友則が当真の耳元でそう囁いたのが先生の耳に届くはずもなく、また慌ただしかった1日が更けていく。






 「黒羽様!大変です!!」
 眼鏡をかけた、大人しそうな青年が、慌ただしく黒羽の部屋へ駆け込んで来た。
 「なんだ、騒がしい。どうせ伊勢川がいないとかそんなくだらないことだろ。」
 黒羽は、ランプの下で本を読みながら面倒くさそうに答えたが、


     ・・・
 「その『どうせ』なんですよ!!」


 「・・・はいぃ!?」


 本を投げ出し、急いで部屋を出て行ったのは言うまでもない。


 黒羽は、武道館の中に併設されていて、重役などの宿泊施設をくまなく探した。
 が、伊勢川は一向に姿を見せない。
 (くそ!?いちいち心配かけやがって・・・!)
 武道館の中を諦め、今度は外に飛び出した。
 (こんな綺麗な星空なら、あの場所にいるんじゃないか?)
 そう思った黒羽は、全速力でそこに向かう。
 案の定、そこには2人並んで寝そべっている伊勢川を発見した。
 「・・・お前、昼間の・・・。」
 息を切らしながら、結城に言った。
 「おぉ。噂をすればなんとやら、ってのはあながち嘘じゃないみたいだな。今伊勢川さんにアンタの話を聞いてたところだったんだ。別に何もしちゃいないよ。」
 そんな結城の言葉を無視して黒羽は言った。
 「・・・伊勢川、っ帰るぞ。」
 そう言うとすぐに帰って行こうとした。しかし結城はそれを止める。
 「黒羽。・・・アンタすげえんだな。今までただの自己陶酔ナルシスト野郎だと思ってたけど、今日一日で見方が180°変ったよ。」
 「なに?伊勢川、何を言った。」
 黒羽はゆっくりと振り向いた。
 「・・・黒羽様が私を助けて頂いた時の話です。」
 「その通りだ。まさか死にかけの魂と亡霊の魂を入れ替えることで人命救助するなんて、頭良すぎでしょ。」
 「・・・何が言いたい?」
 「簡単なこと。アンタは強い。剣道においても、人間的においてもだ。そんなアンタと俺を比べて、何が足りないのか比較してみてただけさ。」
 「・・・それで、答えは出たのか?」
 「そんなもん、簡単に出れば苦労はしないよ。」
 結城は笑顔で答える。黒羽の表情も、どこか和らいでいる。
 「ま、健闘を祈る。せいぜい決勝まで死なんようにな。行くぞ、伊勢川。」
 「は、はい!!」
 小走りで黒羽を急いで追いかける途中、結城に振り向いて一礼して、また去って行った。
 「・・・今日はここで寝て行くか。」





 結城は、もちろん知らなかった・・・。

後書き

早い目に更新してみました。

今回は比較的丁寧に書けた気がします。
皆さんはどう思うかわからないですけど・・・。


・・・結城、やっぱりをこです。笑




ってか今思えば、夏場に外で寝たりしたら、蚊に刺されまくってとんでもなく面白いことになりますよね。爆

この小説について

タイトル 第13話
初版 2009年5月20日
改訂 2009年5月20日
小説ID 3156
閲覧数 902
合計★ 8
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作家名 ★せんべい
作家ID 397
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活動度 12726
卓球とみたらし団子とピアノが大好きな変態です

コメント (4)

PJ2 2009年5月20日 21時59分21秒
読ませていただきました。

うーん、季節とかそのへんをしっかりしておかないと、結構まずいことの種になりますよ。

結城のタイムルーズには、なにか後に起こる事への布石な気がしてならないんですが、どうなんでしょう?
伊勢川さん、訳ありが満載みたいですね。気になります。

次回作、待ってます
★みかん 2009年5月20日 22時34分15秒
今回も楽しく読ませていただきました。

葛藤の話、私としてはもっと深く書いてもらいたかったですね。

個人的に、人が葛藤して強くなる場面は好きなのです。

何だか、私事で申し訳ありません。

そして、黒羽君の見方が私も180°変わりました。

これは続きが気になりますね。

では、次回も楽しみにしております。

失礼しました。
★せんべい コメントのみ 2009年5月22日 7時59分00秒
PJ2さん、コメントありがとうございます。


いやー、まだ夏でもないのに夏休みの話を書くとどうもおかしくなってしまいました。
本当に申し訳ございません。


PJ2さん。結城がらみで何も起こらないはずはありませんよ。笑
伊勢川さんも、きっと後から皆さんを驚かせてくれることでしょう。

では、次回もよろしくお願いします。
★せんべい コメントのみ 2009年5月22日 8時10分19秒
みかんさん。コメントありがとうございます。


すいません、みかんさんのニーズに応えられなくて。
さっさと次の試合まで進みたかったもんなので、そういった場面を推敲時に省いてしまいました。申し訳ございません。

黒羽についてのコメントも嬉しかったです。
あんなことを本編で書いておいてなんなのですが、
「みなさん、黒羽のことどう思ってるんだろうか・・・。」
なんて感じだったんですが、みかんさんのコメントに救われました。笑


次回もよろしくお願いします。
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