私と彼の飛べた空 - 舞う翼風に載りて

PJ2
 病室のような私が寝かされていた部屋から出るのに、そう時間はかからなかった。
「さぁて、どこから行こうかな」
 ドアを開けると左右に続く廊下があったので、思いつきで左へ行く。すると、良い匂いが漂ってきた。

「食堂かな?」
 匂いの方へ向くと、がちゃがちゃ食器のたてる音が聞こえてくる。
「行ってみよっと」
 タタタタと走っていくと、さらに良い香りが強くなっていき、料理が特定できるぐらい濃かった。この匂いは・・・・・・

「なんだろう? 肉とジャガイモと、タマネギ? カレー? でもなんか違う」
 首をかしげながら、食堂の料理場裏で突っ立っていると、後ろから声がした。
「肉じゃがって知ってるか? おふくろの味ってやつだよ」
 男の人が立っていたが、誰だかはわからない。というより知らない。

「週に一度の楽しみだ。しかも昼飯遅れてるんだよなぁ。さって、腹いっぱい食ってくるか」
 そう言って表側に小走りで向かう男の人をなにげなく見送り、向こうが食堂だという事を頭に入れてから来た道を戻った。

 先程左だったので、右に、ようするにそのまま直進すると、外に出た。駐車場らしく、バイクやらジープが並んでいる。
「ここが、重要かな・・・・・・」
 キーが挿しっぱなしのバイクが数台ある。まあ、こんな場所に盗りに来る物好きはいないだろうけど。

「さて、武器はどこにあるかも知らないと」
 矢田さんからもらったスナイパーライフルがどこにあるか、少し気になった。が、別にこのさい戦えれば何でもいいかと思いつつ、外を散歩して歩く。

「何も無いなぁ・・・・・・」
 無機質な建物が延々と並んでいるのを眺めていると、ここが一般離れしているのが嫌にでもわかる。

 ふと目に止まった倉庫のような建物に入る。窓が無いせいか、中は真っ暗だった。
「暗っ。スイッチはどこだろう?」
 手探りで電気のスイッチを探していると、いきなり電気がついた。いきなりの光に目の前がくらむ。

 光に目が慣れてきたころ、倉庫の真ん中に人影が見えた。
「暗かっただろ、すまんな。隊長から話しは聞いてるぞ、くつろぐようなスペースは無いが、まあ、ゆっくりしていってくれ」
 そう言ったのは男の人で、たぶん歳は三十は超えていると思う。

「俺は只野ってんだ。お前は、フィルナとかいったっけ?」
 その質問に無言で頷き、そのへんにある座れそうな箱に腰掛ける。
「あなたは、何を担当しているの?」
「俺か? 俺は技術屋ってやつさ。今はこいつ、パイロットの神経に直接干渉して、最大反応速度を格段に上げるシステムだ。最大反応速度ってのは、反射神経の良さだ」

 説明されても大半理解不能だが、この人が新しい技術を作り出すために活動している事は、少しわかったと思う。
「使ってみるか?」
 そう言ってコードの端のようなものを渡された。

「そいつを首の後ろに付けてみろ」
 言われたとおり首の後ろに当ててみると、少しの痛みと共に繋がった感覚が起こり、そして、目の前が真っ暗になった後で、自分の頭の中に果てしない量の情報が流れ込んだ。
 政治、経済、歴史・・・・・・そして、暗転。

「うわぁああ!」
 目が覚めると同時に、首の後ろから何かが抜けた。
「大丈夫か?」
 荒い息を整えながら、両手で肩を掴む。汗のかいている量がすごかった。

「なんなんですか、これ」
「んーまあ、簡単に言うと、神経系を電気信号に置き換えてだな・・・・・・」
「いや、もういいです」
 只野さんの説明を断ち切り、踵を返して倉庫のドアに手をかけたとき、ふと、聞く事を思いついた。

「只野さん、武器庫ってどこにあるか知ってます?」
「知ってるぞ、この建物の手前だ」
 意外にも返事は即答で返ってきた。
「ありがとうございます」

 見た目は重そうな赤褐色のドアをすんなりと開けて、向かいにある倉庫へと向かう。
 その倉庫もまた、重そうなドアだった。しかも見た目どおり開きにくかった、と言っても開かないわけでもなく、何とか開けると、前に矢田さんからもらった・・・・・・のかわからないスナイパーライフルと同じ物が、何丁があった。

「ここが武器庫かぁ」
 きちんと並べられているわけではないが、ある程度は種類分けされている。
「これ、かな?」
 ぱっと手に取ったスナイパーライフルを、抱えてから構えてみる。

 スコープに目をあてると、T字型の目安が見えた。
 そして、一瞬記憶がフラッシュバックした。あの撃ち抜いた瞬間の記憶がよみがえった。
「う・・・・・・」
 吐き気をもよおしてその場にしゃがみこむ。視界が斜めになったり、頭の中がぐるぐる回っているような不快感に襲われる。

「気持ち悪い・・・・・・」
 吐きそうになるのをこらえながら倉庫から出て、もと来た道を戻り、もともといた部屋へ帰ることにした。

 が、その途中、サイレンが鳴り響いた。
「警報?」
 空を見上げると、黒い点が四つほどこちらへ向かってきている。
「爆撃? でもなんで迎え撃たないの?」
 空を向いた機銃ならいくつかあるが、それがどれ一つとして稼動しない。

 しばらくして、白い尾を引きながら何かがこちらへ飛んできた。五つ、いや六つ。
「ミサイル?」
 私の頭上を抜けて行ったミサイルが、今自分がいる向こう側・・・・・・たぶん滑走路もどきの方で着弾したらしく、爆音が凄い。

 勘が突然働いた。逃げるには、今しかない―と。
 ダッシュで先程いた倉庫へ向かい、スナイパーライフル一丁を持ち、小さいマシンガンを肩から提げてから、倉庫から出る。
 そして駐輪場へ走った。

「このへんに・・・・・・あった!」
 さっき見たときと変わらず、キーの挿しっぱなしになっているバイクがいくつかあった。
 自分の身長で乗れるバイク(乗ってはいけないし、免許も無いが、このさい無視)は限られるが、一台だけ、私の乗れそうな物があった。

「HO・・・・・・DA?」
 途中の字がかすれてバイクの名前は読みにくいが、軽自動車の後ろに乗る位小さい。キーも付いている。
「やった!」
 さっそく乗ってみると、上手く乗れた。エンジンをかけてアクセルを回し、そして、走り出した。どこで運転を覚えたかは、昔、親に乗せてもらった後で、見よう見まねで練習したからだ。もちろん走らせてはいないけれど。
 案外自転車と大差ないが、さすがにスピードを出すと恐い。

 すこし砂利道を走ると、高台へ抜けた。そこからは煙を上げる建物が見える。
「おじちゃんは無事かな・・・・・・」
 ポツリと呟いた私の頭上を、また戦闘機が飛んでいった。

 その後バイクを十分ほど走らせると、見覚えのある風景の向こうにたくさんのテントが見えてきた。
「これからどうしよう・・・・・・」
 バイクのスタンドを立てて、降りてから来た道のほうを眺める。
 まだ、引き返せそうな気がしたからだ。

 私が迷っていると、後ろから、テントのほうから私を呼ぶ声がした。
「おーい! どこへ行っていたんだ? 心配したんだぞ」
 その声は、小隊長の声だった。
「・・・・・・今、行きまーす!」
 後ろ髪を引かれる思いだったが、バイクを手で押しながらテントへと向かった。

 テントに帰った後、私は小隊長さんに一つの事を頼んだ。
「私を、この隊の隊員にしてください」
「・・・・・・親の、仇か?」
「ええ。そして、矢田さんを・・・・・・」
「矢田がどうかしたか? あいつも偵察に行ったっきり、帰ってこないが。君だけ帰ってくるとは、まさか・・・・・・」
「戦死はしてません。だから私が、戦死にするんです」
 私がそう言うと、小隊長は難しい顔をしてから、少し考えて、

「わかった。君の我が隊への入隊を許す。あの射撃の腕だしな、でも、基本的には後方支援に回ってくれ」
「わかりました」
 しばらくの沈黙が私と小隊長の間で流れたとき、テントの外で歓声が上がった。どうも私たちに対してじゃないらしい。

「隊長! 半日前モスクワにアメリカ軍の核が着弾したのは覚えてますよね?! これを最後にアメリカ軍はロシアへの攻撃を止めるとさっき声明を出して、ロシアもそれに同意するとのこと! 戦争が終わりますよ!」
 その声に続くように、また歓声が響く。
「本当か?!」
「ええ。さっきラジオで入りました!」

 テントから出ると、トランジスタラジオを中心に最大音量で聴く人だかりができていた。このラジオを聴いて、どれだけの人が救われたかはわからない。もう人類は、半数が死んでいるのだから。


 この三日後、終戦協定が結ばれ、第三次世界大戦、別名第一次核戦争は終了する。

 

後書き

できました。
まあ、いつもどおりです。
また、一週間ほど

この小説について

タイトル 舞う翼風に載りて
初版 2009年5月31日
改訂 2009年5月31日
小説ID 3179
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コメント (4)

★せんべい 2009年5月31日 15時14分03秒
読ませていただきました。


過去なのに、戦争終わるんですか!?
これからどう展開していくのか全く予想がつきませんでした。

フィルナさん、そんな簡単に入隊させちゃっていいんでしょうかね。笑

もうちょっとためらってた方が、なんかいい感じになったかなー、とは思いましたけど、
これはこれでありかなぁ、と。
(超抽象的な意見で申し訳ありません。)


では、次回作も心待ちにしていますね。
PJ2 コメントのみ 2009年5月31日 17時34分10秒
終わってますよ、戦争は。
第三次世界大戦、2027年終戦。
後に2045年にブラッディ・スワロゥを中核とする空烈紛争。
入隊といっても、正式じゃないですよ。だから後方支援なんです。
展開が早かったのは、すこし自分も気にしてたんですけど、それもそれでサッパリしていていいかなと思ったんで。軽率でした。
フィルナさんの入隊については、後に、小隊長がなぜこんなに軽くOKしてくれたかを書いていきたいと思ってます。
コメント、ありがとうございました。
★みかん 2009年6月1日 21時14分00秒
今回も読ませていただきました。

いやはや、フィルナさんのフラッシュバック……

やはり人を撃つというのは、相当ショックなことですよね。

それでもすぐ立ち直るフィルナさんの気の強さに感服しました。

やはり戦争が終結するのは核の力なんですね……

核の残酷さと強大さを十分知っているはずなのに、
それをまた使用してしまう人間というのは、
中々醜く、愚かなモノだと感じてしまいました。

私も同じ人間なんですけどね……

次回作、楽しみに待っていますね。

では、失礼しました。
PJ2 コメントのみ 2009年6月2日 20時01分32秒
みかんさん、ありがとうございます。
人間は愚かなモノ−それは、一番人類がわかっていて、自覚しないもの。
核は核で終わらせるしかないです。だからこそ、使ってはいけないということを伝えたい。
そこまで深く考えていませんでしたが、少しでも伝えることができたのなら、幸いです。
フィルナさんのフラッシュバックは、皆さんの言われたとおり、射殺シーンが短かったのもあったので。でも、シーンは短いですし。ということで早めに立ち直ったというわけです。

コメント、ありがとうございました。
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