真理

そこにありしは鉄道模型――

それは深遠なる宇宙を一言で表した肉そぼろ弁当から噴き出る蒸気とは無関係だ。
しかし『エンジョイ』という部分に関しては否定しきれないのも事実。
二律背反の呪縛から逃れるかのように厳然とそびえ立つ巨大ブックカバーに同情を禁じ得ず、彼は嘆息した。
「あっさり塩味」
彼がつぶやくと同時に、遙か彼方の共和国に住むアルメナ=クライチェッツは奇声をあげてテレビを窓から放り投げた。
古今東西、庭には二羽鶏がいるというのが真っ赤な嘘で世の中はそんな単純な真理だけでは成立しないという裏付けとも言えよう。
証拠に、地球儀と勘から割り出された現在位置の旧名を廃して新しく地名をつける作業に没頭していた彼にのしかかる責任感とも空腹感ともつかない漠然とした悪戯心を嗅ぎ取った彼のパートナー(アルメナ=クライチェッツとは別人)は肩が凝りやすい。
そう、肩が凝れば作業効率が落ちる。世界が純然たる完全合理の元で成立しているわけではないという良い例だ。
アルメナ=クライチェッツが投げたテレビは大気圏突入時に燃え尽きようとしていたが、まだ正常稼働している内蔵バッテリーがかろうじて最後の衛星放送(BS2ハイビジョン)を画面に映し続けていた。これを機械故の健気さと受け取るのはいささか感傷的に過ぎているのであろうか。
それは彼の与り知るところではない。彼は一個の人間であることを自覚していたし、十個のきなこ餅であることも自覚していた。ただし、十個のきなこ餅であるという認識は、この世界の常識から探れば、間違っていた。
だが肩が凝りすぎてハンガーで吊したような立ち姿になっている彼のパートナーはそのことについて言及しない。
言及しない分、毎月の報酬を10%上乗せしてもらっているからだ。
そこが彼の人間としてのエゴとも言えたし、自尊心を保つための一つの方策ともいえた。
いずれにせよ、資本主義という束縛が歪ませる自己を資本主義の中で再確立する彼は確実に存在していた。
時間が進んでいるのか戻っているのか確かめる術を持たない彼は意識の中で論理を構築し、世界のダイナミズムを知る。
人は0が1になった瞬間を進化と呼ぶ。あるいは退化と呼ぶかもしれない。
1が1であり続けたならそれは進化でも退化でもないと認識する。
しかし……、彼は思う。
時が一方通行なら全てが新しい。同時に全てが古くなる。
二重の事象を断続的に続けて、微少な変化を続けて進む事で成っている世界の在りよう。
斯くある人の認識の限界。
そしてそこにある鉄道模型が次の瞬間に肉そぼろ弁当から噴き出る蒸気になることは無く、断続的でない変化はすなわち世界の崩壊。
はっと我に返り、わかりきったことを、と彼は自己の論理に酔っていた己を戒める意味で埠頭の中華料理屋『ペペロンチーノ』にてこっそりつまみ食いしちゃう。
「あっさり塩味」
エビチリを食べてつぶやいた彼の頬に赤みがさしたように見えるのはチリソースが飛び散ったからだ。
アルメナ=クライチェッツは天体望遠鏡でそんな彼の様子を観察し、日記に書き記す。
『13月682日 晴(雨?) 今日もカレーがおいしいザマス』
彼のパートナーは『ペペロンチーノ』から春巻の皮でぐるぐる巻きになって出てくる彼の様子を観察し、日記に書き記す。
『11月31日  晴(雨?) 大して重要でない事を思い出す』
彼は自分自身の様子を観察して、日記に書き記す。
『10959日  晴(雨?) カニが食べたい』
ベースキャンプに戻ってイチゴジャムを詰めた寝袋に入り、テント入口の隙間から星空を見上げる。
人は誰しも生まれてきた意味があると言われる。瞬く星々には存在する意味があるのだろうか。
もし意志を持つ個体にしか生まれてきた意味を与えられないのならつまりはその意味に意味など無いということ。
ならば……。
そこで彼は意識的に思考を中断した。
結論は要らない。
世界に何の影響を及ぼしもしないからだ。
――所詮、真理は私の心理。
彼は自分の体積で寝袋から溢れたイチゴジャムをペロリと舐めて、イチゴ味だと思う。
生きるにはそれぐらいで充分だと彼には思えた。


彼は眠りにつき、彼のパートナーも眠りにつく。
アルメナ=クライチェッツはまだ眠くなかったから、窓から全力でラジオを放り投げた。
ラジオは大気との摩擦熱ですぐに燃え尽きてちょうど受信していた時報が途切れてしまったが、時間が止まった訳ではなかった。



後書き

小説は難しい。
今回のは『いつも無い物』と並んで私が”ギャグ以外で書きたい文章”。
私が常々思っているような事をノープランで書き連ねていったらこんな具合になりました。
でも自分で自分が求める方向に近づけているのかはわからない。
これを読んで「この人、頭おかしいんじゃない?」と思った人は正常だと思います。
けど、ただ単にワケのわからない事を書いてるだけ、という訳じゃないのをわかってくれれば嬉しいかもかも。
匿名・コメント無しでもかまわんので(コメントあったほうが有難いですが)点数つけてくだされば幸い。
あー、連打さんにはまた「そういう着地点じゃ無いんだよ」って言われちゃうんだろうなあ。

注意点:
1行目の『鉄道模型』には敢えて意味を込めて無いので皆さんが想像した意味が正解だと思うます。

この小説について

タイトル 真理
初版 2005年3月4日
改訂 2005年3月4日
小説ID 321
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作家名 ★ビビンバ吉田
作家ID 3
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